【医師解説】「糖尿病」の通院を中断するとどうなる? 合併症以外の苦労も
糖尿病の治療は定期的な通院が必要です。しかしなかには、「家事や育児、仕事などで多忙のため、通院を中断したい」という人もいるのでは? 途中で治療を中断するにはさまざまなリスクが伴います。どのようなことが考えられるのか松本クリニック糖尿病・内分泌内科の松本先生に聞きました。
監修医師:
松本 和隆(松本クリニック糖尿病・内分泌内科)
糖尿病の治療はどれくらいの頻度で通院が必要なのか?
編集部
糖尿病の治療法には、どのようなものがあるのですか?
松本先生
基本的には食事療法、運動療法、薬物療法を行います。通常は、食事療法と運動療法で血糖値のコントロールを行い、十分な効果が得られない場合には薬物療法を行います。
編集部
どれくらいの頻度で通院しなければならないのですか?
松本先生
糖尿病の治療で大事なのは、血糖値のコントロールと合併症の予防です。治療を開始し、血糖値が安定してきたら通院の間隔を長めにすることもありますが、できれば1ヶ月に一度は通院するようにおすすめしています。
編集部
通院での治療では、どのようなことが行われるのですか?
松本先生
医師による診察のあと、療養指導を行うのが一般的です。療養指導とは食事や運動の履歴を確認し、患者さんがしっかり自己管理できるように導くものです。必要に応じて、インスリン自己注射指導、血糖自己測定、持続血糖モニタリングなども行います。また治療では「フットケア」が大事で、足に動脈硬化が起きていないか、神経障害で感覚がなくなっていないかなども確認します。
編集部
患者の自己管理も必要なのですね。
松本先生
たとえば当院では、管理栄養士が食事内容を指導したり、理学療法士が運動指導を担当したりして、患者さん自身の自覚を促し、病気に対する知識を身につけていただいています。
編集部
入院する必要はあるのですか?
松本先生
糖尿病の治療は重篤な患者さんを除き、通常は通院で行われます。一昔前は入院治療を行うことも多かったのですが、近年では薬剤が非常に進化したことにより、入院しなければならない患者さんは減少しています。
「通院を中断したい…」 どのようなリスクがある?
編集部
仕事や家事・育児が忙しくて、定期的に通院するのが難しい場合はどうしたら良いのでしょうか?
松本先生
糖尿病の治療は継続して行うことが必要です。治療が中断してしまうと、血糖値のコントロールが上手くできなくなったり、糖尿病合併症が進行したりといったリスクがあります。
編集部
どのような人が治療を中断しているのでしょうか?
松本先生
※(参照)日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会「糖尿病受診中断対策マニュアル」
dm_jushinchudan_manual_e.pdf (human-data.or.jp)
編集部
自覚症状がなくても、治療を継続しなければならないのでしょうか?
松本先生
糖尿病は、自覚症状が乏しいという特徴があります。血糖値が高いときには尿がたくさん出たり、水をたくさん飲んだりすることもありますが、血糖値のコントロールがうまく進むと症状が出なくなることもあり、自分では「治った」と勘違いすることもあります。しかしそれは一時的に改善しているに過ぎず、決して「治った」わけではありません。そのため、継続的な治療が必要なのです。
編集部
体調が良いときには中断して、その後、症状に応じて再開するというのはダメなのですね。
松本先生
そう考える人も少なくないのですが、実際には糖尿病の治療を再開するタイミングが合併症を発症したときになる人が多い印象です。しかし、合併症が発症してから治療を始めるのは大変困難で、ずっと治療を継続していた場合に比べて費用も時間もかかります。そのため、合併症が進行しないように、事前に治療を継続しておくことがとても重要なのです。実際、海外の大規模研究で最初からしっかり治療したグループの方が、合併症のリスクが低いことがわかっています。
糖尿病治療を継続するためには、どうしたらいい?
編集部
仕事や家事で忙しいなか、糖尿病の治療を継続するにはどうしたら良いでしょうか?
松本先生
まずは、医師や看護師と無理のない治療計画を立てることが必要です。受診しやすい日時や受診間隔について、医師らとしっかり相談しましょう。また、仕事の繁忙期などが事前にわかるようであれば、医師に伝えておくと治療がスムーズです。
編集部
頭では理解していても、どうしても目の前の忙しさに引きずられて治療を中断してしまいそうです。
松本先生
確かに気持ちはわかりますが、「もし自分の糖尿病が悪化したら」「合併症が進行したら」と考えてみてください。自分だけでなく、家族をはじめ周囲に迷惑がかかりますし、みんな幸せではなくなってしまいますよね。そう考えれば、治療を継続することがいかに大事か、わかると思います。
編集部
そのほか、治療を継続するために何かできることはありますか?
松本先生
糖尿病の治療は日進月歩で進化しています。自分のライフスタイルに合った治療法を見つけることで血糖値のコントロールがスムーズに進み、症状が改善することも期待できます。治療法についても、糖尿病の専門医に相談しましょう。
編集部
オンライン診療はどうですか?
松本先生
最近ではオンライン診療も盛んになっています。本来なら実際に通院して、食事や運動の指導を受けてほしいと思いますが、「通院できないから治療を継続できない」といって治療が中断してしまうようであれば、オンライン診療も検討してみてください。
編集部
薬は一生飲み続けなければならないのですか?
松本先生
そのようなイメージを持っている人も多いと思いますが、初期であれば治療により膵臓を休めることで膵臓の機能が回復し、薬が不要になる場合もあります。いずれにしても、早期に治療を開始して、適切に治療を継続することが必要。自己判断で治療を中断することのないようにしましょう。
編集部
薬をやめることはできるのでしょうか?
松本先生
糖尿病と診断された時点で、膵臓のインスリンを産生する働きは50%に落ちています。つまり、残りの50%で余生を過ごさなければいけないということです。治療をせずに放置しておくと、どんどんインスリン産生能力は低下していきます。投薬治療というとネガティブなイメージもありますが、膵臓を助ける意味でもしっかり継続してください。状態が安定して改善がみられたら、主治医と相談の上、一旦、薬を減らしたり中断したりすることも可能です。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
松本先生
糖尿病は自覚症状が乏しい病気のため、非常に軽視されやすいという特徴があります。ただし、糖尿病治療を先延ばしにしておくと、合併症が出たときに後悔するのは間違いありません。糖尿病の合併症は症状が激烈なので、「なぜ、あのとき医師の言うことを聞いておかなかったのだろう」と悔やむのです。糖尿病治療は、合併症を進行させないことが一番の目標。単に血糖値を下げるだけでなく、合併症を進行させないことを念頭に、ぜひ治療を継続してほしいと思います。
編集部まとめ
糖尿病の治療はめざましく進化しています。もし「忙しくて通院できないから、治療は無理」といってあきらめているなら、ぜひ医師に相談してください。その際には「糖尿病科」「糖尿病内科」「内分泌代謝内科」など専門医を選択することが大切。幅広い治療の選択肢のなかから、一人ひとりに適した治療スケジュールを提案してくれると思います。
医院情報
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診療科目 | 糖尿病内科 |