外科は主に手術を行う診療科で、脳神経外科や整形外科など体の部分によってわかれています。
体の部分によってそれぞれの専門領域がありますが、大腸疾患の中でも肛門に近い部分の手術を担うのが肛門外科です。
肛門の手術といえば、痔核の手術や直腸がんなどを思い浮かべる方も多いと思われますが、肛門外科が担当する疾患はほかにもあります。
意外と知らない肛門外科の領域を知ることで、いざというときにかかる診療科を間違えなくて済みます。
肛門外科の特徴や肛門外科にかかるべき大腸疾患・検査・肛門外科で可能な治療について詳しく見ていきましょう。
目次 -INDEX-
肛門外科の特徴
肛門外科はその名の通り、肛門(直腸)に関する外科的手術を専門とした診療科で、内痔核・外痔核・痔瘻などは疾患としても多いのが特徴です。
また肛門の手術はQOLを大きく左右し、患者さんの日常生活に大きく影響します。
特に肛門のがん(直腸がん)の手術で、がんと一緒に肛門を取り除いてしまい、人工肛門を作ることになれば患者さんの生活は一変します。
近年では低侵襲手術・腸の機能温存・肛門温存の手術が腹腔鏡手術の進歩によって可能です。
肛門外科では放射線治療・ほかの消化器外科・各診療科などと連携を図り、合併症や転移のリスクも考慮しながら診療に当たります。
肛門外科にかかるべき大腸疾患は?
肛門外科にかかるべき大腸疾患は以下の疾患が考えられます。
- 結腸がん・直腸がん
- 潰瘍性大腸炎
- 直腸脱
- 内外痔核
- 大腸穿孔
- 虫垂炎
これらの疾患は一度は耳にすることがあるもので、珍しい病気ではありません。1つずつどのような疾患なのか、詳細を見ていきましょう。
結腸がん・直腸がん
結腸がん・直腸がんは結腸や直腸にがん細胞が増殖してしまい、痛みや直腸の閉塞、ほかの部分への転移などを起こします。
排便時に便の表面に血液が付着することが多く、直腸がんでは触診すると指で触れることも可能です。
結腸がん・直腸がんは全てのがんの中でも特に多く、2019年のがん罹患数順位では1位となっています。
大腸の中でも、結腸と直腸に分けても結腸が3位、直腸6位と非常に患者さんが多い疾患です。
直腸がんはS状結腸や直腸にがんができやすいといわれており、大腸の壁に深く侵入すると腹腔内で散らばってしまう腹膜播種という状態になってしまいます。
またリンパ液と介してリンパ節転移をし、肝臓や肺など離れた臓器に転移してしまう可能性も多いです。
治療としては、0期からI期(粘膜下層1ミリメートル未満の軽度の浸潤)までが内視鏡の適応となり、I期(粘膜下層1ミリメートル以上の高度の浸潤)からIII期までが外科的手術の適応となります。
外科的手術は主に開腹手術や腹腔鏡手術が選択されることが多いです。その後再発のリスクが高ければ、化学療法などの薬物療法を行い、リスクを軽減します。
IV期であっても、外科的手術で取り除けることもあれば、転移先や原発のがんを取り除けない場合もあります。
手術の適応にならなければ、薬物療法・放射線療法・対症療法などが選択肢です。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎はクローン病と似ており、炎症性腸疾患に分類されます。炎症性腸疾患の原因は現在わかっておらず、難病指定されている病気です。
潰瘍性大腸炎の定義としては、粘膜の侵襲と原因不明のびまん性非特定炎症が見られます。
粘膜の侵襲が起きているため、内視鏡検査で粘膜に発赤やびらん・小さな潰瘍・出血しやすい箇所などが診断基準です。
発症して診断されると薬物療法が主になりますが、場合によっては外科的手術となる場合もあります。
外科的手術になる適応例としては下記のようなものがあります。
- 大腸穿孔
- 大量出血
- ステロイド大量静注療法や血球成分除去療法が無効な場合
- 大腸がん
- 大腸狭窄
- 大腸の瘻孔
手術は上記のように劇症化した場合に選択されるため、潰瘍性大腸炎では主に薬物療法で寛解導入(症状が落ち着いている状態)を目指します。
薬物療法は主に免疫抑制剤の皮下注射や静脈内点滴と併用で内服投与が中心です。寛解導入が成功すれば、寛解維持療法へ移行し、経過を見ていきます。
直腸脱
直腸脱は直腸が肛門から外へ出ている状態で、直腸内の粘膜が目視できる状態です。直腸脱の原因としては、下記のようなことが考えられます。
- 肛門拳筋が剥がれる
- S状結腸が長い
- 肛門括約筋不全
- 直腸と仙骨の固定不良
また若い年齢層と高齢者層で直腸脱が多く見られている傾向で、3歳未満の小児か高齢者の二極化が見られています。
中高年であれば男女比が1:6〜9で、年齢ピークは60〜70歳代です。しかし男性の好発年齢は40歳以下であることがわかっています。
症状としては肛門痛や出血が100%近く見られており、便失禁・便秘・粘液便排出です。治療としては外科的療法が選択され、経会陰手術が主な治療方法として選ばれることが少なくありません。
また経腹手術として、開腹手術と腹腔鏡手術なども考慮され、腹腔鏡手術では手術時間が長引くものの低侵襲です。
そのため疼痛管理・入院期間・腸管機能回復などの側面から見ても腹腔鏡手術の方がメリットが多くあります。
経会陰手術か開腹手術かは全身麻酔が行えるかどうかが選択する基準です。
内外痔核
まず痔核の定義は、肛門管内の血管や結合組織からなる肛門クッションが次第に肥大化して出血や脱出などの症状が見られる状態とされています。
痔核ができていても、疼痛などの症状が少ないため、無症状に近い状態です。症状がある方は出血・疼痛・脱出・腫脹・掻痒感(かゆみ)・粘液露出があります。
年齢層的には45〜65歳が多く、男女の有意差はないです。発生リスク要因としては、生活習慣が主なものとされています。
特に便秘症の方では、怒責(いきみ)・排便回数の減少・筋力の低下で腹圧が掛けられないなどが原因です。
治療としてはまず保存的治療がなされ、生活指導や薬物療法が行われます。痔核の状態を診察し医師が手術が有用と判断すれば、以下の方法が選ばれます。
- ALTA(注射をして硬化させる方法)
- 結紮切除術(痔核に通ずる動脈を縛って切除する方法)
- ゴム輪結紮法(痔核を緊縛して循環障害を起こし、壊死脱落させる方法)
- その他(分離結紮法・PPH法など)
痔核の状態を医師が観察して、どの手術方法が良いかを判断します。外科的手術は脱出していたり保存的治療でも改善しない出血症状があったりする場合に選択されます。
大腸穿孔
大腸穿孔は、大腸に何らかの原因で穴が開いてしまう状態のことをいいます。大腸穿孔を起こすと、どの部位で穴が開いたかによって疼痛が発生する場所が違います。
直腸やS状結腸に穿孔を起こす原因としては、直腸・結腸がん・大腸憩室などに加え、内視鏡や浣腸などの医療行為です。
直腸やS状結腸に穿孔を起こした場合には8時間以内に手術をすることが推奨されています。
突然の疼痛があった場合にはすぐに病院で受診し、治療を開始してもらいましょう。大腸穿孔があった場合、手術適応となることもあります。
大腸は便の通り道のため、穿孔部から細菌が入りやすく、敗血症や細菌性腹膜炎・播種性血管内凝固症候群・多臓器不全になりやすいです。
そのため感染コントロールを行いながらの手術になることが多くあります。
虫垂炎
虫垂炎は一般的に盲腸で知られる病気です。小腸から大腸の入口(上行結腸)に移行する部分に虫垂が下に垂れさがる形でついています。
ここに何らかの原因で炎症を起こしている状態が虫垂炎です。
よく知られている病気ですが、虫垂に膿が溜まり、腫れた虫垂が破裂してしまうと細菌感染を起こしてしまい腹膜炎になることもあります。
初期の症状としては、みぞおちの辺りが痛み始めて、徐々に右下腹部へ痛みが移動するのが特徴です。 また時間が経過し、炎症がひどくなるほど下腹部または腹部全体に痛みが拡大していきます。
腹痛以外の症状としては発熱やむかつく程度の吐き気、反跳痛(右下腹部を押して離したときに疼痛があるもの)などがあります。
治療としては外科的手術で虫垂を切除する開腹手術と腹腔鏡手術があり、腹腔鏡手術は侵襲が少なく経過が良好であれば3〜4日で退院することも可能です。
肛門外科は便秘でお悩みの方にもおすすめ
便秘と聞くと消化器内科や一般内科を考える方もいらっしゃいます。しかし肛門外科では便秘に悩んでいる方の相談ができる場所でもあります。
便秘の種類はいくつかあり、その中でも直腸型の便秘も肛門外科の専門です。
直腸型の便秘は排便反射(直腸に便が溜まると便意を催す反射)を起こさなくなってしまい、肛門括約筋が開閉できなくなった結果、便が出なくなってしまいます。
お腹もしっかりと動いているのに便秘の場合には、一度肛門外科を受診してみるのも選択肢です。
肛門外科で行われる主な検査
肛門外科で行われる主な検査は大腸内視鏡検査です。大腸内視鏡検査はカメラを肛門から挿入させて、大腸や小腸の内部を観察する検査です。
大腸がんなどが疑われた際には実際に大腸内視鏡を挿入し、目視することで早期の大腸がんであれば治療できます。
ポリープに対しては大腸内視鏡検査と一緒に、内視鏡的ポリープ摘除や内視鏡的粘膜切除を行います。
大腸がんなどの治療方針を決めるために、非常に重要な診断材料を得るための検査ですので、しっかりと医師の説明を聞いて検査を受けましょう。
肛門外科で行うことが可能な医療
肛門外科ではさまざまな医療を行うことができます。主な医療としては下記のようなものが該当します。
- 化学療法
- 放射線療法
- 手術
- 緩和ケア
もちろん他科とも相談しながら行う治療も多いため、医師同士が連携して治療に当たります。
肛門外科で可能な治療をそれぞれ解説していきます。
化学療法
化学療法は主に点滴や内服薬で行います。薬剤を使用することによってがんの進行を止めたり、がん細胞を死滅させたりすることも可能です。
がんの種類や部位によって抗がん剤の薬剤は変わってきますし、抗がん剤による副作用もさまざまです。
必ず体調確認を看護師や医師がするため、そのときに気になる症状はすぐに報告しましょう。抗がん剤の副作用の中には辛いものも多くあります。
自身のQOLをなるべく下げないように、副作用の対処方法を覚えておくことも大切です。
放射線療法
放射線療法とは、目に見えない放射線を照射してがん細胞を破壊する治療です。
痛みや熱さなどを感じることはないといわれています。
化学療法と放射線療法を併用してがん細胞を小さくした後に手術を行うことも可能です。
しかし、がん細胞のみを照射することは難しく、がん細胞にたどり着くまでに正常な細胞をも少なからず壊してしまう可能性があります。
放射線治療中や終了直後、終了して半年以上経った後に副作用が出現する可能性があります。もしも気になることが出てきたら迷わず主治医へ確認しましょう。
手術
肛門外科では主流の治療の1つでもある手術療法です。手術は外科治療とも呼ばれ、肛門外科でも積極的に行われています。
悪い組織や不要で悪影響を及ぼす組織を切除することで悪化を防いだり、新たに組織同士をつなぎ合わせて改善したりすることができます。
以前まではカメラを見ながら手先で行う内視鏡手術は特定の外科医のみ行っていましたが、近年では内視鏡手術も頻繁に行われており、実施できる医師が増えてきている現状です。
昔は開腹手術で行っていた手術も腹腔鏡手術の発展で、患者さんも侵襲を抑えることができ、退院までの日数も短縮が可能です。
しかしリスクは付きもののため、しっかりと主治医の説明を聞いて、手術後の治療も積極的に行う必要があります。
緩和ケア
緩和ケアは終末期に行われるケアと思われがちですが、実はがんと診断されたときから開始されるケアです。
身体的な痛み(つらさ)を緩和するだけでなく、精神的なつらさや社会的な不安、宗教的なスピリチュアルなことまで全ての辛さが対象です。
緩和ケアは病院だけでなく、ホスピス・外来・自宅などでも受けることができます。
1人で抱え込まずに緩和ケアを治療の一環として受け、自分らしい生活を継続していくことが大切です。
緩和ケアを希望するときには、看護師や医師に緩和ケアを受けたい旨を伝えておきましょう。
まとめ
肛門外科はまだ一般的な外科と違い、認知されていなかったり消化器外科でまとめられていたりするため、知らない方も少なからずいます。
肛門外科では直腸や結腸に関係する病気を主に見ていて、直腸がんや潰瘍性大腸炎・痔瘻・内外痔核などの大きな病気も診察します。
また便秘のような日常生活で困る病気についても診察が可能です。
肛門外科では放射線療法・化学療法・手術に加えて緩和ケアも治療として受けることができます。
デリケートな部分の診察ですので、安心して診察を受けられる肛門外科を見つけましょう。
参考文献
- 肛門疾患の外科的療法
- 大腸肛門外科|日本赤十字社医療センター
- 大腸がん(結腸がん・直腸がん)|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 最新がん統計|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 大腸がん(結腸がん・直腸がん)について|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針
- 肛門疾患・直腸脱(痔核・痔瘻・裂肛)診療ガイドライン2020年版 改訂第2版
- 大腸穿孔症例における予後因子の検討
- 大腸肛門外科の特色|日本赤十字社医療センター
- 薬物療法(抗がん剤治療)のことを知る
- 放射線治療|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 手術(外科治療)|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 緩和ケア|国立研究開発法人国立がん研究センター