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「加齢黄斑変性」になってから「失明」までの期間はどのくらい?【医師監修】

 公開日:2025/12/22
「加齢黄斑変性」になってから「失明」までの期間はどのくらい?【医師監修】

加齢黄斑変性は、主に50歳以上の方に発症しうる目の病気です。視野の中心を担う黄斑という部分が障害され、物がゆがんで見えたり、中心が暗く欠けたりする症状を引き起こします。進行すると視力回復が困難になるおそれもあり、日本では失明原因の第4位に挙げられています。しかし、適切なタイミングで発見し治療を行えば、視力低下の進行を食い止めたり、予防したりすることが可能になってきています。本記事では、加齢黄斑変性の基礎知識から種類ごとの経過や進行スピード、そして進行を抑制するためにできることを解説します。

栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

加齢黄斑変性の基礎知識

加齢黄斑変性の基礎知識

加齢黄斑変性とはどのような病気ですか?

加齢黄斑変性とは、網膜の中心にある黄斑という部分が加齢に伴ってダメージを受け、見え方の異常を引き起こす疾患です。黄斑は物を見るための細胞が集中しているとても重要な場所です。この黄斑に障害が起こると、ものがゆがんで見える(変視症)視野の中心が暗く欠ける(中心暗点)視力低下などの症状が現れます。

初期は自覚症状がないこともありますが、病気が進行すると車の運転や読書など日常生活に支障をきたすようになります。特に、黄斑部は一度傷つくともとに戻らないことがあるため、放置すると進行して視力がもとに戻らない病気とされています。

加齢黄斑変性の原因を教えてください

一番の原因は加齢です。加齢により網膜の下に老廃物(ドルーゼンなど)が蓄積し、黄斑の細胞や組織に異変をきたすことが発症のメカニズムと考えられています。

加えて、喫煙は加齢黄斑変性の最大の危険因子であり、喫煙者は非喫煙者に比べ発症リスクが高いことがわかっています。

そのほか、紫外線曝露、遺伝的要因、食生活の乱れや肥満、高血圧、高コレステロールなどの生活習慣病もリスク因子として知られています。このように複数の要因が重なって黄斑部の加齢変性が進行し、発症にいたると考えられています。

加齢黄斑変性で失明に至るまでの経過と期間の目安

加齢黄斑変性で失明に至るまでの経過と期間の目安

加齢黄斑変性は種類によって経過が異なりますか?

はい、萎縮型(ドライタイプ)と滲出型(ウェットタイプ)の2種類で経過が大きく異なります。萎縮型は黄斑の組織が加齢とともに徐々に萎縮していくタイプで、症状の進行は滲出型と比べるとゆっくりです。視細胞が少しずつ障害されるため急激に視力が落ちることはなく、基本的に治療法もないので定期検査で経過観察していきます。

一方、視力が大きく変動するのは滲出型加齢黄斑変性です。滲出型では脈絡膜から脆弱な新生血管が発生し、黄斑部の組織を傷つけます。このタイプは萎縮型に比べて、視力低下の進行が急速で、放置すると黄斑の細胞破壊が一気に進みかねません。

さらに、最初は萎縮型と診断されても後に滲出型へ移行することもあります。そのため、加齢黄斑変性と診断された場合は種類に関わらず定期的な検査を続け、症状の変化を見逃さないことが重要です。

滲出型加齢黄斑変性の進行スピードの目安を教えてください

滲出型(ウェットタイプ)の加齢黄斑変性は進行がとても速いのが特徴です。異常な新生血管がもろく破れやすいため、数日のうちに視力が大きく低下することもあります。例えば、黄斑部で出血が起これば突然中心が見えなくなることもありえます。現在は抗VEGF療法などにより視力予後は改善しましたが、それでも放置すれば大きく視力が低下するおそれがあります。このように滲出型は進行が早いため、発症早期に治療を開始することが失明を防ぐうえでとても重要です。

萎縮型加齢黄斑変性はどのような速度で進行しますか?

萎縮型(ドライタイプ)の加齢黄斑変性は進行が緩やかで、視力への影響もゆっくり現れます。個人差はありますが、初期に診断されてから、大きく視力が下がるまで数年〜10年程度かかることもあります。なかには萎縮型のまま軽度の視力低下にとどまり、失明しないこともあります。

ただし、注意しなければならないのは、萎縮型の一部が時間経過とともに滲出型に移行してしまう場合があることです。したがって、萎縮型と診断され進行が緩やかでも油断は禁物で、定期検診で経過観察を行い、視力低下が急に進んだ際は速やかに対応できるよう備えることが大切です。

加齢黄斑変性の早期発見と進行抑制のポイント

加齢黄斑変性の早期発見と進行抑制のポイント

加齢黄斑変性を早期発見するためにできることを教えてください

早期発見のためには定期的な目の検査を受けることが一番重要です。特に、50歳以上の方や片目が加齢黄斑変性がある方は、症状がなくても半年~1年に一度は眼科検診を受けましょう。

また、自分でできるチェック方法として片目ずつ見え方を確認する習慣をつけてください。ふだん人間は両目で見ているため、片方の目の異常に気付きにくいことがあります。意識して片目ずつ物を見ることで、「視界がゆがんでいないか」「中心に黒いシミのような欠けがないか」をセルフチェックすることができます。

具体的には、縦横のマス目模様があるアムスラーチャートを用いたセルフチェックが有名です。格子の模様が一部歪んで見えたり、欠けて見えたりしたら眼科を受診するようにしましょう。

滲出型加齢黄斑変性はどのように治療しますか?

滲出型加齢黄斑変性に対しては、現在抗VEGF療法と呼ばれる治療法が一般的です。抗VEGF療法では抗VEGF薬を目の中に定期的に注射します。これにより新生血管の成長を抑制し、むくみや出血を引き起こしている異常血管を退縮させて視力の悪化を防ぎます。

抗VEGF薬の登場によって、滲出型AMDで低下した視力が改善したり、少なくともこれ以上悪化しないように維持できる可能性が大きく高まりました。現在使われている代表的な薬剤にはルセンティスアイリーアなどがあり、月1回程度の頻回投与から始め、経過に応じて間隔を延ばしながら治療を継続します。

なお病状によっては、光線力学的療法(PDT)やレーザー光凝固術などを併用することもあります。PDTは光に反応する薬剤を点滴注射してから低出力レーザーを照射して新生血管を閉塞させる治療、レーザー光凝固術は高出力レーザーで新生血管そのものを焼いてしまう治療で、いずれも症例に応じて検討されます。

これらの治療法を組み合わせ、可能な限り黄斑へのダメージを抑え、視力を維持することが滲出型加齢黄斑変性の治療の目的です。

萎縮型加齢黄斑変性の進行を抑制する方法を教えてください

残念ながら萎縮型の加齢黄斑変性に有効な治療薬や手術は現在のところありません。したがって、進行を抑えるためには、生活習慣の改善サプリメントの活用が重要です。

具体的には、前述した喫煙や食生活などのリスク因子を可能な限り排除し、網膜の健康を保つことが求められます。禁煙はもちろんのこと、抗酸化作用のあるルテインやゼアキサンチンなどを十分に含んだバランスのよい食事を心がけましょう。

これらの栄養素を効率よく摂るためにサプリメントの併用も推奨されています。なお、サプリメントはあくまで補助的手段ですので、必ず医師と相談のうえ服用し、定期検査を続けながら進行抑制を図っていきましょう。

加齢黄斑変性と診断された場合に日常生活で気を付けることはありますか?

はい、病気の進行をできるだけ抑え、目の健康を保つために日常生活で以下の点に注意することが大切です。

  • 禁煙を心がける
  • サングラスや眼鏡で紫外線から目を守る
  • 緑黄色野菜や果物、青魚など抗酸化作用や網膜保護作用のある栄養素を豊富に含む食品を積極的に摂る
  • 1ヶ月に1回はセルフチェックを行う

以上の点を心がけ、主治医の指導のもとで適切な治療と生活管理を続けることが加齢黄斑変性と上手に付き合うために重要です。

編集部まとめ

編集部まとめ

加齢黄斑変性は年齢とともに起こりうる身近な目の病気ですが、その進行スピードや重症度はタイプによって大きく異なります。しかし、症状が軽いうちに発見し、対策を取っていれば視力の維持や改善も期待できます。一方、滲出型に進行してしまうと、短期間で視力が失われる危険があり、治療に長期間を要したり視力が回復しきらなかったりすることも少なくありません。したがって、「最近なんだか見え方がおかしい」と感じたら放置せず、早めに眼科を受診することが大切です。大切なことは予防と早期発見、早期治療です。適切な生活習慣の改善と治療によって、加齢黄斑変性による視力低下を可能な限り抑え、これからもご自身の大切な目を守っていきましょう。

この記事の監修医師