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「PTSD」を治さずに放置するとどうなる?治療法や治療薬についても解説!

 公開日:2025/12/24
「PTSD」を治さずに放置するとどうなる?治療法や治療薬についても解説!

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、命の危険にさらされるような強い恐怖体験をきっかけに発症する精神疾患です。大きな事故や災害、暴力被害などの後に、強い不安や悪夢などの症状が続き、日常生活に支障をきたすことがあります。決して珍しい病気ではなく誰にでも起こりうる反応ですが、適切な治療によって回復が期待できます。本記事では、PTSDの症状と原因、医療機関での治療法、さらに治療中に自分でできる工夫や周囲のサポートのポイントを解説します。

前田 佳宏

監修医師
前田 佳宏(医師)

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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

PTSDの症状と原因

PTSDの症状と原因

PTSDにはどのような症状がありますか?

PTSDでは、強いショック体験の記憶が繰り返しよみがえる症状が典型的です。例えば、突然当時の光景が鮮明によみがえりパニックに陥るフラッシュバックや、関連する悪夢をみるといった再体験症状があります。また、その体験を思い出させる場所や話題を避けようとする回避症状、気分や思考が落ち込み興味や喜びを感じにくくなるなどの認知・感情の陰性変化、常に神経が高ぶって警戒し睡眠障害が起こる過覚醒症状なども特徴的です。これらの症状が1ヶ月以上続き、日常生活に支障を及ぼす場合にPTSDと診断されます。

PTSDの原因を教えてください

PTSDは、生死に関わるような強烈な恐怖体験(トラウマ体験)によって引き起こされます。典型的な原因として、地震や火災などの自然災害、暴行や虐待・性被害といった暴力事件、重大な交通事故、戦争やテロ、犯罪被害などが挙げられます。こうした出来事を直接経験した場合だけでなく、目撃したり家族が被害に遭ったと知らされたりした場合にもPTSDは発症しえます。

PTSDを治さずにいるとどうなりますか?

PTSDの症状を専門的な治療を受けずに放置すると、症状が慢性化しやすくなります。慢性化したPTSDでは、日常生活や対人関係への支障が長年にわたり続くだけでなく、うつ病や不安障害、パニック障害・アルコールや薬物依存などほかの精神疾患を併発するリスクが高まります。こうした二次的問題を防ぐためにも、「時間が経てば自然に治るだろう」と楽観せず早めに医師らに相談することが重要です。

PTSDの病院での治し方

PTSDの病院での治し方

PTSDの主な治療法を教えてください

PTSDに対する治療法は大きく分けて心理療法(カウンセリング)と薬物療法の2つがあります。特に、トラウマ体験に焦点を当てて症状に向き合う認知行動療法(CBT)などの心理療法は有効性が高く、国内外のガイドラインでも第一選択の治療法として推奨されています。通常は心理療法を中心に、症状に応じて薬物療法を併用しながら治療を進めていきます。患者さんによって適した治療計画は異なりますが、専門家の指導のもと根気強く取り組むことで症状の改善が期待できます。

PTSDの薬物療法で用いられる薬にはどのようなものがありますか?

PTSDの薬物療法では、抗うつ薬の一種であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が一般的に使用されます。SSRIは脳内のセロトニン神経の働きを調整し、不安感や抑うつ気分、過覚醒状態などを和らげる効果があります

日本でPTSD治療に保険適用となっているSSRIには、パロキセチンやセルトラリンなどがあります。これらは効果発現までに数週間かかることが多く、吐き気・眠気・性機能低下などの副作用が出る場合もあります。

必要に応じて睡眠導入剤で睡眠障害に対処したり、強い不安発作時に抗不安薬(安定剤)を短期間用いたりすることもあります。しかし、ベンゾジアゼピン系など抗不安薬の長期使用は依存のリスクがあり、PTSDそのものの長期的改善には有効ではないため注意が必要です。薬物療法を行う際は、主治医の指示のもと正しく服用し、副作用など気になることは遠慮せず相談しましょう。

PTSDの認知資料法や心理療法、認知処理療法について教えてください

PTSDに対する心理療法では、トラウマに焦点を当てる認知行動療法が効果的であるとされています。具体的な手法として、徐々に安全な形で恐怖記憶に直面していく持続エクスポージャー療法(PE)、トラウマで形成された否定的な考えを話し合いながら修正する認知処理療法(CPT)、目の動きに合わせて過去の記憶を想起し不安反応を和らげるEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などが代表的です。

認知処理療法はCBTの一種で、心的外傷体験が意味することについて徹底的に話し合い、トラウマによって生じた否定的な思考(無力感や罪悪感など)を現実に即した形にとらえ直していく方法です。これらの心理療法では、「過去の恐怖体験は今この瞬間に起きているわけではない」と頭と身体で理解できるよう、避けていた記憶や感情に医師や心理士と一緒に向き合い、徐々に恐怖反応を減弱させていきます。

PTSDの治療中に自分でできることと周りの方が気を付けること

PTSDの治療中に自分でできることと周りの方が気を付けること

PTSDを克服するために自分でできることはありますか?

専門的な治療と並行して、自分自身で行うセルフケアもPTSD克服の助けになります。まず、睡眠や食事、運動といった基本的な生活リズムを整え、体調管理に努めましょう。

規則正しい生活はストレスに対する心身の抵抗力を高める土台です。また、一人で抱え込まずに信頼できる家族や友人に気持ちを打ち明けたり、同じような体験を持つ人の自助グループに参加してみたりするのも有効です。

さらに、趣味やリラックスできる活動に意識的に時間を充ててください。好きな音楽や読書、軽い運動などで気分転換を図りましょう。深呼吸や筋弛緩法、マインドフルネスなどのリラクゼーション法も日常的に練習し、フラッシュバックやパニック時に落ち着きを取り戻す対処法として活用しましょう。

一方で、アルコールや薬物、過度の喫煙やカフェインに頼って気分を紛らわせる対処は逆効果です。これらは一時的に楽になったように感じても長期的には心身の状態を悪化させ、依存のリスクも高めます。ストレス発散のつもりでも飲みすぎや薬の乱用は避け、代わりに健全なセルフケア習慣を身につけましょう。

PTSDの人が生活のなかで気を付けることを教えてください

PTSDの症状と付き合いながら生活するうえでは、過度なストレスや引き金となる刺激をできるだけ避ける工夫が必要です。例えば、事件や災害のニュース映像を繰り返し視聴すると不安が高まりやすいため、ニュースとの付き合い方は時間を決めて情報量を制限し、代わりに読書や散歩などほかの活動で気分転換するよう意識してみましょう。

また、先述のとおりアルコールやカフェインの過剰摂取、喫煙は症状を悪化させるおそれがあるため控えることが望ましいです。生活リズムの維持も重要で、毎日できるだけ決まった時間に起床・就寝し、バランスの取れた食事をとり、軽い運動を習慣にするといった心がけが安定したメンタル状態につながります。

治療中であれば、医師やカウンセラーの指示どおり通院や服薬を続けることも大切です。調子がよい日と悪い日があるかもしれませんが、無理をしすぎず自分のペースで少しずつ生活の幅を広げていくようにしましょう。学校や職場への復帰も焦らず段階的に行い、必要に応じて周囲に配慮してもらうことも検討してください。

自分自身で「休むべきときは休む」「助けが必要なときは人に頼る」といったセルフマネジメントを心がけることが、長い目でみて症状と付き合う際に役立ちます。

身近な人がPTSDになった場合に、周囲の人が気を付けることはありますか?

ご家族や友人など周囲の方の支えは、PTSD患者さんの回復にとって大変重要です。まず心がけたいのは、この障害への正しい理解と共感です。

PTSDの症状は本人の意思や性格の弱さで起きているのではなく、誰にでも起こりうるものだということを認識しましょう。周囲の方は、安全で落ち着ける環境を整え、焦らずに本人のペースを尊重する姿勢で接することが大切です。

話を聞く際も、「早く忘れて前向きになって」などと無理に励ますようなことは逆効果になりえます。むしろ「自分は一人ではない」と感じてもらえるよう寄り添い、否定せずに傾聴することで心の支えとなることを目指してください。

トラウマ体験について話すかどうかは本人の意思を尊重し、話してくれた場合には「よく打ち明けてくれたね」と受け止めましょう。治療継続の後押しをしたり、通院に付き添ったりと、できる範囲で構いませんので実際的なサポートも役立ちます。

編集部まとめ

編集部まとめ
 PTSDは決して特別な方だけの病気ではなく、誰でも強いショックを経験すれば陥る可能性のあるありふれた心の反応です。しかしながら、適切な治療とサポートによって改善しうる病気でもあります。逆に放置すれば長期化し、うつ病など二次的な問題を招くおそれがあるため、思い当たる症状がある場合はできるだけ早めに医師らに相談することが肝心です。

治療には数ヶ月以上の時間がかかることもありますが、焦らずに取り組めば症状の克服や大幅な軽減は十分可能です。症状が落ち着いた後も油断せず、再発予防のため日々のセルフケアや定期的なケアを続けていきましょう。家族や周囲の理解や協力も患者さんを支えてくれます。予防と早期発見・早期治療が何より大切です。正しい知識に基づく適切なケアと支援を通じて、PTSDという心の傷を乗り越え、再び安心して生活できる日常を取り戻していきましょう。

この記事の監修医師