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「仰臥位低血圧症候群」ってどんな人がなりやすいの?症状や原因も解説!

 公開日:2025/12/21
「仰臥位低血圧症候群」ってどんな人がなりやすいの?症状や原因も解説!

妊娠中に仰向けで寝ていると、突然「気分が悪い」「冷や汗が出る」といった経験をしたことはありませんか。これは仰臥位低血圧症候群(ぎょうがいていけつあつしょうこうぐん)と呼ばれる状態で、妊婦さんに特有の生理的な変化などによって起こります。
多くの場合は、体位を変えるとすぐに回復しますが、放置すると母体や赤ちゃんに影響がでることもあります。
この記事では、仰臥位低血圧症候群の原因や症状、症状が現れたときの対処法、快適に休むための体位の工夫を解説します。

林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

仰臥位低血圧症候群の原因と症状

仰臥位低血圧症候群の原因と症状

仰臥位低血圧症候群とはどのような状態ですか?

妊娠中、仰臥位をとる(仰向けになる)と、お腹の中の赤ちゃんや子宮の重みで、背中側にある下大静脈(かだいじょうみゃく)という太い血管が圧迫されることがあります。その結果、血圧が低下してしまう状態が仰臥位低血圧症候群です。主な症状には、次のようなものがあります。

  • 気分の不快感
  • 吐き気
  • 冷や汗
  • 顔面の蒼白

重症化すると血圧が極端に下がって、意識消失・呼吸困難感などを呈するショック状態に陥るケースもあります。

仰臥位低血圧症候群になるメカニズムを教えてください

下大静脈は、下半身から心臓の右心房(うしんぼう)と呼ばれる場所へ血液を戻すはたらきをしています。妊娠中に仰向けになると、お腹の赤ちゃんと子宮の重みでこの血管が圧迫され、血液の流れが悪くなります。その結果、心臓に戻る血液の量(静脈還流量)が一時的に減ります。そうなると、心臓から全身へ送る血液の量も減るため、全身の血圧が下がります。これが、仰臥位低血圧症候群が起こる仕組みです。

どのような人が仰臥位低血圧症候群になりやすいですか?

仰臥位低血圧症候群は、おなかが大きくなってくる妊娠後期(妊娠28週以降)の妊婦さんで起こりやすいといわれています。
また、下腹部に腫瘤がある方も、同様に下大静脈が圧迫されて、仰臥位低血圧症候群を発症するリスクがあります。

さらに、帝王切開の際に腰椎麻酔を受ける場合もリスクが高くなります。腰椎麻酔の副作用に血圧低下があること、手術中仰臥位で過ごすことなどの要因が重なり、仰臥位低血圧症候群を起こしやすくなると考えられています。

参照:
『仰臥位低血圧症候群』(日本救急医学会)
『帝王切開の麻酔Q&A』(日本産科麻酔学会 JSOAP)

仰臥位低血圧症候群と症状が似ている病気を教えてください

仰臥位低血圧症候群は、仰向けで寝たときに下大静脈が圧迫され、一時的に血圧が下がることでおこるものです。ただし、めまいや気分不快などの症状は、ほかの病気が原因でも起こることがあります。代表的なものとして、次のような病気があります。

  • 貧血
  • 迷走神経反射(めいそうしんけいはんしゃ)
  • 不整脈

貧血では、酸素を運ぶ赤血球が不足するため、立ちくらみや息切れが慢性的に続きます。体位を変えてもすぐには改善せず、長時間に渡って疲れやすいと感じるのが特徴です。
迷走神経反射は、強い緊張や痛み、長時間の立位などがきっかけで自律神経が過剰に反応し、一時的に血圧や心拍が下がって気分が悪くなるものです。体位に関係なく発症し、安静にすることで回復します。

また、不整脈の場合は、脈拍のリズムが乱れることがきっかけで動悸やふらつき、息苦しさを感じます。こちらも、姿勢を変えても改善しないのが特徴です。

仰臥位低血圧症候群と上記の病気は、身体を横向きにするだけで症状が軽減する点が大きな違いです。
症状が現れたときに身体の向きを変えて症状が改善すれば、仰臥位低血圧症候群である可能性が高いでしょう。身体の向きを変えても症状が続いたり、症状が慢性的であったりする場合は、ほかの病気である可能性があります。横向きになっても症状が改善しない場合は、ほかの病気の可能性も含めて受診を検討しましょう。

参照:
『貧血』(国立がん研究センター)
『迷走神経反射』(日本救急医学会)
『不整脈の症状は?』(一般社団法人日本循環器学会)

仰臥位低血圧症候群の身体への影響

仰臥位低血圧症候群の身体への影響

仰臥位低血圧症候群はお腹の赤ちゃんに悪影響を及ぼしますか?

仰臥位低血圧症候群を起こすと、子宮や胎盤に流れる血液量が減ります。それに伴って赤ちゃんへ供給される酸素量も低下します。その結果、胎児機能不全(赤ちゃんが一時的に苦しくなる状態)を引き起こすことがあります。一時的な血圧低下であっても、血流が滞ると母体だけでなく胎児に影響が及ぶこともあるため、症状が出たときにはすぐに体位を変えましょう。

仰臥位低血圧症候群が長時間続くとどうなりますか?

仰臥位低血圧症候群が長時間続くと、母体と赤ちゃんの両方に影響が及ぶ可能性があります。具体的な身体に起こる変化の流れは下記のとおりです。

  • 下大静脈が圧迫され、下半身から心臓への血液の戻りが悪くなる
  • 心臓に戻る血液が減ることで、全身の血圧が下がる
  • 子宮への血液が減り、赤ちゃんへの酸素供給が不足する

母体では、めまい・冷や汗・顔面の蒼白・吐き気などの症状が続き、重症の場合はショック状態に陥ることもあります。
赤ちゃんには、胎動の減少や、心拍出量の低下といった変化がみられることがあります。さらに、海外で発表されたある研究では、妊娠後期に仰向けで寝る習慣がある方の赤ちゃんの出生体重が約144グラム低いことが報告されています。

この研究結果は、仰向けの就寝が胎盤への血流を減らし、胎児の発育に影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。

参照:
『Association of Supine Going-to-Sleep Position in Late Pregnancy With Reduced Birth Weight: A Secondary Analysis of an Individual Participant Data Meta-analysis』(JAMA Network Open)

仰臥位低血圧症候群になったときの対処法と快適に横になる方法

仰臥位低血圧症候群になったときの対処法と快適に横になる方法

仰向けに寝ていて気持ちが悪くなったときはどうすればよいですか?

仰向けに寝ていて気分が悪くなったときは、体位を仰臥位から左側臥位(さそくがい)に変えましょう。左側臥位とは、左側を向いて横になることです。左側臥位をとると、赤ちゃんの位置が移動して下大静脈の圧迫が解消されるため、症状が速やかに回復するといわれています。

仰臥位低血圧症候群を起こしにくい寝方を教えてください

仰臥位低血圧症候群の予防には、下大静脈の圧迫を避ける姿勢をとることが大切です。おすすめの姿勢は、シムス位セミファーラー位です。
シムス位とは、左側を下にして横になり、右側の脚を軽く前に出して脚を曲げた姿勢のことをいいます。抱き枕を抱えたり、背中側にクッションを入れたりすると安定しやすく、骨盤や腰への圧迫感も軽減されます。完全な横向きがつらいときにも取り入れやすく、血流を保ちながらリラックスできる体位です。

セミファーラー位とは、仰向けの状態で上半身を30度以上あげた姿勢のことです。この姿勢では、子宮の位置がやや下がるため、下大静脈への圧迫が和らぎ、血液の流れがスムーズになります。また、肺が広がりやすくなるため呼吸も楽になり、胸の圧迫感や息苦しさの軽減につながります。

自宅で休むときは、背中に大きめのクッションや枕を重ねて上半身を少し起こすと簡単に再現できます。テレビをみるときや読書のときにも取り入れやすいでしょう。
妊婦さん自身が「楽にできる」と感じる体位を選ぶことが大切です。眠るときだけでなく、昼間の休憩時にも活用してみましょう。

また、寝るとき以外でも長時間の仰向け姿勢を避けるように意識しましょう。健診やエコー検査中に気分が悪くなった場合は、ためらわずにスタッフに伝えてください。

参照:『胎児心拍数モニタリング時の体位』(医学出版)

仰向けでも仰臥位低血圧症候群を起こしにくい寝方はありますか?

「仰向けでないと眠れない」「横向きがつらい」という方も少なくありません。その場合は、完全な仰向けを避け、身体をわずかに傾ける工夫をしてみましょう。右腰の下にタオルや毛布などを挟むと、仰向けに近い形で休むことができます。

編集部まとめ

編集部まとめ

妊娠中に仰向けで寝ていて「気分が悪い」「息苦しい」と感じたら、仰臥位低血圧症候群の可能性があります。これは、大きくなった子宮が背中側の血管を圧迫し、血圧が一時的に下がることで起こる生理的な現象です。多くの場合は、左側臥位になることですぐに症状が改善します。もし気分不快やめまいなどの症状が続く場合は、ほかの病気が隠れている可能性があるため、迷わず医療機関に相談しましょう。
妊娠中の身体は、赤ちゃんを育てるために大きく変化します。姿勢を工夫しながら、無理のない範囲で、自分の体調に見合った寝方を見つけましょう。

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