冬場に流行するノロウイルス感染症は、突然の嘔吐や下痢に襲われるつらい病気です。特に集団生活を送る保育園・幼稚園や学校では感染が広がりやすく、子どもが感染すると登園・登校を休ませる必要が生じます。ではノロウイルスに感染した場合に法律上の扱いはどうなっているのでしょうか。どのくらい休めばよいのか、再び園や学校に行ける目安や、自宅で看病するときの注意点も解説します。
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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。
保育園や幼稚園、学校におけるノロウイルス感染症の取扱い
ノロウイルス感染症は法律によって登園・登校が禁止されていますか?
ノロウイルスによる感染症は『学校保健安全法施行規則』において第三種の『その他の感染症』に分類されています。これはインフルエンザなどとは異なり、法律で明確な出席停止期間(日数)が定められていないことを意味します。出席停止とするかどうかは状況次第で、学校長(園長)が学校医や主治医の意見を聞いたうえで判断します。
つまり、ノロウイルスに感染したからといって必ず法律上登校禁止になるわけではありません。しかし感染力が強く集団生活で広がるおそれがあるため、症状がある間は結果的に登園・登校を控える措置が取られるのが一般的です。
参考:『学校保健安全法施行規則』(e-Gov法令検索)
ノロウイルスに感染した場合は園や学校に報告すべきですか?
はい、速やかに通っている園や学校へ連絡しましょう。ノロウイルスは嘔吐物や便を介して容易に二次感染を起こし、集団感染につながる可能性があります。園や学校は感染拡大を防ぐために環境の消毒やほかの園児・生徒への注意喚起など迅速な対応が必要です。
医師が登園や登校を禁止することはありますか?
ノロウイルス感染症では、担当医師が「感染のおそれがなくなるまで休むように」と指示する場合があります。法律上も、学校医やそのほかの医師が「感染のおそれがない」と認めるまで出席停止にすることができると定められています。実際の診療でも、嘔吐や下痢が続いているうちは医師から登園・登校を控えるよう助言されるでしょう。これは本人の体調回復のためだけでなく、ほかの子への感染拡大を防ぐためにも大切です。
ノロウイルス感染症で休む期間の目安
ノロウイルス感染症の症状は何日程度続きますか?
主な症状である下痢・吐き気・嘔吐・腹痛・発熱などは、一般的には
1~3日程度で落ち着くことが多い とされています。健康な大人であれば2~3日ほどで症状が治まるケースが多いですが、小さなお子さんの場合は嘔吐や下痢が始まってから治まるまでに
3日~1週間程度かかる こともあります。個人差があり、症状の程度によっては回復までにもう少し長引く場合もあります。
なお、症状が治まった後も体内からウイルスが完全になくなるわけではありません。ウイルスは症状消失後も約1〜2週間は便中に排泄され続ける ことが報告されており、長いときには1ヶ月近くウイルスの排出が続いた例もあります。そのため症状が軽快しても、しばらくの間は油断せず感染予防対策を続けることが大切です。
登園・登校再開の目安を教えてください
基本的な目安は、嘔吐や下痢などの症状が治まり、普段どおりの食事がとれる状態 に回復していることです。最後の嘔吐や下痢から少なくとも丸一日(24時間)以上経過し、その間に新たな症状のぶり返しがなく、食欲も戻って普通の食事ができていれば、登園・登校を再開してよいタイミングと判断できます。
登園や登校を再開する際に医師や学校の許可は必要ですか?
ノロウイルス感染症の場合、インフルエンザなどとは異なり医師の『治癒証明書』や学校の許可証明 が必須とされることは多くありません。学校保健安全法上は『その他の感染症』に該当し、明確な出席停止期間の規定がないため、登校の判断は基本的に先述の症状の改善状況で判断されます。ただし、園や学校によって対応は異なります。一部の保育園や幼稚園では、感染症からの復帰時に医師の登園許可証明書や保護者記入の登園届の提出を求めることがあります。特に園内で嘔吐下痢症が流行して出席停止扱いとなったケースでは、二次感染防止のために医師の『治癒証明書』を提出させることが多いようです。
ノロウイルス感染症で休んでいる間の過ごし方
下痢や嘔吐、発熱などの症状がひどいときはどのようなことに気を付ければよいですか?
症状が強い急性期には、脱水症状の予防と安全確保が最優先 です。嘔吐や下痢が続くと体内の水分や電解質が失われやすく、小さな子どもは特に脱水になりやすいので注意しましょう。こまめに水分補給を行い、経口補水液や薄めたスポーツドリンクなどで少しずつ水分と塩分を補給させてください。水分補給は一度に大量ではなく、少量を頻回に与えるのがポイント です。無理に食事を取らせる必要はありませんが、食欲があるようなら消化によいお粥やスープなどから与えてみてもよいでしょう。発熱が高い場合は、医師から指示された解熱剤を使用して熱を下げつつ、しっかり休ませて体力の消耗を防ぎます。嘔吐の際は誤って吐瀉物が喉に詰まらないように体勢に気を配り、乳幼児であれば吐くときに横向きに寝かせる など窒息防止にも注意してください。
家庭内での感染予防法を教えてください
家庭内で二次感染を防ぐには、
ウイルスを広げない、持ち込まない対策 が重要です。具体的なポイントは次のとおりです。
嘔吐物や便の適切な処理
徹底した手洗い
日用品の衛生管理
以上のような対策で家庭内へのウイルス拡散を防ぐことができます。ノロウイルスはごく微量でも感染を引き起こす強い感染力を持つため、触れない・広げない・持ち込まないを徹底する ことが肝心です。看病する方もマスクの着用や手洗い励行で自己防衛し、体調に留意してください。
症状が落ち着いたら買い物や散歩などにでかけても問題はありませんか?
症状が完全に治まってからも、少なくとも1~2日はできるだけ外出を控えることをおすすめします。下痢や嘔吐が治まった直後でも、前述のように身体からはまだウイルスがしばらく排出されています。本人は元気になったつもりでも、トイレなどを介して周囲にウイルスを広げてしまう可能性があるのです。特に発症後2日以内くらいは感染力が強い時期と考え、不要不急の外出は避ける方が安心でしょう。
どうしても買い物など外出が必要な場合は、短時間で済ませ、人混みや食品を扱う場所への立ち寄りは避けてください。また、外出時も戻ってからも手洗いを徹底し、念のためマスクを着用しておくと飛沫や接触を介した感染拡大のリスク低減に役立ちます。散歩程度であれば、体力回復のリハビリとして少し外の空気を吸うのは構いませんが、お子さんの場合は園や学校に戻る前日までは家庭で静かに過ごす 方が無難です。症状が治まった喜びでつい油断しがちですが、完治直後の数日は周囲への思いやりとして行動に注意し、二次感染防止に努めましょう。
編集部まとめ
感染力の強さから、実際には症状が続く間は登園・登校を控える必要があります。復帰の目安は嘔吐や下痢がおさまり、食事がとれて元気が戻ること で、お子さんの様子をみながら判断しましょう。症状が治まった後も無理せず、念のため1~2日は自宅で安静にする方が安心です。自宅療養中は十分な水分補給で脱水を防ぎつつ、家庭内での感染対策もしっかり行います。手袋・マスクを使った吐物処理、塩素系漂白剤での消毒、そして手洗い励行が二次感染予防の三本柱 です。園や学校への報告も早めに行い、必要に応じて医師とも相談しながら対応してください。
高宮 新之介 医師
監修記事一覧
昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。