「糖尿病の自覚症状」はご存知ですか?進行すると現れる症状も解説!【医師監修】

糖尿病は、年々増加傾向にある代表的な慢性疾患のひとつです。健康診断などで血糖値が高めと指摘されても、多くの方がはっきりとした症状を自覚しにくく、治療のきっかけを逃してしまうことがあります。その結果、気付いた頃には糖尿病の合併症が進行しているということも少なくありません。
本記事では、糖尿病の進行度に応じて現れる自覚症状の特徴や、神経障害・腎症・網膜症などの合併症に関連する注意すべき兆候を解説します。

監修医師:
上田 莉子(医師)
目次 -INDEX-
糖尿病の基礎知識

糖尿病とはどのような病気ですか?
インスリンは膵臓のβ細胞で作られ、血糖を筋肉や脂肪組織に取り込ませる役割を担っています。この作用がうまくいかないと、食後に血糖値が異常に高くなり、その状態が続くことで、身体のさまざまな部位に悪影響を及ぼします。
糖尿病を発症すると、毛細血管が多く集まる眼、腎臓、神経などが特に傷付きやすくなります。放置すると数年~数十年かけて合併症が進行し、生活の質(QOL)を大きく損なう可能性があります。
糖尿病の原因を教えてください
1型糖尿病は、身体の免疫機能が誤って膵臓のβ細胞を攻撃してしまい、インスリンがほとんど分泌されなくなる状態で、多くの場合は突然発症します。全体の糖尿病のうち、1型糖尿病の割合は約5%と少数です。
発症前に20%程度の割合で発熱や上気道炎などの風邪症状を伴うことがわかっています。また、風疹に罹患した妊婦から生まれた子どもに糖尿病が多いことなどから、ウイルス感染が1型糖尿病の発症に関与すると考えられています。しかし、詳しい原因はまだ完全にはわかっていません。
2型糖尿病の割合は95%以上と大多数です。
原因として、もともと遺伝的に2型糖尿病になりやすい体質の方が、過食や運動不足に陥ってしまったり、肥満になってしまったりすることで、インスリンの効きが悪くなってしまうことが挙げられます。2型糖尿病でも、最終的には膵臓からインスリンが分泌できなくなることがありますなお、日本人は欧米人に比べてインスリンの分泌能力が低いとされており、軽度の肥満でも糖尿病を発症しやすいといわれています。
糖尿病は治療すれば完治しますか?
1型糖尿病では、インスリンがすぐにまたは徐々に分泌されなくなるので、生涯にわたって注射製剤を使用したインスリン補充が必要となります。
2型糖尿病は、インスリン抵抗性のために初期にはたくさんインスリンが分泌されますが、適切な治療をせずに放置すると、徐々に膵臓のβ細胞が疲弊して、最終的には1型糖尿病のようにインスリン分泌ができなくなってきます。
一度発症したら治癒することはないため、早い時期で診断に結び付け、適切な食事療法、運動療法、そして薬物療法を続けることで、合併症をできる限り予防することができます。
1型糖尿病ではインスリン治療を、2型糖尿病では食事運動療法や糖尿病薬の内服の継続により、糖尿病合併症を予防し、糖尿病のない方と近い生活を送ることが、糖尿病の治療の目標です。
糖尿病予備軍や初期段階での自覚症状と受診サイン

糖尿病予備軍といわれる状態でも自覚症状はありますか?
しかし、身体の内部ではすでに変化が始まっており、血管への負担が少しずつ蓄積しています。その結果、心臓や脳などの血管の病気を発症しやすくなることが知られています。実際に、境界型糖尿病の方は、正常な血糖値の方と比べて心血管疾患の発症リスクが約2.2倍高いという報告もあります。
糖尿病の初期段階での自覚症状を教えてください
- のどの渇きが続く(口渇)
- 水分を多くとるようになる(多飲)
- 尿の量や回数が増える(多尿)
- 食事量が変わらないのに体重が減る(体重減少)
これらの症状は、血糖値を少しでも下げようと腎臓が過剰な糖を尿中に排泄することで、水分も一緒に失われるために起こります。また、インスリンの作用不足により、糖がうまくエネルギーとして使われないことで、体重が減少することもあります。
糖尿病の初期の段階で気付くことができれば、血糖値が増悪してからの治療よりも血糖値への介入がしやすく、糖尿病の進行を防ぐことにもつながります。少しでも違和感が続くようであれば、血糖値を一度チェックしてみましょう。
糖尿病の初期症状が現れたら自分で検査できますか?
糖尿病の正確な診断には、以下のような検査を医療機関で受ける必要があります。
- 空腹時血糖値
- HbA1c(ヘモグロビンA1c)
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
自己検査はあくまで補助的な参考程度にとどめましょう。
どのような自覚症状が現れたら受診すべきですか?
- のどの渇きが強く、水をたくさん飲んでも治まらない
- 尿の回数が増え、夜間に何度も起きるようになった
- 食欲はあるのに急激に体重が減った
- 疲れやすく、休んでも回復しにくい
- 傷が治りにくくなった
これらは、血糖値の異常が身体に影響を及ぼし始めている可能性があります。特に、のどの異常な渇きや夜間頻尿などは、日常生活のなかでも気付きやすい症状です。
「年齢のせいかな」「疲れているだけかも」と思わず、糖尿病の初期症状として意識しましょう。
進行した糖尿病や合併症の自覚症状

糖尿病が進行するとどのような症状が現れますか?
- 足先や指先のしびれ、感覚の低下
- 物がかすんで見える、視力の低下
- 足のむくみ、尿の泡立ち
これらの症状は、糖尿病合併症が始まっている可能性を示しています。多くの場合、血糖値が長期間不良な状態で続いた結果として現れ、自覚した時点で糖尿病がかなり進行している場合も少なくありません。
糖尿病合併症の自覚症状を教えてください
神経障害
足の裏や指先など、身体の末端から症状が始まるのが特徴です。初期には足の裏に紙が1枚挟まっているような違和感や、チクチク、ピリピリとした痛み、ジンジンとしたしびれなどを感じます。これらは、正座した後のしびれに似た感覚と表現される方もいます。さらに進行すると、感覚が鈍くなり、怪我ややけどなどに気が付かず放置してしまうことがあります。
網膜症
目の奥にある網膜の毛細血管が障害されることで発症します。網膜は光を感知して脳に情報を伝える役割があるため、血管の損傷が進むと、視力の急激な低下や視野の一部が欠けるなどの症状が現れることがあります。
腎症
腎臓のろ過機能が徐々に低下し発症します。疲れやすさ、下肢のむくみ、貧血などの症状が現れます。また症状が進行すると、腎不全となり、最終的には人工透析が必要になることもあります。
編集部まとめ

糖尿病は、初期段階では目立った自覚症状が少なく、知らないうちに血管や臓器へ負担をかけていく慢性疾患です。「症状がないから問題ない」と自己判断してしまうと、気付いたときには合併症が進行している場合もあります。
初期にみられるお口の渇き(口渇)、尿の量や回数の増加(多尿)、体重の減少などは、日常のなかで見過ごされやすい症状です。健康診断などで血糖値やHbA1cが高めと指摘された場合は、できるだけ早めに医療機関での詳しい検査を受けましょう。
進行した糖尿病では、神経障害、網膜症、腎症といった合併症が現れやすく、これらは生活の質(QOL)に大きな影響を与えることがあります。糖尿病は血糖値の問題だけでなく、全身の健康に深く関わる病気になるため、早期の発見と継続的な管理が何より大切です。




