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「HIV」は治療をすれば移らないってホントなの? 新説『U=U』について医師が解説

 公開日:2025/07/03

HIVの感染経路のひとつに性行為があります。そのHIVですが、いま「治療をしているHIV患者と性行為をしても、ウイルスはうつらない」と言われているのを知っていますか? これを示すのが「U=U」という言葉で、近年ではHIVの新しい常識として広まりつつあります。一体どういうことなのか、性感染症内科ペアライフクリニック横浜院の百束先生に詳しく教えてもらいました。

百束 全人

監修医師
百束 全人(性感染症内科ペアライフクリニック横浜院)

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日本医科大学医学部卒業。日本医科大学武蔵小杉病院泌尿器科、スクエアクリニック副院長、会津中央病院泌尿器科を経て現職。日本性感染症学会、日本感染症学会、日本エイズ学会。

「U=U」とは?

「U=U」とは?

編集部編集部

HIVについて最近「U=U」という言葉を聞くようになりました。これはどういう意味ですか?

百束 全人先生百束先生

U=U」とは、“Undetectable = Untransmittable”の略で、「HIVウイルスが一定期間(6カ月)以上において検出限界値未満(200copies/mL未満)を維持する状態であれば、性行為で他人にHIVウイルスを感染させることはない」という意味です。HIVウイルスに感染していても、きちんと治療を継続すれば、性行為でうつすリスクはゼロであるという科学的に根拠づいた事実のことを指します。

編集部編集部

HIVに感染しているのに、性行為の相手に感染させないということが本当に可能なのですか?

百束 全人先生百束先生

はい、可能です。抗HIV薬を適切に服用し続けることで、体内のウイルス量が非常に低く抑えられ、性行為による感染のリスクは実質的にゼロになります。

編集部編集部

HIVは「治らない病気」なのですよね?

百束 全人先生百束先生

そうですね。現時点ではHIVを「完治」させる治療法はありませんが、薬でコントロールすることは可能です。糖尿病や高血圧と同じように、定期的な通院と服薬をすれば、健康を維持しながら日常生活を送ることができます。

編集部編集部

この「U=U」はいつ頃から注目されてきたのですか?

百束 全人先生百束先生

「U=U」が広く認知されはじめたのは2016年ごろからです。国際的な研究や啓発団体が積極的に発信し、世界中の医療機関や保健所でも導入が進みました。今ではWHOや国連合同エイズ計画もその有効性を認めています。

じつはこんなに多い性病の患者数

じつはこんなに多い性病の患者数

編集部編集部

「うつらない」と言い切るには、かなりの根拠が必要かと思います。

百束 全人先生百束先生

はい、その通りです。実際、複数の大規模な国際研究がU=Uの有効性を裏付けています。U=Uの根拠として代表的なのが「PARTNER試験」です。これにより、HIV陽性者が抗ウイルス治療をおこない、ウイルス量が検出限界値未満に抑えられている場合、コンドームを使用せず性行為をおこなってもパートナーがHIVに感染しないことが確認されました。これはHIV予防の大きな転換点となりました。

編集部編集部

そのほかにも、根拠となる研究はありますか?

百束 全人先生百束先生

オーストラリアを中心に実施された国際的な研究に「Opposites Attract研究」があります。これは、特に男性カップルに焦点を当てたもので、「PARTNER試験」と同様の結果が得られました。これらの研究により、U=Uの科学的根拠が明確になりました。

編集部編集部

「検出限界値未満」ということは、完全にウイルスがいないという意味ですか?

百束 全人先生百束先生

いいえ、「ウイルスがいない」というわけではありません。あくまで文字通り「検出限界値未満」になっているということです。ただし、この状態が維持されていれば、本人の健康寿命を引き延ばし、他人への感染リスクもなくなるということです。

編集部編集部

「検出限界値未満」であっても定期的な検査や通院は必要になるのですか?

百束 全人先生百束先生

はい。治療を受けていても定期的な血液検査でウイルス量のチェックが欠かせません。薬の効果や副作用を確認しつつ、ウイルスが再び増えないよう管理することが大切です。

U=Uの注意点

U=Uの注意点

編集部編集部

抗HIV薬を飲んでさえいれば安心ということですか?

百束 全人先生百束先生

基本的には安心ですが、「きちんと毎日飲み続けること」が絶対条件です。飲み忘れが続けばHIVウイルスが再増殖したり耐性HIVウイルスがある頻度で出現し、再び感染リスクが生じたり、治療が困難になったりすることもあります。治療の継続と正確な服薬がとても重要です。

編集部編集部

「U=Uならコンドームは使わなくてもいい」ということでしょうか?

百束 全人先生百束先生

HIV感染だけに目を向ければその通りですが、ほかのクラミジアや梅毒などの性感染症の感染を防ぐためには、やはりコンドームの使用が推奨されます。U=UはあくまでもHIV限定の話だと理解することが大切です。

編集部編集部

U=Uをパートナーに説明するとき、どう伝えればよいですか?

百束 全人先生百束先生

まず、「感染させるリスクがないこと」を伝える前に、自分がしっかりと治療を受けていることを説明しましょう。そして「医師と確認しながら管理している」という事実を共有することで、安心と信頼につながります。

編集部編集部

U=Uでも妊娠したり出産したりすることは可能ですか?

百束 全人先生百束先生

はい、U=U状態を保っていれば、自然妊娠や出産のリスクも大幅に減ります。実際、治療中の母親から赤ちゃんへの感染をほぼ防げており、医療の進歩によって希望をもって出産できるようになっています。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

百束 全人先生百束先生

U=Uは科学が証明したHIV感染予防です。HIV感染者であっても、早期に適切な治療を受けることで、HIVは「死なない病気」、さらには、HIVは「うつさない病気」になりました。継続的な治療・検査・支援と、偏見のない適切な理解があってはじめて、HIVとの共存を前向きにする一歩となります。

編集部まとめ

U=UはHIVに対する誤解や偏見をなくし、すべての人が安心して生きられる社会への大きな一歩です。U=Uはまだ新しい概念であるため、理解不足が見られるシーンもあるかもしれませんが、正しい知識が力になります。根拠のある情報を学び、正しく理解を深めていきたいですね。

医院情報

性感染症内科ペアライフクリニック横浜院

性感染症内科ペアライフクリニック横浜院
所在地 〒220-0005 神奈川県横浜市西区南幸2-8-9ブライト横浜4階
アクセス JR「横浜駅」 徒歩5分
相鉄本線「平沼橋駅」 徒歩8分
診療科目 性感染症内科

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