胃下垂は基本的に治療しなくても特に身体に悪影響をあたえる症状ではありませんが、食事の後に毎回のようにお腹の不調を覚えるならば、治療しなければなりません。
胃下垂になりやすい方や引き起こされる症状、治療方法などを解説します。
監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。
胃下垂の原因やなりやすい方

胃下垂とはどのような状態ですか?
本来胃が位置している場所と比べて、お腹の下の方まで伸びきった状態を胃下垂と定義しています。どの程度垂れるかは一人ひとり異なりますが、なかには骨盤の近くまで胃が下がってくるケースもあるほどです。胃下垂そのものに注意が必要となる症状はないため、基本的に病院での治療は不要です。ただし、胃が伸び切ってしまったために食べ物を消化する能力が落ちることがあります。食べ物がしっかり消化できないと少しの食事しただけでお腹の調子が悪化しやすいため、状況によっては医師から治療を提案されることもあります。
胃下垂の原因を教えてください。
胃下垂は胃が徐々にお腹の下へと伸びていくことで発症します。一般の方よりもお腹周辺の筋肉または脂肪が少ないと、胃を支える力が一般の方よりも弱くなります。その結果、胃の重みによってお腹の下の方へと下がっていくため、
胃下垂を発症しやすいです。その他、胃下垂になる原因とされる要因の一例は以下のようなものが挙げられます。
- 暴飲暴食を繰り返している
- 一般の方よりも食べるスピードが早い
- あまり噛まずに食べ物を飲み込む
- 辛いもの・酸っぱいものなど刺激物が好きで一般の方より多く摂取する
- 天ぷら・揚げ物など油っぽいものを食べることが多い
- 姿勢が悪い・猫背気味の方
- 過労やストレスが多い
- 腹部の手術を受けた経験がある
- 出産を経験した
- 短期間で急激に体重が減少した
食生活の乱れや、日々のストレスなどが胃下垂を引き起こす要因となっていることがわかります。胃下垂になりたくない方は、規則正しい生活や栄養バランスを考慮した食事を心がけましょう。またお腹周りの筋肉や脂肪が少ない方も注意が必要です。特に標準よりも体重が少ない痩せ型の方は、過剰にならない範囲で高カロリーの食材を積極的に食べて脂肪を増加させつつ、腹筋など軽めの運動をしてお腹の筋肉を増やすと、胃下垂を予防できます。
胃下垂になりやすいのはどのような方ですか?
胃下垂は先天的なものだと認識している方が少なくありません。確かに生まれつきの体質で胃が一般の方よりも伸び切っている方もいますが、食生活・普段の姿勢などが原因で後天的に発症します。標準体重よりも痩せていて、なおかつ身長が高い方は一般の方と比べると胃下垂を発症しやすいです。体内やお腹周りの脂肪や筋肉が少なくなっていると、胃の重さを支えられず下に垂れ下がり、胃下垂を発症します。また、男性と女性とを比較すると、女性の方が胃下垂の比率は高いです。さらに急激なダイエットをして短期間に体重を落とした方も、全身の脂肪が減少しているため、胃下垂になりやすい傾向にあります。ストレスに弱い方も注意しなければなりません。過度にストレスを感じることで自律神経が乱れて胃の機能が低下し、胃下垂を引き起こすことがあります。休日に趣味に没頭するなど、自分なりのストレス解消法を見つけて適度にストレスを減らすよう心がけましょう。
胃下垂になると太らないと聞いたのですが本当ですか?
結論からいえば
太りにくい方が多いのは事実です。太りにくいとされている理由の一例は以下のとおりです。
- 少し食べただけで満腹感を覚えるのであまり食べられない
- 食後にむかつきや胸焼けを感じやすく食べる量を自然にセーブしている
- 消化吸収機能が低いため効率よく栄養を吸収できない
食後にムカムカしたり、吐き気を感じたりしやすい方は、自然と食事量を少なくするため、必然的に太りにくくなります。しかし、太りやすさは体質にも大きく左右され、少し食べただけでも体重が増えてしまう方もいます。胃下垂になれば太らなくなるわけではないため、健康的な生活を維持するためにも食べ過ぎには注意しましょう。
胃下垂の自覚症状や確かめ方

胃下垂になるとどのような自覚症状が出ますか?
胃下垂のみならば身体の不調を訴えるような症状は出ません。ですが、
胃アトニーも一緒に発症すると、身体の不調につながることもあるため注意が必要です。胃アトニーとは重みで伸び切ったことによって胃の緊張が緩んで、本来の消化機能を発揮できなくなってしまう症状のことを指します。胃アトニーによって引き起こされる主な症状は以下のとおりです。
- 食後に胃もたれを感じやすい
- ゲップが多い
- 少し食べただけで胃がむかむかする
- 食欲が出ない
- 常に膨満感でお腹が減らない
- 胃が痛くなる
- 食後下腹部が膨れる
- 吐き気に襲われることが多い
その他、少数ですが、立ちくらみや手足のしびれなど、お腹以外の部分の症状を訴える方もいます。胃下垂になっていて上記の症状で辛い思いをしている方は、病院での診察や検査検討してみてもよいでしょう。
自覚症状がないケースもありますか?
たとえ胃が通常より下がっている状態であっても、お腹の調子が悪くなく、食事も人並みに食べられるならば治療は不要です。しかし、胃が伸び切っていることによって胃の機能が低下しやすいため、ちょっとした生活習慣の乱れでむかつきや吐き気となどの症状が出やすくなります。今は特に症状がなくても、将来的に身体的機能が低下すれば自覚症状を引き起こす可能性もあるでしょう。特に運動不足などによる筋肉量の低下や、食生活の乱れ・ダイエットなどによってお腹周りの脂肪が急激に少なくなると、胃下垂を発症しやすいです。筋肉や脂肪は加齢によっても落ちていきます。気になる方は意識的に食生活を見直したり、運動を日常生活に取り入れたりするなど、脂肪や筋肉が急激に衰えないよう生活習慣の改善を検討しましょう。
胃下垂になっているかどうか確かめる方法を教えてください。
医療機関での検査を受ける前に、以下の症状があるかを確認すると、
胃下垂の可能性を判断しやすくなります。
- 食後の下腹部の膨満感や重圧感
- 胃もたれや胃痛・悪心・嘔吐
- 食欲不振・全身倦怠感・体重減少
- 頭痛・めまい・肩こり・動悸
これらの症状が見られる場合、胃の位置が通常よりも下がっている可能性があります。特に、食後に下腹部が膨らみ重い感じが続く場合は、胃下垂の特徴的なサインです。また、胃の働きが低下すると消化がスムーズに進まず、胃もたれや胃痛・吐き気を引き起こすことがあります。食欲がわかず、体がだるい・体重が減るなどの症状も、消化不良や栄養吸収の低下による影響です。さらに、自律神経のバランスが乱れることで、頭痛やめまい・肩こり・動悸などの症状が現れることもあります。
胃下垂の検査や治療方法

胃下垂の検査方法を教えてください。
少し食事しただけで胃がムカムカするなど、お腹の調子がすぐに悪くなって悩んでいる方は、できるだけ早く病院で検査を受けるとよいでしょう。検査や治療を希望する場合は、内科・胃腸科。消化器科を受診します。胃下垂の検査は薬剤を服用して胃を膨らませた状態で、身体をさまざまな向きに動かしながら胃を撮影します。胃角部と呼ばれる胃が折れ曲がる角に当たる部分が、骨盤の上側にある腸骨の左右をつないだ部分よりも下にあると、胃下垂と診断される可能性が高いです。
胃下垂になっていても治療が必要ないケースもありますか?
検査により胃下垂が発覚しても、胃もたれやむかつきなど身体の不調を感じるような症状が出ていないならば治療は不要です。ただし、胃アトニーを併発して胃のむかつきや吐き気をはじめとした症状があり、日常生活に悪い影響を与えていると医師が判断した場合は、症状を改善させるための治療が実施されます。
胃下垂の治療方法を教えてください。
胃下垂は薬物による治療が一般的ですが、一度下がった胃をもとに戻す薬は存在しません。しかし処方された胃薬を服用すれば胃もたれなどの症状が軽減されたり、治まったりする効果が期待できます。また、薬物治療と同時に胃の不調を発生させないことを目的として食生活・食事の回数見直しや、胃の位置が下がることの防止を目的とした軽度な運動が推奨されることもあります。
編集部まとめ

胃下垂は胃の重みを体内で支えられずに伸び切って、通常の位置よりも胃が下の方にある状態です。
自覚症状は基本的にありませんが、胃アトニーを併発して胃の機能が低下し、不調を感じる場合、適切な治療が必要です。