冬になるとよくある一酸化炭素中毒は、暖房機などの不完全燃焼で出る一酸化炭素による酸欠症状です。頭痛程度の初期症状から重症では死亡もありえます。
治療法は基本的に酸素吸入で、酸欠状態からの回復を促すことに尽きます。この記事では一酸化炭素中毒の症状・原因・治療法を解説します。
予防法や対処法も紹介するので、参考にして発症予防に役立てましょう。
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江戸川病院所属。専門領域分類は内科(糖尿病内科、腎臓内科)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会
一酸化炭素中毒とは
![緊急走行する救急車](https://media.medicaldoc.jp/wp-content/uploads/2025/01/26784247_m.jpg)
どのような状況で一酸化炭素中毒になりますか?
一酸化炭素中毒は、一酸化炭素が肺に入り何らかの症状が出た状態です。一酸化炭素は血液成分のヘモグロビンと強く結合する性質があります。ヘモグロビンは酸素と結合して身体の各器官に酸素を届ける役割ですが、一酸化炭素と結合してしまうと必要な酸素を十分に運べません。そうなると酸素が欠乏して身体機能が低下し、さまざまな症状が出ます。また、身体の細胞内にある酵素とも結合しやすく、細胞が酵素を利用するのを妨害する場合もあります。このような経過で発生した症状が一酸化炭素中毒です。原因となる一酸化炭素の成因は、暖房機や調理器具・エンジンなどの不完全燃焼によるものが大多数を占めます。
一酸化炭素中毒の初期症状を教えてください。
一酸化炭素中毒による症状で、初期に現れるのは以下の症状です。
これらの症状は一酸化炭素中毒に特徴的な症状ではありません。ほかのさまざまな原因でも一般的に見られる症状のため、すぐに一酸化炭素中毒とは気付けないこともある症状です。悪化するにつれて、循環器の症状としての胸痛や呼吸困難のほか、運動失調や判断力低下など中枢神経の症状が現れます。重症になれば呼吸停止や心停止がおこり、死亡もありうる危険な症状です。さらに、発症から数週間後に人格や行動の変化、記憶障害・パーキンソン症候群などの後遺症の症状が見られる場合もあります。ただ、こうした遅発的な神経障害が出る経緯はよくわかっていません。
換気不足は一酸化炭素中毒の原因になりますか?
換気が不十分な室内で継続してガスや灯油を燃焼させると、酸素不足で不完全燃焼がおこり
一酸化炭素が発生して中毒になります。空気中の一酸化炭素濃度の上昇につれて見られる中毒の症状は以下のとおりです。
- 濃度0.04%:1~2時間で前頭部の頭痛や吐き気
- 濃度0.16%:20分で頭痛・めまい・吐き気、2時間で死亡
- 濃度0.32%:5~10分で頭痛・めまい、30分で死亡
- 濃度1.28%:1~3分で死亡
中毒の症状は、一酸化炭素の濃度や曝露時間に比例して重症化します。一酸化炭素は無色無臭で発生しても気付きません。次第に濃度が上がり、頭痛やめまいの初期症状があっても軽視しがちです。さらに濃度が上がると判断力が低下し、神経症状が出て身動きができなくなります。そして昏睡から死亡に至る事例も少なくありません。
一酸化炭素中毒になりやすい人の特徴を教えてください。
一酸化中毒になりやすいのは、一酸化炭素が発生する場所にいる方です。一酸化炭素は空気の流通が悪い閉ざされた環境でものが燃えるときに、酸素不足によって発生します。こうした場所で生活したり仕事をする方が、一酸化炭素中毒になりやすい方です。一般家庭なら排気が室内に出る開放型のガス給湯器や、ガス・石油暖房器具を使っている方が一酸化炭素中毒にかかりやすくなります。また密閉した工事現場でエンジンが動力の機械を使ったり、コンクリートの養生に練炭を使ったりする建設業の方や、食品製造の加工場で作業する方なども一酸化炭素中毒になりやすい状況です。
一酸化炭素中毒になりやすい時期はありますか?
一酸化炭素中毒の季節的な動向では、冬におこりやすい傾向があります。原因に挙げられるのが暖房器具で、密閉した室内で使う暖房機の不完全燃焼による一酸化炭素中毒です。また、雪で立ち往生した車の排気ガスが車内に侵入しておこる中毒も多発しています。冬は忘年会や新年会などの宴会シーズンで、これもリスクの一つです。締め切った部屋に大人数が入り、鍋を囲んで長時間談笑を続けると発症リスクが高まります。このようなリスクが増える冬は一酸化炭素中毒の季節です。東京消防庁の統計では、12月と1月だけでほかの月の総数を超える件数が発生しています。
一酸化炭素中毒の診断と治療
![採血管を持つ医師の手元](https://media.medicaldoc.jp/wp-content/uploads/2025/01/25287918_m.jpg)
一酸化炭素中毒はどのような基準で診断されますか?
一酸化炭素による中毒かどうかを診断するには、発症した場所や症状で判断するほか、血液中に含まれる一酸化炭素と結合したヘモグロビン(COHb)の濃度をCOオキシメーターで測定します。正常値は0.1~1%ですが喫煙者では数%~10%程度です。この数値を超えると中毒が疑われ、おおむね30%までは頭痛などの中程度の症状で、それを超えると強い頭痛・嘔吐・めまいなどが見られます。酸欠に弱い臓器は脳と心臓で、脳組織へのダメージを診るために使われるのは、主にCTもしくはMRIなどの画像と問診です。また、心臓の心筋へのダメージは超音波や心電図を使った検査で確認されます。
一酸化炭素中毒の治療方法を教えてください。
一酸化炭素中毒の症状が見られたら、行うことは発症場所からの退避と酸素吸入です。急いで部屋から出て、外気が吸える状態にします。意識がはっきりしなかったり、動作が鈍い場合は危険です。すぐに救急車を呼び、医療機関で酸素吸入を受ける必要があります。重症の場合の治療は人工呼吸器を使った高濃度の酸素投与です。場合によっては気管挿管を行って、100%の純酸素を投与する場合もあります。酸素吸入の治療は、血液中の一酸化炭素濃度が正常に戻るまで継続です。重症の場合数週間後に神経障害などの後遺症が出る可能性があり、予防のために高気圧カプセルでの酸素吸入が行われる場合があります。
一酸化炭素中毒の予防
![住宅用ガス警報器](https://media.medicaldoc.jp/wp-content/uploads/2025/01/29341372_m.jpg)
一酸化炭素中毒を予防する環境作りについて教えてください。
一酸化炭素中毒の予防には、一酸化炭素を発生させない環境作りが大切です。ガスや石油の燃焼器具から排気ガスが室内に出るタイプで、古い機種では不完全燃焼防止装置が付いていないものがあります。古い器具ではススやホコリなどで空気の流れが悪くなり、不完全燃焼で一酸化炭素が出やすい状態です。使用中に火が消えたり赤い炎になったりする場合は、不完全燃焼防止装置が付いた機器への交換をおすすめします。また、一酸化炭素を検知して音やランプで知らせる警報機もあるので、設置しておくと安心です。
一酸化炭素中毒を予防する生活習慣を教えてください。
一酸化炭素中毒の予防のため、一酸化炭素を発生させない生活習慣を身につけましょう。燃焼器具の排気が室内に出るタイプでは、換気が必須です。機器の連続使用で室内の酸素が不足すると一酸化炭素が発生して室内に滞留します。キッチンに小型湯沸かし器がある場合は換気扇を回して空気の流れを作り、石油スト―プやファンヒーターを使う場合は1時間に1回程度窓を開けて外気を取り入れましょう。また、キャンプに出かけてテント内でカセットコンロを使う場合も、密閉せず通風口を開ける習慣をつけてください。
どのような症状があったときに一酸化炭素中毒を疑った方がよいですか?
一酸化炭素中毒の初期症状は、頭痛や吐き気、めまいや不快感などです。風邪や消化不良などちょっとした体調不良でも現れやすい症状なので、こうした症状だけで一酸化炭素中毒を疑うには無理があります。しかしこうした症状に加え、ガスや石油などの燃焼器具やエンジン発電機などが近くで使われている場合には、一酸化炭素中毒が疑われる状況です。この場合はすぐに対応しないと、急速に一酸化炭素の濃度が上がります。やがて意識障害が出て正常な判断ができず、運動障害で動けなくなり重症化するため、素早い判断が必要です。
一酸化炭素中毒が疑われたときの対処方法を教えてください
一酸化炭素中毒かもしれない症状が出たら、早くその場から離れることが重要です。燃焼器具を止めて外気に触れ、しばらく安静にしているのが初期症状への対処方法です。頭痛や眠気を感じる程度の症状であれば、新鮮な外気を吸う対応でほとんどの方が回復します。一酸化炭素の濃度が低いうちに、できるだけ早い退避が大切です。一酸化炭素に長く触れるほど、また濃度が高いほど症状は重くなります。もし呼吸困難や運動失調などの症状があれば救急車を呼びましょう。重症では死亡や後遺症の可能性もあるので、素早い対応が求められます。
編集部まとめ
![昭和レトロな台所の風景](https://media.medicaldoc.jp/wp-content/uploads/2025/01/31148683_m.jpg)
一酸化炭素中毒は冬によくある酸欠症状です。閉鎖空間での不完全燃焼でできる一酸化炭素が原因で、症状は軽度の頭痛から脳や心臓へのダメージまでさまざまです。
重症化すれば死亡にまでつながる危険な症状でもありますが、換気を確保して燃焼機器の不完全燃焼を防止すれば、一酸化炭素中毒を防ぐことが可能です。
もし発症しても早期に気付けば回復も容易でしょう。この記事の内容を参考に、一酸化炭素中毒を回避できれば幸いです。