「悪性リンパ腫が脳転移」した場合の症状とは?日常生活の注意点も医師が解説!

悪性リンパ腫をご存知の方もいるでしょう。悪性リンパ腫は、血液がんの1つです。リンパ節が丸く腫れ、痛みがないのが特徴です。
悪性リンパ腫は、がん同様に脳にも発生し、転移もします。
以下では、悪性リンパ腫が脳転移した際の症状や治療法、日常生活での注意点を紹介しています。

監修医師:
山本 康博(MYメディカルクリニック横浜みなとみらい)
東京大学医学部医学科卒業 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医 日本内科学会認定総合内科専門医
目次 -INDEX-
悪性リンパ腫とは
悪性リンパ腫は血液のがんで、白血球のなかのリンパ球が、がん化した疾患です。
悪性リンパ腫は、年間で10万人あたり30人ほどかかっており、血液の腫瘍では頻度の高いがんです。100種類以上の病型があります。悪性リンパ腫では、首・脇・足の付け根などにリンパ節の腫れやしこりが生じます。
症状は、リンパ節が丸く腫れ、痛みがないのが特徴です。リンパ節は全身に分布しており、血流でリンパ球が全身に広がるため、全身に症状が現れる可能性があります。
主にリンパ節や脾臓などのリンパ組織に症状は現れますが、脳・骨髄・皮膚・胃・肺などの臓器にも現れるのが特徴です。
脳で発生する悪性リンパ腫は、脳自体で発生する脳原発性と、ほかの部位から転移して脳にできる転移性があります。
原発性は脳内に腫瘍が1つから複数存在し、転移性は髄膜の表面に沿って広がります。原発性は脳以外の悪性リンパ腫に比べて、予後がよくないのも特徴です。転移性は進行が早く、予後は不良です。
悪性リンパ腫が脳転移した場合の症状
転移した脳の部分によって、現れる症状は異なります。悪性リンパ腫が脳転移した場合の症状を、詳しくみていきましょう。
頭痛
脳内にできた腫瘍により、脳内が圧迫されるため頭痛が生じるでしょう。脳原発性の悪性リンパ腫では、33%以上の頻度で頭痛が現れます。
脳は頭蓋骨で覆われており、圧が抜ける隙間がないため、腫瘍ができると頭蓋内圧が高くなります。
また、腫瘍によって脳内の器官の位置が変わり血管や髄膜などが引っ張られることで、頭痛につながるでしょう。
人間の頭蓋内圧は変動し、睡眠中に高くなります。そのため、起床時に痛みを強く感じることがあるでしょう。
失語症
腫瘍が存在する部位によって、現れる失語症の症状も異なります。
腫瘍が前頭葉(多くの場合は左前頭葉)にある場合、一般的に運動性失語と呼ばれる症状がでるでしょう。運動性失語は、言葉の理解力は保たれていますが、うまく話せなくなる失語症です。
側頭葉の場合には、感覚性失語の症状が出るでしょう。感覚性失語は流暢に話せますが、言い間違いが多かったり、話している言葉がわからなかったりします。
麻痺
麻痺も失語症と同様に、腫瘍がある場所によって症状が異なるのが特徴です。前頭葉にある場合には、腫瘍がある反対側に麻痺が現れます。
脳腫瘍の場合、手や足だけの麻痺は起こりにくく、手足を含めた片側に麻痺が生じやすいでしょう。舌や顔面の神経にも影響がおよぶと、話しにくいや目が閉じにくいなどの症状が出ます。
嘔気・嘔吐
頭蓋内圧が高くなる場合や嘔吐中枢が刺激される場合に、嘔気・嘔吐をきたすことがあります。頭蓋内圧の嘔吐は、急に噴出するような嘔吐が特徴的です。頭痛同様に朝に起こりやすいでしょう。
目が見えにくくなる
腫瘍が視神経やその周囲にできると、視神経を圧迫するため、目が見えにくくなります。加えて、頭蓋内圧が高くなった際にも目が見えにくくなる可能性があります。
急に見えにくくなることや眼鏡をかけても対応できない際には、腫瘍によって視神経が圧迫されているでしょう。
悪性リンパ腫が脳転移した場合の治療法
悪性リンパ腫が脳転移した場合に行われる治療法は、抗がん剤治療・放射線治療・造血幹細胞移植です。以下で、詳しく紹介します。
抗がん剤治療
脳に転移した場合、CHOP療法と呼ばれる治療を行っても効果は乏しいです。CHOPは、使用する薬の頭文字から取った名前です。
これらの薬剤は、血液脳関門を通過しにくいため、メトトレキサートやシタラビンなどの薬剤を点滴にして治療が行われます。メトトレキサートは、がん細胞を作るのに必要な酵素の活動を抑え、がん細胞の成長や増大を抑えます。大量に点滴で投与を行うと、血液脳関門を通過するのが特徴です。
原発性の悪性リンパ腫の治療では、抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせて行われます。はじめから寛解を目指した抗がん剤治療で、抗がん剤のメトトレキサートを大量に使った療法を3〜5コース行います。1コースは3週間ほどです。
抗がん剤治療で効果がみられた場合には、年齢に考慮し抗がん剤治療・放射線治療・どちらも併用して、がん細胞の根絶を目指します。
放射線治療
放射線治療では、抗がん剤治療後に全脳照射を行います。抗がん剤治療を先に行う理由は、抗がん剤治療と放射線治療を同時に行うと、脳の障害が起こりやすくなるためです。
放射線治療の影響で認知機能が低下する可能性があるため、先に行う抗がん剤治療は強めに行い、放射線治療はできる限り抑えて行われます。
高齢者では全脳照射で、認知機能の低下が現れやすいため、抗がん剤治療のみを行うことも少なくありません。
脳原発性の悪性リンパ腫は、放射線の感受性が高いため、放射線単独での治療で腫瘍縮小の効果はあります。ただし、長期予後はよくありません。そのため、放射線単独療法は抗がん剤が効かない方に限られます。
造血幹細胞移植
幹細胞は、骨髄に存在する細胞です。悪性リンパ腫のような血液のがんでは、造血幹細胞移植が行われます。造血幹細胞は、赤血球・白血球・血小板のもととなる細胞です。
造血幹細胞移植は、抗がん剤治療や放射線治療だけでは治療が困難な血液がんに行われます。
造血幹細胞移植には、自家造血幹細胞移植と同種造血幹細胞移植があります。
自家造血幹細胞移植は、患者さん自身の造血幹細胞を事前に採取して、抗がん剤治療後に自身に戻す方法です。
同種造血幹細胞移植は、ドナーからの造血幹細胞を移植する方法です。移植した造血幹細胞が機能しないことや移植前に行う抗がん剤治療の副作用などが出ることがあるでしょう。
悪性リンパ腫が脳転移したときの日常生活の注意点
悪性リンパ腫は、再発する可能性が高い疾患です。そのため、脳に転移した際には再発を留意しながら日常生活を送ることになるでしょう。
再発を留意しておく
悪性リンパ腫では、2年以内に再発する可能性が高いとされています。悪性リンパ腫が脳に転移した場合も、再発リスクは高くなります。そのため、再発に留意して日常生活をおくることになるでしょう。
治療終了後は、経過観察になります。経過観察の間は、治療後の半年ほどは1ヶ月ごとに外来を受診し、維持されていれば2〜3ヶ月と医師の判断により期間が変わります。身体の状態を、定期的に確認しておきましょう。
治療と両立させる場合がある
働きながら病気の治療を行っている方は、少なくありません。治療が始まると入院や定期的な通院が必要になるため、日常生活と治療の両立が必要になるでしょう。
病気や治療の副作用が現れると、仕事や家事、育児など多くの場面で今までと同じようなパフォーマンスを発揮できなくなります。
仕事や家事、育児では職場の上司や同僚、パートナーなど周囲の理解が必要です。時短勤務や在宅勤務への変更、体調でできることできないことを伝えるとよいでしょう。職場・家族・医師・行政の方など、相談しやすい方や頼れる方にお願いするのも両立のための方法です。
悪性リンパ腫が脳転移した場合の症状についてよくある質問
ここまで悪性リンパ腫が脳転移した際の余命・脳腫瘍の種類・症状などを紹介しました。ここでは「悪性リンパ腫の脳転移」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
脳転移は起こりやすいですか?
山本 康博(医師)
はっきりとしたことはわかっていません。身体にできたがんが脳に転移する割合は、がん患者さんの10%ほどとされています。なかでも肺がんは、50%ほどの確率で脳へ転移します。悪性リンパ腫には多くの病型があるため、悪性リンパ腫のなかにも脳に転移しやすい病型がある可能性が高いでしょう。
新しい治療法はありますか?
山本 康博(医師)
近年では、CAR-T療法が注目を集めています。この療法は、患者さんから採取したTリンパ球に、腫瘍細胞を攻撃する遺伝子を組み込んで増殖させた後に患者さんの身体に戻す方法です。治療の対象になる患者さんには条件があるため、気になる方は担当の医師に確認するのがよいでしょう。
編集部まとめ
悪性リンパ腫は、脳に転移します。脳に転移した際には、頭痛・失語症・麻痺・嘔気・視力低下などの症状が生じます。症状は、腫瘍が発生した部位により異なるのが特徴です。
治療は、はじめから寛解を目指し抗がん剤を大量に使う療法・放射線治療・幹細胞移植を組み合わせて行われます。抗がん剤の効果や患者さんの年齢を考えて、治療法は選択されるでしょう。
また、日常生活では、仕事や家事・育児などと治療を両立させていく必要が出てきます。職場・家族・医師・看護師・行政の方など、周囲に相談して両立が可能な方法を探しましょう。
悪性リンパ腫と関連する病気
「悪性リンパ腫」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 中枢神経系原発悪性リンパ腫
- びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
- 転移性脳腫瘍
悪性リンパ腫が脳に発生するケースでは、脳自体で発生する脳原発性と転移性があります。中枢神経系原発悪性リンパ腫は脳原発性の悪性リンパ腫です。リンパ系組織がない臓器や中枢神経系でも、悪性リンパ腫が発生する可能性はあります。
悪性リンパ腫と関連する症状
「悪性リンパ腫」と関連している、似ている症状は5個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 手足のまひ
- 失語症
- 視力低下
- 頭痛
- 嘔気
上記は、悪性リンパ腫による脳転移で現れる症状です。腫瘍が発生した部位により、さまざまな症状が現れます。
参考文献