『ネット依存症』原因・治療法はご存知ですか?医師が監修!
ネット依存症を知っていますか?
本記事ではネット依存症について以下の点を中心にご紹介します。
・ネット依存症の原因
・ネット依存症の症状
・ネット依存症の治療法と予防法
ネット依存症について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
目次 -INDEX-
ネット依存症とは
ネット依存症とは何ですか?
現在、医学的なネット依存症についての明確な定義は確立されていません。しかし、ネットの中でもゲームに依存する傾向が非常に高いことから、米国精神医学会は「インターネットゲーム障害」に関する暫定的な診断基準を示しています。これは、ネットゲームの使用が健康や日常生活に悪影響を及ぼしているかどうかを評価するための基準です。
一般的なインターネットゲーム障害の診断基準には、以下の要素が含まれます。
ゲームに対する強迫的な関心の持続:
ゲームに対する強い関心や思考が持続的に存在し、ゲームに関連する活動に時間を費やすことがあります。
制御不能なゲームの使用:
ゲームの使用時間や頻度を制御できず、予定した活動や責任を怠るようになる可能性があります。
日常生活への悪影響:
学業や仕事の成績の低下、人間関係の悪化、健康面での問題(睡眠不足、食事の乱れ、運動不足など)が生じることがあります。
ゲームへの優先順位の付け方:
ゲームを他の興味や活動よりも優先的に選び、ゲームによる快楽や達成感を求める傾向があります。
これらの基準は、ネットゲームの使用が依存症の特徴を備えているかどうかを評価するためのものです。ただし、ネット依存症全般についての医学的な定義はまだ定まっていないため、今後の研究と議論が必要です。
ネット依存症の原因とは何ですか?
脳のメカニズム:
ネット依存症は、脳の仕組みに関連しています。依存症では、脳内のドーパミンという神経伝達物質が関与しています。ネットやゲームの使用によってドーパミンが分泌され、快楽や喜びを感じることに期待できます。しかし、この快感は一時的であり、ドーパミンの枯渇によって不快感や不安が増えます。この悪循環によって依存症が形成されます。
起点となるきっかけ:
ネット依存(ゲーム依存、スマホ依存)の始まりは、日常生活の中でのさまざまなきっかけから生じます。例えば、スマホを手に入れたこと、友人に誘われてゲームを始めたことなどが挙げられます。初めは遊びの範囲で使用していましたが、徐々に使用時間が増え、それに伴って問題が生じることなどがあります。健全なユーザーは問題が生じた時点で制御できますが、一部の人はゲームに執着し、他の予定を犠牲にするなどして継続します。
他の精神疾患との関連:
ネット依存症(ゲーム依存、スマホ依存)には、他の精神疾患との関連が見られることがあります。たとえば、ADHD(注意欠陥多動性障害)やASD(自閉スペクトラム障害)のような発達障害、睡眠障害、社交不安障害などです。これらの疾患とネット依存症が合併すると、問題の深刻化や回復の遅れが見られることがあります。
ネット依存症の原因は単一の要因ではなく、複数の要素が絡み合っている場合があります。脳のメカニズムや個人の特性、生活状況などが関与しています。また、他の精神疾患との関連性も考慮する必要があります。ネット依存症の原因には、個人の生活経験や脳の変化が関与しており、それぞれの要素が相互に影響しあっています。
ネット依存症になるとどうなる?
ネット依存症の症状にはどのようなものがありますか?
過剰な突出性(Salience):
ネット依存症の人は、オンライン活動が人生の中で最も重要なものとなり、他の趣味や行動を無視する傾向があります。ゲームやインターネットが頭を占め、基本的な欲求を無視してしまうこともあります。
気分変容(Mood modification):
ネット依存症の人は、オンライン活動を気分の変化の手段として使用します。ゲームやギャンブルなどの行動によって興奮や快感を得る一方、問題から逃避するためにも利用します。インターネットを利用することで気分を変えようとする傾向があります。
耐性(Tolerance):
ネット依存症の人は、時間の経過に伴い、ネットの使用時間が増える傾向があります。使用時間が想定していた時間よりも長くなることや、機器の質を上げることで満足感を得ようとする傾向があります。
離脱症状(Withdrawal symptoms):
ネット依存症の人は、オンライン活動ができなくなった場合や、インターネットの接続ができなくなった際に、イライラや落ち込み、暴力的な行動などの離脱症状が現れることがあります。物理的な症状も現れる場合があります。
葛藤(Conflict):
ネット依存症の人は、内部葛藤と対人葛藤が生じることがあります。内部葛藤では、やめたいと思いながらもやめられない状況になり、自分の人生に悪影響を与えながらも継続してしまうことがあります。対人葛藤では、家族や周囲との関係に問題が生じることがあります。また、日常生活や仕事、勉強との活動の衝突による葛藤も見られます。
再発(Relapse):
ネット依存症の人は、何度かやめようと試みても、やめるどころかますますネットを使用してしまうことがあります。依存症の症状が再び現れ、収束が困難な状況に陥ることがあります。
これらの症状は、ネット依存症の特徴的な要素であり、日常生活や心理的・社会的な健康に悪影響を及ぼすことがあります。ネット依存症の診断や治療においては、これらの症状の評価や対処が重要とされています。
参考論文:
Griffiths MD.
A ‘components’ model of addiction within a biopsychosocial framework. J Subst Use 10: 191-197, 2005
ネット依存症の影響とはどのようなものがありますか?
視力の低下:
長時間の画面の使用により、目の疲労や視力の低下が生じる可能性があります。
睡眠不足:
ネット依存症の人は、夜遅くまでネットを使用しているため、十分な睡眠をとれず、睡眠不足になる可能性があります。
運動不足:
ネットに没頭しているために運動する時間が減少し、運動不足になることがあります。
肩こりや頭痛:
長時間のデバイスの使用や姿勢の悪さにより、肩こりや頭痛が生じることがあります。
体のだるさ:
運動不足や不規則な生活リズムにより、体のだるさや倦怠感が現れることがあります。
感情のコントロールができない:
ネット依存症の人は、ネット上の刺激によって感情が揺れやすくなり、自分の感情をうまくコントロールできなくなることがあります。
攻撃的になる:
ネット上のコミュニケーションやゲーム中での競争環境により、攻撃的な態度をとることが増える場合があります。
相手の表情を読み取れない:
オンラインのコミュニケーションでは相手の表情や非言語的なサインが欠落するため、相手の感情を正しく理解できなくなることがあります。
現実の社会との常識のずれ:
ネット社会では独自のルールや常識が存在し、現実の社会との間にズレが生じることがあります。
現実の社会との関わりが面倒になる:
ネット依存症の人は、ネット上の世界での活動が主体となり、現実の社会との関わりを面倒に感じるようになることがあります。
人間不信になる:
ネット上でのコミュニケーションや出会いのリスクがあるため、人間不信や不信感を抱く傾向があります。
うつ病や他の心身症を引き起こす:
ネット依存症は、うつ病や他の心身症のリスクを増加させることがあります。
社会性への影響
睡眠不足で朝起きられない:
夜遅くまでネットを使用しているため、朝の時間に起きることが困難になる場合があります。
学校に行けない:
ネット依存症の人は、ネットに没頭するために学校に行けなくなることがあります。
現実の人間とコミュニケーションができない:
ネット依存症の人は、オンライン上でのコミュニケーションに慣れてしまい、現実の人間とのコミュニケーションが苦手になることがあります。
ニートになる可能性:
ネット依存症が進行すると、学校や仕事を放棄し、引きこもり状態になる可能性があります。
これらの影響は、ネット依存症が日常生活や社会的な関係に深刻な悪影響を及ぼすことを示しています。健康への影響、心理的な問題、社会的な制約が重なり、生活の質や幸福感が低下する可能性があります。適切なサポートや治療を受けることで、これらの影響を軽減させることが期待できます。
ネット依存症はどのように診断されますか?
ゲーム障害は、持続的または反復的にデジタルゲームやビデオゲームで遊ぶことを特徴とし、インターネット上のオンラインまたはオフラインで発生する可能性があります。
ゲームに対するコントロール障害:
ゲームの開始、頻度、集中度、期間、終了、環境に対するコントロールが困難で、ゲームの優先順位を他の生活上の利益や日常の活動よりも優先します。
ゲームプレイの否定的な結果への無視:
ゲームプレイによって否定的な結果が生じても、ゲームの継続またはエスカレーションが見られます。
これらの行動パターンは、家族的、個人的、教育的、社会的、職業的、あるいは他の重要な領域において、重大な障害を引き起こす可能性があります。
診断の適用期間:
ゲームプレイのパターンが連続的または一時的かつ再発的であり、12カ月にわたって持続する場合、診断が適用されます。
ただし、すべての診断基準が満たされ、症状が重度である場合は、必要な期間が短くなる可能性があります。
これらの診断基準は、2022年1月からICD-11においてネット依存症(ゲーム障害)の診断に使用される共通基準です。これにより、ネット依存症の診断や治療がより統一的な方法で行われることが期待されます。なお、この診断基準を活用する際には医師の指導や診断が必要となるため、自己判断せずに専門家への相談をおすすめします。
ネット依存症の対策
ネット依存症の治療法とはどのようなものですか?
集団精神治療法:
ネット依存やゲーム依存の問題を抱えている患者同士が集まり、互いの経験や課題を共有しながら、健全な生活の送り方について考えます。これにより、お互い支え合い、アドバイスを受けながら、ネット依存からの脱却が期待されます。
薬物療法:
ネット依存症と併存する他の精神疾患の症状に対しては、投薬治療が必要となる場合があります。適切な薬物療法により、他の精神疾患の症状を軽減させることで、ネットやゲームの使用パターンに変化が生じることがあります。薬物療法は、個々の状態や症状に合わせて医師によって適切な処方が行われます。
ネット依存症の治療は個々の状況に応じてカスタマイズされるべきであり、医師の指導や診断が必要です。治療方法はこれらに限定されず、認知行動療法や家族療法、生活リズムの改善、セルフヘルププログラムの活用なども組み合わせて行われることがあります。ネット依存症の治療は継続的なサポートと取り組みが重要であり、専門家の指導の下で継続的な治療プランを立てることが求められます。
ネット依存症の予防法とはどのようなものですか?
インターネット依存についての知識を持つ:
インターネット依存が新しい依存症であるため、最新の情報を入手し、ポジティブな側面にも意識を向けることが重要です。常に予防意識を更新し、インターネットの有効活用方法を考えましょう。
自身の機器利用を省みる:
自身の機器利用について定期的に反省しましょう。無目的な利用や時間の無駄遣いを避けるために、利用する目的や時間を明確に設定し、適切に制限しましょう。
端末利用のルールを決める:
子供にインターネットや携帯機器を使用させる際は、ルールを決めて子供に伝えましょう。ルールの内容や制限については、親子で話し合い、納得の上で決めることが重要です。
親子でルールに取り組む:
ルールは親子で協力して守ることが大切です。親がルールを厳格に守る姿勢を示すことで、子供にもルールの重要性が伝わります。一緒にルールに取り組むことで、互いのインターネット依存を予防することに期待できます。
インターネットの無い環境を作る:
定期的にインターネットの無い環境に親子で取り組むことも重要です。キャンプや家族旅行など、携帯機器を使わない時間を設けることで、インターネット以外の活動に意識を向けることが期待できます。
こどもの利用状況を把握する:
子供がどのようなアプリを使用しているのか、どんな友達とコミュニケーションしているのかを把握することも大切です。子供の利用状況を知ることで、潜在的なリスクを早期に察知し、トラブルを回避することが期待されます。ただし、否定せずに子供の目的や利用意図を理解し、コミュニケーションを図ることも重要です。
これらの予防方法を実践することで、ネット依存症のリスクを低減し、健全なインターネット利用環境を築くことが可能です。また、親子で協力し合いながら予防に取り組むことで、お互いに健康な成長を促進することが期待できます。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
編集部まとめ
ネット依存症について紹介してきました。
・ネット依存症は、自身の生活や身体、心の健康よりもインターネットの利用を優先し、使用時間や方法を自己で制御できない状態のこと
・ネット依存症になると、身体的にも精神的にも影響が出る
・ネット依存症の治療法は、「集団精神治療法」「薬物療法」「家族療法」などがある
これらの情報がネット依存症について知りたい方の参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。