「SLAP損傷」の症状や原因を解説!肩に痛みや違和感はありませんか?
肩の痛みや不安定感に悩んでいる人、特に投球動作を頻繁に行うスポーツ選手の人にとって、SLAP損傷という言葉は馴染み深いかもしれません。
しかし、一般的にはあまりこの病状をご存知ではない人も多いでしょう。そこで今回はSLAP損傷について詳しく解説していきます。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
SLAP損傷の原因や分類
SLAP損傷とはどのような状態ですか?
野球・バレー・テニスなどの自分の頭の上で手や腕を動かすスポーツで、投球動作などを繰り返して行うと、肩関節に過度な負荷が与えられて生じる怪我だとされています。ただし、スポーツ以外でも、腕を伸ばした状態において転倒した場合や、交通事故などでも発症する場合もある怪我でもあります。
どのような原因で発生するのですか?
例えば、野球の投球動作では、投手がボールを投げる際に肩関節が高速で回転します。この高速回転により、上腕二頭筋長頭腱に大きな負荷がかかることでSLAP損傷を引き起こす可能性があります。
また、バレーボールやテニスのサーブも同様です。これらのスポーツでは、サーブを打つ際に肩関節が急激に回転し、上腕二頭筋長頭腱に強いストレスがかかります。これらの強い負荷がかかる動作を頻繁に繰り返すことがSLAP損傷を引き起こす原因です。
SLAP損傷の分類について教えてください。
- タイプ1 SLAP損傷:肩関節の軟骨の縁がわずかに摩耗または損傷している状態です。このタイプの損傷は、通常、肩の老化や使用によるものであるため治療は通常必要ありません。
- タイプ2 SLAP損傷:このタイプは最も一般的で、肩関節の軟骨とその周辺の組織が完全に裂けてしまっている状態です。これは、重度の肩の負傷や反復的な使用によるもので、一般的には手術が必要となります。
- タイプ3 SLAP損傷:肩関節の軟骨がバケットハンドル型の裂傷を持つ状態です。このタイプの損傷は肩関節の軟骨が関節から離れ、関節内に突出しており、手術で修復可能です。
- タイプ4 SLAP損傷:タイプ3と同様に肩関節の軟骨がバケットハンドル型の裂傷を持ち、さらに腱も損傷している状態です。このタイプの損傷は最も重度で、手術が必要となります。
SLAP損傷は、適切な診断と治療を受けることで、多くの患者が元の活動レベルに戻れます。しかし、完全な回復には時間と忍耐が必要です。また、患者自身が自身の身体を理解し、医師や理学療法士の指導の下でリハビリテーションを行うことが重要です。
どのような症状がありますか?
- 痛み
- 引っ掛かり感
- 不安定感
SLAP損傷の最も一般的な症状は痛みです。肩を動かす際に肩関節の軟骨同士が擦れることで、炎症が起こり痛みを生じさせます。痛みは、肩全体に広がることもあれば、特定の部位に集中することもあり、肩を動かすときや、夜間や休息時に痛みが増すことがあります。
引っ掛かり感は肩を動かす際に、何かが引っかかるような感覚が生じることです。特に、肩を上げたり、回転させたりする動作で感じることが多いです。これは、肩関節の軟骨が損傷し、正常な動きを妨げているために起こります。
また、肩がスムーズに動かない、または予期しない方向に動くことで生じる不安定感も主な症状の1つです。これは、肩関節の軟骨の損傷が肩関節の安定性を損ない、肩の動きを制御する能力が低下するために生じます。
SLAP損傷になりやすいのはどのような人ですか?
SLAP損傷の診断や治療方法
SLAP損傷はどのように診断されますか?
診断が困難な場合には、肩関節内視鏡検査が用いられることもあります。
治療方法を教えてください。
理学療法を行っても悪化したり、改善したりしない場合は手術が必要になるかもしれません。ただし、手術を行った場合に選手として復帰できる可能性は60%程度とされています。
SLAP損傷のリハビリや予防法
リハビリではどのようなことを行いますか?
- ストレッチ
- 全身の筋力の増加
- フォームや技術の修正
肩の動きをスムーズにすることで、SLAP損傷を予防できます。そのため、肩関節の可動域を広げるために、肩をゆっくり動かす動的ストレッチや特定の位置で肩を静止させる静的ストレッチなどを行います。
また、全身の筋力を向上させることも重要です。全身の筋力を向上させることによって、肩への負担を軽減できるからです。特に、体幹の筋肉は、全身の動きをコントロールし、肩へのストレスを分散する役割を果たします。
もちろん、損傷箇所に強い負荷を与えるような筋力トレーニングを行ってしまうと、それがまた損傷の原因にもなってしまいかねません。そのため、損傷箇所以外において低負荷からはじめ、少しずつ負荷を高めていきます。
また、ランニングなどの全身運動を行うこともリハビリでは重要です。その後、次第に損傷の原因になった動作も開始し、復帰を目指していくことになります。ただし、競技によって最適なリハビリテーションの内容は異なる場合があります。そのため、必ず医師の指導の下でリハビリテーションを行うようにしましょう。
SLAP損傷の予防方法を教えてください。
具体的には、適切なストレッチ・全身の筋肉の強化・フォームの修正の3つが主な予防方法です。ストレッチを行うことで、肩周りの筋肉を柔軟にし、肩への負担も和らげられます。
例えば、肩を大きく円を描くように回す「アームサークル」や、腕を前後に振る「アームスイング」などをとりいれましょう。あるいは、練習後にはクールダウンのために筋肉をゆっくりと伸ばし、その位置を一定時間保つような静的なストレッチも行うようにしましょう。
また、負荷に耐えられるような強い体づくりもSLAP損傷の予防方法として重要です。特に下半身や体幹といった全身機能を向上させることで、肩関節にかかる負担を軽減できます。
最後に、フォームの改善もまた予防方法として重要です。SLAP損傷は同じ動作を繰り返し行うことで、局所に負荷がかかってしまうことによって生じる怪我です。そのため、肩関節に負荷がかからないような動作を身に付けることで、怪我を予防できます。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
SLAP損傷が引き起こす痛みや不安定感は、しばしばスポーツパフォーマンスを低下させるだけでなく、日常生活にも影響を及ぼします。早期にこの状態を発見し、適切な治療を開始することが長期的な損傷や機能障害を防ぎ、より早くスポーツや日常生活に戻ることにつながります。
そのため、肩の痛みや不安定感を感じている場合にはそれを無視せず、専門家の意見を求めるのがよいでしょう。スポーツ医学の専門家や整形外科医に診断してもらうことで、症状の改善に役立つ治療やリハビリテーションを受けられるようになります。
中には自分の体が悪い状況であることを認めたがらず、そのため、医者の診断を避けたがる人もいるかもしれません。しかしながら、痛みから目をそらさず、早期に治療を行う方が結果的には早く治ります。必ず肩の痛みを感じている場合には医師の診察を受けるようにしましょう。
編集部まとめ
SLAP損傷は、特に投球動作を頻繁に行うスポーツ選手の皆さんにとって、大きな懸念事項となることでしょう。この状態の原因や分類・診断方法・治療法・リハビリテーションの手順・予防法についての知識を深めることは、自身の健康を守るために非常に重要です。
肩に痛みを感じたり、肩の動きが不安定に感じられたりした場合は、それがSLAP損傷の兆候かもしれません。そのような症状を感じたら、無理をせず、早めに医療専門家に相談することをお勧めします。
自分の体を大切にし、必要なケアを受けることで、スポーツパフォーマンスを最大限に発揮するとともに選手生命を守ることにもなるでしょう。
参考文献