トイレに行ったらおしりから大量の出血 …何が原因? どんな病気が考えられる?
トイレで大便をした後、ふと便器を見ると大量の出血……。もし、こうした事態に陥ったら、誰もが慌ててしまいますよね。はたして、トイレで出血した場合、どのような病気の可能性があるのでしょうか。「おおつ消化器・呼吸器内科クリニック」の大津先生に教えていただきました。
監修医師:
大津 威一郎(おおつ消化器・呼吸器内科クリニック 院長)
昭和大学医学部医学科卒業。その後、さいたま赤十字病院総合臨床内科、消化管内科などで経験を積む。2021年、埼玉県北足立郡に「おおつ消化器・呼吸器内科クリニック」を開院。「地域の方々に安心・安全で適切な医療を提供したい」という想いを掲げ、地域医療に貢献している。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本消化管学会胃腸科専門医、日本内科学会認定医、日本ヘリコバクター学会 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医、日本がん治療認定医機構認定医。
トイレで出血したとき、焦らずにチェックすべき項目
編集部
トイレに行ったら、大量の出血がありました。一体、どのような原因が考えられますか?
大津先生
まず考えなければならないのが、体内のどこで出血をしているのかということです。正確にいえば、その出血は「下血」なのか「血便」なのか、ということです。トイレに行って出血があると「下血した」と考える人も多いのですが、本来「下血」とは、胃や十二指腸などの上部消化管から出血することを指します。他方、十二指腸より下に位置する大腸や肛門といった下部消化管から出血することを「血便」と言います。
編集部
どのように下血か血便かを見分ければいいのですか?
大津先生
「血液の色」で区別するのが簡単な見分け方です。真っ赤な血が出た場合は「血便」、黒っぽい血が出た場合は「下血」の可能性を疑います。ただし、当てはまらない場合もあるので、一概には言えません。
編集部
なぜ、血液の色が変わるのでしょうか?
大津先生
便に混ざる血液は、出血してからの時間が経過するにつれ、赤色から黒色に変化していきます。また、胃酸の影響を受けると黒色に変わります。つまり、血液の色が鮮やかであればあるほど、出血している場所は肛門に近いということになり、反対に黒っぽくなればなるほど胃に近い部位で出血しているということになります。
編集部
血液の色によって、出血している場所に見当をつけることができるのですね。
大津先生
そうです。そして、もう1つ注意していただきたいのが、どのような状態で出血したのかということです。「便座に座ったとき真っ赤な血がポタポタたれてきた」、「便に血が混ざっていた」、「トイレットペーパーでおしりを拭いたら血がついていた」、さらには、「目には見えないけれど便を検査すると血の成分が検出された」など、様々な出血があります。出血をした際には、どのような状況であったかをチェックしておくことも、正確に診断をするためには大切です。
疑われる病気は?
編集部
具体的には、どのような病気が考えられますか?
大津先生
真っ赤な血便が出た場合は、おしりから近い直腸や肛門で出血している可能性が高くなります。この場合、「イボ痔(痔核)」や「切れ痔(裂肛)」などの痔をまず疑います。とくに、痛みを伴う場合は、切れ痔である可能性が高い傾向にあります。また、肛門の外側にできる「血栓性外痔核」も、痛みを伴う出血がみられることがあります。
編集部
痔以外には、どのような病気が考えられますか?
大津先生
気をつけたいのが、「大腸がん」でも鮮血便が見られることがあるということです。この場合には出血量はそれほど多くないため、つい見逃してしまいがちです。しかし、がんは放置するとどんどん進行してしまいます。また現在、日本における大腸がんの死亡数は、男性では肺がん、胃がんに次いで3位、女性では1位です。けっして軽視していいがんではないので、早期発見・早期治療のためにも、鮮血便が見られたら早めに受診すべきでしょう。
編集部
ほかには、どのような病気が疑われますか?
大津先生
鮮血で多いのは、「虚血性腸炎」や「大腸憩室出血」、「IBD(炎症性腸疾患)」です。ただし、これらの病気は必ずしも鮮血便というわけではなく、体内で時間が経てば黒ずんでくる(暗赤色)こともありますので、医師も色で判断することは難しいでしょう。
編集部
一方、黒色便の場合は、どのような病気が考えられますか?
大津先生
胃や十二指腸からの出血が疑われます。この場合は、「胃がん」や「胃・十二指腸潰瘍」、「食道静脈瘤破裂」などの可能性が考えられます。
トイレで出血があった際、病院でおこなわれる検査は?
編集部
トイレで出血があった場合、病院ではどのような検査をするのでしょうか?
大津先生
まずは問診をして、症状やこれまでの経過を確認させていただきます。出血した時の状況や血液の色、腹痛の有無、下痢だったのか、あるいは粘液が混ざっていたかなどをお聞きします。そのため、出血をした時は、焦らずにしっかりチェックしておくといいでしょう。それらの情報から、およその出血部位を推測します。
編集部
続いて、どのような診察がおこなわれるのですか?
大津先生
イボ痔や切れ痔などの痔が疑われる場合は、肛門周りや直腸の診察をおこないます。具体的には、見て観察する視診察、指で確認する指診察、それから痔の様子などを詳しく観察する肛門鏡などを使用します。
編集部
ほかの病気が疑われる場合は、どうするのですか?
大津先生
採血やCT、内視鏡検査などをおこない、原因を特定するのが一般的です。また、血圧などを測定し、全身の状態も確認します。大腸からの出血が疑わしい場合は、大腸がんのリスクを考え、大腸内視鏡検査を推奨しています。
編集部
出血の量が少なければ、安心していいのでしょうか?
大津先生
出血量が少ないからといって、油断はできません。なぜなら、大腸がんのように命に関わる疾患であっても、少量の出血にとどまることがあるからです。自分で状態を判断することは難しいため、下血や血便を確認したら必ず専門医による診察を受けるようにしましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
大津先生
おしりから血が出たら、誰でも焦ると思います。「きっと、大きな病気に違いない……」と不安になる人もいるでしょう。しかし、出血が起きても、緊急性がそれほど高くない病気もあります。反対に、少量の出血でも命に関わる病気が隠れていることもあります。そのため、トイレした際に出血があったら、血液の色や状況などをしっかり記録して、すぐ専門医に診てもらいましょう。
編集部まとめ
トイレで出血した場合、緊急性の有無や病気かどうかについて、自己判断は困難です。とくに女性の場合、「病院へ行くのが恥ずかしい」と感じるかもしれません。しかし、ときには大きな病気が隠れているケースも考えられます。たとえ出血が少量であったとしても、早めに受診するようにしましょう。
医院情報
所在地 | 〒362-0806 埼玉県北足立郡伊奈町小室 3188-6 |
アクセス | JR宇都宮線「蓮田駅」 徒歩23分 |
診療科目 | 消化器内科、呼吸器内科、一般内科 |