「マロリーワイス症候群」を発症すると現れる症状はご存知ですか？医師が監修！

マロリーワイス症候群とは主に嘔吐により急激に腹圧が上昇し、噴門部と呼ばれる胃と食道の境目部分の粘膜が裂傷する疾患です。裂傷が粘膜下部まで生じると、粘膜下にある動脈から出血することがあります。
上部消化管出血の約5％〜10％がマロリーワイス症候群が占めている臨床データもあります。基本的には腹痛や胸痛を伴うことはありませんが、まれに激しい痛みやみぞおち付近に痛みが現れることもあるでしょう。

嘔吐を繰り返した後に吐血することが最も多いです。基本的には1度目の嘔吐では吐血はなく、2度目以降の嘔吐の際に食道の粘膜が傷ついてしまい吐血される方が多い傾向にあります。吐血と聞くと重い症状で治りにくいと思われがちですが、自然止血し顕著な症状が現れないこともあります。
その他の症状は下血・立ちくらみなどです。下血の症状には鮮紅色や黒色の出血があります。鮮紅色は肛門に近い部分での出血が考えられ、黒色は肛門から距離がある部分での出血が考えられるでしょう。立ちくらみに関しては貧血による症状であることが多いです。
大量出血した場合はショック状態に陥ることがあるので注意が必要です。くしゃみ・激しい咳・排便時のいきみなどでも起こる場合があります。便秘の場合は排便時にいきみやすくなるので生活習慣を見直し、便秘の予防を心がけることが大切です。

誘因としては飲酒が最も多いです。これは胃の中にある物が食道へ逆流するのを防ぐ筋肉の圧である、下部食道括約圧がアルコールにより緩んでしまうためです。アルコールを過剰に接種してしまうと容易に胃から食道に圧が加わってしまい、嘔吐を繰り返してしまいます。
特に30代〜50代の方に症状が出やすく、男性は女性の4〜6倍と多い状況です。飲酒習慣がこの年代に多いことが原因としてあげられます。前述した年齢だけでなく若年者や高齢者にも症状が現れることもあるでしょう。
その場合は基礎疾患が隠されていることが多く、若年者であれば急性胃腸炎・中耳炎・脳腫瘍・髄膜炎などが基礎疾患として存在します。高齢者の場合は消化性潰瘍・糖尿病・肝不全などの代謝疾患の悪化から嘔吐してしまい発症することがあります。どの年代でも起こる症状なので注意が必要です。
その他に乗り物酔い・妊娠時のつわり・過食症により自身で無理やり嘔吐するなどが原因としてあげられるでしょう。

嘔吐による吐血が主な症状なので基本的には内科を受診していただければ問題ありません。症状によっては内視鏡内科や消化器内科がある病院やクリニックで受診していただく可能性もあるでしょう。

主に行われる検査は、出血部位の確認のために上部消化管内視鏡検査を行います。また一般的な血液検査で貧血の状態を確認する場合もあるでしょう。
上部消化管内視鏡検査では食道や胃の接合部付近の粘膜に裂傷がないか確認します。同時に出血の有無も確認するでしょう。胃食道結合部の粘膜損傷は感染症・薬剤・胃食道黄逆流症でも症状として現れることがあります。
鑑別のためにも上部消化管内視鏡検査は有効な検査方法です。また食道破裂を診断から除外するためにCT検査やレントゲン撮影を行うこともあります。

上部消化管内視鏡検査時に既に止血していた場合は食事制限・補液・止血薬・酸分泌抑制薬などで保存的治療を行います。一方で出血が続いていたり露出血管がみられたりする場合は内視鏡的止血術を行う可能性があるでしょう。
内視鏡的止血術は下記の４種類です。

• 局注法
• 熱凝固法
• 機械的止血法
• 薬剤散布法

局注法の場合は止血効果のある薬剤を注入し血管を固め止血します。高張Naエビネフリン（HSE）法・純エタノール法・エトキシスクレロール法・シアノアクリレート・フィプリン接着剤などを用いるでしょう。
熱凝固法の場合は、局所血管を熱で焼灼し止血します。レーザー法・高周波法・ヒータープローブ法・マイクロ波法などがあります。機械的止血法の場合は、クリップなどで出血している血管や部位を挟んで止血する方法です。クリップ法・バルーン法・結紫法などがあります。
薬剤散布法の場合は、止血効果のある薬剤を散布もしくは噴霧を行い止血します。トロンビン・スクラルフェート・フィプリン糊・アルギン酸ナトリウムなどの薬剤を用いるでしょう。その上で止血していた場合と同様に食事制限・補液・酸分泌抑制薬で保存的治療を行います。
大量出血していた場合は輸血が必要になる場合もあります。大量出血により内視鏡的止血が困難な場合は血管造影手技を用いて止血や外科手術へ移行する可能性もあるでしょう。

食道への圧が正常化すれば基本的には自然止血し自然治癒する場合もあります。そのため特別な治療は必要なく経過観察をするでしょう。しかし外傷ではなく体の内部が原因の病気なので自己判断するのは難しく非常に危険です。
また吐血を伴う病気は複数あり、マロリーワイス症候群の症状に似た病気でブールハーフェ症候群があります。特発性食道破裂とも呼ばれるこの症候群は、嘔吐などで腹圧が上昇し食道壁全層に裂創をきたす疾患です。
発症形式はマロリーワイス症候群に似ていますが、食道破裂のため呼吸困難や激しい腹痛を伴い最悪の場合死にいたるケースもあります。以上のことから基本的に放置はせずに病院で受診しましょう。

臨床データでは内視鏡で瘢痕治癒まで経過観察した31症例で、個人差はありますが平均治療期間は約16日間です。
内訳としては22例（71.0％）が3週間以内に治癒しており、そのうち6例（19.4％）が1週間以内に治癒しています。軽度であれば数日で治癒する可能性もあるでしょう。

大量に出血しない限り基本的には自然止血が見られ、予後も良好でほとんど再発することはありません。ただし早期発見・早期治療が大切です。
マロリー症候群の発見が遅れてしまうと予後不良になってしまう可能性もあるので注意しましょう。

嘔吐をした際に出血がみられた場合は非常に不安な状況でしょう。しかし慌てることなくまずは病院で受診しましょう。自然止血することもありますが、自己判断で数日経過を観察しようとするのは大変危険です。症状を放置することにより悪化してしまい大量に出血し緊急手術が必要になる場合もあるでしょう。
原因の多くが暴飲暴食に関わっていることは明らかなので、度数の高いアルコールを短時間で大量に飲むことや一気飲みをするなどは控えましょう。普段の食生活を意識することで予防ができるので、少しでも当てはまるようであれば食生活や飲酒習慣の見直しをオススメします。
症状は辛いことがありますがマロリーワイス症候群は早期診断し早期治療を行えば治せる病気です。不安を1人で抱え込まないように症状に心当たりがあれば悩まずにすぐ医師に相談しましょう。