「高次脳機能障害」の症状・原因・受診の目安はご存知ですか?医師が徹底解説!
脳梗塞やくも膜下出血といった脳血管所外や交通事故や転落事故などが原因で引き起こされる「高次脳機能障害」について解説します。
この障害は、何らかの原因により脳にダメージが及ぶことで様々な症状が現れます。例えば、「聞いたことをすぐ忘れてしまう」「ぼんやりしてミスが多くなってしまう」などです。
これらの症状により日常生活や社会生活に支障をきたしている場合には、すぐに専門機関へ相談することをおすすめします。
高次脳血管疾患の症状は様々ですので、詳しい内容を確認していきましょう。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
高次脳機能障害という病気について
高次脳機能障害とはどのような病気なのでしょうか?
これらの能力を使用する事で社会性を発揮し、人間の社会は成り立っています。まさに、高次脳機能というのは人間が社会生活を行っていくのに必要な能力とも言えるのです。
高次脳機能障害とは、脳血管障害やケガなどにより脳が損傷してこれらの高次脳機能が損なわれ、様々な症状が現れる状態です。具体的には、脳梗塞・くも膜下出血・脳外傷・低酸素脳症などが原因です。
症状は脳のダメージを受けた部位により異なり、「怒りっぽくなる」「忘れっぽくなる」などの特徴的な症状が現れます。身体的な見た目には何ら変化がみられないため、障害に気付きにくいケースもあります。
高次脳機能障害の主な症状について教えてください。
- 記憶障害
記憶障害の主な症状は新しいことを覚えることができず、説明してもすぐに忘れてしまうなどです。「自分が何を食べたか忘れる」「物をどこにしまったか忘れる」などの症状も記憶障害に当たります。多くの場合は新しい記憶を忘れますが、原因となった病気や事故の前の記憶がなくなってしまうこともあります。 - 注意障害
注意障害とは、その名の通り注意力に障害が出てしまうことです。具体的には、「ぼんやりしている」・「ミスが多くなる」・「周りの状況に気をとられてしまう」などです。目の前の作業に集中することが難しく、同時にいくつもの作業をすることも困難となります。 - 遂行機能障害
自分で手順を考えて一連の行動を行うことができなくなってしまうことを遂行機能障害といいます。例えば、「計画を立てられない」「約束の時間を守れない」などです。通常の場合、人は記憶・思考・判断などの機能を駆使して手順を考えて遂行することが可能です。しかし、これらの機能が障害されてしまうことで今まではできていたようなスムーズな行動が難しくなってしまいます。 - 社会的行動障害(情緒障害)
脳にダメージをうけることにより、状況に適した行動や感情のコントロールが難しくなってしまう状態です。「怒りっぽくなる」・「暴力的になる」・「子どもっぽくなる」などの症状がみられます。 - 言語障害
言語を司る部分が障害されることで「言葉がでない」「読み書きができない」などといった症状が現れることがあります。このような症状がみられる場合は、失語症です。失語症には、「相手のいっていることが伝わらない」という症状も含まれます。 - コミュニケーション障害
会話は問題なくできるものの、感情や細かいニュアンスなどが理解できなくなってしまうケースもあります。つまり、コミュニケーションの中で相手の意図を汲み取ることができなくなってしまうのです。この場合、言葉通りの解釈しかできなくなってしまいます。また、相手に共感するということが難しくなります。 - 失行
身体機能や記憶には異常がないにもかかわらず、「食事をとる」「文字を書く」などの日常的な動作ができなくなってしまう症状です。その他にも、「箸の使い方が分からない」「洋服の着方が分からない」という症状が現れます。 - 失認
目でみて物を認識することはできるものの、その物の名前や用途が分からなくなってしまう症状のことです。例えば、ボールペンを目の前にした時、その物体は認識できても「ボールペン」という名前や「字を書くためのもの」ということは分かりません。また、自分自身の身体を認識することができなくなってしまうのは、身体失認という症状です。麻痺などがあるわけではないのに、身体の一部を認識できずに使わなくなってしまいます。例えば、化粧をした時に認識していない側の化粧はしないままの状態にしてしまいます。
高次脳機能障害の原因は何ですか?
ですので、脳梗塞・くも膜下出血・脳出血などの脳血管障害により、脳の中でもそれらの部分の血流が滞ることによってダメージが引き起こされます。その他には、交通事故などの外傷が主な原因です。また、心肺停止による低酸素脳症や感染症による脳炎が引き金となることもあります。
高次脳機能障害は若年層でも発症することはありますか?
例えば、交通事故や高所からの転落などによる脳挫傷や脳出血が原因となることもあります。この場合、若年層でも発症する可能性は十分に考えられるでしょう。
その他、感染症や自己免疫疾患などが原因となることもあります。
高次脳機能障害の診断・検査方法や受診目安
高次脳機能障害の診断はどのような検査を行いますか?
高次脳機能障害が進行してしまうとどのような影響があるのでしょう?
しかし、病気の症状が出ているにもかかわらず放置していると脳の回復が見込めず、現在ある健康な機能が退化してしまうでしょう。例えば、身体的失認により体の認識できない部分を使わなくなったとします。すると認識できない部位の筋力や機能が低下してしまうかもしれません。
これらは早期にリハビリテーションを開始することで改善できる可能性があります。
高次脳機能障害は何科への受診が良いのか知りたいです。
どこへ受診したらよいか迷った場合には、各自治体の福祉保健局に問い合わせてみてください。
高次脳機能障害の受診目安を教えてください。
基本的な基準は、その症状により「日常生活や社会生活に影響がでているかどうか」で判断します。例えば、あまりにもぼんやりして仕事にならない場合や感情が抑えられず他人とのコミュニケーションが難しくなった場合などです。
これらの問題は、脳の損傷により引き起こされた障害である可能性もありますので、専門機関で検査を受けることが重要です。
高次脳機能障害の治療と予後
高次脳機能障害ではどんな治療をするのか知りたいです。
一般的には、発症から1年程度までは比較的スムーズに改善がみられやすいです。しかし、それ以上時間が経過した場合には、あまり改善がみられなくなってしまいます。特に、発症から2年を経過すると、それ以上の症状改善は見込めなくなってしまうといわれています。
そのため、発症してから出来るだけ早い段階でリハビリテーションを開始することが重要です。
高次脳機能障害は治りますか?
病気や事故の後から「感情が抑えられなくなった」「物忘れがひどくなった」などの症状がみられる場合には、高次脳機能障害の可能性が考えられます。発症から時間が経過するほど大幅な回復が見込めなくなってしまいます。
自覚できる場合もあれば、ご家族に指摘されることもあるでしょう。何かしら違和感を抱いているようであれば専門機関へ相談しましょう。
高次脳機能障害の治療後に注意することがあれば教えてください。
患者だけの問題として捉えるのではなく、家族も一緒にサポートを受けることが大切です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
この症状により、以前のように「仕事ができない」「家族や友人とのコミュニケーションがうまくとれない」などの症状でお悩みの人は、早めに医療機関を受診しましょう。また、本人に障害の認識がなく、家族が異変を感じている場合にも専門機関に相談することが大切です。
編集部まとめ
脳梗塞や事故などによる脳挫傷などが原因で引き起こされる「高次脳機能障害」について詳しく解説しました。
高次脳機能障害は外見では分かりにくいため、「隠れた障害」ともいわれています。
「新しいことが覚えられない」「計画を立てられない」などの症状により、社会生活に支障が出るケースも少なくありません。
また、「怒りっぽくなる」「暴力的になる」などの問題行動が原因で、周囲とのコミュニケーションが難しくなってしまうこともあります。
しかし、早期にリハビリテーションを開始することで、ある程度は改善が見込めるといわれています。
原因となる病気や障害の何らかの症状がみられる場合には、専門機関へ相談しましょう。