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「高次脳機能障害」ってどういう症状? リハビリはどうする?

 更新日:2023/03/27

日常生活や社会生活に支障をきたしてしまう「高次脳機能障害」という症状をご存知でしょうか。普段の生活では聞き馴染みのない言葉ですが、何が原因で発症してしまうのか、日常生活にどのような影響が出るのでしょう。そこで今回は、高次脳機能障害の患者さんのリハビリに携わっている「作業療法士」の石原さんに、高次脳機能障害について詳しい話を伺いました。

石原 綾乃

監修作業療法士・介護支援専門員
石原 綾乃(作業療法士・介護支援専門員)

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東京都立保健科学大学卒業。リハビリテーション病院や大学病院の非常勤勤務にて、主に脳血管疾患、整形外科疾患、難病の方に対するリハビリテーションに従事。その後、医療介護分野のIT企業の一般職に転職。現在、リハビリテーションを通して一人ひとりの人生に寄り添いたいという考えから、訪問看護ステーションに在籍。病気や障害に限らず、ライフバランスが崩れたり、生活のしづらさを感じたりしている方に対して、1歩を踏み出す準備や後押しのサポートをしている。

高次脳機能は行動のコントロール役

高次脳機能は行動のコントロール役

編集部編集部

あまり聞かない言葉ですが、そもそも「高次脳機能」とは何でしょうか?

石原 綾乃石原さん

まず、脳には大きく分けて、行動をコントロールする「高次脳機能」と体を動かす「一次機能」の2つがあります。高次脳機能には、記憶や感情の動き、状況の理解や判断といった認知機能が含まれています。

編集部編集部

高次脳機能に障害があると、生活にどのような影響があるのですか?

石原 綾乃石原さん

高次脳機能が運動機能をコントロールする関係性になっています。そのため、高次脳機能の障害による何らかの症状の影響で、「目的の動きができない」、「上手く動かせない」、「動きにくい」といった状況が見受けられます。例えば、手足は動くのに、洋服を着ることができないといったケースが起こります。

編集部編集部

高次脳機能障害は、何が原因で起きるのでしょうか?

石原 綾乃石原さん

けがや脳卒中などによる、明らかな脳の損傷で起こるとされています。脳の損傷は、CTやMRI検査をして確認することができます。なお、アルツハイマー病などの進行性の認知症にも似ている症状がありますが、高次脳機能障害の診断とは異なる解釈となります。

高次脳機能障害の症状は様々

高次脳機能障害の症状は様々

編集部編集部

具体的には、どのような症状がありますか?

石原 綾乃石原さん

一口に高次脳機能障害と言っても、症状は様々です。例えば「Tシャツを着る」場面では、「洋服を着る気分になれない」、「着替え終える前にほかのことをしてしまう」、「着ること自体を忘れてしまう」、「着たいことを相手に言葉で伝えられない」、「Tシャツの形・色・着方・左右が分からない」、「左側だけ袖を通せていないが気がつかない」、「Tシャツがどこにあるか分からない」、「場所は分かるクローゼットまでの行き方が分からない」など、いくつもの症状が挙げられます。

編集部編集部

人によって出やすい症状に違いがあるのでしょうか?

石原 綾乃石原さん

脳のどの部分を損傷したら、この症状が出やすいといった想定できるケースもありますが、脳の損傷の場所や広さによって症状や程度も様々です。そのため、一人ひとり症状は異なります。

編集部編集部

そうなると、普段の生活の中で困ることも人によって違いそうですね。

石原 綾乃石原さん

その通りです。脳の機能自体が非常に複雑です。そのため、実際の生活場面でどのような影響が出ているかを整理・理解することが、その後の回復や対応方法を検討していくためにも大切であると考えています。

目に見えないものとの付き合い方

目に見えないものとの付き合い方

編集部編集部

高次脳機能障害は、自覚が難しそうですね。

石原 綾乃石原さん

はい。高次脳機能障害の一番難しいところは「目に見えない」ことだと考えています。目に見えない症状のため、はじめは当事者も「なぜ上手くいかないことが多くなったのか」を実感しにくく、理由も不明なままのケースが多いようです。

編集部編集部

それはどうしてでしょうか?

石原 綾乃石原さん

脳機能の変化によって「今までとは常識が変わった状態」になるからです。例えば、Tシャツを着る際に左側の袖を通し忘れている状況を、家族に指摘されたとします。本人は症状の影響で左側の意識が薄れていることが当たり前だと思っているため、なぜ指摘されるのかが理解しづらい状況となります。

編集部編集部

その場合、前と同じようにTシャツを着れるようになるのでしょうか?

石原 綾乃石原さん

「最近、なぜか洋服が上手に着られないことが多い……」というモヤモヤを何度か経験して、ご家族と一緒に右側から順にTシャツの袖をたくっていくことで、左側の腕が通っていないことにはじめて気がつく人も少なくありません。症状が改善したり、自ら気づくことができるようになったり、方法を工夫したりする中で、「Tシャツを着る」ことが再獲得されていきます。

編集部編集部

周囲の人が、何か意識しておいた方が良いことはありますか?

石原 綾乃石原さん

「目に見えない」ものは、何が起きているか分からずとても不安に感じられると思います。なので、まずは「目に見える」ものに変えていくことが大切です。つまり、症状によって苦手なことは何か、変わらずできていることは何かを整理し、知ることが大切です。それを本人、家族を含めた周囲に共有しましょう。Tシャツの例だと、「左側を認識するのが苦手なので、右側から順にたくる」ことを周囲の人が知っていれば、「左側を見落としているよ」と指摘するのではなく「右側から着てみてね」という声かけの仕方に工夫ができます。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

石原 綾乃石原さん

当事者でしたら、脳神経外科やリハビリテーション科などの病院外来や、地域の高次脳機能障害の人向けの支援センター、地域包括支援センターなどの窓口へ相談することをお勧めします。また、ご家族でしたらピアサポートの1つである家族会がある地域もありますので、高次脳機能障害を「知る」機会となります。症状の回復に関する情報や、似た症状がある人が工夫している点や気持ちなどを共有することで、本人や家族を含めて生活のしやすさにつながっていくことが期待できます。分かりづらいものだからこそ、第三者の存在にぜひ頼って、克服する糸口を見つけてもらいたいです。

編集部まとめ

高次脳機能は私たちが生活するために大切な機能であることを知りました。原因が目に見えないものだと不安にもなりますが、知識として知っているだけで多少の安心感につながりますね。実際の症状や具体的な対応策を考えることは、本人やご家族だけでは難しいこともあるので、まずは近くの医療機関や施設、地域にいる作業療法士に相談してみてはいかがでしょうか。

この記事の監修作業療法士・介護支援専門員