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「腹圧性尿失禁」とは?尿漏れの原因やトレーニング法を医師が解説!

 更新日:2023/03/08
腹圧性尿失禁

咳やくしゃみをした瞬間、無意識に尿が漏れてしまう「腹圧性尿失禁」とはどのような病気なのでしょうか。詳しく解説していきます。

腹圧性尿失禁は、骨盤底筋の緩みにより引き起こされます。その名の通り、お腹に力が入った時に尿が漏れてしまう疾患です。

また、腹圧性尿失禁は多くの女性が経験している失禁でもあります。女性特有の骨盤構造や出産歴などが発症に関係しています。

今回は、腹圧性尿失禁の原因や症状・治療方法・トレーニング・自分でできる対処法について詳しくみていきましょう。

郷 正憲

監修医師
郷 正憲(徳島赤十字病院)

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徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。

腹圧性尿失禁とは

咳き込む女性

腹圧性尿失禁とはどのような病気でしょうか?

腹圧性尿失禁とは、その名の通り腹圧がかかることにより尿が漏れる失禁のことです。
たとえば、くしゃみ・咳・ジャンプなどをしてお腹に力が入ることで引き起こされます。その他にも、重い荷物を持ち上げようとした時や笑った時にも起こることがあります。
これらの原因は、主に女性特有の骨盤構造・加齢・出産などによる骨盤底筋群の緩みです。軽度であれば骨盤底筋を鍛えるトレーニングを行うだけでも改善が期待できます。
しかし、症状が悪化すれば手術が必要になることもある病気です。デリケートな症状で受診を悩んでいる人も多いと思いますが、症状が軽いうちに受診することを心がけましょう。

女性に多い病気なのですね…。

尿失禁を経験したことがある女性は40代で約半数にのぼります。これは、女性がもつ骨盤の構造・加齢・妊娠・出産・肥満などが関係しています。
まず、女性に起こりやすい尿失禁の種類には主に3種類あることを知っておきましょう。1つ目は腹圧性尿失禁、2つ目は切迫性尿失禁です。そして3つ目は、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が合わさった混合性尿失禁です。
腹圧性尿失禁とは先にお話しした通り、お腹に力を入れた時に尿が漏れてしまう病気を指します。一方、切迫性尿失禁とは尿意が急に起こり、我慢できずに尿漏れをしてしまう病気です。
これらの尿失禁の中で最も多いのは腹圧性尿失禁といわれており、500万人以上の女性が週1回以上の尿漏れを経験しています。

原因を教えてください。

人が尿意をもよおした時には通常、尿が漏れないように尿道を締める筋肉が働きます。このように膀胱や尿道を支えている筋肉や靭帯が骨盤底筋群です。
女性の骨盤底筋群は、もともと男性に比べて弱いという特徴があります。それに加え、加齢・妊娠・出産・肥満などにより、さらに緩むことで尿漏れを引き起こしやすくなるのです。
また女性の場合は、膣と膀胱が隣接しているため婦人科疾患により尿失禁が引き起こされるケースもあります。

症状を教えてください。

主な症状は、お腹に力が入った時に起こる尿漏れです。具体的には以下のような場面で起こります。

  • 咳やくしゃみをした時
  • 重い物を持ち上げた時
  • 笑った時
  • 歩いたり走ったりした時
  • ジャンプをした時

これらは尿意を感じていないにもかかわらず、突然起きてしまうのが特徴です。

腹圧性尿失禁の診断と治療

診察の様子

どのような検査を行うのでしょうか?

まずはじめに行うのは問診です。いつ・どのような状況で・どれくらいの量の尿失禁があるのかを確認します。また、婦人科系疾患の既往歴・妊娠歴・出産歴・便秘の有無・肥満など、尿失禁を引き起こす原因についてもヒアリングしていきます。
以下は、尿失禁の診断に用いられる検査です。

  • 検尿

膀胱炎などの尿路感染症によって尿失禁が引き起こされることもあります。そのため、検尿で尿路感染症との鑑別を行うことが必要です。

  • パッドテスト

水分を摂取しパッドをつけた状態で腹圧のかかる動作を行い尿失禁の量を確認します。

  • チェーン膀胱造影検査

チェーン付きカテーテルを膀胱内に挿入し造影剤を注入して行うレントゲン検査です。この検査により膀胱や尿道の形や角度を調べます。

  • 尿流動態検査

尿流動態検査は膀胱に生理食塩水を注入して行う検査です。尿が溜まった時の知覚や排尿時の膀胱の動きを確認します。
これらの検査は必ず行うわけではなく必要に応じて検討します。

治療方法を教えてください。

症状が軽い場合には、骨盤底筋を鍛える訓練をするだけでも改善が見込めるでしょう。薬物療法を並行して行うこともあります。
また、肥満が原因で腹圧性尿失禁が引き起こされている場合には減量を行うことも必要です。
骨盤底筋訓練・薬物療法・減量だけでは改善がみられない場合には手術の適用となります。

手術することもあるのでしょうか?

骨盤底筋群を鍛える訓練で効果が出ない場合や訓練が続けられない場合などには、尿道スリング手術を行います。これは骨盤底筋を補強するための手術です。
尿道スリング手術には以下の2種類があります。

  • TVT手術

重症度が高い尿失禁に用いられる手術です。主に尿漏れの量が多い人や再手術の人に適用されます。この方法では下腹部2か所と膣1か所を切開し、尿道の裏側に幅1cmのポリプロピレン製テープをU字に通して尿道を補強します。傷を最小限に抑えられ、術後の痛みも軽く済むのが特徴です。
また、再発率が低く、高い改善効果が期待できます。しかし、血管・膀胱・腸などの組織を傷つけてしまうリスクが高く、排尿障害などの合併症を引き起こす可能性もあります。

  • TOT手術

TOT手術は、膣1か所と両内股の付け根の計3か所を切開して行う手術です。TVT手術同様に幅1cmのポリプロピレン製テープを用いて尿道を支えますが、こちらの手術ではV字にテープを通します。U字にテープを通すTVT手術に比べ、太い血管や腸を傷つけるリスクが低いことなどが特徴です。
こちらの手術は、軽度の尿失禁に適用されます。比較的安全な術式ではありますが、TVT手術同様に排尿障害や骨盤痛などの合併症が引き起こされることもあります。
どちらの手術も30分~60分程度、入院日数は5日程度です。腹圧性尿失禁の程度・膀胱機能・尿道機能などに合わせた手術を慎重に選択します。

腹圧性尿失禁を改善するトレーニングについて教えてください。

膣・尿道・肛門のあたりを5秒程度ギュッと締めて・緩めるという運動を5分〜10分程度行いましょう。この運動は、仰向けに寝た状態・椅子に座った状態・立った状態でも行うことができます。仕事や家事の合間にも、こまめに行うのがおすすめです。
もう1つは、仰向けに寝て膝を立てた状態からおしりを持ち上げる運動です。おしりを持ち上げる時に膣・尿道・肛門のあたりに力を入れるようにしましょう。5回以上繰り返すと効果的です。どちらも比較的簡単に実践できるトレーニングです。
効果は1か月〜3か月程度で実感できる人が多いようです。毎日少しずつでも続けるように意識してみてください。

腹圧性尿失禁の対処法

トレーニングをする女性

自分でできる対処法はありますか?

骨盤底筋を鍛えるトレーニングは、自宅で簡単に行うことが可能ですのでおすすめです。肥満の人は減量を行うことも心がけましょう。
また、喫煙者の場合には咳により腹圧がかかりやすくなります。慢性的に咳が出る状態では腹圧性尿失禁が悪化しやすくなるため、禁煙を行うことも予防に繋がります。

市販薬を使用しても良いのでしょうか?

軽い尿もれであれば、市販薬でも効果が出ることはあるでしょう。
しかし、尿路感染症婦人科系疾患などが原因で失禁が引き起こされることもあります。
また、失禁の種類や重症度によっても適切な薬は異なります。そのため、尿失禁の症状がみられるのであれば、一度泌尿器科や産婦人科へ受診するのがおすすめです。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

腹圧性尿失禁は多くの女性が経験している病気のひとつです。咳やくしゃみをした時・笑った時・重い物を持ち上げた時などにも症状が現れます。
日常の様々なシーンで尿漏れが引き起こされるため生活に支障が出てしまうことも少なくありません。
しかし軽症の場合であれば、薬や骨盤底筋を鍛えるトレーニングで改善することは可能です。思い当たる症状があれば、専門機関へ相談するようにしましょう。

編集部まとめ

カルテを記入する女性
咳をした時や笑った時に尿が漏れてしまう腹圧性尿失禁は、多くの女性が経験している病気のひとつです。

お腹に力を入れただけで無意識に尿漏れが引き起こされるため、日常生活でお悩みの女性も多いことでしょう。

しかし、腹圧性尿失禁は治療により改善が期待できる病気ですのでご安心ください。特に、骨盤底筋を鍛えるトレーニングは有効です。

自宅でも簡単に実践できるので、ぜひ積極的に行ってみてください。

また、肥満や喫煙が腹圧性尿失禁を悪化させてしまうことがあります。減量や禁煙も心がけるようにしましょう。

この記事の監修医師