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「脊髄硬膜外膿瘍」を医師が解説!放置すれば後遺症が残る危険も!

 更新日:2023/03/27
「脊髄硬膜外膿瘍」を医師が解説!放置すれば後遺症が残る危険も!

今回は、術後合併症のひとつである「脊髄硬膜外膿瘍(せきずいこうまくがいのうよう)」について解説します。

脊髄硬膜外膿瘍とは、脊髄を取り巻く一番外側の膜である硬膜と脊椎の間に膿が溜まり、脊髄を圧迫する病気です。

脊髄が圧迫されることで手足のしびれや感覚異常などの神経症状・歩きにくいなどの運動障害が現れます。

初期は背中や腰の痛み・発熱といった炎症症状で始まることが多いため、受診や治療開始が遅れてしまうケースもあります。

治療が遅れると、敗血症や髄膜炎を引き起こし、最悪の場合は死に至ることもある危険な病気ですので注意しましょう。

それでは、症状や原因・治療方法・治療期間・後遺症・リハビリについて確認していきましょう。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

脊髄硬膜外膿瘍とは?

熱

脊髄硬膜外膿瘍はどのような病気ですか?

脊髄硬膜外膿瘍は、外科的手術による脊髄くも膜下麻酔や脊髄硬膜下麻酔などで引き起こされる合併症のひとつです。しかし、手術とは関係なく発症することもあるので注意しましょう。まず、脊髄とは脳から繋がった中枢神経です。脊髄は脊椎、つまり背骨の中を走っています。
この脊髄は内側から、軟膜・くも膜・硬膜の順で覆われており、一番外側に位置するのが硬膜です。この硬膜と脊椎の間の空間に何らかの原因で炎症が起こり、膿が溜まってしまうのが脊髄硬膜外膿瘍です。
脊髄硬膜外腔にが溜まり、脊髄が圧迫されることで様々な神経症状が現れます。初期症状は背中や腰の痛み・発熱から始まることが多く、次第に運動機能の低下や麻痺を引き起こすこともあります。
さらに症状が進行すると敗血症や髄膜炎を発症し、最悪の場合死に至る恐れもある危険な病気です。近年、MRI検査の普及が進んだことで脊髄硬膜外膿瘍の発見率は上がっているものの、診断までに時間を要するケースも多いです。病状を悪化させないためにも、早期発見・早期治療を行うことが特に重要だといえます。

症状を教えてください。

初期には、腰や背中の痛み・発熱といった炎症症状がみられるのが一般的です。病状が進むにつれて脊髄が圧迫され、神経障害麻痺排尿障害などの症状がみられるようになります。
脊髄硬膜外麻酔などの関連因子が明確な場合は診断が付きやすいですが、関連が不明な場合には診断までに時間がかかることが多いです。また、外科的手術以外にも、歯周病・椎間板炎・前立腺炎といった炎症性の疾患が引き金となることもあります。
これらの場合も同様に、腰や背中の痛み・発熱から始まることが一般的です。しかし、初期症状だけで脊髄硬膜外腫瘍と判断することは難しいでしょう。
実際には医療機関を受診するまでに時間を要するケースや、受診したものの適切な診断を受けられないケースもあります。受診や診断が遅れることにより病気が進行し、意識障害・悪寒・ふるえなど敗血症の症状が引き起こされることもあります。

発症する原因は何でしょうか?

外科的手術のための脊髄くも膜下麻酔や脊髄硬膜下麻酔などが原因となることが多いです。また、椎間板炎や脊髄炎といった脊髄周辺の炎症症状により、脊髄硬膜外膿瘍が引き起こされることもあります。
それ以外にも、歯周病・膀胱炎・前立腺炎など脊髄とは離れた部位の炎症が引き金となることもあるため注意が必要です。
原因菌としては、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)・メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)・大腸菌が挙げられます。糖尿病・過度な飲酒・静脈や皮下注射、ブロック注射などの治療歴が関連しているというデータもあります。

脊髄硬膜外膿瘍の診断と治療

医師

どのような検査で診断されるのでしょうか?

脊髄硬膜外膿瘍の3つの兆候である発熱・腰や背中の痛み・神経症状を確認します。しかし、受診の段階でこの3つの兆候がみられないケースも少なくありません。
そのため、まずは手術歴・治療歴・既往歴などの問診を行い、総合的に判断していきます。痛みや発熱などの炎症反応がみられる場合には血液検査を行い、白血球・CRP・赤血球沈降速度などの値を確認するのが一般的です。
さらに、脊髄硬膜外膿瘍が疑われる場合には、MRIによる画像診断を行います。MRIを用いることにより膿瘍の位置や範囲を確認し、他の疾患との鑑別をします。

治療方法を教えてください。

症状が軽い場合には、抗菌薬による薬物治療が一般的です。脊髄硬膜外膿瘍の原因菌は様々ですので、まずは血液培養により原因菌を明らかにすることが必要です。
検出された菌の種類により最適な抗菌薬を選択し、約4〜6週間にわたり投与を続けます。しかし、抗菌薬の投与を行っても症状が軽快せず、悪化してしまうケースもあります。このような場合には、早急な外科的手術が必要です。
また、受診の段階で神経症状がみられるような場合にも、外科的手術の適用となります。ただし手術によるリスクが高い患者さんや、麻痺が出現して36時間以上経過している患者さんに対しては手術を行わないこともあります。

手術することもあるのでしょうか?

くり返しになりますが、受診した段階で手足の神経症状や運動障害がみられる場合には手術を選択するのが一般的です。また、薬物療法による効果が得られず病状が進行する場合にも手術の適応となります。
ただし、患者さんが手術を望まない場合や手術によるリスクが高いと判断した場合には手術の適応外です。手術は減圧ドレナージという処置を行います。簡単にいうと、溜まった膿の排出と洗浄です。
MRI診断により背中側の膿瘍の位置が明らかな場合には、皮膚から直接ドレーンを挿入し膿を排出する「経皮的ドレナージ」という方法を用いることもあります。

治療期間について教えてください。

抗菌薬のみで治療が可能な場合には、約4〜6か月の薬物投与となります。手術の適応となる場合には、手術をしてから炎症データが改善するまで3〜4か月程度は要するでしょう。
しかし、これらはあくまでも目安です。膿の位置・範囲・神経症状の重症度によっても異なります。また、炎症所見が治まっても後遺症が残る可能性は考えられます。

脊髄硬膜外膿瘍の予後

病室

死亡率は高いのでしょうか?

脊髄硬膜外膿瘍の死亡率は減少傾向です。しかし、約5〜10%の患者は敗血症や髄膜炎などを発症し、死に至るというデータもあります。一度神経症状が現れると、症状は急激に悪化するのが特徴です。早期に治療を開始するだけでなく、経過観察や状況に応じて適切な治療を受けることが重要です。

脊髄硬膜外膿瘍は完治しますか?

早期に適切な治療が行われれば症状は改善します。しかし、診断や治療が遅れれば、神経症状や運動障害などの後遺症が残る可能性があります。また、麻痺が起きてから36時間以上経過している場合には、手術を行っても症状の改善は期待できません。

後遺症はありますか?

初診時に適切な診断がされなかった症例では、約半数に運動障害が残ったというデータがあります。また、後遺症に関しては治療を始める前の重症度が大きく関連しているようです。
治療を始める前の神経症状が軽いほど、後遺症が残る確率は低くなります。逆に、診断や治療が遅れ、すでに神経症状が進んでいる場合には後遺症が残る可能性が高くなります。

リハビリについて教えてください。

手術を行った場合は、術後早い段階でリハビリを開始するのが一般的です。術後間もない時期には安静を保つ必要があるため、ベッドの上で関節可動域訓練や呼吸機能訓練などがメインです。安静の制限がなくなれば、起立訓練や歩行訓練などを進めていきます。リハビリは、患者さんそれぞれの状態に応じて理学療法士とともに行います。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

脊髄硬膜外膿瘍は、症状が腰や背中の痛み・発熱のみで、早期に治療を開始すれば予後が比較的良好です。しかし、手足のしびれや感覚異常といった神経症状が現れた場合、そこからの病状進行が急激に進んでしまうという特徴があります。
筋力の低下による歩行障害・膀胱障害・直腸障害が表れ、さらには完全麻痺となることもあります。一度運動障害が引き起こされれば、たとえ手術を行っても後遺症が起こる可能性も高くなるため注意が必要です。そのため、早期診断・早期の治療開始が何よりも重要だといえるでしょう。

編集部まとめ

医師
今回は脊髄硬膜外腔に膿が溜まることにより脊髄が圧迫され、神経症状が引き起こされる「脊髄硬膜外膿瘍」について解説しました。

初期は、腰や背中の痛み・発熱といった風邪と勘違いしてしまうような症状から始まる病気です。

そのため、症状を自覚していても受診に踏み切れずに悪化してしまうケースがあるようです。

しかし、神経症状が現れるまで放置してしまうと、病状が急激に悪化することもあります。最悪の場合、命にかかわることもある危険な病気です。

腰や背中の痛み・発熱などが現れた場合は、「すぐに良くなるだろう…」と軽視せず病院を受診するようにしてください。

この記事の監修医師