「腰部脊柱管狭窄症」とは? 医師が症状・原因・治療法を解説
社会の高齢化に伴い、「腰部脊柱管狭窄症」の患者さんが増えているそうです。一体、どんな人がなりやすく、どのように進行していく病気なのでしょうか。今回は、腰部脊柱管狭窄症について、症状や原因、治療法などを、整形外科医の出沢 明先生(出沢明PEDクリニック 理事長)にお話を伺いました。
監修医師:
出沢 明(出沢明PEDクリニック)
目次 -INDEX-
腰部脊柱管狭窄症とはどんな病気? 症状や原因を医師が解説
編集部
腰部脊柱管狭窄症とは、どんな病気なのでしょうか?
出沢先生
脊椎、いわゆる背骨の中で、脊髄神経が通っている管を「脊柱管」と言います。この脊柱管が部分的に狭くなることで、神経が圧迫されてしまうのが「脊柱管狭窄症」です。脊椎の中でも、とくに腰部にある脊柱管が狭窄した状態を「腰部脊柱管狭窄症」と呼びます。
編集部
腰部脊柱管狭窄症になりやすい人や原因について教えてください。
出沢先生
まず、原因として最も多いのは「加齢」です。 加齢に伴い、椎骨と椎骨を繋ぐ椎間板が膨らんだり、黄色靱帯が厚くなったり、骨が棘上に変性して骨棘となって脊柱管が狭くなったりします。とくに、若い頃に過激なスポーツをしていたり、重いものを持つ仕事をしていたりと、腰への負担が大きい生活をしてきた人などはなりやすい傾向にあります。
編集部
どんな症状が出るのですか?
出沢先生
下肢のしびれや感覚障害、筋力低下などです。いわゆる正座をしたあとのようなビリビリとしたしびれというよりも、足の裏に「玉砂利を踏んでいるような違和感」といった感覚に近いでしょうか。また、もう1つの特徴的な症状として「間欠跛行(かんけつはこう)」があります。間欠跛行とは、200~300m歩くと脚のしびれやもつれなどが出現し、しばらく前かがみになって休むと症状が治まり、また歩けるようになるという状態です。
編集部
痛みはないのですか?
出沢先生
痛みよりもしびれを訴える人が多いですが、脊髄神経から枝分かれした「神経根」が圧迫されると、ヘルニアのような痛みが出ます。また、神経根の圧迫がない場合でも、背屈位での姿勢などによって二次的な腰痛が出現する人もいらっしゃいます。
腰部脊柱管狭窄症の治療法 自然に治ることはある?
編集部
腰部脊柱管狭窄症は進行する病気なのですか?
出沢先生
全てのケースではありませんが、進行するケースも多い病気です。そして、症状が進行すると、一度に歩ける距離が短くなり、安静にしていても足にしびれや痛みを生じるようになります。さらに、足だけでなく下半身全体の脱力や感覚障害、失禁や残尿感などの排尿障害なども出てきます。とくに、糖尿病を合併している人や閉経後の女性などは、排尿障害が早期に出る傾向にあります。
編集部
自然に治ることはあるのですか?
出沢先生
軽症であれば、自然に治ることもあると言われています。実際に腰部脊柱管狭窄症の患者さん全体でみると、1/3が自然に治癒し、 1/3が改善も悪化もせず、1/3が進行していくというデータがあります。
編集部
腰部脊柱管狭窄症の治療法には、どんなものがありますか?
出沢先生
脊柱管狭窄症の治療には、大きく分けると「手術療法」と、神経ブロック注射などの「保存療法」があります。症状が軽い場合は保存療法で改善することもありますが、保存療法を続けても改善しない場合や、すでに症状が重度で日常生活に支障をきたしている場合には手術を検討します。
編集部
どういった手術をおこなうのでしょうか?
出沢先生
脊椎が安定していれば、圧迫された神経を解放するための手術、すなわち「除圧術」をおこないます。以前は「椎弓切除(ついきゅうせつじょ)」と呼ばれる、骨を大きく削ってしまう大がかりな手術が主流でした。しかし、最近では最小限の侵襲で手術をおこなうことがほとんどです。背中から皮膚を切開し、椎弓の一部のみを取り除いたり、黄色靭帯を切除したりする方法が主流になってきました。当院でも、手術部を切り開くのではなく、小さな内視鏡で術部を確認しながら手術を進める「全内視鏡椎弓形成術」を採用しています。また、当院では日本人の体形に則した全内視鏡椎弓形成術用の内視鏡を独自に開発し、普及に努めています。
腰部脊柱管狭窄症が悪化しないための方法や日常生活で注意したいこと
編集部
保存療法についても教えてください。
出沢先生
急激に強い痛みが出た場合には、選択的神経根ブロック注射や硬膜外ブロック注射などで対応します。ほかには、非ステロイド系の消炎鎮痛薬を処方して痛みや炎症を抑えたり、間欠跛行の症状が出ている場合は、血管を広げて血流を改善する「プロスタグランディンE1製剤」を処方したりします。また、薬物療法以外にも、腰部にコルセットなどを装着する「装具療法」や、腰回りの筋力を維持・強化して症状を緩和するための「ストレッチ」などもあります。
編集部
どんなストレッチがいいのですか?
出沢先生
私は「波止場のポーズ」をおすすめしています。自宅の階段や少し高さのある台に片方の足を乗せて、そちらに体重をかけながら反対側の膝を伸ばして息を吐くという方法です。30秒くらいキープしたら、逆の足も同じようにします。
編集部
日常生活で気をつけることなどはありますか?
出沢先生
可能な範囲で運動をするように指導しています。その際、ジョギングなどよりも、腰への負担が少ないウォーキング、とくに水中でのウォーキングや水泳(クロール)などを推奨しています。また、重いものを持ち上げたり、長い時間真っ直ぐに立っていたり、背中をそらすような動作などは、神経への圧迫が強まるので避けるようにしてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
出沢先生
社会の高齢化に伴い、脊柱管狭窄症に悩む患者さんが非常に増えています。昔は「手術」というと、高齢者にとってリスクが高いと言われていました。しかし最近では、侵襲の少ない手術も多く開発され、治せる時代になっています。例えば先ほどの「全内視鏡椎弓形成術」は、出血もほとんどなく、手術時間も1時間以内、術後は2~4日で退院できるため、90歳以上の高齢者でも受けられます。対応している医療機関は全国的にもまだ少ないと思いますが、ぜひ検討してみてください。
編集部まとめ
腰部脊柱管狭窄症について、原因や症状、治療法などを伺いました。「腰の病気」というと、腰痛のイメージが強いかもしれませんが、しびれや排尿障害など、様々な影響があるのですね。一方で、負担の少ない新しい手術が次々と開発されているとのことで、症状に悩む高齢者の新たな希望になると感じました。
医院情報
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アクセス | 小田急電鉄小田原線「向ヶ丘遊園駅」 徒歩3分 JR・小田急「登戸駅」 徒歩7分 |
診療科目 | 整形外科、リハビリテーション科 |