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「上顎洞がん」を疑う鼻の症状はご存知ですか?医師が監修!

 更新日:2023/03/27
「上顎洞がん」を疑う鼻の症状はご存知ですか?医師が監修!

上顎洞がんは胃がんや肺がんに比べるとあまり知られていませんが、簡単に説明すると鼻のがんです。日本人はがんになりやすく、2人に1人はがんと診断された経験があります。

上顎洞がんについても警戒しておいて損にはならないはずです。特に上顎洞がんは初期症状を自覚しにくく、早期発見が簡単ではありません。

喫煙も原因の1つと考えられているので、タバコを吸う習慣がある方も警戒が必要です。
ここでは上顎洞の治療法や家族ができるサポートやケア方法についてお話したいと思います。

郷 正憲

監修医師
郷 正憲(徳島赤十字病院)

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徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。

上顎洞がんとは?

鼻の毛穴を気にする男性

上顎洞がんとはどんな病気ですか?

鼻のすぐ近くにある上顎洞(じょうがくどう)にがんができる病気です。上顎洞という言葉はあまり聞きなれないかも知れませんが、副鼻腔の一部になります。息を吸うとき空気の抜ける道になる鼻腔は4つの副鼻腔に囲まれ、狭い通路でつながっている状態です。
上顎洞の他、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)・前頭洞(ぜんとうどう)・篩骨洞(しこつどう)と4つの空洞が、左右対称に近い形状で鼻腔の周りに存在しています。もっとも面積が広い上顎洞はちょうど頬の内側に位置していますが、副鼻腔がんの発生率が高い要注意な部分です。

上顎洞がんにみられる症状を教えてください。

初期の段階ではほぼ無症状ですが、最初は鼻汁に変化がみられることが大半でしょう。鼻閉といういわゆる鼻づまりのような不快症状も典型的な症状です。また、鼻汁に膿や血液が混じることもあります。病変が大きくなると、顔の組織が部分的に腫れ上がり見た目にも変化が出てくるため病気を疑う患者さんもいらっしゃるでしょう。
リンパ液が溜まる浮腫とは異なり、腫脹の場合は炎症が起きたことが原因で血液が膨れ上がっています。指で押してもへこまないのが特徴の1つです。視力が低くなりものが見えにくくなる症状、二重に見える複視の症状も起きやすくなります。また鼻腔や副鼻腔のがんに共通する症状として、鼻血・涙・頬のしびれなどの異変が片側だけに発生し何週間も続く場合もあるでしょう。
さらにがんが進行すると口蓋が腫れる症状や歯がぐらついて口を大きく開けにくい症状も出現します。この段階になると、眼球が飛び出す症状など「明らかに何かおかしい」と不安になるような症状が出ているでしょう。

上顎洞がんの原因は何ですか?

すべての因果関係が明らかにされているわけではありませんが、発症リスクを高める要因として木材の粉塵の影響も指摘されています。特にヨーロッパでは家具製造業の労働者が副鼻腔や鼻腔がんを発症するケースが多発し、関連性が疑われています。国内でも大工さんや木工作業者の副鼻腔がんが増えた、という報告が1980年代にありました。ただ、その後の研究で原因を特定するほどの症例は報告されていないので、はっきりした関係性はまだ研究中です。
生活習慣としてはタバコを吸う習慣が発症要因になると考えられています。またアルコールの過剰摂取も鼻腔や副鼻腔がんを招きやすくする要因の1つです。
他に、副鼻腔炎が原因で上顎洞がんを発症することもあります。元々慢性の副鼻腔炎を患っていると、鼻づまりのような症状にしょっちゅう見舞われている状態で、早期発見が益々難しくなってしまうこともあるかも知れません。

上顎洞がんは子供でもなりますか?

ごく稀ではありますが、上顎洞がんを発症するお子さんもいらっしゃいます。小児の悪性軟部腫瘍の中でも少なくないのが、腫瘍の横紋筋肉腫です。特に鼻腔や副鼻腔は発生しやすい部位だと考えられています。横紋筋肉腫が上顎洞に出現した10代前半の男児の症例が報告されたこともありました。

上顎洞がんのリスクや診断・検査について

血液検査の結果

上顎洞がんにはどんなリスクがありますか?

すべてのがんにいえることですが、転移や再発のリスクを伴っています。ただし頸部リンパ節に転移する確率は高くありません。また上顎洞がんは早期発見が難しいタイプのがんということもあり、最初から転移しているケースもあります。15%に満たない確率でがん発見時に、既に転移していたケースもありました。

がんと聞くと怖い病気のイメージがあるのですが、上顎洞がんは治療で完治するのでしょうか?

上顎洞がんに限らず、がんは常に転移や再発のリスクが伴うため「完治」という表現を使うことは簡単ではありません。とてもデリケートな問題なので医療現場でも生存率という表現を使っていますが、きちんと治療を受け再検査も定期的に受けることで生存率を伸ばすことができます。もしがんになったときは、治療が成功し画像検査でがんの細胞が見えなくなった後も、医療機関とのお付き合いを継続しましょう。
一般的に再発する場合は2年以内に異常が見つかることが少なくありません。2年以上経過し定期的に検査を受けても数年間問題がなければ「治った可能性があるかも知れない」と考えられます。引き続きがんと向き合いながら、過ごすことが大切です。

上顎洞がんを疑った方が良い症状などあれば知りたいのですが…

初期の段階では違和感に気づけないケースが大半なので、早期発見がかなり難しい種類のがんです。がんが上顎洞の中だけに留まっている状況では、まだはっきりした症状がほとんど出ません。ただし、がんが発生した後比較的早い時期に、副鼻腔に炎症が起きる副鼻腔炎に近い症状が出る患者さんがいる場合もあります。
鼻づまりや鼻汁に血液や膿が混じる症状に気づいたら、上顎洞がんを疑うきっかけになるかも知れません。鼻汁が臭うケースもあります。

上顎洞がんを診断する際はどのような検査がありますか?

がんの進行具合によっても異なりますが、本当に初期段階で上顎洞内にがんが留まっている状況では視診や触診でも異常を認めるのが困難です。ある程度進行していれば高確率で鼻腔内や上顎の部分にがんの症状を見つけられるでしょう。細いファイバースコープを入れ、鼻の奥までしっかり状態を確認します。顔の腫れている部分を観察し、指で押してみて痛みを感じるかどうかなど触って症状を確かめる検査も行います。
その他血液検査やレントゲン検査・CT・MRIなど画像診断検査も代表的な検査です。しこりなどがんの疑う症状があれば細胞を採って病理組織検査を行い、最終的な病名を確定する流れになります。通常は通院検査で問題ありません。ただ採取する組織の部分、状態によっては全身麻酔を打つ必要があるために検査入院して貰うこともあります。

上顎洞がんの治療法や過ごし方

入院患者

上顎洞がんの主な治療法を教えてください。

顔の真ん中という目立つ部分にあるがんなので、治療法も慎重に選択しなければなりません。見た目の問題はもちろん、視力や噛む力など日常生活を送る上で大事な機能を損なわないよう注意しながら、がんをやっつける方法を考える必要があります。
一般的には手術・放射線治療・抗がん剤を投与する化学療法のいずれかの方法で治療することになりますが、複数の治療方法を取り入れ患者さんに必要な処置を行う流れになるでしょう。腫瘍を切除する外科的手術で顔の造形が大幅に変わるのを避けるため、抗がん剤を患部の血管に注入しながら放射線治療も進める動注化学療法という新しい治療法を行うケースもあります。

上顎洞がんの治療による副作用はありますか?

治療法によって伴う副作用リスクの内容も異なります。例えば外科的手術を行った場合、見た目が大幅に変わるリスクや機能面が損なわれるリスクを伴います。そのためできるだけ見た目が変わらず機能も残す治療法を考えますが、眼球までがんが浸潤するなど病状が進行している場合は命を優先しなくてはいけません。見た目も機能面でも副作用が大きくなりますが、眼球を取り出す手術が選択される可能性もあります。
また抗がん剤治療や放射線治療では、髪の脱毛や吐き気などの症状が典型的な副作用の症状です。ただ、同じ抗がん剤でも考えられる有害事象は種類によっても異なります。皮膚に異常が出る薬もあれば、貧血や白血球の減少など血液に問題が出る薬もあり副作用の症状は1つではありません。

家族が上顎洞がんになった際どのようにサポート・ケアをしたら良いのでしょう?

ご家族のサポートがあると患者さんもとても助かるでしょう。ただ、患者さんをサポートするときはあまり頑張りすぎないことも大切かも知れません。がんの治療は長く続くので、患者さんを支えるご家族の心身が疲弊することもよくあります。がんの診断は、家族にとっても強い衝撃を受ける体験です。ショックを受けたまま病院探しや検査の付き添いなどサポートに奔走し、ご家族の負担が大きくなって倒れてしまうことがあってはいけません。
ご家族も心身の健康を維持するために、頼れる機関をおおいに頼って下さい。例えば医療機関には緩和ケアという患者さんやご家族のつらさを和らげる専門機関があります。専門家に相談できる場でもあり、具体的なサポートの方法も教えることも可能です。
がんと診断されてすぐに利用できます。疲れ切ってから辿り着くのではなく早い段階から頼ることで、ご家族も患者さんをしっかりサポートできる体力や気持ちの余裕を温存できるのではないでしょうか。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

上顎洞がんは、がんの中でも特に発症数の少ないがんで、初期の自覚症状が出にくいことから早期発見が難しいがんでもあります。ただし、医療機関で検査を受けてしかるべき治療を受ければ、生存率を高められる可能性があります。治療後状態がよくなっても再検査を定期的に受け続けることで、再発リスクに備えることも可能です。
がんが発生した以上、放置して自然治癒する可能性はなく、進行する一方です。医療機関とつながることが大切なので、少しでも違和感があればなるべく早く検査を受けて治療をスタートすることをおすすめします。

編集部まとめ

話を聞く医者
上顎洞がんは早期発見が難しいことが分かりました。明らかな痛みを感じる段階では、既にがんは進行してしまっています。

ただ、がん先進国の日本では色々な治療法を選択可能です。きちんと治療を受け、少しでも生存率を高めましょう。

特に喫煙や飲酒習慣がある方、木材の粉塵を吸う機会が多い職業の方やそのご家族は、上顎洞がんのことを頭の隅に入れておきましょう。

鼻のがんになる恐れがあることを認識していれば、鼻汁に血が混じる、嫌な臭いがする・・・などちょっとした変化にも気づきやすくなるのではないでしょうか。

この記事の監修医師