「多発性骨髄腫」とは?症状・初期症状・原因についても解説!【医師監修】
更新日:2023/07/13
多発性骨髄腫は主に骨に大きな影響を与える血液のがんです。
体内に侵入した異物から体を守るための抗体を作る「形質細胞」ががん化するため、骨・腎臓・血液などにさまざまな合併症が起きる病気です。
60代以降の高齢男性に多くみられる病気で、以前は平均生存期間が3年~5年でしたが、医療の発展により現在ではさまざまな治療方法を選択できるようになりました。
この記事では、多発性骨髄腫の特徴的な症状・原因・治療方法について詳しく解説します。
監修医師:
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)
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【経歴】
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
多発性骨髄腫の特徴について
多発性骨髄腫はどのような病気ですか?
- 骨髄は骨の中で血液の細胞を作るためのスペースです。骨髄には抗体を作る働きをする「形質細胞」があり、抗体には体内に侵入した異物などから体を守る役割があります。
- 形質細胞ががん化した状態が多発性骨髄腫です。がん化した形質細胞は「骨髄腫細胞」となり、骨髄で増殖するため下記のように骨・腎臓・造血機能などにさまざまな合併症が出現します。
- 骨が壊れ、弱い力で骨折しやすくなる
- 産生された抗体が腎臓に蓄積することにより腎機能が低下する
- 正常な血液細胞が作られないために、貧血・免疫低下(発熱など)が生じている
- 高カルシウム血症による症状
- 骨にはもともと古い骨を壊す「破骨細胞」と新しい骨を作る「骨芽細胞」があり、バランスよく働きながら新陳代謝を行っています。多発性骨髄腫を発症すると骨髄腫細胞が骨芽細胞の働きを抑えるため、破骨細胞が活性化します。骨が徐々に破壊されるため、腰や背中に強い痛みを感じるのが特徴です。
- 多発性骨髄腫は40歳未満の発症は珍しく、年齢が進むにつれて発症数が増加します。60歳以上の高齢者に多く、性別では女性より男性にやや多くみられ、日本では1年間に人口10万人あたり2~3人が発症するといわれています。
多発性骨髄腫の主な原因を教えてください。
- 骨髄腫細胞にはさまざまな遺伝子異常・染色体異常が生じますが、異常が生じる原因は解明されていません。可能性として考えられるのは放射線の被ばく・化学薬品の影響・ダイオキシンの曝露などです。遺伝する病気ではなく、感染性の病気でもないため、家族や周囲の人への伝染の心配はありません。
多発性骨髄腫の初期症状について教えてください。
- 症状の現れ方は個人差があるため、初期段階では気づかない方も少なくありません。下記のような症状がみられる場合は多発性骨髄腫の可能性を疑い、早めに受診しましょう。
- 高カルシウム血症:口渇・多飲・多尿による脱水症状、倦怠感・脱力感、胃の不快感と吐き気・食欲不振、動悸
- 便秘、悪化すると意識障害
- 骨の異常:骨折・骨(腰・背中・肋骨など)の痛み・腰椎圧迫骨折による神経障害
- 腎機能の障害:体の浮腫、体重増加、たんぱく尿、血圧上昇
- 貧血症状:倦怠感・疲れやすい・脱力感・息切れ・頭痛
- その他、治りにくい発熱やせき・出血しやすい・視力の低下・耳鳴りなどの症状もみられます。
多発性骨髄腫の中期から末期の症状について知りたいです。
- 多発性骨髄腫が進行すると下記のようにさまざまな症状がみられます。
- 骨折
- 背が低くなる
- 意識障害
- 腎機能の低下によるむくみ
- 神経炎
- 神経障害(腸管麻痺・尿失禁・筋力低下)
多発性骨髄腫の診断と治療方法
多発性骨髄腫を疑ったら何科を受診すればよいですか?
- 多発性骨髄腫と疑われる症状がある場合、血液内科を受診しましょう。特に、痛み止めが効かないほどの激しい腰の痛みが長期間続く場合は早めに受診してください。
多発性骨髄腫の診断基準を教えてください。
- 多発性骨髄腫の診断に必要な検査は下記です。
- 尿検査:Mタンパクのひとつである「ベンスジョーンズタンパク(BJP)」の有無・腎機能の状態を調べる
- 血液検査:造血機能の障害の程度(赤血球・白血球・血小板・ヘモグロビンなどの数値を測定)・骨髄腫の進行度の検査・腎臓の障害などを調べる
- 骨髄検査:多発性骨髄腫の診断を確定するためには骨髄液の採取が必要
- レントゲン検査・CT・MRI・PET
- 腰・背中の痛みで受診し、レントゲン検査で骨病変がみられ多発性骨髄腫がみつかる場合が多いです。健康診断で高タンパク血症・貧血・高カルシウム血症・タンパク尿などが指摘され、詳しい検査を受けて多発性骨髄腫がみつかる場合もあります。早期発見につながるため、定期的に受けるようにしましょう。
多発性骨髄腫の治療法について知りたいです。
- 多発性骨髄腫では、骨髄腫細胞のみを標的として攻撃する分子標的薬のボルテゾミブ、骨髄腫細胞の増殖を抑えるレナリドミド、サリドマイドなどの免疫調節薬、そして従来から使われてきたステロイド薬を組み合わせて使用する3剤療法を行います。
- またレナリドミドに関しては2次的に新たながんを誘発する可能性が報告されています。ステロイド薬投与では肥満・糖尿病発症などの様々な副作用があります。
- 治療はステージ・年齢・全身症状を考慮して行われ、自覚症状がない場合は治療せず定期検査を受けて経過観察をします。治療を開始するのは高カルシウム血症・腎障害・貧血・骨病変などの症状がみられ、 症候性骨髄腫 と診断された場合です。
緩和ケアについて教えてください。
- 現在では緩和ケアはがんの診断時から始まり、治療と並行して行われています。以前の緩和ケアではがんの治療の効果が望めない患者ががん治療から緩和ケアに移行するという考え方でした。例えば、がんと診断されたときに痛みなど症状がある場合は鎮痛剤が処方され、がんと告知されたときの気持ちの落ち込み・動揺には心理的な支援がなされます。
- 抗がん剤治療における副作用の予防・対処なども緩和ケアです。がん治療の結果、再発がなければ日常生活に戻りますが、再発・転移などがあり治癒が難しい場合は、がん治療に対して緩和ケアの割合が大きくなります。このような緩和ケアのあり方の変化は、医療の発展によりがんと診断されてからの生存期間が大幅に伸びたことが関係しています。
多発性骨髄腫の予後と日常生活の注意点
多発性骨髄腫は完治しますか?
- 多発性骨髄腫は完治が難しい病気です。以前は治療後の平均生存期間は3年~5年といわれていましたが、医療の発展により改善されつつあります。65歳以下の若い患者では5年生存率が50%程度で、造血幹細胞移植など強い治療を行うことにより10年以上再発しない例や20年以上の生存例もあります。
日常生活で注意すべきポイントを教えてください。
- 多発性骨髄腫と診断された場合、免疫力が低下しているため感染症に注意が必要です。健康なときには問題のない細菌・ウイルスでの感染症が起きやすくなるため、下記の点に注意しましょう。
- マスクの着用
- こまめな手洗い・うがい
- とくに外出時のマスク着用と外出後の手洗いは徹底しましょう。また、多発性骨髄腫は骨がもろくなる病気のため、軽い運動による筋力アップや身体機能の低下を防ぐことも重要です。無理のないよう家の中での歩行や短距離の外出から始めて、少しずつ行動範囲を広げましょう。
家族や周りはどのように対応するとよいですか?
- がんは日本人の2人に1人がかかる病気で、医療の発展によりすぐに命に関わる病気ではなくなりました。しかし、がんと告知された患者本人は気持ちが落ち込み、気持ちが不安定になることがほとんどです。イライラしたりショックで何も手につかなかったりと動揺しているため、まずは本人の気持ちに寄り添いましょう。
- 家族にとってもこれからの治療・抗がん剤による副作用・治療費・今後の生活についてなど、さまざまな不安があります。まずはがんについて正しく理解し、納得いくまで話し合いましょう。多発性骨髄腫の治療方法・緩和ケアにはさまざまな選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。医療機関とも対話を重ねながら納得のいく治療を受けましょう。
最後に、読者へメッセージがあればお願いします。
- 多発性骨髄腫は骨・血液・腎機能に影響を与えるがんです。60代以降の高齢の男性に多くみられ、発症すると完治が難しい病気です。病気が進行すると骨折しやすくなったり重度の貧血になったり、免疫力の低下によって感染症にかかりやすくなります。
- 腰や背中の強い痛みで整形外科などを受診し、多発性骨髄腫と診断されるケースが多いです。しかし、初期段階では自覚症状がない方も少なくありません。健康診断で高タンパク血症・貧血・高カルシウム血症・タンパク尿などが指摘されて病気がみつかる場合もあるため、定期的に健康診断を受けましょう。
- 医療の発展によってがんはすぐに命に関わる病気ではなくなり、65歳以下の場合は5年生存率も50%と大幅に改善されています。多発性骨髄腫と診断された場合も、さまざまな選択肢から自分に合った方向を決めて納得のいく治療を受けましょう。
編集部まとめ
多発性骨髄腫は原因不明で、60歳以上の高齢者に多くみられます。女性より男性がやや多く見られることも特徴です。
初期段階では自覚症状がない場合もありますが、腰・背中・肋骨の強い痛みで受診して発覚するケースが多いです。
健康診断で血液の数値の異常を指摘されて発覚する場合もあるため、早期発見のためにも定期的に受けることをおすすめします。
発症すると完治が難しい病気です。しかし、治療を受けることで10年以上再発せずに生存する方もいるので、家族や医療機関と相談しながら納得のいく治療を受けましょう。
参考文献