「蘇生後脳症」になると現れる症状はご存知ですか?後遺症や予防法についても解説!
更新日:2023/03/27
心肺停止の状態から再び心臓が動き出したときに、脳に障害が残って蘇生後脳症と診断されることは決して珍しくありません。
「なぜ目を覚まさないのだろう?」「後遺症は残るのだろうか?」と、家族や周囲の方の不安は計り知れないものです。
今回は、蘇生後脳症にみられる症状や治療方法についてお話を伺いました。気になる後遺症や予防方法もみていきましょう。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
目次 -INDEX-
蘇生後脳症とは?
蘇生後脳症とはどんな病気ですか?
- 蘇生後脳症とは、心肺停止から蘇生した際に脳に重篤な後遺症が残る状態です。
- 心肺停止になる要因はさまざまですが、その中でも代表的なものに心筋梗塞・窒息・ショック症状・脳卒中・肺梗塞などがあります。
- 心肺停止はその名の通り心臓と肺の動きが止まった状態です。
- 心臓も肺も生命を維持するための重要な器官です。これらの動きが止まると血流も止まり、血液とともに全身に共有されていた酸素も行き渡らなくなってしまいます。
- 再び心臓が動き出したとしても、一時的に脳に酸素が供給されないことの影響は計り知れません。
蘇生後脳症になる原因は何ですか?
- 蘇生後脳症の主な原因は、心停止によって酸素の供給が止まってしまうことです。
- 脳に酸素が届けられないと脳の働きも滞り、脳や全身に大きなダメージを与えます。
- 心肺停止の状態から再び心臓が動き出すのが「蘇生」ですが、蘇生率は心臓が止まった時間によって大きく変化します。
- また、蘇生したとしても心臓が止まった時間が長いほど蘇生後脳症になるリスクが高まるのです。
- また、蘇生後脳症の原因は低酸素だけではありません。
- 近年の研究において、蘇生後脳症は血流が再開することによる虚血再灌流障害もリスクを高めるといわれています。
- 虚血再灌流は何らかの原因で血液の流れが止まった際に細胞が壊死し、再度血液が流れ始めたとき(再灌流)に毒素も流れることです。その毒素によって全身に障害を及ぼすことを、虚血再灌流障害といいます。
蘇生後脳症にみられる症状を教えてください。
- 蘇生後脳症は、重篤な場合だと心拍が再開しても意識が戻らず「昏睡状態」になります。
- 自分の力で呼吸をする「自発呼吸」はなく、あったとしてもそれだけでは生命を維持できないほど弱いです。
- 脳にダメージを負っている影響で、蘇生後脳症では高血糖・高血圧などの症状が現れることも珍しくありません。
- 意識がないため飲食はできませんが、点滴の中に糖が含まれているため血糖コントロールが必要になります。
- その他にも重篤な症状として、手足の麻痺や痙攣などがあげられます。
- 心拍再開後に意識が戻った場合にも認知機能障害がみられることがあり、これも蘇生後脳症の症状の1つです。
- これらの症状の他にも、下記の様な予後を左右する症状があります。
- ミオクローヌス・てんかん重積状態(心拍再開後24時間以内)
- 瞳孔反応・角膜反射の消失および3日後の運動反応の消失または四肢の異常伸展反応
- これらの症状が見られると、回復が難しくなるといわれています。
- 蘇生後脳症はそれだけ命に関わる状態ということです。
蘇生後脳症の診断・検査について
蘇生後脳症はどのように診断されるのですか?
- 蘇生後脳症には明確な診断基準がなく、さまざまな検査結果から総合的に診断することになります。
- 蘇生後脳症の診断がつく前に、前提として心肺停止の状態で病院に搬送されることがほとんどです。
- そのため、まず心肺停止の原因を知るために必要な検査や処置を行います。
- 心拍が再開しても覚醒しない場合もあれば数日で意識が残る場合もあり、蘇生後の経過はさまざまです。
- 意識が戻った場合でも、心肺停止時のダメージによって後遺症を残すことも少なくありません。
- 蘇生後に何らかの脳の障害が残った場合に「蘇生後脳症」と診断されるのです。
- 低酸素脳症と診断されることも多いですが、同じ意味と捉えていただいて構いません。
蘇生後脳症の検査内容を教えてください。
- 多くの場合、血液検査・CT検査・MRI検査を行います。
- 昏睡状態の場合には、脳の動きを確認するために脳波検査を行うことが多いです。
- 明確な診断基準がなく、これらの検査や症状から総合的に判断して蘇生後脳症という診断が下されます。
蘇生後脳症の治療方法・予後は?
蘇生後脳症の治療方法はありますか?
- 蘇生後脳症の治療は、呼吸器管理を含めた全身管理がメインになります。
- 脳に障害を負った状態かつ昏睡状態では、自発呼吸がなく血圧が変動することも少なくありません。
- そのため、人工呼吸器を装着して呼吸を補助し、心電図や血圧計を常時装着してモニターで管理します。
- 高度な医療が必要であり、ICU(集中治療室)で治療を受けることがほとんどです。
- 蘇生後脳症で昏睡状態になると高体温になりやすく、低体温療法が効果的といわれています。
- 低体温療法は体温を意図的に下げることで脳の代謝を抑え、脳が必要とする酸素の量を減らすという仕組みです。
- 鎮静剤や冷たい輸液、外表面からの全身冷却法などを用いて意図的に体温を下げますが、全身管理が必要なため低体温療法もICUで緻密な管理下で行われます。
蘇生後脳症になった場合、後遺症など残るのでしょうか?
- 蘇生後脳症になると後遺症が残るケースは決して少なくないのが現実です。
- 昏睡状態のまま目が覚めないケースもあり、蘇生後脳症で命を落とす方は少なくありません。
- 覚醒したとしても認知機能障害や手足の麻痺が残ることや、寝たきり状態になる方もいます。
- しかし、後遺症が残ったとしても社会復帰ができないとは限りません。
- 高齢者よりも若者の方が回復の可能性が高く、蘇生後脳症になった後に社会復帰を果たす方もいます。
治療にはどのくらいの期間がかかりますか?完治するのかも知りたいです。
- 蘇生後脳症の治療にかかる期間は一概にはいえず、個人差が大きいのが特徴です。
- 昏睡状態から数日で覚醒する方もいれば、1か月以上覚醒しない方もいます。
- 覚醒しないとどの程度の後遺症が残っているか判断できない部分もあるため、治療期間も人ぞれぞれです。
- また、昏睡状態のまま目覚めない重篤な場合は、「法的脳死判定」をすることがあります。
- これは本人や家族に移植の意志がある場合に行われるもので、本人の意志として「ドナーカード」の所持が大きく影響します。
- 法的脳死判定で確認することは、主に自発呼吸の有無・瞳孔の大きさ・脳幹反射・血圧です。
- 脳死の可能性を考えるほど、蘇生後脳症は命に関わる重篤な状態ということがわかります。
蘇生後脳症の予防方法などあれば教えてください。
- 蘇生後脳症の予防方法は、心肺停止の状態になった際に酸素の供給を止めないことです。
- もしご家族や身近な方の意識がないことに気づいたら、心臓の動きを確認しましょう。
- 心臓に手を当てたり、胸に耳を当てたりすることで確認ができます。
- そして、もし心臓が止まっていたらすぐに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行ってください。
- 1分間に100回以上の胸骨圧迫が効果的といわれており、これによって脳への酸素の供給を絶え間なく継続することができます。
- 近くにAED(自動体外式除細動器)があれば、それを使うことで急性心筋梗塞や心原性ショックによる心肺停止状態である場合にはさらに蘇生後脳症の予防につながります。
- また、すぐに救急車を呼ぶことも大切です。
- その場に複数名いる場合は胸骨圧迫を行う人と救急車を呼ぶ人に別れて対応するとスムーズになります。
- 胸骨圧迫30回につき人工呼吸を2回行うとよいとされていますが、直接口をつけて人工呼吸を行うのも抵抗があるでしょう。
- その場合は、人工呼吸を省いても問題ないとされています。
- 心臓の動きを止めないように、胸骨圧迫やAEDが何より重要です。
最後に、読者へメッセージがあればお願いします。
- 心肺停止状態になると、まずは蘇生することが第一優先になります。
- しかし、自己心拍が再開しても昏睡状態から回復しなかったり、寝たきり状態になることも珍しくありません。
- そうはいっても、心肺停止からすぐに対処できれば後遺症を残さず回復する可能性もあります。
- 心臓が停止すると1分ごとに生存率が7〜10%下がるといわれており、心肺停止状態の方を発見したら迷わず胸骨圧迫を開始することが重要です。
- また、速やかに救急車を呼んで病院へ搬送しましょう。
- 心臓が止まっている時間を最小限にすることが、蘇生後脳症のリスクや予後に影響します。
- 蘇生後脳症は、心肺停止の蘇生後に生じる脳の損傷状態を指しています。
- 一般的に、病院外で心肺停止に陥った患者さんの心拍が再開したとしても、約7割がこの蘇生後脳症によって命を落とします。
- また、そうならなかった場合でも脳に一定程度の障害が残り、寝たきりの状態になることも決して少なくありません。
- そのため、蘇生後脳症を未然に防ぐことはとても重要なポイントとなります。
編集部まとめ
蘇生後脳症は、心肺停止がきっかけで起こる脳の障害です。
心肺停止になると脳をはじめ全身に血液や酸素が行き渡らず、心拍が再開しても脳へのダメージが大きくなることも少なくありません。
蘇生後脳症になると後遺症を残すリスクが高く、昏睡状態のまま覚醒しないケースもあります。
心臓が止まっている時間が蘇生後脳症や予後に影響するため、心拍停止状態の方がいれば迷わず行動しましょう。
参考文献