目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. 三大疾病
  4. がん
  5. 「乳がん放射線治療の副作用」はご存知ですか?副作用がどれくらい続くかも解説!

「乳がん放射線治療の副作用」はご存知ですか?副作用がどれくらい続くかも解説!

 公開日:2024/03/27
「乳がん放射線治療の副作用」はご存知ですか?副作用がどれくらい続くかも解説!

乳がん放射線治療の副作用とは?Medical DOC監修医が乳がん放射線治療の副作用・予防する方法などを解説します。

影山 広行

監修医師
影山 広行(医師)

プロフィールをもっと見る
CT,MRI,PETなどの画像診断が専門、PET-CTを含めた健診、生活習慣治療、アンチエイジング、スポーツ医学などの実績も豊富
保有資格
放射線診断専門医
核医学専門医
PET核医学認定医
日本医師会認定産業医
日本医師会認定健康スポーツ医
抗加齢医学専門医
日本スポーツ協会公認スポーツドクター

「乳がん」とは?

乳がんとは乳房のなかにある乳腺にできる癌です。乳腺には腺房という乳汁をつくる組織があり、その腺房が集まったものを小葉と呼びます。さらにその小葉のあつまりを乳腺葉と呼びます。乳腺葉は放射状にあつまり、乳頭で合流します。それぞれの組織は乳管で繋がっており、腺房で作られた乳汁は乳管を通り、乳頭から分泌されます。

乳がんの分類

乳がんの多くは乳管から発生する乳管がんで、小葉から発生する小葉がんはそれほど多くはありません。
乳管や小葉にとどまっているがんは非浸潤がんとよばれ、周囲に広がるがんは浸潤がんとよばれます。
近年では「ホルモン受容体陽性乳がん」「HER2(ハーツー)陽性乳がん」「トリプルネガティブ乳がん」の分類が重要となっており、それぞれ大きく治療法が異なります。
ホルモン受容体陽性乳がんではホルモン療法が中心ですが、進行の早いタイプでは抗がん剤による化学療法が追加されます。
HER2陽性乳がんとはHER2という細胞増殖に関連するタンパク質で、このタンパク質をつくる遺伝子が増えているがんのことです。
治療はHER2に対するモノクローナル抗体のトラスツズマブ(ハーセプチン)などの抗HER2療法と抗がん剤による化学療法となります。
ホルモン受容体とHER2がいずれも陽性のがんではホルモン療法、抗HER2療法、抗がん剤による化学療法となります。
ホルモン療法もHER2も陰性のがんはトリプルネガティブ乳がんとよばれ、抗がん剤による化学療法を行います。
また、遺伝性乳がんというBRCA1、BRCA2などの遺伝子の異常により発生する乳がんがあり、乳がん発症後に対側の乳腺を切除したり、卵管卵巣を摘出したりする治療もあります。また、がんを発症する前でも乳房や卵巣を切除するリスク低減手術を行うこともあります。

乳がんのステージ

0期:しこりがなく、乳がんが発生した乳管のなかにとどまっている(非浸潤がん)
Ⅰ期:しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移がない
ⅡA期:しこりの大きさ 2㎝以下 わきのリンパ節転移あり(動く)
    しこりの大きさ 2-5㎝ わきのリンパ節転移なし
ⅡB期:しこりの大きさ 2-5㎝ わきのリンパ節転移あり(動く)
しこりの大きさ 5cm以上 わきのリンパ節転移なし
ⅢA期:しこりの大きさ 5cm以下 わきのリンパ節転移(動かない)または内胸リンパ節転移あり
   しこりの大きさ 5cm以上 わきのリンパ節転移または内胸リンパ節転移あり
ⅢB期:がんが胸壁に固定されている、がんが皮膚に出たり皮膚が崩れたり、むくんでいる、炎症性乳がん
ⅢC期:わきのリンパ節転移と内胸リンパ節転移あり、または鎖骨の上のリンパ節転移
Ⅳ期:骨、肝臓、肺、脳など他の臓器への遠隔転移がある

乳房温存療法とは

乳房温存療法とは、乳がんの再発率を高めることなく、乳房をのこす治療法のことで、比較的早期のステージ0、I、Ⅱ期の乳がんの標準的な治療法の一つです。
乳がんの大きさ、位置、広がりなどから、手術によって切除しても美容的に満足できる乳房を残せる見込みがあるときに適応となります。そのためには乳がんの大きさ、位置、広がりをMRI検査で調べる必要があります。
乳房温存療法の目安はしこりの大きさが3cm以下ですが、美容的に満足できる乳房が残せる見込みがあるときには3cm以上でも適応となる場合もあります。

一般的に、適応とならない場合は

  • ・2つ以上の腫瘍が乳腺内の離れた場所にあるとき
  • ・腫瘍が広範囲に広がっている場合
  • ・手術後に放射線治療を行えない
  • ・本人が希望しないとき

などとなります。

その他にも、遺伝性乳がんでは温存乳房での再発リスクが高いため、本治療の適応とはなりにくくなります。
また、乳房温存療法では術前化学療法が行われることが多く、そのままでは乳房温存手術ができない場合でも、術前化学療法後に乳房温存手術が可能となることがあります。術前に腫瘍を小さくすることで、切除範囲が小さくなり、術後の乳房の形態が良くなる可能性があります。
術前化学療法は乳がんの分類で紹介した抗癌剤による化学療法、抗HER2療法、ホルモン療法などから適切な方法が選択されます。
HER2陽性乳がん、トリプルネガティブ乳がんでは術前化学療法でがん細胞が消失すると予後が良好であることもわかっています。

乳房温存療法の放射線治療

乳房温存療法では、温存した乳房やリンパ節からの再発を予防するため放射線治療が原則必須となっています。
乳房温存手術後のできるだけ早期に開始することが望ましく、術後2ヶ月以内に開始されることが一般的です。
温存した乳房全体に照射する全乳房照射が一般的です。一般に手術で一部の癌が取り切れなかったとき(切除断端に癌があるとき)には追加切除や乳房温存術を諦めて乳房切除術が行われることが多いですが、わずかな断端陽性の場合はしこりのあった部位に追加照射(ブースト照射)を行うこともあります。また、がんが取り切れた場合でも乳房内再発が減るという報告もあり、若年者では追加照射が推奨されています。
わきのリンパ節転移があった場合は鎖骨の上への照射が追加されることもあります。

進行乳がん、転移、再発の放射線治療

 乳房温存手術の適応がなく、乳房を大きく切除する乳房切除術後でもわきのリンパ節転移が多いとき、腫瘍が大きいとき、再発のリスクが高いときは放射線治療が行われます。
 乳がんの脳転移、骨転移、再発病変などに放射線治療を行うこともあります。

放射線治療をすると副作用が現れる原因

放射線が細胞に当たると細胞分裂が盛んながん細胞は死滅しやすく、正常な細胞はダメージを受けるが回復することが多いとされています。実際には皮膚の細胞は細胞分裂が盛んでダメージを受けやすく、近年は全く細胞分裂をしない細胞もダメージを受け、年単位の時間が経過してから副作用が出現することがわかっています。

乳房温存療法の放射線治療の副作用

放射線皮膚炎

温存した乳房にしっかりと放射線が照射されるので、細胞分裂が盛んな皮膚の細胞はダメージを受けます。そのため、皮膚の皮がむけたり、赤くなったり、水ぶくれのようになったりする症状が現れる放射線皮膚炎は高頻度でみられます。
その後、黒ずんだり、色がぬけたり、乾燥したりすることもありますが、多くの場合は改善します。

乳腺の腫脹、硬化

温存した乳房にしっかりと放射線が照射されるので、乳腺組織や周囲の脂肪組織にも多少のダメージがあります。乳房が腫れたり、固くなったり、痛みが出たりするという影響が見られることがあり、長期的には乳房が小さくなることもあるといわれています。

放射線肺臓炎、食道炎、咽頭炎

温存した乳房にしっかりと放射線を照射すると、一部の肺にも放射線が照射されて放射線肺臓炎を発症します。主な症状として咳、胸痛などが出現することがありますが、重症化することはあまりありません。
また、鎖骨の上に放射線を照射すると食道や咽頭(のど)の粘膜がダメージを受け、飲み込むときに痛みが出たり、のどの違和感が出たりすることがあります。

心筋梗塞や狭心症など

左の乳房に放射線を照射すると心臓の一部に放射線が照射され、数年後に心筋梗塞や狭心症が出現することがあります。

「乳がん放射線治療の副作用」についてよくある質問

ここまで乳がん放射線治療の副作用を紹介しました。ここでは「乳がん放射線治療の副作用」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

乳がん放射線治療の副作用はいつからいつまで続きますか?

影山 広行影山 広行 医師

皮膚炎の症状は治療を開始して比較的早期から出現しますが、治療終了後2週間程度でかなり軽快するとされています。
乳腺の腫脹や放射線肺臓炎については比較的早期から出現する方もいらっしゃいますし、3ヶ月ほどしてから出現することもあり、さまざまですが、さらに数ヶ月で軽快するとされています。
心筋梗塞や狭心症の発症リスクの上昇は数年後とされています。

乳がん放射線治療の副作用にめまいや吐き気はありますか?

影山 広行影山 広行 医師

一般的に乳がんの放射線治療では、放射線宿酔によるめまいや吐き気の頻度は低いとされています。

編集部まとめ

乳房温存療法における放射線治療は再発リスク低減の観点から必須ではありますが、照射する領域は小さく、副作用をさほど心配することはありません。乳がん患者の長期生存症例が増えているため、晩期の副作用とされる狭心症や心筋梗塞のリスクの上昇にも配慮されるようになってきており、心臓や肺など内臓へ放射線の照射量を減らす工夫もなされています。また、いろいろな角度から強度を変えて放射線を当てることで乳腺にのみ強い放射線を当てる方法も検討されています。
以前の放射線治療の副作用の記事でも説明した直接放射線源を組織内に入れ、局所に強い放射線を照射する組織内照射も試みられています。
放射線治療は副作用が気になる治療法ではありますが、日進月歩で副作用を減らすための新しい治療法の工夫が進んでいる分野です。

「乳がん放射線治療の副作用」と関連する病気

「乳がん放射線治療の副作用」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

皮膚科の病気

  • 放射線皮膚炎

呼吸器科の病気

  • 放射線肺臓炎

消化器科の病気

循環器科の病気

放射線治療の副作用には、皮膚炎などの治療後急性期に出現する病気だけではなく、肺臓炎などの数ヶ月後に出現するもの、心筋梗塞や狭心症などの数年後に出現する遅発性の副作用もあります。

「乳がん放射線治療の副作用」と関連する症状

「乳がん放射線治療の副作用」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 皮膚の痛み
  • 発赤
  • 腫脹
  • 嚥下痛
  • 咽頭痛
  • 胸痛

乳がんに対する治療技術が向上することで長期生存が増えています。そのため、放射線治療の直後に出現する副作用だけではなく、数年経った段階での副作用(狭心症や心筋梗塞など)も問題視され、放射線の照射量を減らす工夫などもされています。気になる症状があれば担当医へご相談ください。

この記事の監修医師