「WPW症候群」の症状・原因・なりやすい人の特徴はご存知ですか?医師が解説!
WPW症候群とは?Medical DOC監修医がWPW症候群の症状・原因・なりやすい人の特徴・検査方法・治療法・気をつけること・予防法などを解説します。
監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
目次 -INDEX-
「WPW症候群」とは?
心臓は血液を循環するポンプの働きをしています。左右の上の部屋(左心房、右心房)と左右の下の部屋(左心室、右心室)の4つの部屋に分かれており、連動して動くことで血液を効率的に全身に送り出しています。刺激電動系という神経回路を通じて心臓の筋肉に電気刺激が伝わることで、心房・心室が連動して効率的に動くことができます。
通常は右心房の上方にある「洞結節」という部位から電気刺激が発生し、左右の心房→房室結節(心房と心室の間にある中継点)→左右の心室、といった経路で電気刺激が伝わります。
WPW(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト)症候群は、この電気回路の異常が生じる病気です。WPW症候群では、通常の刺激電動系以外に、心房と心室をつなぐ余分な電気の通り道が生まれつきできてしまいます。この異常な電気回路を通して電気刺激が流れてしまうと、脈が非常に速くなり、頻脈性の不整脈を生じるようになります。
WPW症候群の代表的な症状
WPW症候群では、突然頻脈性の不整脈を生じてしまうことがあるため、それによる症状が出現しやすくなります。
一方、WPW症候群の中でも3-4割程度は、心電図波形上、WPW症候群の所見はあっても、動悸発作を起こさない無症状であるとされています。
動悸
突然の頻脈発作が出現することで、動悸の症状が出現しやすくなります。脈拍は毎分150-200回程度と速くなるため、強めの動悸症状として出現することが多いです。
短時間で症状が治まることもありますが、持続する場合には早期に受診が必要です。
立ちくらみ、めまい、失神
脈が速くなることで、心臓から送り出される血液量が低下し、脳への血流が落ちることで立ちくらみやめまい等の症状が出やすくなります。ひどいと失神などを起こしてしまうこともあります。
胸痛
頻脈に伴い、心臓からうまく血液が送り出せなくなると、心臓の筋肉を栄養する血管(冠動脈)の血流も低下するため、狭心症のような胸痛を生じることもあります。
突然死
頻度は多くないですが、WPW症候群がある方が、心房細動を合併してしまうと、極端な頻脈になり、突然死につながるような危険な不整脈を引き起こしてしまうことがあります。
WPW症候群の主な原因
生まれつきの異常
WPW症候群は、生まれつき心臓の電気回路に異常があることが多いです。
多くの場合、家族内発症は見られませんので、遺伝性疾患ではないと考えられています。
WPW症候群になりやすい人の特徴
WPW症候群は、生まれつき心臓に異常な電気回路ができてしまうことが原因で生じる病気です。基本的には遺伝もしないとされており、病気そのものになりやすい特徴というのはわかっていません。
ただ、WPW症候群に伴う不整脈については、下記のような要素が発作の出現しやすさに関連するとされています。
生活習慣病がある方
高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病によって、動脈硬化の進行や心臓の負担が増えることで、不整脈の発作が出現しやすくなります。
特に生活習慣病の治療期間が長い、あるいは未治療の状態などは高リスクとなるため、しっかりと通院・治療をすることが必要です。
生活習慣がみだれている人
不適切な生活習慣の方では、不整脈の発作が出現しやすくなります。塩分やカロリーの取りすぎ、喫煙、過度の飲酒、肥満、運動不足、不規則な生活リズム、過度のストレスなどは心房粗動だけでなく、様々な心疾患の原因となるため、注意が必要です。
WPW症候群の検査法
WPW症候群の検査としては以下のようなものがあります。
心電図
12誘導心電図とも呼ばれ、心臓の中の電流を12カ所の視点から評価する検査です。両手首と両足首の電極で評価した6つの波形と、前胸部の6つの波形を合わせた12種類の波形が記録できる。多くの診療科で一般的に行われる検査ですが、心臓の異常を評価するには非常に重要な検査です。WPW症候群では、異常な心臓内の電気の流れを反映して、「Δ(デルタ)波」と呼ばれる特殊な波形変化が出現します。
胸部レントゲン検査
X線という電磁波を用いて、体内の状態を評価することができる画像検査です。
心臓の大きさ、肺に水が溜まっていないかといったことを評価することができます。
血液検査
心臓に負荷がかかっていないかを評価するBNP、NT-proBNPといった項目や、体の状態を評価するために肝臓や腎臓の数値、血糖、電解質などの検査値を確認することができます。
不整脈の原因となるような病気による数値の異常が認められることもあり、非常に重要な検査で、多くの病院で実施ができる一般的な検査です。
心臓超音波
超音波を利用して心臓の動きを可視化して評価する事ができる検査です。
心臓の動き具合、形態の異常、心臓内部の弁の異常など、心臓の病気を評価するうえで非常に重要な情報を得ることができます。針を刺したりせず行えるため簡便で安全性が高く、心臓の病気の治療を行う上で必須の検査です。
WPW症候群の治療法
WPW症候群は、心電図上の波形変化があるのみで、頻脈発作が出現していない状態の場合には、特別な治療が不要であることも多いです。
薬物治療
頻脈発作などを抑えるために、抗不整脈を使用することがあります。
病状に応じて、発作時に屯用で使用する場合や、定期的に毎日使用する場合があります。
ただ、薬物治療は根本的な治療ではないため、繰り返す場合にはカテーテルアブレーション治療が必要になります。
カテーテルアブレーション治療
頻脈発作が出現する場合には、カテーテルアブレーション治療を行うことで根本的な治療が可能です。この治療は、カテーテルと呼ばれる細い管を使って行われます。足の付け根の血管から心臓の中に挿入し、頻拍の原因となる異常な電気の通り道を焼却することで、異常な電気刺激が伝わらないようにすることができます。
心臓の手術ではありますが、胸を切らずに局所麻酔で行うことができ、体の負担も少なく行うことができます。一般的なWPW症候群のアブレーション治療は成功率も高く、施設間の差もありますが95%前後が1回の治療で根治することができます。
迷走神経反射、Valsalva法
頻脈発作出現時に、自分で試せる方法としては、迷走神経反射という、脈をゆっくりにする神経の反射を起こすような方法があります。
具体的には下記のような方法があります。
① 冷たい水で顔を洗う
② 大きく息を吸って、10秒くらい(無理のない範囲で)おなかにぐっと力を入れて息こらえをする(排便時にいきむようなイメージ)
WPW症候群を発症したら気をつけた方がいいこと、不整脈発作の予防法
動悸・頻脈が持続するときはすぐ受診する
頻脈発作が短時間に自然停止すれば問題になることは少ないですが、頻脈状態が長く持続している場合には、速やかに受診する必要があります。特に心房細動を合併した場合には、WPW症候群がある方では極端な頻脈状態となり、重症化してしまうことや、頻度は少ないですが突然死につながることもあるため注意が必要です。
生活習慣に気を付ける
多くの心疾患は動脈硬化が原因となり、WPW症候群でも生活習慣病のコントロールが悪いと、発作が出現しやすくなる可能性があります。そのため、基本的な点は生活習慣に気をつける事が大切です。気をつけるポイントとしては、以下のような点があります。
・塩分をとり過ぎない:1日の塩分量は6g以下を意識する
・カロリーをとり過ぎない:通常成人では、年齢や活動量に応じて1800-2600kcal程度のカロリー摂取が推奨されます。さらに、野菜や果物の積極的な摂取、脂分が多い食品をとり過ぎないことが推奨されます。
・太り過ぎない:BMI(体重[kg]÷身長[m]2)25未満を心がける
・運動習慣:軽く汗ばむ位の有酸素運動を1日60分(歩行なら1日8000歩以上)行う
・節酒:エタノールとして1日、男性20-30ml(日本酒1合、ビール中瓶2本、焼酎0.5合、ワイン2杯、ウイスキーダブル1杯に相当)、女性は約半分の10-20ml以下の制限が推奨されます。
・禁煙:喫煙は高血圧、心臓・脳血管疾患、肺疾患、悪性腫瘍等、様々な疾患リスクとなる事が証明されています。
健康診断、定期的な検査を受ける
WPW症候群は特徴的な心電図変化をするため、定期的に健康診断を受けて、心電図の評価をしていることで早期の診断、早期治療に繋げることが可能です。
治療している病気をしっかりコントロールする
WPW症候群は、生活習慣病や慢性的な心臓病のコントロールが悪いと心臓に負担がかかりやすくなり、不整脈が出現しやすくなる可能性があります。
治療中の病気をしっかりコントロールすることで、病気の進行や心臓に過度の負荷がかかる事を防止する事ができます。
内服をしっかり継続する事、医師による定期的な病状評価をうけること(診察や検査)、治療が不十分であれば治療強化を検討する事が非常に重要です。
「WPW症候群」についてよくある質問
ここまでWPW症候群について紹介しました。ここでは「WPW症候群」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
WPW症候群を発症すると仕事や学業に影響はありますか?
小鷹 悠二 医師
WPW症候群では、不整脈による頻脈発作が出現しなければ無症状であり、特に生活に影響はありません。
ただし、頻脈発作が出現するようになると、突然の動悸などにより生活に支障が出ることがあります。そのような場合には、循環器科を早期に受診して、カテーテル治療による根治的な治療も含めて相談することが必要です。
WPW症候群の好発年齢を教えてください。
小鷹 悠二 医師
WPW症候群は、生まれつきの心臓内の異常な電気の流れが原因であるため、どの年代に多い、ということはありません。
一般的な心疾患は中高年に多いですが、WPW症候群は若い方でも見られます。
全く健診でも異常が指摘されず、無症状で高齢者になって初めて見つかる、というケースは日本のように医療制度が整っており、健診が定期的に実施される環境では、あまり多くはありません。10~20才代で動悸や健診での心電図異常で初めて確認されるケースが多いです。
編集部まとめ
今回はWPW症候群とはどのような病気か、ということについて解説いたしました。
若い方で、無症状でも健診で指摘されるケースも多いため、どんな病気かを知っていてもらえると、いざというときに役立つかもしれません。
心房細動などの不整脈を合併すると重篤な状態となる可能性もありますが、カテーテル治療による根治治療も可能な疾患であり、過度に怖がりすぎる必要はありませんので、心電図異常で疑われたり、頻脈発作が出現する際には速やかに受診をして、的確な診断と治療を受けることが大切です。
「WPW症候群」と関連する病気
「WPW症候群」と関連する病気は3個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
循環器科の病気
- 不整脈
- 発作性上室性頻拍
- 心房細動
若い方にも見られることのある病気です。
「WPW症候群」と関連する症状
「WPW症候群」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 動悸
- 息切れ、呼吸苦
- 心電図異常
- 失神
- 突然死
WPW症候群の中でも3-4割程度は、心電図検査ではWPW症候群の所見はあっても、動悸発作を起こさない無症状のこともあります。心電図で異常を指摘された際には無症状でも医療機関で再検査を行うようにしましょう。