「たこつぼ型心筋症」の症状・原因・なりやすい人の特徴はご存知ですか?医師が解説!
たこつぼ型心筋症とは?Medical DOC監修医がたこつぼ型心筋症の症状・原因・なりやすい人の特徴・検査方法・治療法・予防法などを解説します。
監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
目次 -INDEX-
「たこつぼ型心筋症」とは?
たこつぼ型心筋症という病気は比較的新しい疾患概念であり、1990年に初めて日本の医師がこの名称を使い、報告をしました。狭心症や心筋梗塞と見分けがつきにくい胸痛や心電図変化をする疾患ですが、ストレスと強く関連すること、中高年の女性で多いことが知られています。
どのようなメカニズムで発症するかはまだよく分かっておりませんが、精神的・肉体的な強いストレスをきっかけに、突然の心筋障害を生じます。
ストレスの原因は、重い病気や大きな手術による負荷、家族との死別、中にはサプライズパーティーやギャンブルでの勝ち負けなど、さまざまな要因が報告されています。
急性の心筋障害を生じると、特徴的な心臓の先端部(心尖部)が動かなくなるが、心臓の根本(心基部)が過剰に収縮する、たこつぼの様な形態の心筋障害を生じます。
それと共に、心筋障害を反映した血液検査の値の上昇を認めることも多いです(トロポニンやクレアチンキナーゼ等)。
心筋梗塞と似た検査所見、症状を生じるため、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患との鑑別が必要となる病気です。
たこつぼ型心筋症を発症すると心電図にどのような特徴が現れる?
心電図は、心臓が動く際に心筋細胞から生じている微弱な電流を、体表面から記録する検査です。心筋梗塞などで急性の心筋障害が生じると、特徴的な電位の変化が生じます。
たこつぼ型心筋症では、ストレスなどをきっかけとして突然の心筋障害が出現するため、それを反映して心筋梗塞と類似したSTの上昇、T波の陰転化などの波形変化が生じます。
たこつぼ型心筋症の代表的な症状
たこつぼ型心筋症では、急性の心筋障害のため、心筋梗塞や狭心症などと同様の胸痛や動悸、呼吸困難などの症状が生じます。
ここではどのような症状が出現するか、解説いたします。
胸痛
最も典型的な症状は、狭心症や心筋梗塞と同様の、強い胸痛です。
典型的には、前胸部~左胸部の締め付けるような症状であり、冷汗や嘔吐などを伴うような強い胸痛を生じます。
左肩や首、顎、奥歯などまで苦しくなるような放散痛を伴うことも多いです。
症状は短時間では改善せず、15分以上持続することが一般的です。
これまで経験したことがないような強い胸痛が出現した際には、速やかな病院の受診や救急要請が必要です。
呼吸困難・息切れ
突然の心筋障害によって心不全の様な症状を生じやすく、息切れや呼吸困難などの症状が出現することがあります。
動悸
突然の心筋障害を生じるため、不整脈を生じやすくなったり、胸痛などに伴う頻脈を生じることで強い動悸感を伴うこともあります。
たこつぼ型心筋症の主な原因
たこつぼ型心筋症は、心筋梗塞などの虚血性心疾患と異なり、高血圧などの生活習慣病によって引き起こされるような動脈硬化が原因となることはありません。
多くの場合、強いストレスが関与するとされています。
精神・肉体的なストレス
どのような機序で引き起こされるかは解明されておりませんが、多くの症例で発症に先行する強いストレスがあり、それが発生に関与しているとされています。
ストレスの種類は様々であり、大きな病気の罹患、負担が大きい手術やガン等の全身疾患の治療(化学療法や放射線治療など)、麻薬などの薬物中毒や過剰摂取、甲状腺ホルモンの異常など様々な身体的なストレスも誘因となります。
それ以外にも、家族との死別や離婚、激しい感情の起伏、中にはギャンブルでの勝ち負けやサプライズパーティーで発症した例もあります。近年では地震や洪水などの自然災害に伴う被災、避難生活などで増加していることも報告されています。
たこつぼ型心筋症になりやすい人の特徴
たこつぼ型心筋症は、心筋梗塞などの虚血性心疾患では中高齢男性が多いのとは異なる好発要因があるとされています。どのような人に起こりやすいのかを解説していきます。
中高年の女性
たこつぼ型心筋症は、報告にもよりますが男女比は男1:女7と圧倒的に女性に多いとされます。また、平均年齢は男性65歳、女性68歳と女性の方が高い年齢で起こりやすいことが報告されています。閉経後の女性に圧倒的に多いため、女性ホルモンの低下なども病因に関連している可能性も示唆されています。
大きな負担がかかるような病気にかかった時
特定の疾患というよりは、体に大きな負担が生じるような病気に罹患した際に発症しやすいです。ひどい感染症や重度の脳疾患・心疾患、がんなどの悪性疾患、手術を受けた後など、さまざまな疾患後、病態での発生が報告されています。
大きな精神的ストレスを経験した人
精神的なストレスで発症しやすくなることも知られており、家族との死別や感情の大きな起伏、激しい口論、離婚、離職などネガティブなストレスだけでなく、中にはサプライズパーティーやギャンブルなどでの大きな勝ち等、ポジティブな大きな感情の変化でも起こりやすくなるとする報告も近年ではされています。
たこつぼ型心筋症の検査法
たこつぼ型心筋症は、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患と類似した症状、検査所見を呈するため、それらとの鑑別が必要となります。
心電図
ストレスなどをきっかけとして突然の心筋障害が出現するため、それを反映して心筋梗塞と類似したSTの上昇、T波の陰転化などの波形変化を生じます。
所見だけでは虚血性心疾患との鑑別はできませんが、診断のための最も簡便な検査です。
血液検査
急性の心筋障害を反映して、トロポニンやクレアチンキナーゼといった、心筋障害で上昇する検査値が上昇することが多いです。
数値結果から、急性の心筋障害を疑って心臓カテーテル検査などの必要性を判断する材料の一つとなります。
心臓エコー検査
外来で行える簡便な検査であり、特徴的な心臓の動き方の異常をいち早く判断するうえで重要な検査です。前述の心電図や血液検査と併用することで、心筋障害をいち早く疑い、適切な検査・治療へ結びつけることができます。
心臓カテーテル検査
たこつぼ型心筋症と、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患とを鑑別するために必須の検査です。心臓の筋肉に栄養を送る冠動脈の血流が正常で、血流を妨げるような狭窄や閉塞がないことを確認し、尚且つ心臓の動きを評価して、特徴的な心尖部に限局した筋肉の動きの障害を認めることができれば、確定診断を付けることができます。
たこつぼ型心筋症の治療法
虚血性心疾患のように血管の流れが悪くなるなどの病態ではないため、特別な治療はなく、合併症や病態に応じた治療を行います。
合併症がない場合
心不全やショック状態などの合併がない場合には、特別な治療は不要であることが多く、その場合には経過観察のみで状態の改善が期待できます。
時間と共に症状、検査所見の経過を評価しながら、症状・所見が改善すれば自宅退院が可能となります。
心不全やショックなどを合併する場合
心筋障害が高度であったり、元々治療しているような持病がある場合や高齢で体力が低い場合には、心不全を合併したり、さらに重症化するとショック状態となって血圧の低下や臓器障害、呼吸障害を合併することもあります。
その場合には、心臓の負担を軽減するような薬剤の投与、呼吸や循環動態の補助、中には昇圧剤や人工呼吸器、循環補助装置の使用が必要となるケースもあります。
たこつぼ型心筋症の予防法
たこつぼ型心筋症の病態について説明をしてきましたが、その予防にはどのようなものがあるか、解説を加えていきます。
ストレスを避ける
精神的・肉体的なストレスを避けることが重要であるため、最も効果的なのはきっかけとなるようなストレスを避けることです。
もちろん、すべてのストレスを避けることは不可能ですが、普段の生活から気を付けることで避けられるものもあります。
例として、大変なことを一人で抱え込まない、家族や友人などに相談をする、ギャンブルなどは避ける、過量飲酒や極端な生活習慣の乱れを避ける、睡眠をしっかりとる、生活リズムに気を付ける、治療中の病気をしっかりコントロールするなど、普段からやれることがいくつもあります。
自分は大丈夫、と安易に考えずに、やれることにはしっかり取り組むことが大切です。
「たこつぼ型心筋症」についてよくある質問
ここまでたこつぼ型心筋症について紹介しました。ここでは「たこつぼ型心筋症」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
たこつぼ型心筋症の死亡率は高いのでしょうか?
小鷹 悠二 医師
基本的には、経過観察で改善することが多く、虚血性疾患と比べると予後はよいとされています。
ただ、中には重度の血流障害や心不全を発症して死亡することもあり、国内外の報告では約4%の死亡率であるとされています(急性心筋梗塞は7‐10%程度)。
たこつぼ型心筋症を発症すると入院期間はどれくらいでしょうか?
小鷹 悠二 医師
多くの場合、1-2週間程度で心機能が改善し、合併症などがなければ退院が可能となることが多いです。
合併症がある場合や、高齢者などでリハビリを必要とする場合にはより長期の入院が必要となることもあります。
編集部まとめ
たこつぼ型心筋症がどのような病気か、おわかりいただけたでしょうか。
特別な治療が不要で予後も悪くない病気ではありますが、症状は心筋梗塞と非常に似通っていること、中には重症化する場合もあるため、注意が必要な疾患です。
これまでなかったような強い胸痛、呼吸困難などの症状が出現する際には、速やかに病院を受診することが大切です。
「たこつぼ型心筋症」と関連する病気
「たこつぼ型心筋症」と関連する病気は3個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
たこつぼ型心筋症は心筋梗塞や狭心症と見分けがつきづらいことが特徴の一つです。
「たこつぼ型心筋症」と関連する症状
「たこつぼ型心筋症」と関連している、似ている症状は3個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 胸痛
- 呼吸困難、息切れ
- 動悸
心筋梗塞ととても似ている症状が見られることや重症化するケースもあるため、これまで経験したことのないような上記の症状が出現した場合には、早めに医療機関を受診して検査することが重要です。