「肺がんの放射線治療」はどんな効果が期待できるがご存じですか?医師が解説!
公開日:2025/10/10


監修医師:
木村 香菜(医師)
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名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。
目次 -INDEX-
肺がんの放射線治療とは
肺がんには、大きく分けて小細胞肺がんとそれ以外の非小細胞肺がん(扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん)があります。
非小細胞肺がんの場合には、診断された時点ですでに手術が難しいケースも多いです。実際に、手術での根治的な切除の対象となる方は全症例のうち3分の1程度にすぎないともいわれています。こういった理由からも、肺がんの治療における放射線治療の役割は大きいと考えられます。
肺がんの放射線治療の概要
放射線治療には、肺がんを完全に治すことを目的とした根治照射、手術後の再発を予防するための術後照射、さらに肺がんが骨や脳などに転移した場合に現れる症状を和らげるための緩和照射があります。肺がんの放射線治療の方法
肺がんの放射線治療には、いくつかの方法があります。放射線治療に使用される放射線には、X線と粒子線があります。多くの病院では、X線治療が行われています。そのため、以下では主に高エネルギーX線による治療について述べていきます。 肺がんの場合には、身体の外から放射線を当てる外部照射が一般的です。 非小細胞肺がんに対する根治的な照射の場合、1日1回、2Gy(グレイ)の放射線を30回程度、もともとの肺がん病変とリンパ節に転移した部分、リンパ節転移しやすい範囲などに対して当てていきます。 小細胞肺がんの場合には、がんの増殖スピードが早いことなどもあり、1日2回、45Gy/30回/3週間がすすめられています。治療効果があった方に対しては、脳に対して予防的に25Gy/10回相当、2週間程度の照射も行われます。 肺がんが早期の段階の場合、定位放射線治療が保険適用となるケースもあります。定位放射線治療は、がんに対してピンポイントで高エネルギーX線を照射する方法です。複数の方向から照射を行い、48Gy/4回、50Gy/5回、60Gy/8回、45Gy/3回など、患者さんの状態やがんがどこにあるかなどによって回数や線量が決められていきます。 また、2024年6月から、早期肺がんに対して重粒子線治療が保険適用となっています。肺がんの治療法として放射線治療が選択されるケース
肺がんの治療法には、放射線治療のほか、薬物療法や手術などがあります。
根治的放射線治療の適用となるケースには以下のようなものがあります。
- 肺がんそのものもリンパ節転移も進行しているもののリンパ節転移が肺がんと同じ側の肺門部に留まる症例
- 高齢であったり持病があったりするために手術困難と判断された早期肺がん症例
ステージ別|肺がんの放射線治療で期待できる効果
ステージ毎に治療方針や期待できる効果が異なります。
ステージⅠ
ステージⅠは、リンパ節や他臓器への転移がないか、がんが小さい状態です。この段階では、標準的な手術が困難な患者さんに対しては放射線のみでの治療が選択されます。 特に、がんが心臓や大血管などから離れており、可能な場合には定位放射線治療の適用もあります。また、陽子線や炭素線などの粒子線治療も選択肢の一つとして挙げられます。 肺の末梢にあるステージⅠの非小細胞肺がんに対する定位放射線治療の治療成績に関して、3年生存率が70〜80%とする報告もあります。ステージⅡ
ステージIIの肺がんは、ステージIよりは進行しているものの、リンパ節転移がまだ肺と同じ側の肺や縦隔(左右の肺に囲まれた空間)に留まっている状態です。 ステージIIの肺がんに対しては、基本的には手術が適用となります。しかし、年齢などによって手術ができない場合には、放射線照射のみでの治療が行われることもあります。 放射線治療は60Gy/30回が基本となります。効果を高めるため、可能な場合には薬物療法を組み合わせることが一般的です。 肺尖部(はいせんぶ;肺の上の方の尖っているような形の部分)で胸壁に浸潤しているがんの場合、手術の前に薬物治療と放射線治療(化学放射線治療)を行うことがあります。 国内での術前化学放射線療法後に手術を行う治療に関する臨床試験では、5年全生存率は約60%と報告されています。ステージⅢ
ステージIIIは、肺がんが横隔膜や心臓などの重要な臓器へ浸潤したり、がんとは反対側の縦隔や肺門部、もしくは鎖骨の上のリンパ節への転移がみられたりする状態です。 ステージIIIの場合、手術が困難な状態であることも多いです。そのため、根治的な放射線治療が標準的な治療法となります。プラチナ製剤をはじめとした薬物療法を組み合わせた化学放射線治療が推奨されています。ステージⅣ
ステージIVは、脳や骨、肝臓、反対側の肺などへの転移がある状態です。 転移による骨折や痛み、頭痛、吐き気などの症状に対して、症状を和らげる目的での緩和照射が行われます。 脳転移に対しては、複数の転移がみられる場合には脳全体に放射線を当てる全脳照射が行われます。個数が小さく、サイズが小さい場合には、定位放射線治療が選択されることもあります。肺がんの放射線治療計画
肺がんに対する放射線治療計画は、以下のような流れで行われます。
診察
放射線治療専門医が、患者さんを診察し、画像検査などの結果も参考にして、放射線治療の適応があるか、具体的な治療方針を決めていきます。治療計画
放射線治療を行うことになったら、治療計画が立てられます。治療計画用CTを撮影し、専用の装置を用いて放射線を当てる部位を決定します。専門医や物理師などが協力し、肺や食道、脊髄などの正常な臓器への放射線の線量が、基準以下となるように計画を立案します。患者さんがいつも同じように放射線の照射を受けられるようにするため、体幹部を固定するための固定具を作ることもあります。放射線の照射
治療計画ができたら、基本的には毎日照射を行います。初日のみ、位置合わせなどのために少し時間が長めにかかることもありますが、基本的には照射時間は10〜30分程度です。 照射期間中、定期的に専門医の診察があります。著しく痩せて体型が変わったり、治療効果が現れ腫瘍が小さくなったりした場合は、再度CTを撮り治療計画を再度立案することもあります。経過観察
照射期間が終わった後も、専門医による定期的な診察が行われる場合があります。治療効果の判定や、遅れて現れる副作用の有無などをチェックします。肺がんの放射線治療で生じる副作用
放射線治療では、照射中に現れる急性期の有害事象(副作用)と、治療後から数ヶ月後に現れる晩期のものがあります。
急性期副作用
急性期には、放射線性食道炎や放射線皮膚炎などがみられることがあります。喉のつかえ感や違和感、皮膚のかゆみや赤みなどが、照射している範囲に一致して現れる場合があります。多くは軽症であり、治療後には改善していきます。 また、正常な肺に炎症が起こる放射線肺臓炎がみられることがあります。間質性肺炎などもともとの肺に病気がある方は、急激に肺炎が進行することもあるので注意が必要です。ただし、通常は、肺炎に関しては放射線治療終了直後から数ヶ月後に起こるケースが大半と考えられます。晩期副作用
治療終了後から数ヶ月後、胸部レントゲンやCTなどで放射線が当たった範囲に一致した放射線肺臓炎が認められることがあります。多くの場合、咳などの症状はありません。 放射線脊髄症、心外膜炎、心不全なども挙げられますが、いずれもまれです。肺がんの放射線治療についてよくある質問
ここまで肺がんの放射線治療を紹介しました。ここでは「肺がんの放射線治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
肺がんの放射線治療に必要な費用を教えてください。
肺がんの根治的な照射方法で通常分割照射では、10割負担の場合には70万円前後ほどになります。3割負担の場合は20〜25万円程度が目安です。 陽子線や炭素線などの粒子線治療の場合には、より高額になります。 治療費の負担を軽減するための高額療養費制度を利用できる場合もあります。詳細は放射線治療を受けようとする医療機関に問い合わせてみましょう。
肺がんの放射線治療でがんが消えることはありますか?
放射線治療をはじめとした治療の効果によって、画像所見では認められないほどがんが小さくなる場合もあります。
1回の放射線治療にかかる時間を教えてください。
照射時間は10〜30分程度です。セットアップなどの時間が加わっても、30分程度ですむことが多いでしょう。
まとめ
今回の記事では、肺がんの放射線治療について詳しく解説しました。肺がんは見つかったときには手術が難しいケースもありますが、放射線治療や薬物療法などの方法で治療することが可能となっています。
関連する病気
肺がんと関連する病気には以下のようなものがあります。- COPD
- 肺結核
- アスベスト関連肺疾患
- 中皮腫
関連する症状
肺がんと関連する症状には以下のようなものがあります。- 咳
- 痰
- 胸の痛み
- 呼吸困難感
- 発熱
- 身体の痛み
- 頭痛
- 吐き気
- 手足の麻痺
- ろれつがまわらない
参考文献



