「肺がんステージ4で骨に転移した場合の余命」はご存じですか?症状も医師が解説!

肺がんは進行するとほかの臓器へ転移することがあり、そのなかでも骨転移は頻度の高い転移先の一つです。特に、ステージ4と診断された肺がんでは、骨への転移が生じることによってさまざまな症状や合併症が現れ、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。本記事では、肺がんが骨に転移するメカニズムや症状、治療法、余命の目安、さらによくある質問や日常生活での注意点もあわせて解説します。肺がんと診断された方やご家族が、適切な治療やサポートを受けられるよう、正しい知識を身につけておくことが大切です。

監修医師:
福田 滉仁(医師)
目次 -INDEX-
ステージ4肺がんで骨転移が生じるメカニズム

肺がんが進行して他臓器に広がった状態はステージ4と呼ばれ、そのなかには骨への転移(骨転移)も含まれます。肺がんは骨に転移しやすく、進行期の非小細胞肺がんでは約30~40%の患者さんに骨転移が起こるとされています。骨転移は、肺からがん細胞が血流に乗って骨に達し、そこで増殖することで生じます。骨は常に新陳代謝しており、古い骨を壊す破骨細胞と新しい骨を作る骨芽細胞のバランスで保たれています。しかし、骨にたどり着いたがん細胞は破骨細胞を過剰に活性化し、ランクル(RANKL)と呼ばれる物質の産生を促進します。その結果、骨の破壊が加速して骨組織が溶かされ、そこから放出されるカルシウムや増殖因子を利用してがん細胞はさらに成長しやすくなるのです。このような骨を溶かしながら増殖するメカニズムによって、肺がんの骨転移は起こります。
骨転移がみられるステージ4肺がんの余命

骨転移を伴うステージ4肺がんは予後が不良な傾向にあります。日本の研究では、肺がん骨転移患者さん118名において骨転移後の平均生存期間約9.7ヶ月、生存率は6ヶ月後約59.9%、1年後31.6%、2年後11.3%とされています。ただし個人差も大きく、肺がんの組織型、遺伝子変異の有無、全身状態、治療内容によって予後は左右されます。近年では分子標的薬や免疫療法の登場により、ステージIVでもこれらが有効な患者さんでは治療を続けながら長期間生活を維持できるケースも増えてきています。
ステージ4肺がんが骨に転移した場合の症状

骨転移が起こると強い痛みや病的骨折、神経圧迫による麻痺などが見られます。また、骨以外の部位への転移によってもさまざまな症状が現れることがあります。
骨転移によって生じる症状
骨に転移が起こると、その部位に強い痛みが生じることが多く、痛みのために日常動作が制限されることもあります。骨ががんに浸食されてもろくなっているため、通常では骨折しないような軽い力でも骨折(病的骨折)を起こしやすくなります。
特に、背骨(脊椎)に骨転移が及ぶと、腫瘍が脊髄を圧迫して手足のしびれや麻痺(歩行困難など)を引き起こすことがあります。これは脊髄圧迫症候群と呼ばれ、放置すると永久的な麻痺につながる重篤な合併症です。さらに、骨が破壊される過程で大量のカルシウムが血中に放出されると高カルシウム血症という状態になり、食欲不振、便秘、せん妄や意識障害など全身症状を引き起こすことがあります。これら骨転移による症状や合併症は患者さんの生活の質(QOL)を大きく損なうため、早めの対処が重要です。
そのほかの症状
骨転移以外にも、肺がんが進行することでさまざまな全身や呼吸器症状が現れます。典型的な症状には、長引く咳や痰、血痰(痰に血が混じる)、胸の痛み、身体を動かしたときの息苦しさ(呼吸困難)や動悸、発熱などがあります。肺がんが肺内で大きくなると呼吸機能が低下し、慢性的な息切れや疲労感を生じることもあります。
また、食欲低下や体重減少などの症状が出ることも少なくありません。さらに、肺がんは骨以外にも脳、肝臓、副腎、リンパ節など臓器にも転移しやすく、それぞれ転移先に応じた症状を引き起こします。ステージ4ではこのように複数の症状が重なりやすいため、 症状の緩和と生活の質の維持が治療と同じくらい重要になります。
ステージ4肺がんにおける骨転移の治療法

骨転移への治療は、痛みの緩和や骨折の予防や機能維持を目的として行われます。薬物療法や放射線療法、外科的治療などを組み合わせることで、QOLを高めることが可能です。さらに、肺がん本体に対する薬物療法や緩和ケアも重要な役割を担っています。
骨転移の治療法
骨転移による痛みや骨の脆さに対しては、いくつかの方法で治療および緩和を行います。まず薬物療法として、骨転移による骨破壊を抑える骨修飾薬が使用されます。骨修飾薬にはビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体薬があり、破骨細胞の働きを抑制して骨吸収と骨形成のバランスをとり、骨折予防効果を発揮します。また、痛み止めとして消炎鎮痛剤(NSAIDs)やモルヒネなどのオピオイドなどが症状に応じて使われます。
次に、放射線療法では骨転移巣にピンポイントで放射線を照射することで痛みを和らげたり、脊椎転移で脊髄圧迫による麻痺症状がある場合に腫瘍を縮小させたりして症状を緩和します。さらに、外科的治療(手術)によって、腫瘍による神経圧迫を除去したり、骨を補強する骨固定術を行ったりすることで、骨折や麻痺の予防や改善を図ることがあります。
肺がんの治療法
ステージ4肺がんでは薬物療法が中心となります。薬物療法には大きく分けて細胞障害性抗がん薬(化学療法)、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法)があります。これら治療から、患者さんごとの体力・副作用耐性を考慮し、レジメンを選択します。再発時にも化学療法を行うなど、薬物治療を中心に治療を継続します。また、肺がん自体の治療に加え、痛みや呼吸困難といった症状を和らげる緩和ケアを早期から併用することも推奨されています。緩和ケアはモルヒネなどによる痛みのコントロールはもちろん、心理的な支援や在宅療養のサポートまで含まれる包括的な治療です。
肺がんの骨転移についてよくある質問
ここまでステージ4肺がんの骨転移について紹介しました。ここでは「肺がんの骨転移」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
肺がんの骨転移が全身に与える影響を教えてください。
骨転移は単に骨の問題に留まらず、全身状態にさまざまな影響を及ぼします。前述の高カルシウム血症はその代表で、血中カルシウム濃度の上昇により食欲不振、倦怠感、意識混濁や腎機能障害など全身症状が出現し、適切に対処しないと昏睡に至ることもあります。
また、骨転移自体の痛みや骨折リスクによって身体活動が制限され筋力が低下すると、寝たきりや廃用症候群に陥るリスクもあります。したがって骨転移が判明した場合は、栄養管理やリハビリ、疼痛緩和などを行い、患者さんの全身状態をできるだけ良好に保つことが大切です。
骨転移が生じた骨は治療後どの程度で本来の強さになりますか?
骨転移が完全に消失し、骨が元の強度に戻ることはほとんどありません。骨への転移が起きた時点で、がん細胞が骨組織を破壊して置き換わっているため、たとえ治療で腫瘍が縮小・消失してもすでに壊れた骨の構造は完全には再生しないのが一般的です。しかし、治療によって骨の状態を改善や維持することは可能な場合があります。治療後しばらくは骨転移部位に過度な負荷をかけないようにし、定期検診で骨の状態をモニタリングしてもらいましょう。主治医の許可が出れば、骨を強くするための適度な運動やリハビリを行うことも骨密度維持に有用です。
骨転移が起きた場合の日常生活における注意点を教えてください。
骨転移患者さんの生活では転倒や怪我の予防が最も大切です。骨がもろくなっているため、ちょっとした転倒でも骨折につながりかねません。以下のような工夫を心がけましょう。
歩行時の注意
足元の段差や障害物に気を付けて、ゆっくり安定した歩行を心がけましょう。
住環境の工夫
廊下やトイレや浴室には手すりを設置し、滑り止めマットを敷くなど自宅内の転倒リスクを減らす改修を行いましょう。
補助具の活用
下肢や骨盤に骨転移がある場合は、主治医や理学療法士と相談して杖や歩行器、車いすなどの補助具を使用しましょう。
日常動作の工夫
腰や膝に負担をかける動作は避けます。床に直接座る生活より椅子に腰かける生活に改め、立ち座りしやすい高さの椅子を使うとよいでしょう。
これら以外にも、主治医やリハビリスタッフから生活上の指示がある場合は従うようにします。骨転移と上手に付き合いながら日常生活を送るために、不安な点は遠慮なく医療者に相談しましょう。
まとめ

ステージ4の肺がんにおける骨転移は、がんが全身に広がる重要なサインであり、痛みや運動制限など生活への影響が大きいものです。しかし、近年では薬物療法や放射線治療、骨修飾薬、緩和ケアなどを組み合わせた治療により、症状の緩和と生活の質の維持が可能となっています。がんそのものの治療だけでなく、骨の健康を保ちつつ、患者さん一人ひとりに合った支援を受けることが大切です。不安なことは医療者に相談し、納得できる選択をしながら治療に臨みましょう。
関連する病気
肺がんと似た症状を示す、または同時に発生する可能性のある病気には以下のようなものがあります。
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 肺炎
- 結核
- 間質性肺疾患
- サルコイドーシス
関連する症状
肺がんに関連する症状は以下のような症状が挙げられます。これらの変化を正しく把握することが鑑別に役立ちます。
- 持続する咳
- 血痰
- 息切れ・呼吸困難
- 胸痛
- 体重減少
- 全身の倦怠感



