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腹膜にできるがん「腹膜播種の余命」は?症状や合併症についても医師が徹底解説!

 更新日:2025/07/25
腹膜にできるがん「腹膜播種の余命」は?症状や合併症についても医師が徹底解説!
腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは、がん細胞が腹膜というお腹の内側を覆う膜に散らばって転移した状態を指します。進行がんで見られることが多く、特に胃がんや大腸がん、卵巣がんなどで腹膜播種が発生しやすい傾向があります。本記事では腹膜播種の基礎知識から症状、余命の目安、治療法を解説します。
高橋 孝幸

監修医師
高橋 孝幸(医師)

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国家公務員共済組合連合会 立川病院 産婦人科医長。大阪市立大学卒業後、慶應義塾大学大学院にて医学博士号を取得。足利赤十字病院、SUBARU健康保険組合 太田記念病院、慶應義塾大学病院の勤務を経て、現職。理化学研究所 革新知能統合研究センター 遺伝統計学チーム/病理解析チーム 客員研究員。診療科目は産婦人科、消化器内科、循環器内科。日本産科婦人科学会専門医・指導医。専門は婦人科腫瘍、がん治療認定医、日本産科婦人科学会内視鏡技術認定医(腹腔鏡)、ロボット支援下手術など。診療科目は産婦人科、消化器内科、循環器内科。

腹膜播種とは?症状と合併症

腹膜播種とは?症状と合併症 このセクションでは、腹膜播種の定義やその病態、また腹膜播種に伴って現れる症状や合併症を詳しく説明します。腹膜播種の基本概念を理解することで、後続の治療法や余命予測の背景が明確になります。

腹膜播種とは

腹膜とは、胃や腸など腹部の臓器とお腹の壁の内側を覆っている薄い膜のことです。この腹膜にがんが転移し、まるで種を播いたように散らばることを腹膜播種と呼びます。消化器系のがん(胃がん・大腸がん・膵がんなど)や卵巣がんで起こりやすく、胃がんではリンパ節転移や肝転移と並んで頻度の高い転移様式です。特にスキルス胃がん(硬化型胃がん)では、初診時にすでに腹膜播種が見られるケースも少なくありません。腹膜播種が確認される場合、病期は進行がんに該当する場合があります。

腹膜播種の症状と合併症

腹膜播種そのものは自覚症状が出にくいのが特徴です。CTなどの画像検査でも見つからないことが少なくありません。しかし進行すると、腹膜に散らばったがん細胞の影響でさまざまな症状が現れます。代表的なものは腹水の貯留です。お腹の中に体液がたまることで腹部が膨れ、圧迫感や体重増加、呼吸しづらさを感じることがあります。また腸管が狭くなったり詰まったり(腸閉塞)すると腹痛や吐き気・嘔吐を引き起こし、食事が摂れなくなる場合もあります。

さらに、腹膜播種が尿管周囲に及ぶと尿の通り道が狭くなり、水腎症(腎臓に尿がたまる状態)をきたすこともあります。これらの合併症によって腹部膨満感、腹痛、吐き気、食欲不振などの症状が出現します。症状の程度は腹膜播種の範囲や腹水の量によって異なりますが、腹膜播種があると日常生活にも支障を来すことが多くなります。症状が強い場合には、腹水を抜く処置や腸閉塞に対する対症療法(腸管の減圧処置や静脈栄養など)が必要になることもあります。

腹膜播種がある場合の余命

腹膜播種がある場合の余命 腹膜播種が認められる状態は、がんが腹腔内に広範囲に広がった進行末期にあたり、一般に予後(余命)は原発巣によってさまざまです。治療を行わず放置した場合、残念ながら生存期間は数ヶ月程度と大変短くなるがんもあります。例えば胃がんでは、有効な治療手段がない場合に生存期間中央値が約3ヶ月と極めて厳しい予後となるとのデータがあります。

一方で、抗がん剤治療を行うことで生存期間中央値が約1年まで延長できるとの報告があります。近年は抗がん剤(化学療法)の進歩により、従来より余命が延びている傾向があり、実際には1年以上生存できる患者さんも増えてきています。しかしそれでも腹膜播種のある患者さんの予後は依然としてほかの転移(肝転移や肺転移など)に比べて不良であり、5年生存率(5年後に生存している割合)は低いのが現状です。

もっとも、余命は一律ではなくがんの種類や治療内容、患者さん個々の状態によって大きく異なります。例えば卵巣がんの場合、腹膜播種があっても適切な手術と化学療法によってコントロールできることが多く、ステージIII(腹膜播種を含む進行がん)の5年生存率は約46%との統計データがあります。これは消化器がんに比べると高い生存率で、卵巣がんでは半数近くの患者さんが5年以上生存できることを示しています。ただし卵巣がんでも患者さんの年齢や体力、がんの悪性度により予後は左右されるため、一概に余命を断定することはできません。

まとめると、腹膜播種がある場合の余命は全体的には短い傾向にありますが、治療によってある程度延長可能であり、がんの種類によっては長期生存が期待できるケースもあります。医師は患者さんそれぞれの病状に基づいて予後の見通しを説明しますので、自身の場合の詳しい予測は主治医に確認することが大切です。過度に悲観せず、今できる治療に取り組むことが重要です。

腹膜播種の治療法

腹膜播種の治療法 本セクションでは、腹膜播種に対する主な治療法として、全身化学療法と手術療法を解説します。各々の治療法の目的や適応、実施方法も解説します。

抗がん剤治療

腹膜播種がある場合の治療の柱は抗がん剤(化学療法)による全身治療です。腹膜に散らばったがん細胞は肉眼で見えない微小なものも多く、手術ですべてを取り切ることは難しいため、基本的には手術ではなく薬物療法が選択されます。抗がん剤を点滴や経口薬で投与する全身化学療法により、体内のがん細胞の増殖を抑え、症状の緩和と生存期間の延長を目指します。

従来、腹膜播種に対して有効な薬は限られていましたが、近年は複数の抗がん剤を組み合わせたレジメンや分子標的薬・免疫療法の併用により、治療効果が向上してきています。実際、化学療法の進歩によって腹膜播種患者さんの予後改善が報告されており、適切な抗がん剤治療を受けることは重要です。

さらに、一部の専門施設では腹腔内化学療法といって抗がん剤を腹腔内(お腹の中)に直接注入する治療法も試みられています。例えば腹腔内にカテーテルポートを留置して抗がん剤(パクリタキセルなど)を定期的に注入する方法や、手術中に温めた抗がん剤液を腹腔内に循環させる腹腔内温熱化学療法(HIPEC)などがあります。これらは腹膜播種に対する局所療法として期待されています。まだ新しい治療法であり、標準治療として確立されてはいませんが、臨床研究の枠組みで効果が検証されています。例えば海外の臨床試験では、卵巣がんの手術時にHIPECを追加することで生存期間が延長したとの報告があります。腹膜播種に対する腹腔内治療は副作用や適応の問題もありますが、全身化学療法と併用することで今後の治療成績向上が期待されています。

手術

腹膜播種がある場合、手術による根治は容易ではありません。散らばった病変をひとつ残らず摘出することは困難で、仮に目に見える腫瘍をすべて切除できたとしても、残った微小ながん細胞により再発してしまうことが多いのです。そのため一般的には、腹膜播種が確認された時点で根治目的の手術(原発巣の切除など)は行わないのが標準的対応となります。例えば胃がんで腹膜播種があれば、胃の切除手術はせず化学療法に専念するのが通常です。

しかし、状況によっては手術が検討される場合もあります。腹膜播種の範囲が限局的で、ほかに遠隔転移が少なく、全身状態も良好な患者さんでは、外科的に可能な限り腫瘍を切除して残った病変に対して薬物療法を組み合わせる積極的治療が行われることがあります。

実際、一部の専門施設では腹膜播種包括的治療として、術前化学療法で腫瘍を縮小させた後に細胞減量手術(できるだけ腫瘍を摘出)を行い、さらに術中~術後に腹腔内洗浄療法や温熱化学療法を組み合わせる集学的治療を試みています。このような徹底した治療により、腹膜播種患者さんでも長期生存や治癒が得られる可能性が報告されています。例えば大腸がんの腹膜播種に対する腫瘍減量手術+HIPEC療法は選択された患者さんにおいて5年生存率の改善につながったとの研究もあります。

ただし、こうした手術を含む積極的治療は患者さんの負担も大きく、副作用や合併症リスクも高い治療です。そのため適応となるのはごく一部の症例に限られ、事前の十分な検討と患者さんの同意が必要です。

まとめると、腹膜播種に対する手術は原則として行わないのが一般的ですが、症例によっては症状緩和の目的で手術処置(例えば腸閉塞に対するバイパス手術など)を行ったり、また限られた症例で根治を目指した手術が検討される場合もあります。いずれにせよ手術の可否は患者さん個々の状態と意思に基づき決定されるため、主治医の先生と十分に相談して治療方針を決めていきましょう。

腹膜播種についてよくある質問

ここまで腹膜播種を紹介しました。ここでは「腹膜播種」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

腹膜播種に自覚症状は?

高橋孝幸医師高橋 孝幸(医師)

腹膜播種そのものによる特徴的な初期症状はほとんどありません。多くの場合、腹膜播種は画像検査や手術時の所見で偶然発見されます。患者さん自身が腹膜播種の存在に気付くことは難しく、自覚症状が出てから診断される頃にはかなり進行していることが多いです。
腹膜播種による症状は主に腹水や腸閉塞などの合併症として現れます。腹部の膨満感や腹痛、吐き気といった症状が出現した時点で腹膜播種が疑われ、検査で判明するケースが一般的です。したがって、がん治療中にこうした症状が現れた場合には速やかに主治医に伝え、必要な検査を受けることが重要です。

腹膜播種が完治することはある?

高橋孝幸医師高橋 孝幸(医師)

腹膜播種がある状態は基本的には完治(根治)は難しいと考えられています。腹膜に広がったがんを完全に取り除くのは困難で、現時点で確立した根治療法はありません。しかし近年の集中的な治療により、腹膜播種を有する患者さんでも長期生存が可能となったり、極めてまれながら治癒に至った例も報告されています。
前述のように、術前化学療法+手術+術後化学療法といった 包括的治療 によって、ごく一部の患者さんではがんの再発を抑え込める可能性があります。特に卵巣がんは腹膜播種があっても手術で肉眼的に腫瘍を取り切れることが多く、その後の化学療法で長期寛解が得られるケースが少なくありません。実際、卵巣がんの進行期の患者さんで術後にがんが見えなくなり、そのまま完治したような経過をたどる患者さんもいます。
重要なのは、腹膜播種があってもあきらめずに可能な治療を受けることです。たとえ完治が難しくても、治療によってがんをコントロールし病状を安定させることでがんと共存する期間を延ばすことができます。最近では新しい薬剤や治療法の開発も進んでおり、今後さらに治療成績が向上する可能性があります。主治医と相談しながら適切な治療戦略を立て、希望を持って治療に臨みましょう。

腹膜播種の治療中に気を付けることは?

高橋孝幸医師高橋 孝幸(医師)

腹膜播種の治療中は、体調の変化に注意し主治医と密に連絡を取ることが大切です。特に腹膜播種による腹水や腸閉塞などの症状が起きやすいため、以下の点に気を付けましょう。
腹部膨満感や体重増加 急にお腹が張って苦しい場合は腹水がたまっている可能性があります。利尿剤の調整や腹水を抜く処置が必要になることもあるため、我慢せず医療者に相談してください。
食事や排便の様子を観察 お腹のハリや吐き気が強く食事が進まない場合、腸閉塞の前兆の可能性があります。食事は消化のよいものを少量ずつ摂るようにし、排便やガスの出方にも注意しましょう。異常を感じたら早めに受診し指示を仰いでください。
治療による副作用への対応 抗がん剤治療中は吐き気や下痢、倦怠感などさまざまな副作用が出ることがあります。症状を軽減する薬剤(制吐剤や止痢剤など)が処方されるため、つらい症状はご遠慮なく主治医に伝えましょう。適切な支持療法によりQOL(生活の質)を保つことができます。

まとめ

まとめ 腹膜播種は、がん細胞が腹膜に散らばって転移した状態であり、進行がんに特徴的な病態です。初期には症状が出にくいものの、進行すると腹水や腸閉塞などにより腹部膨満感、腹痛、吐き気といったさまざまな症状が現れます。腹膜播種が認められる場合、病期は進行期であることが多いですが、適切な治療により生存期間を延長し症状を緩和することが可能です。

治療の中心は抗がん剤による全身療法で、最近では手術による根治は難しいものの、症例に応じては手術を含むさまざまな積極的治療が検討され、長期生存が得られるケースも報告されています。

余命や治療方針は担当医から十分な説明を受けましょう。つらい症状に対しては緩和ケアを含む適切なサポートを受け、生活の質を保ちながら治療を続けることが目標です。医療チームの協力のもとで、腹膜播種と向き合いながらより良い状態で過ごせるよう努めましょう。

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