「上咽頭がんのステージ」はご存知ですか?ステージ別の治療法も解説!【医師監修】
上咽頭がんは、経験した方と出会う機会の少ないがんかもしれません。腫瘍が大きくなって周囲の器官を圧迫すると、鼻・耳・脳神経の症状が現れます。
進行した状態で発見され、今後の治療や生活に不安を感じる患者さんやご家族もいるのではないでしょうか?
今回は、上咽頭がんのステージの目安について解説します。上咽頭がんの原因やステージごとの治療法も紹介しているので、参考にしていただければ幸いです。
監修永井 恒志
平成15年金沢医科大学医学部卒。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て東京大学大学
院医学系研究科教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器
病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
特に免疫細胞であるM1マクロファージの画期的な機能の一端を解明した。現在は腫瘍免疫学の
理論に基づきがんの根絶を目指してがん免疫療法の開発と臨床応用を手掛けている。
目次 -INDEX-
上咽頭がんとは?
上咽頭は鼻の奥、咽頭との境目に位置します。
咽頭とは鼻の奥から食道までの部位で咽頭の周りには多数のリンパ節があります。そのため、頸部リンパ節に転移しやすいのが、上咽頭がんの特徴です。
大きくなった腫瘍に圧迫され、耳管が閉塞すると耳の詰まった感じや鼻血などの症状が見られます。
上咽頭がんの原因
ここからは、上咽頭がんの原因と考えられるEBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)や遺伝的な要因、喫煙・過度の飲酒について紹介します。
EBウイルスの感染
EBウイルスは、ヘルペスウイルスの一種です。日本では3歳頃までに6〜7割が感染し、成人の8〜9割の方が感染しているとされています。
感染していても、多くの場合は症状がありません。
EBウイルスの感染から上咽頭がんを発症するまでには、複数の要因が関わっていると考えられています。
遺伝的な要因
がんは、遺伝子の異常が関わっている病気です。
身体には、化学物質や刺激によって遺伝子が傷つけられたときに修復する仕組みがあります。ところが、修復する仕組みが機能しなかったケースでは長い年月をかけて細胞ががん化するおそれがあります。傷つけられた遺伝子が免疫機能で排除できないケースもあるからです。
また、高年齢の上咽頭がんの発症とがん抑制遺伝子の一種が関連しているとの報告があり、上咽頭がんの家族歴のある方はリスクが2倍〜3倍増加するとされています。
過度の喫煙・飲酒
咽頭は、たばこの煙に直接さらされる部位です。喫煙により前がん病変の発生・細胞のがん化が増加します。
たばこに含まれる発がん性物質は、わかっているだけでも70種類以上です。男性の場合、非喫煙者と比べて喫煙者は上咽頭がんに罹患するリスクが約4倍増加するとの報告があります。
また、アルコールの代謝物であるアセトアルデヒドは発がん性物質の一種です。飲酒によってアセトアルデヒドにさらされる機会が増えれば、上咽頭がんに罹患するリスクが高くなります。
上咽頭がんのステージの目安
上咽頭がんのステージを決定する要素は、以下のとおりです。
- 原発のがんの広がり・深達度
- 頸部のリンパ節に転移したがんの大きさ・個数
- 原発がんから離れた臓器への遠隔転移の有無
ここからは、ステージ1からステージ4までの目安を紹介します。
ステージ1
ステージ1は頸部リンパ節に転移がなく、がんが咽頭から出ていない状態です。中咽頭や鼻腔に広がっている場合も、咽頭内にとどまっているとされます。
この時期は、自覚症状がない方も少なくありません。
鼻づまりや鼻水に血が混じる、耳がつまった感じで聞こえにくいなど鼻や耳の症状を呈する患者さんもいます。
ステージ2
がんが咽頭外に広がっている状態がステージ2以上です。
広がる方向が咽頭の側方、つまり顎を引き上げる筋肉・顎を前方に引く筋肉・頸椎の全面にある筋肉に向かっているとステージ2となります。6cm以下のリンパ節転移を認め、がんが咽頭内にあるか、咽頭の側方に広がっている場合もステージ2です。
ステージ2は転移したリンパ節の位置が咽頭の下方にある輪状軟骨の端より上にあること、咽頭の背側か片側のみの場合に限られます。
ステージ3
がんの深達度が傍咽頭間隙までで、輪状軟骨の端より上方の両側に6cm以下のリンパ節転移を認める段階です。
傍咽頭間隙とは、頭蓋底から舌の付け根の骨の高さに存在します。耳下腺と咽頭の間にある傍咽頭間隙には重要な神経や血管があります。
また、がんが骨組織や副鼻腔に広がった状態で頸部リンパ節に転移がない、または輪状軟骨の端より上方で片側6cm以下のリンパ節転移を認める段階もステージ3です。
ステージ4
ステージ4はA期とB期に分類されます。
A期は6cmを超えたリンパ節転移を認める段階です。6cm以下のリンパ節転移でも、がんの広がりが以下に達するとA期に含まれます。
- 頭蓋内
- 脳神経
- 側頭下窩
- 下咽頭
- 眼窩
- 咀嚼筋間隙
咀嚼筋間隙には、下顎骨・咀嚼筋群に関連する神経・血管があります。
B期は、原発がんから離れた臓器への転移が認められる段階です。
上咽頭がんのステージごとの治療法
上咽頭がんは、ステージ全期で放射線治療を主体とした治療を行います。
ステージ1
ステージ1の治療法は放射線治療です。
1日1回、30回〜35回かけて身体の表面から放射線を照射し、がん細胞の破壊を目指します。週5日照射し、期間は6週間〜7週間程です。
従来は周りの臓器への影響を抑えるため、放射線量に慎重にならざるを得ませんでした。近年普及している強度変調放射線治療(IMRT)は、ピンポイントでがんに照射することが可能です。
患者さんの位置がズレないように頭の固定具やマウスピースを使用して、がんに線量を集中させます。
ステージ2
ステージ2は化学放射線療法、または放射線治療単独となります。
化学放射線療法とは、放射線治療に薬物療法を併用する治療法です。放射線治療との組み合わせで治療効果を高め、遠隔転移の予防を目指します。
使用する薬物は、細胞障害性抗がん薬や分子標的薬が中心となります。直接がん細胞を攻撃するのが細胞障害性抗がん薬、がん細胞の増殖に関わる特定の分子を標的にしてがん細胞の増殖を抑えるのが分子標的薬です。
ステージ2では、化学放射線療法の後に補助化学療法を行うケースもあります。
ステージ3
ステージ3は化学放射線療法、または化学放射線療法に導入化学療法や補助化学療法をプラスします。
化学放射線療法の前に行う薬物療法が導入化学療法です。化学放射線療法の前に腫瘍を減らし、化学療法の治療効果を高める目的があります。
導入化学療法では複数の細胞障害性抗がん薬を組み合わせたり、分子標的薬を併用したりするケースもあります。
ステージ4
ステージ4Aはステージ3と同様の治療、または導入化学療法後に化学療法を行って補助化学療法も実施する治療法です。
遠隔転移が認められるステージ4Bの薬物療法は、細胞障害性抗がん薬や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬が主流です。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞を異物と認識して攻撃する免疫反応を活性化します。
どの薬物を使用するかは、患者さんの身体状況を踏まえて選択します。
上咽頭がんについてよくある質問
ここまで上咽頭がんの原因やステージの目安、ステージごとの治療法などを紹介しました。ここでは「上咽頭がんのステージの目安」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
上咽頭がんの初期症状はどのようなものですか?
永井 恒志 医師
上咽頭がんの初期段階では自覚症状がない患者さんも少なくありません。首のしこりがきっかけとなり、がんが発見された患者さんもいます。
上咽頭がんのステージごとの5年生存率は?
永井 恒志 医師
- ステージ1が100~80%
- ステージ2からステージ3が80~60%
- ステージ4が50〜40%
上咽頭がんを含む咽頭がん全体では、ステージ1は86%・ステージ2〜3は53%・ステージ4が13%となっています。
編集部まとめ
上咽頭がんは発見時に頸部リンパ節の腫れがあり、ステージ2以降と診断される患者さんが少なくありません。
上咽頭がんの治療は、放射線治療と薬物療法を併用する化学化学放射線療法が中心です。病変をピンポイントで照射する強度変調放射線治療(IMRT)が可能になっています。
治療方法はステージごとの標準治療をもとに患者さんの希望・ライフスタイル・年齢などを考慮し、担当医師と話し合って選択しましょう。
上咽頭がんと関連する病気
「上咽頭がん」と関連する病気は4個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
上咽頭がんを含む頭頸部がんは、食道がんと重複して発生しやすいがんです。咽頭・鼻腔・篩骨洞に発生するがんと鑑別し、診断します。
上咽頭がんと関連する症状
「上咽頭がん」と関連している、似ている症状は11個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
上咽頭がんは頸部リンパ節に転移しやすく、進行すると鼻・耳・脳神経の症状が現れます。