「人工肛門(ストーマ)」を装着した場合「寿命」に影響はあるの?交換頻度や費用も解説!

人工肛門(ストーマ)の寿命とは?Medical DOC監修医が人工肛門(ストーマ)の種類・寿命・交換頻度や費用・ケア方法・日常生活で注意するべきことなどを解説します。

監修医師:
齋藤 雄佑(医師)
日本外科学会外科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。
目次 -INDEX-
人工肛門(ストーマ)とは?
人工肛門、またはストーマとは、病気やケガなどにより、ご自身の肛門から便を排泄することが難しくなった場合に、手術によってお腹に新しく作られた便の出口のことです。小腸や大腸をお腹の表面に引き出して固定したもので、ここから便が排泄されます。ストーマは、治療の一環として必要時に造設される処置です。多くの方がストーマと共に、手術前と変わらない社会生活を送っています。しかし、「人工肛門」と聞くと、不安や戸惑いを感じる方も少なくないでしょう。この記事では、ストーマに関する正しい知識を分かりやすく解説し、皆さんの疑問や不安を少しでも解消できればと考えています。
人工肛門(ストーマ)の種類
一時的ストーマ
一時的ストーマは将来的に閉鎖(元の排泄経路に戻す手術)する前提で造設されるストーマです。例えば、直腸や結腸の手術で腸管の吻合部(腸と腸のつなぎ目)を安定させる間、便がその部分を通過しないようにするために、小腸で一時的ストーマを作ることがあります。一時的ストーマは通常数か月〜半年後に閉鎖手術が行われ、再び肛門から排便できる状態に戻すことを目指します。ストーマよりも肛門側の腸と肛門の機能が十分保たれていること、が閉鎖の条件です。目的が達成された時点でストーマ閉鎖が検討されます。近年は可能な限り肛門を温存する手術が増えており、一時的ストーマとして対応するケースが多くなっています。
永久的ストーマ
永久的ストーマは一生にわたり使用する前提のストーマです。一例として、直腸がんが肛門近くまで及んでいる場合、癌を取り切るために肛門ごと直腸を切除することがあり、その際は肛門の代わりに永久的ストーマを造設します。永久ストーマでは肛門からの排便ができなくなるため、以後は腹部のストーマから排泄を行います。このように、直腸や肛門を切除した場合や、疾患により肛門機能が失われた場合には永久ストーマが必要です。また炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の重症例や腸管壊死、腸軸捻転などでも、永久的ストーマを造設とすることがあります。永久ストーマを造設したすべての方は、手術直後から身体障害者手帳の交付対象となり、通常は4級に認定されます。永久ストーマは基本的に患者さんの残りの生涯にわたって使用する排泄路となり、定期的な交換は装具のみでストーマ自体を再手術で交換する必要はありません。
人工肛門(ストーマ)の寿命はどれくらい?
ストーマはご自身の腸管を利用して作られた臓器の一部であり、「寿命があって交換が必要」というものではありません。適切に管理されていれば、生涯にわたって機能します。ただし、ストーマの周囲には合併症が起こる可能性があります。例えば、ストーマが狭くなる「狭窄」、ストーマが飛び出してくる「脱出」、ストーマ近傍の皮下に腸がはみ出す「ストーマヘルニア」、皮膚のただれなどです。これらの合併症を防ぐためには、日々の適切なケアと定期的な医療機関の受診が重要です。万が一、合併症が起きた場合でも、多くは適切な処置や治療で対応が可能となります。
人工肛門(ストーマ)の交換頻度や費用はどれくらい?
ストーマそのものを交換する必要はありませんが、ストーマ装具は定期的に交換する必要があります。交換頻度は装具の種類や皮膚の状態によりますが、一般的には週に2回程度(3〜4日に一度)交換する方が多いです。衛生面を考慮すると1週間(7日)を超えて同じ装具を使い続けないことが推奨されます。装具交換までの間は、装着したパウチに排泄物が溜まったら都度トイレに捨てて処理します。装具は防臭加工・防水加工が施されているため、適切に装着していれば普段は臭いや漏れの心配なく過ごせます。装具の交換タイミングは、入浴時に合わせると皮膚の清潔も保てて効率的です。ストーマ袋は交換まで外れないよう強力な粘着面で貼り付いていますが、長期間経つと粘着力が落ちたり排泄物による皮膚トラブルが起きやすくなります。適切な頻度で計画的に交換しましょう。また交換の費用についてですが、ストーマ装具は、健康保険が適用されます。身体障害者手帳(ストーマ造設の場合、主に4級、状態により3級に該当)を取得することで、ストーマ装具の購入費用に対する給付(日常生活用具給付事業)を受けることができます。給付額や自己負担額は、お住まいの自治体や所得によって異なるため、詳しくは自治体の窓口へ問い合わせてください。また、高額療養費制度や、加入している健康保険組合独自の付加給付なども利用できる場合があります。具体的な費用負担は、5000円未満であるケースが多いです。医療機関のソーシャルワーカーや、市区町村の福祉担当窓口、ストーマ外来などで相談してみましょう。
人工肛門(ストーマ)を装着した場合の寿命
次に、「ストーマを装着した方の生命予後」についてです。誤解なきようにお伝えしますが、ストーマを造設したこと自体が患者さんの寿命を縮めることはありません。患者さんの生命予後は、ストーマ造設の原因となった原疾患(例えば、大腸がん、炎症性腸疾患、短腸症候群など)の種類、進行度、治療効果、そして患者さんご自身の全身状態や他の合併症の有無などによって大きく左右されます。むしろ、ストーマを造設することで、原疾患の治療が適切に行えたり、QOLが改善したりすることで、結果的に良好な経過をたどることも少なくありません。大切なのは、原疾患の治療をしっかりと継続し、ストーマを適切に管理していくことです。定期的な検診を受け、医師や看護師の指示に従うことで、多くの方がストーマと共に充実した人生を送られています。
人工肛門(ストーマ)のケア方法
装具交換の手順と皮膚の清潔
まずは新しいストーマ装具、ぬるま湯を含ませたガーゼや不織布、乾いたガーゼや不織布、必要に応じて皮膚保護剤、ハサミ、ゴミ袋などを用意します。交換前に手を洗いましょう。次に皮膚を押さえながら、ゆっくりと面板を剥がします。剥がしにくい場合は、専用の剥離剤を使用すると皮膚への刺激を軽減できるため、お勧めです。次にストーマ周囲の皮膚の清拭・洗浄を行います。ぬるま湯を含ませたガーゼなどで、ストーマ周囲の皮膚についた便や汚れを優しく拭き取ります。石鹸を使用する場合は、刺激の少ない弱酸性のものを選び、よく洗い流してください。ゴシゴシ擦ると皮膚を傷つける原因になるので注意しましょう。洗浄後、乾いたガーゼなどで優しく押さえるようにして水分を拭き取ります。皮膚が十分に乾燥していることが、新しい装具をしっかり密着させるためのポイントです。ストーマの色や形、ストーマ周囲の皮膚に赤み、ただれ、かゆみ、出血などがないかを確認します。異常があれば、医師や看護師に相談しましょう。面板の穴をストーマの大きさと形に合わせてカットします。穴が大きすぎると便が皮膚に付着し、小さすぎるとストーマを傷つける原因になります。ストーマの根元に2〜3mm程度の余裕を持たせるのが目安です。必要に応じて、皮膚保護剤を塗布します。面板の剥離紙を剥がし、ストーマ孔と面板の穴を合わせ、しわが寄らないように丁寧に貼り付けます。特にストーマの根元をしっかり密着させることが重要です。貼付後、手で数分間温めるように押さえると、より密着しやすくなります。
臭いや汚れをキレイに落とす
パウチ内にあらかじめ消臭潤滑剤を入れておくことで、便の排出をスムーズにし、臭いを軽減する効果があります。パウチにガスが溜まった場合は、ガス抜きフィルター付きの装具を使用するか、トイレで適切にガスを排出します。ニンニク、ニラ、タマネギ、豆類、炭酸飲料など、ガスを発生しやすい食品や臭いの強い食品の摂取量を調整することも有効です。ただし、過度な食事制限は栄養バランスを崩す可能性があるため、医師や栄養士に相談しましょう。便臭が気になる場合は、装具がしっかり密着しているか、破損がないかを確認してみてください。
皮膚トラブルの予防と対処
ストーマ周囲の皮膚は、便や尿、粘液、汗、装具の粘着剤などによる刺激を受けやすいため、皮膚トラブルが起こりやすい場所です。毎日の装具交換時に、皮膚の状態をよく観察しましょう。ストーマの形状や大きさに合った装具を選び、正しく装着することが最も重要です。面板の穴の大きさが適切でないと、皮膚トラブルの原因になります。皮膚の状態に合わせて、パウダー状、スプレー状、ペースト状、シート状などの皮膚保護剤を適切に使用することで、皮膚への刺激を和らげ、保護することができます。赤み、かゆみ、ただれ、痛み、出血などの異常を見つけたら、自己判断せずに早めに医師や皮膚・排泄ケア認定看護師に相談しましょう。適切なアドバイスや治療を受けられます。
人工肛門(ストーマ)をつけた後に日常生活で注意するべきこと
食事について
基本的に食事制限はありません。様々な食品をバランス良く摂ることが大切です。消化を助け、腸への負担を軽減するために、一口ずつよく噛んでゆっくりと食事をしましょう。
冷たい飲み物、アルコール類、香辛料の多いもの、脂質の多いものなどは下痢を起こしやすいので、ストーマ排液が緩いときは避けるようにしましょう。海藻、きのこ類などは食物繊維が多く、水分摂取が少ないと便秘の原因になることもあるので、よく噛んで摂取することが勧められます。豆類、イモ類、キャベツ、タマネギ、炭酸飲料などはガスの原因になるので気になるときは摂取を抑えてみてはいかがでしょうか。
ニンニク、ニラ、アスパラガス、香辛料などは臭いを強くする可能性があるので、気になるときは控えましょう。以上のように、これらの食品を全く食べてはいけないということではありません。ご自身の体調や便の状態を見ながら、摂取量や頻度を調整しましょう。
また、特にイレオストミー(小腸ストーマ)の方は、水分が失われやすいため、意識して水分を多めに摂るようにしましょう(1日1.5〜2リットル程度が目安)。
入浴について
ストーマ装具は防水性があるため、装着したまま入浴やシャワーが可能です。ただし、入浴前にパウチ内の便は空にしておきましょう。ストーマが落ち着いていれば、装具を外して入浴することもできます。ただし、入浴中に排便がある可能性も考慮し、タイミング(食後すぐを避けるなど)や入浴後の処理について準備しておくと安心です。装具をつけたまま入浴した場合、面板の周りが濡れることがあります。タオルで優しく水分を拭き取り、必要であればドライヤーの冷風で短時間乾燥させると、面板の粘着力が長持ちします。装具を外して入浴した場合は、皮膚をしっかり乾燥させてから新しい装具を装着します。
運動・スポーツについて
体調が安定していれば、ウォーキングや水泳など、多くのスポーツを楽しむことができます。適度な運動は体力維持や気分転換にも繋がります。腹筋運動やウェイトリフティングなど、強い腹圧がかかる運動は、ストーマヘルニアの原因になる可能性があるため、事前に医師や看護師に相談しましょう。ラグビーや柔道など、身体が激しく接触するスポーツは、ストーマを傷つけるリスクがあるため注意が必要です。保護具の使用や、医師との相談が不可欠です。
仕事・学業・社会生活について
手術後、体力が回復すれば、多くの方が以前と同様に仕事や学業に復帰しています。必要に応じて、上司や同僚、先生にストーマについて説明し、理解と協力を得ることも大切です。トイレの場所や、装具交換ができるスペースの確保などについて相談できると良いでしょう。ストーマが目立たないように、また締め付けないような服装を工夫することで、より快適に過ごせます。ゆとりのあるデザインの服や、ハイウエストのボトムス、柄物の衣服などがおすすめです。専用の下着やサポート製品もあります。
「人工肛門(ストーマ)の寿命」についてよくある質問
ここまで人工肛門(ストーマ)の寿命について紹介しました。ここでは「人工肛門(ストーマ)の寿命」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
人工肛門を装着すると障害者何級になるのでしょうか?
齋藤 雄佑 医師
人工肛門(ストーマ)を造設された方は、身体障害者福祉法に基づき、身体障害者手帳の交付対象となる場合があります。等級は、ストーマの種類や状態によって異なります。永久的な消化管ストーマ(小腸ストーマ、大腸ストーマ)を造設し、かつストーマにおける排便処理に著しい困難を伴う状態などの場合は、一般的に4級に該当します。さらに、ストーマの他に、他の障害も重複している場合や原疾患による合併症が重い場合など、一定の条件を満たすと3級に該当することもあるため主治医に確認しましょう。一時的なストーマの場合は、原則として身体障害者手帳の交付対象とはなりませんが、治療期間が長期に及ぶ場合など、状況によっては医師や市区町村の窓口にご相談ください。
一時的な人工肛門が永久的な人工肛門になることはありますか?
齋藤 雄佑 医師
はい、残念ながら、一時的なストーマとして造設されたものが、結果的に永久的なストーマになる可能性はあります。その主な理由としては、以下のようなものが挙げられます。ストーマ閉鎖を予定していたものの、がんの再発や転移、炎症性腸疾患の再燃などにより、腸管の吻合が困難になったり、肛門機能の温存が不可能になったりする場合。ストーマ閉鎖手術に向けて検査を行った結果、吻合部の治癒が思わしくない、あるいは狭窄が強く、閉鎖しても良好な排便機能が期待できないと判断される場合などです。ストーマ閉鎖手術のための全身麻酔に耐えられるだけの体力がないと判断された場合や、他の重篤な合併症により手術のリスクが高いと判断された場合なども考えられます。また、まれに、ストーマのある生活に慣れ、閉鎖手術のリスクや閉鎖後の排便トラブル(頻便や便失禁など)を考慮した結果、患者さんご自身が永久ストーマを選択される場合もあるでしょう。一時的ストーマが永久的ストーマに移行する可能性については、ストーマ造設の際に医師から説明があるかと思います。もし、そのような状況になった場合は、医師と十分に話し合い、今後の治療方針や生活について理解を深めることが大切です。
編集部まとめ ストーマを正しく理解し、充実した生活を送ろう
この記事では、人工肛門(ストーマ)の種類、寿命、交換頻度や費用、ケア方法、そして日常生活での注意点について解説してきました。ストーマは、病気の治療やQOLの維持・向上のために必要な医療処置です。ストーマそのものに「寿命」があるわけではなく、適切なケアと管理を行えば、生涯にわたり機能します。また、ストーマを造設したからといって、ご自身の寿命が直接的に短くなるわけではありません。ストーマに関する正しい知識を持ち、ご自身の状態に合ったケア方法を身につけることが大切です。そして、食事、入浴、運動、仕事、旅行など、様々な場面で少しの工夫をすることで、ストーマと共に充実した生活を送ることが可能です。不安や疑問、困ったことがあれば、一人で抱え込まず、医師や看護師(特に皮膚・排泄ケア認定看護師)、同じストーマを持つ患者会に相談してください。適切な情報とサポートを得ることで、より安心してストーマライフを送ることができるでしょう。この記事が、皆さんのストーマへの理解を深め、前向きな一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
「人工肛門(ストーマ)」と関連する病気
「人工肛門(ストーマ)」と関連する病気は8個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
これらの病気は、ストーマ造設の背景となりうる疾患であり、ストーマそのものが病気ではありません。原疾患の適切な治療と管理が最も重要です。
「人工肛門(ストーマ)」と関連する症状
「人工肛門(ストーマ)」と関連している、似ている症状は4個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
大腸の疾患が隠れている可能性のある症状を挙げました。気になる症状があるときは医療機関を受診してください。
