「胃がんが移転する」とどんな症状が現れるかご存じですか?移転しやすい部位も解説!
公開日:2025/11/19

胃がんはほかの臓器に転移することがある病気です。胃がんと診断されると進行度を調べるためさらに精密検査を受けて治療方針を決めることになります。 胃がんが起こしやすい転移や、検査・治療法についてわかりやすくご説明します。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
目次 -INDEX-
胃がんとは
胃は食べたものをためて、消化液を出して消化し、一定の速度で少しずつ腸の方へ送り出す機能がある臓器です。胃の壁は、内側から順に粘膜・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層・漿膜という層に分かれています。がん細胞が最初に発生するのは胃の内側を覆っている粘膜の細胞で、それが増えてできるのが胃がんです。
一番内側の粘膜にとどまっているうちは転移しませんが、がんが大きくなるとリンパ節やほかの臓器に転移する可能性があります。
がんの進行度を分類する指標は、がんの深さ・リンパ節転移の数・ほかの臓器への転移の有無です。進行度・がんの大きさや位置に応じて治療方針を決定します。
胃がんの転移について
がんはリンパの流れや血流に乗って転移するため、血液の流れによって転移しやすい臓器があります。胃がんが転移しやすいのは体のどの部位なのでしょうか。また、転移することによりどのような症状があらわれるのかについてもご紹介します。
ステージ1でも起こりうるリンパ節転移
早期胃がんとされるステージ1の胃がんでも、リンパ節転移を起こすことはあります。がんが粘膜下層に到達すると、血管やリンパ組織があるため近くのリンパ節に転移することがあるのです。リンパ節への転移が1〜2個の場合ステージ1Bの診断となり、ステージは1でリンパ節転移がある状態となります。
ステージ1Bの場合でも転移のあるリンパ節の数が少なく胃の近くにとどまるため、胃とともにリンパ節を取る手術をする治療となることが多いでしょう。
転移しやすい部位
胃がんが転移しやすい部位は、胃の近くにある臓器やリンパ節が主ですが、それ以外の離れた臓器にも血流に乗って転移することがあります。がんが胃の壁の外に出ると起こりやすいのは腹膜播種と呼ばれる転移で、小腸・大腸・腹膜に種が撒かれるようにがんが広がっている状態です。特にスキルス胃がんは腹膜に転移しやすく、見つかったときには腹膜播種となっていることも多いようです。
肝臓・肺のほか骨に転移することもあり、まれに脳転移も起こします。
転移に伴う症状
腹膜播種や肝転移ではお腹の膜全体に広がることがあるため、体重減少・腹痛・だるさなどの症状が出ます。病状が進むと腹水がたまるためお腹が張り、ほかの臓器を圧迫して食欲不振・吐き気などの症状が出ることがあるでしょう。
肝転移の場合は無症状のまま検査で見つかることがあり、個数が増え大きくなると痛み・黄疸・むくみなどの症状が出ます。
肺転移も無症状のまま検査で見つかることが多く、気管支に広がると血痰や息切れなどの症状が出ることがあります。
骨転移の場合は骨折しやすくなるほか、転移したところに痛みを感じるのが特徴です。背骨に転移すると脊髄の神経に影響することもあり注意が必要です。
脳転移はまれですが、頭痛・嘔吐・てんかん発作・意識障害などが起こります。
胃がんの進行度を診断する検査
胃がんの進行度を示すステージは、がんの深さ・リンパ節転移の個数・遠隔転移の有無に応じて決まります。がんの状態を評価する検査には以下のようなものがあります。- 超音波内視鏡検査
- 腹部超音波検査
- CT検査
- MRI検査
超音波内視鏡検査
超音波内視鏡検査は、口からスコープを入れて消化管の壁から超音波を当て、近くの臓器を詳しく調べることができる検査です。CTやMRIなどの画像検査でわからないような小さな病変も見つけられるため、周辺のリンパ節転移の有無を確認できます。しかし、超音波内視鏡検査では深達度を評価することが少なくなく、リンパ節転移はほかの画像検査で確認することが多いでしょう。
腹部超音波検査
腹部超音波検査は、一般的な健康診断でも使われる検査です。超音波プロープを体に当てて跳ね返った超音波が画像として映し出され、その画像を医師が見て診断します。この腹部超音波検査を使い、胃の周辺にあるリンパ節転移や肝転移の有無を調べます。
CT検査
CT検査はX線によって体の断面を撮影する検査です。がんの部分は造影剤を使うとわかりやすいので造影CTを撮影します。ただし、造影剤はアレルギーが出ることもあり注意が必要です。
CT検査ではがんの深さや大きさのほか、肝臓や肺転移など臓器への転移の有無も詳しく確認でき、腹水や腹膜播種の有無もわかります。
MRI検査
MRI検査は磁気を使って体の断面を撮影する検査です。強力な磁気なので、体に金属が入っている方や心臓ペースメーカーがある方は検査を受けられないことがあります。MRI検査の目的は、CT検査とあわせて転移の有無を調べるためです。MRI検査でもCT検査と同様に造影剤を使用して検査をします。閉所恐怖症の人はMRI検査を受けられません。
これらの検査以外にも、PET-CT検査があります。PET検査は特殊な薬剤を使って、がんの位置を調べる検査です。
このPET検査とCT検査を組み合わせたのが、PET-CT検査となります。遠隔転移やがんの再発などを調べるのに有効といわれています。
胃がんが転移した場合の治療法
胃がんがほかの臓器やリンパ節に転移していた場合は、どのような治療が行われるのでしょうか。転移している胃がんの治療法についてご説明します。
内視鏡的治療
内視鏡治療は早期胃がんで治療の選択肢となりますが、転移している場合は適応にはなりません。内視鏡で治療できるのは胃の粘膜下層までにとどまりリンパ節転移がないもので、サイズが小さいもののみです。
手術療法
周囲のリンパ節など転移したがんも取りきれる場合であれば手術が選択肢です。がんの位置や大きさによって、胃の一部を切りとる手術や、胃をすべて切除する手術が行われます。転移があれば、同時にリンパ節転移や周囲の臓器の転移がんも切除します。
腹膜播種がある場合や離れた臓器に転移がある場合には、手術をしても取りきれず再発することが多いため、主な治療は化学療法です。
転移があってもがんからの出血やがんによる圧迫で食事が通らない場合などに手術することがあり、これは症状緩和が目的です。
化学療法
手術で取りきれないと判断されたときは化学療法を行います。手術ができた場合でも、ステージ2以上の場合は再発防止のため必要に応じて補助化学療法をします。化学療法は抗がん剤や分子標的薬を使用し、がんが増植するのを抑える治療です。抗がん剤は細胞分裂を抑えたりDNAを壊したりしますが、正常な細胞も障害されるためさまざまな副作用が出ます。
分子標的薬は、がん細胞に関わるタンパク質などを標的にしてがんの増殖を抑えるので正常な細胞には影響しにくい薬です。
ただし特有の副作用はあります。
放射線療法
胃がんは、手術と化学療法が基本的な治療です。放射線療法は、切除できない進行胃がん・再発した胃がんに補助的な治療として使われます。胃の周辺の組織が放射線に弱いため、以下のような場合に限って放射線療法を行います。
- 小さな病変を治す目的
- 食べ物が通らないときなどにある程度がんを小さくして症状を緩和する目的
- 手術ができない胃がんからの出血をコントロールする目的
胃がんの転移についてよくある質問
ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「胃がんの転移」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
胃がんの原因について教えてください。
ヘリコバクター・ピロリ菌の感染により、慢性的に胃炎が起こっている人は将来胃がんになりやすいことが知られています。ピロリ菌を除菌したとしても、それまでに長いあいだ胃炎が起きていた人は引き続き胃がんのリスクがある状態です。近年は衛生環境が整ってきたため、若い世代の感染率は下がってきました。ほかの原因には、喫煙・ストレス・塩分・アルコールがあげられます。
胃がんの再発率はどのくらいですか?
再発率は、胃がんの5年生存率のデータが参考になります。再発の多くは3年以内に起こるため、5年後生存されている方は再発せずに治癒した方と考えられます。
- ステージ1:82.0%
- ステージ2:60.2%
- ステージ3:37.4%
- ステージ4:5.8%
編集部まとめ
胃がんでは、リンパ節・腹膜・肝臓・肺などに転移しやすいことがわかりました。 転移についてはさまざまな検査を組み合わせて確認し、手術と化学療法を状況に応じて使い分けて治療を行います。 わからないことや不安なことがあれば遠慮せず主治医に質問し、理解・納得して治療を受けることが大切です。胃がんと関連する病気
「胃がん」と関連する病気は5個程あります。各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
ピロリ菌感染による慢性胃炎・萎縮性胃炎は胃がんの原因の1つです。胃潰瘍による腹痛・食欲不振・出血などの症状は、がんと似ている場合があります。逆流性食道炎は胃と食道のつなぎ目にできる胃がんの原因の1つです。
胃がんと関連する症状
「胃がん」と関連している、似ている症状は10個程あります。各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
胃痛・吐血・下血・食欲不振は胃潰瘍でもみられる症状です。胃がんは進行するまで症状が出ないこともありますが、ある程度大きくなると食欲不振・胃の不快感などさまざまな症状があらわれます。体重が減る・食事がつかえる場合にはがんが進行している可能性がありますので早めに専門の医師に相談しましょう。




