沈黙の臓器「肝臓がん」が進行すると『どんな痛み』が現れるかご存じですか?医師が解説!

肝臓がんは日本でも多くの患者さんが命を落としている病気です。その原因のひとつに痛みなどの自覚症状が出にくい点が挙げられます。 自覚症状がほとんどないという肝臓がんは、見つかった頃には深刻化しているケースもある怖い病気です。しかし簡単な検査で悪化の予防も可能です。 今回の記事では肝臓がんの痛みを中心に特徴・原因を解説します。また、すぐに始められる予防法も紹介するため、ぜひ参考にしてください。

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
肝臓がんとは
肝臓がんとは肝臓の細胞ががん化した状態であり、肝がんとも呼ばれます。肝臓は成人では約800〜1200グラムと体重の約50分の1を占める大きな臓器であり、以下のような働きをしています。- 蛋白の合成
- 栄養の貯蔵
- 有害物質の解毒・分解
- 食べ物の消化に必要な胆汁の合成・分泌
肝臓にできるがんの総称
肝臓がんとは肝臓にできるがんの総称であり、がん細胞の出どころによって2種類に大別されます。原発性肝がんと転移性肝がんの2種類です。原発性肝がんとは肝臓の細胞ががん化した肝臓から発生するがんで、転移性肝がんとはほかの臓器のがんが転移したがんです。原発性肝臓がんの約90%が肝細胞がんとなります。原発性肝がん・転移性肝がん以外には小児の肝臓がんである肝細胞芽腫などがあります。
沈黙の臓器と呼ばれる自覚症状の乏しいがん
肝臓は疾患があっても自覚症状が現れにくい特徴がある臓器です。肝臓がんになった場合も、症状を手がかりにがんを見つけることは困難です。肝臓がんの初期症状は、目立つ症状はほとんどないといわれています。しかし進行すると以下のような症状が見られます。- 腹部のしこり・圧迫感・痛み
- 腹水・むくみ
- 黄疸
- 肝性脳症
肝炎や肝硬変が関わりやすい
肝臓がんの主な原因はB型肝炎ウイルス(HBV)・C型肝炎ウイルス(HCV)への感染です。肝炎ウイルスが肝臓内に長期間にわたって留まると、肝細胞で炎症が起こります。その後、肝臓に炎症が拡がって慢性肝炎・肝臓が硬くなって肝硬変(かんこうへん)と進行し、やがて肝臓がんとなります。これらウイルス感染に起因するケースのほかには、多量飲酒によるアルコール性肝障害や、メタボリックシンドロームに起因するNASH(非アルコール性肝硬変)があります。
肝臓がんの痛みの特徴
肝臓がんの初期ではほとんど痛みを感じないといいます。サイズも大きく、重要な役割を持つ肝臓に痛みを感じないのはなぜでしょうか。また進行した肝臓がんに現れる痛みとはどのようなものでしょうか。臓器に神経がないため痛みが生じない
肝臓には痛みを感じる神経がありません。そのため肝臓の異変が、痛みを感じられる組織に拡がるまでは、患者さんが痛みを感じることはありません。また痛み以外の症状から、肝臓の異変をキャッチすることも困難です。その原因は肝臓の大きさにあります。肝臓は大きな臓器であるがゆえに、広範囲まで疾患が拡がらなければ機能が低下せず症状も現れません。
進行すると痛みが現れることも
肝臓がんが進行すると、患者さんは痛みを感じるようになります。痛みは右上腹部に現れるケースが多いです。痛むのは肝臓ではなく、肝臓の周辺組織です。肝臓がんは初期では鈍痛・圧迫感が感じられますが、症状が進行すると持続的な痛みとなり日常生活が困難になります。この痛みは背中・右肩に拡散しやすいといいます。
肝臓がんの痛みの原因
肝臓がんでは肝臓に痛みを感じることはありません。では肝臓がんで現れる痛みはどのような原因で引き起こされるのでしょうか。併発している肝臓の炎症によるもの
肝臓は代謝機能を果たす肝実質細胞(肝細胞)と、それを補佐する非実質細胞が集まってできている臓器です。肝臓の表面は滑らかな被膜で覆われて守られています。肝実質細胞や非実質細胞がある部分には感覚神経が通っていませんが、被膜には感覚神経を持っている点が特徴です。肝臓がんを発症しているとき、肝臓は肝炎ウイルスやアルコールの攻撃を受けて慢性的な炎症を起こしている状態にあります。
炎症を起こした肝臓全体は大きく腫れ上がり、肝実質細胞や非実質細胞を覆っている被膜を圧迫します。被膜には感覚神経があるため、肝実質細胞や非実質細胞とは異なり痛みを感じることが可能です。こうして圧迫感を伴う痛みが発生します。
腹水やむくみによるもの
肝臓がんを発症しているとき、肝臓は肝硬変を起こしています。肝硬変になった肝臓は機能が落ちるため、血管内に水分を吸入する・留める手助けがうまくできません。すると体内で行き場を失った水分は、腹膜の下部・下半身のリンパ菅内に溜まります。その結果引き起こされる症状が腹水・むくみです。腹水ではお腹に水が溜まることで、腹部膨満感と呼ばれるハリ・痛み・苦しさが感じられます。
肝臓がんの早期発見のために
自覚症状がほとんどないという肝臓がんを早期発見するために、できることはあるのでしょうか。生活習慣の見直し
まずは肝臓の病気になりにくい身体作りをしましょう。以下のポイントに気をつけて生活習慣を見直してください。- 規則正しい生活
- 十分な睡眠・休養
- タンパク質を含んだバランスのよい食事
- アルコールのセーブ
- 肥満改善
肝炎ウイルスの検査
肝炎ウイルスの検査は国の健康増進事業で、検査対象・制限の範囲内であれば自己負担なしで検査を受けられます。詳細は自治会の案内を確認しましょう。肝炎ウイルスのキャリア数はB型肝炎で推定約110万~120万人、C型肝炎で推定約90万~130万人いるとされています。他人事と思わず、ぜひ検査を受けましょう。肝臓がんに進行する前に肝炎ウイルスの感染を発見できれば、肝炎の段階からの治癒・進行の予防が可能です。
リスクがある場合には腹部超音波検査の実施
血液検査の結果から肝臓がんが疑われたとき、以下のような画像検査が行われます。- 腹部エコー
- CT検査
- MRI検査
肝臓がんの痛みについてよくある質問
ここまで肝臓の痛みの原因や早期発見についてを紹介しました。ここでは「肝臓の痛み」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
肝臓の痛みは内服などで抑えることはできますか?
がん治療では初期段階でも痛みを抑えるために内服薬を処方します。ただし鎮痛剤のなかには非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)のように、副作用として消化管出血や腎障害などを引き起こすものもあり危険です。肝臓がんと診断されたならば、患者さんの自己判断で鎮痛剤を飲むことはやめましょう。
痛み以外の目立つ症状はありますか?
患者さんも目視で確認できる症状には黄疸があります。黄疸は肝機能が低下し、本来は対外に排出されるビリルビンが体内で増加するため引き起こされます。代表的な症状は皮膚・眼球の白い部分が黄色くなる症状です。
編集部まとめ
肝臓がんとは体内の浄化・消化の補助・栄養の貯蔵など、重要な役割を担う肝臓に発症するがんです。 肝臓は痛みを感じる神経がなく、障害を受けてもすぐには機能が落ちない特徴から、病気になっても症状が現れにくくなっています。 肝臓がんの症状として痛みが現れるのは、がんが進行してからです。 肝臓が炎症・がん化で膨れ上がったために周辺組織が圧迫される場合・肝機能が落ちて溜まった水分が腹水・むくみとして現れた場合などに痛みが現れます。 肝臓がんの原因は複数ありますが、多いケースが肝炎ウイルスへの感染です。 日常生活を送っていれば誰にでも感染リスクがあるため、検査で多くの人が感染の有無を知ることが重要です。 肝炎ウイルス感染を早くに発見できれば、肝臓がんを発症する前に治療を開始できます。生活習慣の改善で丈夫な身体を作りながら、定期検査で健康を守りましょう。肝臓がんと関連する病気
「肝臓がん」と関連する病気は3個程あります。各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 肝炎ウイルス
- 慢性肝炎
- 肝硬変
肝臓がんと関連する症状
「肝臓がん」と関連している、似ている症状は4個程あります。各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- だるさ
- むくみ
- 腹水
- 黄疸
参考文献



