「前立腺がんが転移」するとどんな症状が現れる?転移しやすい部位も解説!
罹患者数が男性で1位の前立腺がんが増え続けています。一方で、罹患者の多さに比べて死亡者が少ない特徴を併せ持つのが前立腺がんです。
進行が遅く生存率が高いため楽観視しがちでも、転移・再発しやすい性質は軽視してはいけません。進行すると生活の質が落ちるうえ、転移すれば深刻な事態が待っています。
この後、甘く見てはいけない前立腺がんの転移・再発や症状・治療法を紹介します。罹患者が多くなる中高年の方は、この記事を参考に警戒を始めてください。
監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
目次 -INDEX-
前立腺がんとは
男性に特有の臓器・前立腺にできる前立腺がんは、近年の急速な罹患者増加により2015年以降男性のがん罹患者数のトップを占めています。その概要を見ていきましょう。
前立腺に発生するがん
膀胱の前方にあって直腸に接する前立腺は、尿道と射精管を包み込む3~4cm大の組織です。おおむね円錐形で移行域・中心域と呼ばれる内腺と、辺縁域と呼ばれる外腺で構成されます。
前立腺がんの70%は前立腺の辺縁域で発生し、別の疾患の前立腺肥大症は移行・中心域が肥大する病気です。組織の外側にできる前立腺がんは、初期のうちは特に症状はありません。
しかし、併発する場合がよくある前立腺肥大症の影響を受けると、頻尿など排尿にまつわる症状が出る場合があります。
前立腺がんによる死亡率
前立腺がんの死亡率は、人口10万人あたり21.3人です。最も高い肺がんの90.6人に比べて大幅に低い数値になります。死亡者の総数は約1万3千人で、部位別のがん死亡者数ランクでは6位でした。
前立腺がんと診断された患者数は約9万5千例でトップでしたが、それにも関わらず死亡者が少ないことからも死亡率の低さがわかります。さらに、前立腺がんの5年生存率は99.5%です。
この数値を見ても、死亡率が低いことが裏づけられています。
検査方法
前立腺がんと診断するための検査方法では、PSA検査が一般的です。PSAは前立腺上皮から分泌される前立腺特異抗原のことで、通常は精液に入りますが前立腺の異常で血液に混ざります。血液検査でPSAが検出されれば異常の発生がわかり、抗原の数値でその異常はがんの可能性があることを推定できるのです。
ほかには肛門から指を入れて触診する検査もあります。また、MRIでも高精度な検査が可能です。
これらの検査でがんの疑いが深まれば、組織を採って顕微鏡で調べる生検検査で確定診断となります。
前立腺がんが転移しやすい好発部位
前立腺がんは転移しやすい性質を持っていて、進行に伴って転移がおきます。なかでも特に転移しやすい好発部位・骨とリンパ節への転移の動向を解説します。
骨
前立腺がんは骨転移の頻度が高いがんとされます。前立腺から外に出たがん細胞は血流・リンパに乗って移動し、定着しやすいのは栄養分が多い好発部位の骨です。
がん細胞はランクルという破骨細胞を活性化する物質を出して骨を溶かします。骨にはがん細胞の増殖に必要なミネラル・タンパクが豊富で、がん細胞は骨を溶かしてこれを利用して活発に増殖します。転移しやすい骨は近隣の骨盤や脊椎のほか、大腿骨・胸骨・肋骨・上腕骨などです。
リンパ節
前立腺がんの転移で骨と同様に多発するのがリンパ節への転移です。前立腺の組織内にあったがんが外に向かって浸潤(しんじゅん=浸みるように広がる)して、がん細胞が外に出ます。
そしてリンパ管に入って近隣にあるリンパ節に転移した状態がリンパ節転移です。こうなると、やがてリンパの流れに乗って離れた臓器への転移が始まります。その前段階とされる状態です。
前立腺がんの転移部位別にみられる症状
前立腺がんが転移すると転移先で増殖して周囲の組織に影響を与え、その結果さまざまな症状が出てきます。骨転移とリンパ節転移のそれぞれにみられる症状を解説していきましょう。
骨転移の場合
前立腺がんが骨転移すると、がん細胞に活性化された破骨細胞が転移部分の骨を壊すため痛みが出ます。近隣の骨盤・脊椎に転移した場合にみられるのは、腰痛・下肢痛などの痛みと下半身の麻痺・しびれなどの症状です。
骨が侵されて弱くなった部分では骨折もおこります。麻痺やしびれは圧迫骨折で脊髄が圧迫されて出る症状です。溶かされた骨のカルシウムが血液に入ると高カルシウム血症になり、食欲不振・倦怠感・多尿・意識障害など全身症状が出ることもあります。
リンパ節転移の場合
前立腺がんでは最初は前立腺に近い閉鎖リンパ節へ転移し、その後進行すれば大動脈近くのリンパ節へも転移します。すぐそばに腎臓から膀胱に向かう尿路があり、ここへ浸潤すると尿の流れが悪くなって水腎症をおこすことがあります。
また、炎症をおこしてリンパの流れを阻害すると、現れるのが下半身のむくみです。転移先で進行した場合、下半身にしびれ・麻痺が出る恐れもあります。
前立腺がんが転移した場合の治療法・再発リスク
前立腺がんでリンパ節やほかの臓器に転移した状態は、進行の最終段階です。治療の選択肢から手術はほぼ除かれますが、ホルモン療法や抗がん剤を使う化学療法で対応できます。転移がんの治療法と再発のリスクを解説します。
内分泌療法(ホルモン療法)
前立腺がんは男性ホルモンの刺激で増殖・進行します。影響を抑えるため、精巣と副腎から分泌される男性ホルモンを抑制するのが内分泌(ホルモン)療法です。転移がんにはまずこの方法が選択され、薬品で分泌を抑える去勢療法と、手術で精巣(睾丸)を切除する除睾術があります。どちらも大多数の方に効果が見られる治療です。
ただ、数年経つとがんが耐性を持ち徐々に効果が薄れる場合がみられます。その際は薬を変えたり抗がん剤を使ったりして対応が可能です。
化学療法
ホルモン療法に耐性ができるなどで効果が落ちてくると、抗がん剤を使う化学療法が検討されます。薬を内服や点滴で投与してがん組織を縮小・消滅させる目的の治療法です。
効果が期待できる抗がん剤を単体で使ったり、複数組合せて使ったりします。新薬の開発も進み、骨転移にはゾーフィゴが注目されています。
治療後の再発リスク
前立腺がんの根治を目指す手術・放射線治療の術後には、2~3割程に再発が見られます。ただし、PSA値の上昇による生化学的再発で、画像などで確認できる臨床的再発ではありません。位置が特定できるまでには数年かかるといわれ、すぐに命に関わることはなく経過観察も選択肢です。
治療には状況に応じてホルモン療法や化学治療が適用されます。また、いったん縮小した転移がんのPSA値が再上昇した場合は再燃と呼ばれ、経過観察・化学治療が選択肢です。
前立腺がんの転移についてよくある質問
ここまで前立腺がんの特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「前立腺がんの転移」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
転移した前立腺がんは完治しますか?
村上 知彦(医師)
進行して転移した前立腺がんでは、完治は難しくなります。完治させる治療法は外科手術ですが、他臓器に転移した場合は手術は行われません。目に見えない状態のがんまで取り除くことは困難だからです。転移のないがんでも2~3割で再発していることからも、転移がん完治の難しさがわかります。
転移した場合の生存率を教えてください。
村上 知彦(医師)
転移がある4病期の患者さんを対象にした調査では、5年生存率が60.1%でした。転移がなく皮膜までにとどまった1~2病期では100%、隣接臓器に浸潤した3病期の98.5%に比べると大幅な低下が見られます。それでも肺がん・胃がん・食道がんの4~9%と比べると、はるかに高率です。とはいえ、遠隔転移は予後良好とされる前立腺がんでも生存率に大きく影響するのは間違いありません。
編集部まとめ
転移した前立腺がんの性質や好発部位・治療方法などを解説しました。前立腺がんは骨やリンパ節に転移しやすい性質のがんです。
転移すると手術はできず、ホルモン療法や化学療法に頼ります。つまり完治は難しく、再発リスクも低くはありません。生存率は高くても、排尿障害や骨の痛みに長く悩まされます。
幸い血液検査で早期に発見でき、手術で取り切れば完治が望めます。転移を防ぐため、50歳になったら毎年検診を受けましょう。国保・協会けんぽ・健保組合とも補助があります。
前立腺がんと関連する病気
「前立腺がん」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
どの疾患も排尿困難や頻尿など、進行した前立腺がんと似た尿関連の症状があります。尿に異変を感じたら前立腺がんの可能性もあるので、まずは泌尿器科を受診しましょう。急性前立腺炎は発熱があるので区別できます。
前立腺がんと関連する症状
「前立腺がん」と関連している、似ている症状は6個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
尿関連の症状は前立腺肥大症・慢性前立腺炎と共通しています。脚のむくみやしびれは下肢静脈瘤でもおこる症状です。慢性病で慣れた症状であっても、前立腺がんの可能性がある以上放置しないで定期的に受診してください。