「男性乳がんの治療法」はご存知ですか?原因・症状も解説!【医師監修】
乳がんは女性に多い病気のため、男性が乳がんと疑われる症状を自覚した場合「何科にかかればよいのだろう」「どのように治療するのだろう」と不安な気持ちになるかもしれません。
今回の記事では、男性乳がんの治療方法のほか、男性乳がんの原因・よくある症状も解説するので受診の際の参考にしてください。
記事の後半では、男性乳がんについてよくある質問にも回答します。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
男性乳がんとは?
乳がんとは乳房の組織に発生するがんで、その多くが乳腺から発生します。女性に多い病気で、2019年の統計では年間で「乳がん」と診断された患者さんの数は、女性97,142人に対して男性は670人です。
このように、性別によって発症リスクには大きな差がありますが、男性乳がんの場合も発生メカニズム・治療方法・進行度ごとの治療成績は女性の乳がんとほぼ同じです。
ただし、男性乳がんは女性の乳がんと比較すると診断時には進行した状態で発見される場合が多いです。これには、女性に対する乳がん検診・自己検診などの啓発が進んでいること、また市町村が行うがん検診の対象が女性のみであることなどが考えられます。
このような背景から、男性は自覚症状に気付いても受診・相談のチャンスが少なく、また「乳がんではないか」との発想に至りにくい可能性があるため注意が必要です。記事後半で紹介する男性乳がんの症状や「よくある質問」も参考に、気になる症状があれば早めの受診をおすすめします。
男性乳がんの治療法
男性乳がんの主な治療方法は下記の4つです。
切除が可能な段階で乳がんが発見された場合には、外科治療が治療方法の第一選択となります。また、別の臓器・リンパ節などに転移がみられた場合の治療や、術後の再発予防を目的とした治療法が放射線療法です。
一方、転移が広範囲にみられるなど全身に対して治療が必要な場合には、抗がん剤療法・ホルモン療法のような薬物療法が選択される可能性が高いでしょう。
外科治療
外科治療は、切除の範囲によりいくつかの種類があります。腫瘍の数が少ない場合に選択される方法が、腫瘍と周辺組織のみを切除する「乳房部分切除術」です。
一方、腫瘍が周囲に広がっていたり、複数箇所に腫瘍があったりする場合には「乳房全切除術」を行うことがあります。
その他、手術前の画像検査・生検などの結果でリンパ節転移を指摘された場合には、腋窩リンパ節を郭清します。
放射線療法
放射線療法とは、高エネルギーの放射線をがんに照射することで、がん細胞の死滅・縮小を図る治療法です。強い痛みなどはないとされる治療法ですが、照射部分が日焼けのようにヒリヒリしたり、水ぶくれができたりする場合があります。
また、正常な組織にも放射線が当たり体調に影響が出ることもあるため、治療後の体調の変化は必要に応じて医師に相談しましょう。
抗がん剤治療
抗がん剤治療とは、がん細胞を攻撃する薬物を投与してがんの死滅・縮小を狙う治療法です。
抗がん剤には分子標的薬・細胞障害性抗がん薬・免疫チェックポイント阻害薬などの種類があり、がんのタイプや患者さんの状態に応じて薬の選択・調整をします。
ホルモン療法
乳がんの発生・増殖には、ホルモンの働きが深く関わっているとされています。このようにホルモンを利用して増殖するタイプのがんに対しては、ホルモン療法を行う場合があります。
ホルモン療法薬は、ホルモンの分泌・働きを阻害してがんを攻撃する薬です。ホルモン療法を受けると、体内のホルモンバランスが変化するので更年期障害のような症状が現れる場合があります。
男性乳がんの原因
この記事の冒頭で「男性乳がんの原因は女性の乳がんと同じ」とお伝えしましたが、具体的にはどのような原因があるのでしょうか。ホルモン・家族歴・遺伝子異常の3つの原因を解説します。
ホルモンの影響
乳がんは、体内の女性ホルモンが増えることで発症リスクが上がるといわれています。男性の体内でも女性ホルモンは分泌されていますが、健康な方の場合は男性ホルモンのほうが優位になっています。
しかし、加齢・肝疾患・精巣異常・クラインフェルター症候群・肥満などにより女性ホルモンが増える場合があります。
家族歴
多くのがんの場合、発症リスクは家族歴に左右されるといわれています。男性乳がんの場合も、近親者に乳がんの患者さんがいる方は、そうではない男性と比べると発症リスクが2倍に上昇するのです。
この場合の乳がんの患者さんには、男性だけでなく女性も含まれます。
遺伝子の異常
がんの発症には遺伝子の変異が関わっているとされますが、近年になって遺伝性乳がんの発症にはBRCA1・BRCA2という遺伝子の変異が関わっていることがわかりました。
これらの遺伝子に異常が起こっているか調べることで、乳がんのタイプを判別し治療方針の選択に生かす場合があります。
男性乳がんの症状
検診が確立されていない男性乳がんでは、患者さんが症状に気付くことが受診の主なきっかけとなります。では、男性乳がんになった場合はどのような症状がみられるのでしょうか。
乳房のしこり
女性の場合にも、乳がんに気付くきっかけは「しこりが触れる」という自覚症状が多いとされています。男性も同じく、乳がんになるとしこりが触れる場合が多いです。
ただし、女性は乳腺が発達し乳房全体に広がっているのに対して、男性の乳腺は乳輪周辺のみにあります。そのため、乳腺由来のがんであった場合には、しこりは乳輪周辺にできる可能性が高いでしょう。
皮膚の引きつり
乳房の正常な組織のなかにがんができると、その周辺だけ皮膚が引きつったようにみえたり、えくぼのようにへこみが現れたりする場合があります。
体形・筋肉量などにより引きつり・へこみがわかりにくい場合もありますが、日頃から1ヵ月に1回程入浴後に鏡で左右の胸を見比べたり、異常がないか確認したりする時間を設けることが大切です。
乳頭の内陥・分泌物
乳頭(乳首)の周辺にがんができることで、以前よりも乳頭が陥没したように見えることがあります。また、乳腺にがんができることで乳頭からの分泌物が出る場合があります。
このような場合の分泌物は、粘度の低い液体または血性の液体が多いです。
腋窩リンパ節の腫れ・痛み
乳房からわきの下にかけては、内胸リンパ節・腋窩リンパ節などがあります。
乳がんは乳房付近のリンパ節に転移しやすく、このような場合にみられる症状がリンパ節の腫れ・痛みです。そのため、前述のような「乳輪付近のしこり」ではなく、わきの下にしこりを感じる場合もあります。
男性乳がんの治療についてよくある質問
ここまで男性の乳がんの原因・症状・治療法などを紹介しました。ここからは「男性の乳がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
女性の乳がんとの違いを教えてください。
甲斐沼 孟(医師)
記事の冒頭でもお伝えしたように、男性乳がんは基本的に女性の乳がんと同じ病気です。そのため、治療方法・検査方法などについても、女性の乳がんについての情報が参考になるでしょう。ただし、女性とは乳腺・乳房の発達程度が異なることなどから、症状の現れ方がやや異なる場合があります。また、ホルモンバランスなどの関係から、女性の好発年齢は30代後半~60代なのに対して、男性の好発年齢は60代~70代です。
男性乳がんが疑われる場合は何科を受診すればよいですか?
甲斐沼 孟(医師)
乳がんを専門する診療科には「乳腺外科」があります。しかし、乳腺外科の患者さんは多くが女性であることなどから「本当に乳腺外科へ行っていいのだろうか」と悩む男性もいるかもしれません。このような場合には、Webサイトなどに「男性の診察も行っている」と明記してある乳腺外科を探して、事前に電話で流れを確認するとスムーズに受診できます。内科・外科などのかかりつけに相談して、必要に応じて紹介状を書いてもらうのもよいでしょう。
編集部まとめ
男性乳がんは、乳がん全体の1%程とされる罹患者数の少ない病気です。そのため、病気に関して知りたいと思っても、男性乳がんに限定した情報が見つからないこともあるかもしれません。
しかし、症状に気付いたら早期に診断を受けて治療を始めることが、治療後の生存率向上につながります。
「なんとなく相談しにくい」などの気持ちはあるかもしれませんが一人で悩まずに、まずは今回の記事も参考にしながら受診できる医療機関を探してみましょう。
男性乳がんと関連する病気
「男性乳がん」と関連する病気は3つあります。各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
乳腺炎・女性化乳房は、男性乳がんと似た症状が現れる病気です。また、クラインフェルター症候群の患者さんは、健康な方と比較して乳がんの発症リスクが高いとされています。
男性乳がんと関連する症状
「男性乳がん」と関連する症状は3つあります。各症状の原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 胸のしこり
- 乳頭(乳首)からの分泌物
- 乳頭周辺のただれ
ただし、これらの症状はほかの乳腺疾患などでも見られることがあります。気になる症状があれば、まずは医療機関を受診して症状の原因を調べることをおすすめします。