「肝臓がんを疑う顔色」はどんな色かご存知ですか?症状や治療法も解説!
肝臓は「沈黙の臓器」ともいわれ、病気になっても症状が現れにくい臓器といわれています。その肝臓ががんになると「顔色が悪くなる」といわれるのは本当なのでしょうか。
今回の記事では、肝臓がんの概要・顔色が悪くなる理由・治療法などについて解説します。
記事の最後では「肝臓がんと顔色」についてよくある質問についても答えていくので、こちらも併せて参考にしてください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
肝臓がんとは
肝臓は右上腹部にある臓器で、取り込んだ栄養素を身体に必要な成分に変える・身体に不要な物質を解毒する・胆汁を作るなどの役割があります。
この肝臓に発生するがんの総称が「肝臓がん」です。
肝臓がんの種類
肝臓がんは、最初にがんが発生した臓器(原発巣)により原発性肝がん・転移性肝がんに分かれます。
原発性肝がんは肝臓から発生したがんで、転移性肝がんは別の臓器に発生したがんが肝臓に転移したものです。原発性肝がんのうち90%は「肝細胞がん」という種類のがんで、そのほかに胆汁を輸送する管から発生する「肝内胆管がん」などがあります。
発生原因
肝臓がんの原因は、多くが肝炎だといわれています。
これまではウイルス性肝炎であるB型肝炎・C型肝炎が原因の中心でした。しかし、近年では治療技術が進みウイルス性肝炎による肝臓がんは減少傾向にあります。
一方、メタボリックシンドロームに起因する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が増加傾向です。このほかの原因としては、アルコールの大量摂取によるアルコール性肝障害や、自己免疫性肝炎などがあります。
いずれの場合も、肝臓が繰り返し炎症を起こし続けるうちに組織が変異し、肝硬変を経て肝臓がんに至ることが多いです。
罹患率と死亡率
1年間に肝臓がんと診断された方の数は、2019年のデータでは3万7,296人で、令和2年の推計患者数は8万9,000人とされています。
また、2020年のデータでは肝臓がんにより亡くなる方は1年間に2万4,839人なので、死亡率は28%ほどです。患者さんの男女比は2:1で、男性のほうが2倍ほど多いことがわかっています。
好発年齢は50歳以降で、50歳を超えた頃から加齢とともに肝臓がんと診断される方の数は増加します。
肝臓がんで顔色が悪くなる状態とは
肝臓がんが進行すると、身近な方・患者さん自身からみて「顔色が悪くなった」といわれることがあります。これは肝臓がんの患者さんによくみられる黄疸という症状です。
では、なぜこのような症状が現れるのでしょうか。
肝機能の低下
肝臓には、ビリルビンという色素を排出する役割があります。ビリルビンは赤血球が定期的に分解される際に生じ、健康な方の体内にも存在する物質です。
通常であれば血中のビリルビンは肝臓を通って胆汁に流入し、十二指腸に分泌された胆汁とともに便・尿の一部となって排出されます。しかし、肝機能が低下するとビリルビンの排出が滞り、血中のビリルビン濃度が上がるのです。
ビリルビンは濃い黄色をしており、血中に蓄積することで白目・皮膚などの組織に沈着します。そのため、肝機能が低下すると白目・皮膚が黄色くなる「黄疸」が起こります。
黄疸が出るときの肝臓がんの進行状況
黄疸は「肝機能がやや低下した」という程度で現れることは少なく、上記のメカニズムにより黄疸がみられた場合は肝臓がん・肝機能障害がかなり進行していると推測されます。
ただし、肝臓がんのなかでも肝内胆管がんの場合は、肝機能低下とは異なるメカニズムで黄疸が現れる場合があります。
これは「閉塞性黄疸」とよばれる種類の黄疸です。閉塞性黄疸の場合は、腫瘍などにより胆管が狭くなり、通過できなかった胆汁が血中に流れ込むことで血中のビリルビン濃度が上がります。
この場合は、胆管を広げるための治療をすると黄疸が改善する可能性があります。
黄疸以外に現れる肝臓がんの症状
肝臓は、病気になっても痛みなどの自覚症状が現れにくい臓器といわれています。
そのため、肝臓がんによる症状は主に肝機能低下による食欲不振・浮腫・倦怠感などです。しかし、肝機能がさらに低下すると黄疸のほか腹水・肝性脳症なども現れます。
また、肝臓がん自体が増大すれば痛みを感じたり、右上腹部に腫瘍を触知できるようになるでしょう。
ほかの病気の可能性
進行した肝臓がん・肝機能障害の患者さんにみられる「黄疸」ですが、ほかの病気でも同じような症状がみられることはあるのでしょうか。
ここからは、前述の閉塞性黄疸の原因となる疾患を4つ紹介します。
胆道がん
肝臓の内部にある肝内胆管は、そのまま肝臓の外に延びて肝外胆管となり、十二指腸へとつながります。このような胆汁が通る管の総称が「胆道」です。
胆道にがんが発生すると、胆汁の通り道が狭くなり閉塞性黄疸になる場合があります。
膵がん
膵臓は胃の後ろ側にある臓器で、その一部は十二指腸に接しています。
この膵臓に発生するがんが「膵がん」です。
膵臓のうち、十二指腸に接している側を「膵頭部」と呼び、肝臓から延びた胆管は膵頭部の中を通って十二指腸につながっています。そのため、膵頭部にがんが発生すると付近を通っている胆管が圧迫されて閉塞性黄疸が起こる場合があるのです。
十二指腸乳頭部がん
胆道が十二指腸につながる開口部を「十二指腸乳頭部」といいます。この部分にできる十二指腸乳頭部がんも、胆管がんと同じく胆汁の流れが滞る原因の1つです。
胆道がんの中でも、肝外胆管・十二指腸乳頭部は腫瘍ができると閉塞性黄疸が出やすいとされています。
総胆管結石
総胆管結石は胆石の一種です。胆石とは、通常であれば胆汁の中に溶けているコレステロール・ビリルビンが溶けきらずに結晶化したものです。
胆石により胆管が詰まると閉塞性黄疸のほか上腹部の痛み・吐き気など強い症状が出ることがあります。
肝臓がんの治療方法
肝臓がんの治療法は、大きく分けて下記の4種類です。患者さんごとに、残存している肝機能・がんの広がり・がんの数・転移の有無などをもとに治療方針を決めていきます。
- 外科手術
- 穿刺局所療法
- 塞栓療法
- 薬物療法
- 放射線療法
外科手術には、肝切除・肝移植などがあります。一方、局所穿刺療法とは腹部から肝臓がんの病巣に針を刺して、ラジオ波での焼灼・エタノール注入・マイクロ波での凝固を行う治療法です。
また、塞栓療法では鼠径部などの太い動脈からカテーテルを入れます。カテーテルをがんの付近まで進めて、がんに栄養を送っている血管を塞栓することでがんの縮小を図る治療法です。
なお、残存する肝機能が低い・腫瘍の数が多い・広がりが大きいなどの状況では上記の方法が適応にならず薬物療法・放射線療法を行うことがあります。
肝臓がんの顔色についてよくある質問
ここまで肝臓がんの概要・症状などを紹介しました。ここでは「肝臓がんの顔色」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
肝臓がんで黄疸が出た場合の余命はどれくらいですか?
甲斐沼 孟(医師)
肝臓がんの進行度は、黄疸の有無でなく腫瘍の数・大きさ・広がりにより判断されます。
腫瘍の数が少なく血管・胆管まで広がっていないなどの条件を満たしていれば、肝臓がんの5年生存率は15.6%です。しかし、血管など周囲へ広がっている場合は15.4%、遠隔転移がみられる場合は3.1%と急激に低下します。
余命は、この5年生存率のほか患者さんの年齢・全身状態・肝臓がんの状態・選択した治療などから主治医が予測して、患者さんに伝える場合があるものです。
そのため、症状・病名から画一的に予測することはできません。
肝臓がんを疑うような黄疸が出た場合は何科を受診すればよいですか?
甲斐沼 孟(医師)
黄疸の原因となり得る肝臓・胆のう・膵臓は「消化器」に分類されるため、黄疸を専門とする診療科は消化器内科です。ただし、患者さんが小さなお子さんの場合は小児科を受診しましょう。
編集部まとめ
肝臓がんの多くは肝炎が原因であり、肝炎の中には適切な治療・生活改善により治癒が期待できるものもあります。
初期の肝機能障害は自覚症状が少ないため受診せずに放置されてしまうケースもありますが、検診などで異常を指摘されたら早期受診して肝機能の維持に努めましょう。
こうした早めの対応が、肝臓がんの発症リスクを抑え、もし発症した場合でも治療法の選択肢を広げることにつながります。
肝臓がんと関連する病気
「肝臓がん」と関連する病気は2つほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 肝炎
- 肝硬変
肝炎にはさまざまな原因がありますが、いずれも慢性化することで肝硬変を経て、肝臓がんにつながる可能性があります。
肝臓がんと関連する症状
「肝臓がん」と関連している、似ている症状は5つほどあります。
各症状・原因・治療法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 食欲不振
- 浮腫
- 倦怠感
- 黄疸
- 腹水
いずれも肝機能が低下した場合にみられる症状です。しかし、肝臓がん以外の病気でもみられる症状であり特異性は低いといえます。気になる症状があれば、早期の受診をおすすめします。