「歯肉がんの手術方法」はご存知ですか?歯肉がんの種類や症状についても解説!
歯の周辺にできるがんについて「内臓にできるがんよりも治療・症状についてイメージしにくい」という方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、口腔がんの一種である「歯肉がん」について概要・手術方法・症状などを解説します。
記事の後半では、歯肉がんに関するよくある質問についても回答していくので、歯肉がんの治療・再発について知りたい方も参考にしてください。
監修歯科医師:
熊谷 靖司(歯科医師)
目次 -INDEX-
歯肉がんとは?
すべてのがんのなかで口腔がんは1%程を占めるにとどまり、症例の少なさから「希少がん」とされます。
口腔がんの90%は粘膜組織から発生する扁平(へんぺい)上皮がんという種類のがんです。扁平上皮がんのほかには、下記のような種類のがんがあります。
- 腺系がん
- 肉腫
- 悪性リンパ腫
- 転移性がん
歯肉がんは、この口腔がんの一種です。この歯槽骨を包んでいるピンク色の部分が「歯肉」です。この歯肉から発生したがんが「歯肉がん」で、口腔がんのうち約18%を占めています。
口腔がんは、歯肉のほか下記の部位に発生します。
- 頬粘膜
- 硬口蓋
- 舌
- 口腔底
発生部位によりがんが広がりやすい組織が異なり、歯肉がんの場合は歯槽骨・軟部組織への浸潤に注意が必要です。軟部組織とは骨以外の組織を指し、具体的には腱・筋肉・脂肪組織・血管・皮下組織などが挙げられます。
歯肉がんの手術について
歯肉がんになった場合の治療として、最も多いのが手術です。手術の主な目的は病巣の切除ですが、歯肉がんの手術とはどのようなものなのでしょうか。
病巣の切除にともなう移植術・術後補助療法についても解説します。
広範囲局所切除術
歯肉がんの治療では、がんが広がって切除が不可能とされる場合を除いて、手術が標準治療です。
切除する範囲は、がんの広がり・深さ・転移の有無などから総合的に判断していきます。
がんが粘膜層にとどまっている場合には、局所的な切除のみで治癒する可能性もあるでしょう。しかし、局所切除で病巣を切除しきれない場合には切除の範囲を広げたり、転移の可能性があるリンパ節の郭清を行うこともあります。
皮膚移植
歯肉がんが周辺の骨・軟部組織にまで浸潤している場合、口腔内粘膜・骨の切除などを行います。
このような場合に、術後の口腔機能を保つことを目的として、患者さん自身の皮膚・別の部分の骨などを使用した再建術を行うことがあります。また、移植ではカバーできない部分・移植をせずに手術を終える場合などについては人工物での補綴(ほてつ)が必要です。
例えば、歯だけを失った場合には義歯を作るように、顎の骨ごと切除を行った場合には「顎義歯」と呼ばれる補綴物を使用することがあります。これは、失った顎の骨・硬口蓋などを補うための補綴物です。
手術後に放射線治療を行うケース
歯肉がんの治療では、再発率を下げるためにも手術前にがんの範囲・転移などを確認することが重要です。しかし、慎重に検査を行っても手術で病変が取りきれない可能性もあり、また術後にリンパ節転移が明らかになる場合もあります。
このようなケースでは術後に補助療法として放射線治療を併用することで再発予防を図ります。
歯肉がんの種類
歯肉がんは、上顎歯肉がん・下顎歯肉がんの2種類に分かれます。同じ歯肉のがんですが、発症率・治療方法などに違いがあるため分けて考えられることが多いのです。
上顎歯肉がん
口腔がんの罹患数に占める上顎歯肉がんの割合は6.0%で、口腔がんのなかでも珍しいといえます。
がんが狭い範囲にとどまっている場合の手術では、骨の切除はともないません。しかし、がんの浸潤が広範囲にわたれば上顎骨だけでなく頬骨・眼窩・鼻骨にまでにおよぶ摘出を行う可能性がある病気です。
下顎歯肉がん
口腔がんのなかで多いのは、60%を占める舌がんです。次いで多いのが下顎歯肉がんで、罹患数は口腔がん全体の11.7%となっています。
上顎歯肉がんにもいえることですが、歯肉がんは歯槽骨への浸潤が早い傾向にあるため注意が必要です。また、下顎から首にかけてはリンパ管・リンパ節が多く、上顎歯肉がんと比較してリンパ節に転移しやすい傾向にあります。
歯肉がんの症状は?
ここまでは、歯肉がんについて概要・治療方法を解説しました。では、実際に歯肉がんになった場合にはどのような症状が現れるのでしょうか。
ここでは、患者さん本人にもわかりやすい症状について紹介するので、ぜひセルフチェックをしてみましょう。
歯肉にしこりができる
歯肉がんの初期症状は、出血・痛みをともなわないしこりです。
もし、歯茎にできもののような隆起をみつけた場合は、まず自分で触れてみましょう。隆起の内容物が粘液・膿などの場合は、押すと少し凹むような感覚があるはずです。一方、歯肉がんの場合は「硬い」という特徴があります。
歯がぐらつく
歯肉がんが歯槽骨に浸潤すると「骨吸収」が起こります。
骨吸収とは、骨が溶けたように減った状態です。歯槽骨が減少すると、歯が支えを失うことで歯のぐらつきが現れるのです。なお、歯槽骨の吸収は歯肉がんに限らず、歯の喪失・歯周病などさまざまな原因によって起こります。
入れ歯が合わなくなる
入れ歯は、義歯床(歯茎を模した部分)を歯茎の形に合わせることで安定しています。しかし、歯肉のしこり・歯槽骨の吸収などがあると歯茎の形が変わり、入れ歯が合わなくなるのです。
がんの発見につながる可能性もあるため「入れ歯が歯茎に当たるようになった」「外れやすくなった」などの変化を感じたら、歯科医院の受診をおすすめします。
歯肉がんの手術についてよくある質問
ここまで歯肉がんの概要・治療・症状などを紹介しました。ここでは「歯肉がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
歯肉がんにかかったら必ず手術が必要ですか?
熊谷 靖司(医師)
- 深部のがんは放射線治療では治癒が期待できない
- 高線量では放射線性骨壊死が起こる
- 抗がん剤は骨へ移行しにくい
放射線治療は、がんが深くまで広がっていない初期の段階で選択することが多い治療方法です。一方、化学療法は主に進行した切除不能がんに対して行います。しかし、歯肉がんの手術では骨を含めた切除が必要になることもあります。ただし患者さんの希望により放射線・薬物療法のみによる治療を選ぶことも可能です。口腔がんの手術後は口腔内の構造が変化することで、食べる・話すなどの機能面のほか、容貌にも変化が起こる可能性が高いでしょう。そのため、治療の際には手術を希望されない方もいます。
手術後に歯肉がんが再発する可能性はありますか?
熊谷 靖司(医師)
ほかの多くのがんと同じく、歯肉がんも再発の可能性があります。根治目的の治療を行った後に歯肉がんが再発する確率は24〜48%です。再発には転移先からの再発・原発巣からの再発がありますが、歯肉がんの場合は両者の再発数に大きな差はありません。なお、再発の75%以上は治療後2年以内に発生しています。このような再発のリスクを下げるために、手術後に放射線治療・薬物療法を行うことがあります。
編集部まとめ
歯肉がんは、進行すると歯のぐらつき・骨に及ぶ切除につながることもあり、摂食・会話などの生活機能にも大きな影響を与える可能性があります。
しかし、内臓のがんとは異なり直接みる・触れるなどの方法で異常に気付くことができる点が特徴です。
日頃から歯や歯肉などの様子に目を向けて、気になる症状があれば歯科医院に相談することをおすすめします。
歯肉がんと関連する病気
「歯肉がん」と関連する病気は2個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
そのほか、全身のほぼすべてのがんで放射線治療が有効です。早期であれば、放射線治療のみで治療を完了できる場合も多くあります。また悪性腫瘍だけでなく良性疾患も治療対象であり、幅広い疾患に効果的な治療法といえます。
歯肉がんと関連する症状
「歯肉がん」と関連している、似ている症状は2個ほどあります。
各症状・原因・治療法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 長引く口内炎
- 頸部リンパ節腫脹
放射線治療を行うと、これらの副作用が出る可能性があります。治療中または終了直後に出る場合と、終了してから半年〜数年経過してから出る場合があるため、気になる症状が出たら早めに主治医にご相談ください。