「膀胱がんの手術方法」はご存知ですか?費用や入院期間も解説!医師が監修!
がんの治療といえば「病巣の切除」というイメージがあるかもしれませんが、切除の範囲・方法はがんになった臓器により異なります。
では、膀胱がんの場合はどのような手術を行うのでしょうか。今回の記事では、膀胱がんの概要・手術方法・術後の生活などについて解説します。
監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
目次 -INDEX-
膀胱がんとは?
私たちの尿は腎臓で作られ、排出されるまでは一時的に膀胱に貯留されます。この膀胱にできるがんの総称が「膀胱がん」です。
膀胱の内側は尿路上皮という組織に覆われており、膀胱がんの90%は尿路上皮から発生する尿路上皮がんに分類されます。国内で新たに膀胱がんと診断される患者さんは、1年間で約2万人ほどです。
膀胱がんのリスク因子として挙げられるのは、下記の2つです。
- 喫煙習慣
- 化学物質への暴露
喫煙は、膀胱がんに限らず多くのがんに共通するリスク因子とされています。そのため、がんになるリスクを下げたい方は、まず禁煙することが大切です。
また、ナフチルアミン・ベンジジン・アミノビフェニルなどの化学物質を扱う業務に長期間従事していた方には、膀胱がんの罹患者が多いとされます。
膀胱がんの手術の方法
膀胱がんの場合、まず膀胱鏡を用いて腫瘍を膀胱の内側から切除して、それを顕微鏡検査で確認することで、病期(ステージ)を確定させます。
0期~1期の膀胱がんに対してはその後、抗がん剤やBCGを使用した「膀胱内注入療法」を追加で行う場合があります。2期以上の膀胱がんについては膀胱を全摘する手術が標準治療とされます。
ここからは、膀胱がんの手術とはどのようなものか紹介します。
膀胱全摘術
膀胱全摘術は、主に筋層から先へ浸潤している2期・3期の膀胱がんに対して行う手術です。
膀胱壁は内側から順に粘膜上皮・上皮化結合組織・筋層という組織により構成されています。このうち、上皮で発生した膀胱がんが筋層まで浸潤しているものが2期、筋層を超えて膀胱の外側を覆う脂肪組織まで達しているものが3期です。
なお、手術の名前は「膀胱全摘除術」ですが膀胱以外にも下記の臓器・組織を摘出・切除する可能性があります。
男性
- 膀胱
- 前立腺
- 精のう
- 遠位尿管
- 骨盤内リンパ節
- 尿道(再発リスクが高い場合)
女性
- 膀胱
- 子宮
- 腟(一部)
- 遠位尿管
- 尿道
- 骨盤内リンパ節
経尿道的膀胱腫瘍切除術
経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)は内視鏡・電気メスを用いて行う手術です。治療と検査という2つの役割を持った手術で、治療として行う場合は、粘膜上皮・上皮化結合組織にとどまっている0期~1期のがんを切除する目的で行います。
一方、下記の場合は検査を目的としてTURBTを行う可能性があります。
- 治療開始前
- 治療目的のTURBT後の再発
- 2期以上の膀胱がん
治療開始前にTURBTによってがんを切除することで、浸潤の深さ・がんの細胞型などを知り今後の治療方針を決める手がかりとなります。
尿路変更術
尿路変更術は膀胱全摘術により膀胱を失った患者さんに対して、尿を体外に排出する経路を新たに作る手術です。
尿路変更術にはいくつかの種類があり、回腸導管造設術・尿管皮膚ろう造設術は下腹部に尿路ストーマ(ウロストミー)を造設する方法です。回腸導管造設術では切除した小腸の一部を管状にして、この管で左右の腎臓から伸びている尿管と尿路ストーマをつなぎます。
一方、尿管皮膚ろう造設術は小腸の切除を行わずに尿管を直接尿路ストーマにつなぐ方法です。回腸導管造設術のほうが多く行われている手術ですが、尿管皮膚ろう造設術は手術時間が短く侵襲の少ない手術のため、高齢者・ほかの疾患を抱えている方に向いた方法といえます。
なお、尿路ストーマを用いない方法として自排尿型新膀胱造設術があります。切除した腸の一部で膀胱の代わりとなる「代用膀胱(新膀胱)」を作る方法で、尿道からの排泄が可能です。ただし、手術は長時間にわたるうえに侵襲が大きく、術後もリハビリ・メンテナンス方法の獲得などが必要となります。
膀胱がんの手術の特徴
前述のとおり、膀胱がんには複数の治療方法があります。
ここからは、こうした治療方法について検討する際に、知っておきたい手術の特徴・現状について紹介します。
体力回復が早い
膀胱がんに対する手術のなかでも、膀胱全摘術・尿路変更術は侵襲の大きな治療です。
従来、上記の手術は開腹術であり、傷の大きさは臍よりも上~恥骨周辺にまでおよびました。しかし、現在では腹腔鏡手術など身体的負担の少ない手術方法が徐々に広まりつつあります。腹腔鏡手術には下記のようなメリットがあります。
- 手術創が小さい
- 手術中の出血が少ない
- 入院期間が短い
こうした治療が可能な医療機関を選ぶことで、術後の体力回復・社会復帰が早まる可能性があります。
なお、腹腔鏡手術は腹部に複数の穴をあけて器具を差し込み、器具を操作して腹腔内での作業を行う方法です。そのため、開腹手術よりも手術自体には長い時間を要することが多いとされます。
ロボット支援手術の保険適用
ロボット支援手術とは、腹腔鏡での作業を補助するロボットを使用した手術です。2018年からはロボット支援膀胱全摘除術が医療保険の適用対象となり、新しい技術を使った手術を以前よりも安価に受けられるようになりました。
温存療法も選択できる
膀胱がんに対する標準治療は、前述のようにがんの病期ごとに決まっています。しかし、標準治療はあくまでも治療効果が高いと考えられる治療法です。膀胱全摘術が標準治療として推奨される場合でも、患者さんの体力・希望・全身状態なども考慮しながら治療方針を決めていきます。
そのため、リスクを知ったうえで膀胱などの器官を温存するために、TURBT・抗がん剤・放射線治療での治療を選択することも可能です。
膀胱がんの手術前に知っておきたいこと
膀胱がんの治療では手術が第一選択となる場合も多いでしょう。
手術は効果の大きな治療ですが、手術を考える際には手術による影響・デメリットも把握しておくことが大切です。
性機能の異常
膀胱がんの手術では、膀胱とともに生殖器官も摘出する可能性があります。
この場合、下記のような性生活・性機能の問題が起こるため注意が必要です。
- 射精が起こらない
- 勃起不全
- 膣が短くなる
- 妊娠ができなくなる
がんの再発のおそれ
筋層に及んでいない膀胱がんをTURBTによって切除した場合も、がんが再発することがあります。
また、筋層に浸潤した膀胱がんは、膀胱全摘除術をした後も腎臓・尿管などの上部尿路やもともと膀胱があった場所にがんが再発する可能性があるのです。手術後の再発・遠隔転移がある場合は、抗がん剤などによる治療を検討します。
副作用や合併症の可能性
膀胱がんの手術のうち、TURBTでは施行後に血尿・頻尿・膀胱穿孔(膀胱に穴が開く)などが起こることがあります。
また、膀胱全摘術・尿路変更術においては下記のような合併症がみられます。
- 縫合不全
- 腹膜炎
- 術後感染
- 腸閉塞
- 尿閉
縫合不全とは手術で縫い合わせた部分がうまく癒着せずに開いたり、つなぎ目から尿が漏れたりすることです。これにより腹腔内に細菌が繁殖すると腹膜炎につながることもあります。
また、手術でできた傷が感染を起こしたり、腸管を切除したりすることによる癒着・狭窄で腸閉塞を起こすこともあるでしょう。
そのほか、新膀胱を作った場合は尿意を感じないため、尿が溜まりすぎて出なくなる「尿閉」や尿漏れに注意が必要です。
人工膀胱を使用する可能性
前述のとおり膀胱を全摘した場合には尿路変更術を行います。
このうち、回腸導管造設術・尿管皮膚ろう造設術では腹部に尿路ストーマ(人工膀胱)を造設することになります。「人工膀胱」と呼ばれるものの、尿路ストーマは実際の膀胱のように尿を溜めることはできません。そのため、尿路ストーマの開口部には常にストーマ袋(採尿袋)を付ける必要があります。
膀胱がんの手術についてよくある質問
ここまで膀胱がんの治療方法について紹介しました。これまでの内容も踏まえて「膀胱がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
膀胱がんの手術費用について教えてください。
村上 知彦(医師)
膀胱がんの手術費用は、術式により大きく異なります。医療保険が3割負担の方の場合、経尿道的膀胱腫瘍切除術を受けると自己負担する金額は入院費全体で15万円前後です。一方、尿路変更術をともなう膀胱全摘術では80万円ほどの自己負担が発生します。なお、医療費が高額になる場合は高額療養費制度などを活用することで経済的な負担を軽減できるでしょう。
膀胱がんの手術の入院期間はどのくらいですか?
村上 知彦(医師)
経尿道的膀胱腫瘍切除術の場合は1週間以内の入院が一般的です。一方、尿路変更術をともなう膀胱全摘術を受ける場合は1ヶ月程度の入院が必要になる可能性があります。「1ヶ月」は手術後の回復を待つだけでなく、尿路変更の内容に合わせて排尿のためのリハビリ・尿路ストーマの管理などを習得するためにも必要な期間です。
編集部まとめ
膀胱がんは、強い症状が出ないことも多く「様子をみていたら症状も治まるのではないか」といった考えから受診に至らない方もいます。
しかし、膀胱がんが進行すれば手術で膀胱を全摘することもあり、健康な方と比べると日常生活の質・快適さが低下する可能性があります。
このような手術のデメリットも知ったうえで、症状の強さに関わらず気になる点があれば泌尿器を専門とする医療機関を受診しましょう。
膀胱がんと関連する病気
膀胱がんと関連する病気には、下記の4つがあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
これらは、膀胱がんと似た症状がみられる病気です。
症状の改善には早期発見・治療が大切なので、まずは医療機関を早めに受診することをおすすめします。
膀胱がんと関連する症状
膀胱がんと関連する症状には、下記の4つがあります。
各症状の原因となる病気・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
これらの症状は、膀胱がんの患者さんによくみられる症状です。
特に、排尿時以外の痛みを伴わない血尿は膀胱がんに特徴的とされています。