「前立腺がんの手術方法」はご存知ですか?術前・術後の注意点も解説!【医師監修】
前立腺がんの治療方法のうち、手術は細胞診で見つかるような初期の段階から前立腺の外部に出た段階まで、幅広く選択されます。
手術には内視鏡やロボットを使う方法、開腹手術などがあり、状況に応じて選択されます。関係する部位を切除して根治を目指す治療方法です。
この記事では、前立腺がんと治療法としての手術について、方法・対策・注意点などを解説します。前立腺が気になる方は参考にしてください。
監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
目次 -INDEX-
前立腺がんとは
前立腺がんは男性特有の臓器、前立腺にできます。前立腺は精液の一部を作る臓器で、精巣とともに男性の生殖機能に重要な存在です。
前立腺がんの多くはこの臓器の辺縁部にできます。進行が遅く手遅れになりにくいため、早期にきちんと治療すれば根治の可能性が高い種類のがんです。
初期の前立腺がんでは特に症状が出ないため、これが早期発見を難しくしています。50歳を過ぎると罹患率が急速に上昇するので、この年齢になったら積極的に定期健診を受けてください。
前立腺がんは世界的に罹患率が高く、日本人の罹患率も継続して上昇傾向にあります。
前立腺がんの手術方法は
前立腺がんの手術は、初期からほかの臓器へ転移する前までの広範囲の病期に適用される方法です。がんが転移していない状態なので、前立腺と膀胱を切り離し隣接した精嚢・精管とともにすべて摘出します。
ただ、悪性度が高いとか浸潤の可能性がある場合は、リンパ節も含めての摘出です。
内視鏡手術
内視鏡の一種の腹腔鏡を使う手術です。下腹部に小さな穴を5ヵ所程開け、炭酸ガスを注入して空間を作ります。
ほかの穴からは長いハサミや鉗子・カメラなどを入れ、モニターを見ながら前立腺を切り取る手術です。組織や神経を傷つけないように、はがしたり切り離したりしながら前立腺を摘出するのは熟練技術を要する細かい作業です。
腹腔鏡手術では、モニターに映る患部に密着・拡大でき、目視より細部まで観察できます。また、注入した炭酸ガス圧で出血が抑えられるのも大きなメリットです。
術後は翌日から歩行可能など、開腹手術に比べて患者さんへの負担が大幅に軽減されます。
ロボットを用いた手術
腹腔鏡手術に手術支援ロボット、ダビンチを組み合わせた手術です。腹腔鏡と違うのは、カメラ・手術器具をロボットのダビンチに接続し、施術者はロボットを操作して手術を進める点です。
ダビンチから得られる画像は3Dの高画質で、ズーム操作で細かい血管・神経・膜などが細部まで確認できます。また、関節の可動域は人の手より大きく、より正確で細かい作業が可能です。
手術時間も3時間に短縮でき、患者さんへの負担がさらに軽減できます。
開腹手術
開腹手術でも基本的な手順は同じです。開腹して近接した膀胱や尿道などから前立腺を切り離し、精嚢と一緒に摘出します。
目視下で直接医師の手で行なうため、腹腔鏡より難易度が低い手術です。切開するのはへその下から縦に15cm程で、そこから前立腺を摘出します。
前立腺の周辺は血管が多い場所で、開腹手術では相当量の出血はやむを得ません。数週間前に採取しておいた自分の血液を戻して輸血に替えますが、10%程度の方で輸血が行なわれます。
この開腹手術には永年の実績があり、がん再発の抑制効果は十分で根治性が最も高い術式です。
前立腺がんの手術前に押さえておきたい注意点
前立腺がんの中心的な治療法は手術で、根治性が高く最も効果的な方法です。手術で治療する場合、どのような手術を選択するかを含めて前もって済ませておきたいことを紹介します。
医師と相談し手術法について理解しておく
前立腺がんの手術にあたっては、手術前には必ず医師側から手術の詳細について説明があります。
患者さんはそれを聞くだけになりがちですが、不安な点や不明な点を質問して、納得して手術を受けてください。手術法が患者さんの意識と乖離していないか必ず確認しましょう。
特にリスクや後遺症は心配が大きい部分なので、疑問を残さないことが大切です。術後のリスクには生殖能力や排尿機能の障害があり、納得できるまで質問して説明を受けましょう。
手術にともなうリスクを知っておく
前立腺は排せつや生殖に関わる繊細・複雑な機能を持つ臓器です。それを摘出する手術では、神経や周辺組織にも影響が及ぶリスクは避けられません。
頻度が高いリスクとしては、術後の尿失禁があります。特に術後半年~1年間は尿漏れパッドが必要となる場合が多くあります。また、鼠径(そけい)ヘルニア(=脱腸)もよく見られます。この症状がおこるのは前立腺摘出患者さんの12~21%という高い発症率です。
原因は不明ですが、ロボット支援手術の普及とともに減少傾向にあるといわれます。ほかには、直腸損傷や肺塞栓といった深刻なリスクの可能性も知っておいてください。
前立腺がんの手術後に覚えておきたいこと
前立腺がんは生殖などに関わるデリケートな部分に発生します。そこにメスを入れるので、後遺症や再発は残念ながらおこる可能性が否定できません。
後遺症や再発はどの程度なのか、手術後の生活上の注意点も含めて解説します。
手術後無理のない生活を行なうことを心がける
退院して日常生活に戻った後は、基本的には特に制限することはありません。
ただ、退院して1ヵ月程度の期間は、運動や腹部に負担のかかることを控えるようにしてください。具体的には激しいスポーツや自転車に乗ることなどです。
多くの方は後遺症の尿失禁や性機能障害をかかえた生活になります。慣れない尿漏れパッドや紙おしめの扱いも、次第に手際よくなるでしょう。
また、リハビリテーションの骨盤底筋体操にも積極的に取り組んでください。後遺症・合併症からの回復は月単位・年単位になることが普通なので、焦らないことも大切です。
術後合併症などの重篤な症状を調べておく
前立腺を摘出するとおこる後遺症・合併症で、重篤な症状には直腸損傷があります。
前立腺に密着する形の直腸は、がんの広がりや癒着があれば摘出時に損傷しかねません。損傷が大きい場合は、一時的に人工肛門になります。
また、肺塞栓は特に重篤で、手術中に足にできた血栓が肺に詰まり、致命的な状況になる合併症です。
頻度が高い合併症としては尿失禁と性機能障害です。膀胱括約筋の損傷による尿失禁が80%程の方におこり、半年程度でほとんどが回復します。
性機能障害では勃起障害が代表的です。神経の損傷程度やもともとの勃起力・年齢で差がありますが、完全復活例は少数しかありません。
勃起神経が残っていれば内服薬で回復が期待できます。なお、前立腺摘出にともない精嚢や精管もともに摘出するので、勃起しても精液は出ません。
前立腺がんの手術についてよくある質問
ここまで前立腺がんの手術方法・手術前の対策・手術後の注意点などを紹介しました。ここでは「前立腺がんの手術」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
前立腺がん手術をしない場合はどうなりますか?
村上 知彦(医師)
前立腺がんの手術をしない場合は代替治療になり、その選択肢は以下のとおりです。
- 監視療法
- 放射線治療
- ホルモン療法
- 化学療法
前立腺がんの手術後どのくらいで退院できますか?
村上 知彦(医師)
前立腺がんの手術が終わって退院するまでの日数には、手術の方式によって差があります。
主流となっている腹腔鏡手術では10日前後です。腹腔鏡に手術支援ロボットを併用する手術では7~8日が多くなります。
開腹手術の場合では、2週間程度かかるのが目安です。
編集部まとめ
前立腺がんの治療方法のうち、手術について解説してきました。以前の大がかりな開腹手術から進化して、現在は患者さんへの負担が少なく安全性の高い内視鏡手術が主流です。
さらに手術支援ロボットを組み合わせた精度が高い手術も増えています。難易度が高い手術が正確にでき、身体への負担が少ない方法で根治が目指せるようになりました。
前立腺がんは進行が遅く扱いやすい種類のがんです。一定の年齢になったら健診で早期発見に努めましょう。
前立腺がんと関連する病気
前立腺がんと関連する病気は2つ程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
どちらも前立腺に関係する病気ですが、がんとは直接関係ありません。前立腺肥大症は男性ホルモンが、前立腺炎は細菌が関係する病気とされています。
前立腺がんと関連する症状
前立腺がんと関係する症状は7つ程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 尿が細い・途切れる
- 夜間頻尿
- 排尿困難
- 排尿時の痛み
- 血尿
- 骨盤部の痛み
- 射精すると痛い
こういった症状は、すべて前立腺肥大症・前立腺炎と共通する症状です。このように前立腺がんには特有の症状がないことが特徴で、症状で判断することは困難です。