「舌がんのステージ分類」はご存知ですか?治療法や予後も解説!【医師監修】
舌がんは珍しいがんなので、馴染みのない人が多いかもしれません。口腔がん(口の中にできるがん)の1つである舌がんは、高年齢層の男性の患者さんが多く、喫煙や飲酒などがリスク要因です。
がんのステージは進行度合いによって分類されており、治療法を選択するうえで重要な要素となります。
この記事では舌がんのステージや、治療方法・予後についても解説します。舌がんの早期発見に役立てていただければ幸いです。
監修歯科医師:
酒向 誠(酒向歯科口腔外科クリニック)
目次 -INDEX-
舌がんとは?
舌にできるがんは舌がんと呼ばれ、口腔がんの中でおよそ6割を占めています。ただし舌がんは自分で動かすことが可能な舌の前方2/3にできるものに限られており、根元の1/3にできるがんは中咽頭がんに分類されます。
がん全体における口腔がんの割合は少ないですが、患者数は増加傾向にあり注意が必要です。舌がんは男性にできやすく60代で発症することが多いですが、中には20~30代の若い患者さんもいます。
舌がんに罹患する原因として考えられるものは以下の通りです。
- 喫煙
- 飲酒
- 不衛生な口腔環境
- 慢性刺激(むし歯や義歯、詰め物などが舌に慢性的に接触する)
舌がんの主な発生部位は舌の側面で、表面の先端や中央部分にできることはあまりありません。舌がんは臓器のがんとは違い、鏡で確認できるので早期発見しやすいがんです。
舌の粘膜に赤い斑点(紅板症)または白い斑点(白板症)がある・舌にしこりや腫れがある・ 痛みのない口内炎が2週間以上治らないといった症状があれば耳鼻咽喉科か歯科医院に相談してください。舌の裏側や奥の方にできたがんは見落とすことがありますので、気を付けて観察しましょう。
早期では痛みはないことが多いですが、がんが進行するにつれて痛みや出血が続くようになります。がんができた部分に潰瘍(舌が深くえぐれる)ができたり、口臭が強くなったりします。
舌がんの診断には視診や触診以外にも、がんかどうかを判断する生体検査が必要です。がんが確認されれば、CT・MRI・PET・骨シンチグラフィ・超音波検査などでがんの広がりや転移について調べます。
舌がんのステージ
舌がんは進行度合いによって、0~IV期の5つのステージ(病期)に分類されます。この分類には、がんの広がり(T)・リンパ節への転移の状態(N)・ほかの臓器への転移の状態(M)の3つの基準を組み合わせて判定するTNM分類法が用いられます。
0期
がん細胞が粘膜上皮内に留まっていて(Tis)、リンパ節への転移もありません(N0)。
I期
がんの直径が最大で2センチ以下・深さが5ミリ以下で(T1)、リンパ節への転移がない(N0)状態です。
II期
リンパ節への転移はありません(N0)が、がんの直径が最大で2センチ以下・深さが5ミリを超えています。または最大で2センチを超えますが4センチ以下で、深さが10ミリ以下に広がっています(T2)。
III期
がんの直径が最大で2センチを超えるが4センチ以下・深さが10ミリを超えているか、最大で4センチを超えており深さが10ミリ以下の状態(T3)でリンパ節への転移はありません(N0)。あるいはがんの広がりの程度はT1・T2・T3で、がんと同じ側の頸部リンパ節に3センチ以下の転移が1つみられます(N1)。
IV期
舌がんのIV期はがんの広がりや転移の程度によって、A期・B期・C期に分けられます。
- IVA期:がんが顎の骨や上顎洞・顔の皮膚にまで広がる(T4a)。頸部リンパ節に6センチ以下の転移が1つまたは複数ある(N2)。TNM分類でT1N2~T3N2・T4aN0~T4aN2。
- IVB期:がんが顎の外側や内頚動脈にまで広がる(T4b)。リンパ節に6センチを超える転移があるか、それ以外の組織にもがんが広がる(N3)。TNM分類でNの段階に関わらずT4b・T1N3~T4aN3。
- IVC期:遠くの臓器にも転移している(M1)。
舌がんの治療
舌がんの治療方法は、主にがんを切除する外科手術と放射線療法です。また舌がんは頸部リンパ節に転移しやすいので、転移していなくても予防としてリンパ節を取り除く手術(頸部郭清術)を実施する場合があります。
舌部分切除術
舌部分切除術は、早期の舌がんに対して行う手術法です。がんを完全に摘出するためには、がん周囲の正常な組織も安全域を確保して切除することが重要です。
切除範囲が小さいので体への負担が少なく、手術後の機能障害(摂食・嚥下・味覚・発音に関する障害)もほとんどありません。
舌半側切除術
がんが広がって部分切除では取り切れない場合は、舌の半分を切除する舌半側切除術を行います。がんがある側の可動部のみを切除する方法と、舌根と呼ばれる根元の部分も含めて切除する方法があります。舌を大きく切除すると審美性以外にも嚥下や発音の問題が考えられるため、失った部分を再建する手術も必要です。
患者さんの腕や太もも・お腹などの皮弁を移植して、舌の形を修復します。多少の機能障害は残るものの、手術前のように食事や会話をすることが可能です。
舌(亜)全摘出術
がんがさらに大きくなると、舌の大部分を切除する手術が必要となります。
- 舌亜全摘出術:舌の半分以上を切除する手術法
- 舌全摘出術:舌の全てを切除する手術法
どちらの手術でも舌の欠損部が大きいので、手術後に機能障害が残り誤嚥の可能性が高まります。少しでも摂食や発音などの機能を維持できるよう、舌の再建手術や運動訓練のためのリハビリテーションが欠かせません。
放射線療法
早期で頸部リンパ節への転移がみられない舌がんでは、放射線療法が選択される場合もあります。放射線を放出する線源を病変部に直接針やチューブで挿入することで、がん細胞に限定して放射線を照射することが可能になりました。
舌の形や機能をそのまま残せるというメリットがありますが、治療を受けられる病院が限られているというデメリットもあります。このほかにも切除手術後の補助療法として、放射線療法と薬物療法を併用することが多いです。
薬物療法
舌がんの治療で、薬物療法のみを行うことはあまりありません。進行がんで再発や転移のリスクが高い場合には、薬物療法と放射線療法を組み合わせることが推奨されます。
この場合に用いられるのは、シスプラチンという抗がん剤が一般的です。腫瘍に栄養を運んでいる動脈に直接カテーテルを挿入して、抗がん剤を投与する方法がとられることもあります。
通常より高濃度の抗がん剤を注入できることと、中和剤で腎障害などの副作用を抑えることができるメリットがあり高い治療効果が期待されます。
舌がんの予後について
舌がんの5年生存率はI期で90%程度・II期で80%程度・III期で60%程度・IV期で50%程度です。統計からはがんが小さく転移していない早期に発見して治療を始めれば、予後が良好であることが読み取れます。
反対にリンパ節への転移や遠隔転移が起こったIV期では、5年生存率が50%にまで低下してしまいます。はっきりした自覚症状のないうちにがんを発見するのは容易ではありませんが、定期的な検診で早期発見することが大切です。
舌がんのステージについてよくある質問
ここまで舌がんのステージや治療法などを紹介しました。ここでは「舌がんのステージ」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
舌がんは再発しますか?
酒向 誠(医師)
がんは手術で切除しても、小さながんが残っていて再発することがあります。舌がんの再発は治療後2年以内に発生することが多いため、治療が終わってからも経過観察のための受診が必要です。再発した場合は、がんの状態によって手術・放射線療法・薬物療法の中から治療を選択することになります。
受診の目安について教えてください
酒向 誠(医師)
再発が多いとされる治療後2年以内は、1〜2ヶ月に1度は受診を続けましょう。再発や転移を起こしていないか、診察や検査で慎重に観察する必要があります。その後は通院の間隔を空けながら、少なくとも5年は経過観察を行います。
編集部まとめ
口腔がんの過半数を占める舌がんは、自分で鏡を見て確認することが可能です。初期のうちは痛みなどの症状がないこともあり、口内炎と間違えて放置してしまう人が少なくありません。
舌がんのステージは腫瘍の広がりや転移の状態に応じて、0~IV期の5段階に分類されます。数字が大きくなるにつれて、がんが広がり治療が難しくなることを意味します。
舌がんの標準治療において第一選択となるのは外科手術です。舌の半分以上を切除する場合は、患者さんの体から皮弁を移植して欠損部分の再建手術を行います。
舌がんもほかのがんと同じく、早期に発見し治療を始めることが大変重要です。気になる症状があれば、なるべく早く病院で相談してください。
がんを誘発する喫煙と飲酒を止めることや、口内を清潔に保つことも効果的です。むし歯や詰め物をチェックするために、歯科医院の定期健診を忘れずに受けましょう。
舌がんと関連する病気
「舌がん」と関連する病気は3個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
白板症は、口腔粘膜にこすっても剥がれない白い斑点のようなものができる病気です。白板症が舌にできた場合は後にがん化する場合があります。舌にできる口内炎を舌炎と呼びます。早期の舌がんは口内炎と間違えやすいため、2週間以上治らない口内炎は受診が必要です。
舌がんと関連する症状
「舌がん」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
これらの症状があれば舌がんに罹患している可能性があります。早期の段階で発見できるように、歯磨きの際には口内を注意深く観察してみてください。