「直腸がん手術の入院期間」はどれくらい?仕事復帰までの期間や費用も解説!
直腸がんで手術になった場合、どの程度の入院期間が必要なのでしょうか。直腸がんでは人工肛門の有無で術後の入院期間が変わります。
この記事では、直腸がんの手術後に必要な入院期間や治療方法、手術の種類について解説します。日常生活に戻るまでの一般的なケースも説明しますので、参考にしてください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
直腸がんとは?
まずは直腸がんについて正しく理解することが大切です。ここでは直腸がんの発生や原因について、詳しく解説します。
直腸に発生した悪性腫瘍
直腸は大腸の一部で、肛門に近い部位、直腸がんとは直腸の組織に悪性腫瘍がみられる状態です。直腸がんは良性のポリープ(腺腫)ががん化しておこる場合と、正常な粘膜から直接発生する場合があります。
大腸がんのうち約40%を占める
直腸がんは日本人に多く、大腸がんの約40%を占めています。40歳頃から罹患する人が増えることがわかっているため、1年に1度は検診を受けて注意しましょう。直腸がんを含む大腸がんは増加傾向にあり、その原因は食生活の変化、肥満、運動不足、飲酒、喫煙など様々です。
直腸がん手術の入院期間
直腸がん手術の入院期間は、人工肛門の有無によって異なります。人工肛門がない場合は7〜10日間、人工肛門がある場合は9〜14日間が目安です。
人工肛門を造設した場合は、身体的・精神的に人工肛門に慣れる必要があります。退院後はしっかりと体を休めて、徐々に日常生活へと戻っていけるよう配慮することが大切です。
直腸がんの治療方法
直腸がんの治療方法は以下の5つがあります。
- 内視鏡治療
- 手術
- 薬物療法
- 放射線療法
- 緩和ケア
治療方法はがんの進行度合いや身体の状態、患者さん本人の希望を考慮して決められます。各治療方法について順に詳しく解説していきます。
内視鏡治療
内視鏡は細長い管の先端にカメラがついており、管の先端の穴から医療器具を出し入れすることができます。内視鏡治療はこの内視鏡を肛門から挿入し、直腸がんの病変部位を取り除く治療法です。早期のがんに適応される治療法で、手術に比べて痛みが少なく、回復にかかる時間も短いため体への負担を減らすことができます。
直腸がんの内視鏡治療の一般的な入院期間は3日〜1週間程度です。
手術
内視鏡治療でがんを取り除くのが難しい場合は、手術が適応されます。手術では病変部位だけでなく、がんが広がっている可能性のある他の臓器やリンパ節も対象です。
手術では病変部位を取り除いて残った腸管をつなぎ合わせますが、広範囲を取り除いた場合は人工肛門を造設することがあります。人工肛門を作った後は、身体的にも心理的にも人工肛門に慣れる必要があるため、入院期間は長くなるようです。
薬物療法
直腸がんの薬物療法として、抗がん剤による治療を行います。薬物療法には、手術後に体内に残ったがん細胞を攻撃する術後補助療法と、手術で取りきることが難しいと判断された場合に行う薬物療法の2種類があります。
抗がん剤による治療は、初回は数日〜1週間程度入院しますが、その後は外来での治療も可能です。直腸がんで使われる抗がん剤は点滴や飲み薬などがあり、がんの進行度合いと再発リスクを考慮して使用する薬剤を選択します。
最近では副作用が少ない抗がん剤の開発や、がん細胞のDNA情報をもとに効率よく治療を行うこともできるようになってきています。
放射線療法
放射線療法は、主に直腸がんの手術前に病変部を小さくする目的で行われます。数日入院する場合もありますが、多くの場合外来での治療が可能です。
放射線療法の副作用は下痢、肛門の痛み、食欲不振などがありますが、多くの場合は放射線療法が終わって2〜4週間で改善します。
緩和ケア
緩和ケアはがんの末期に行う治療という印象の方が多いかもしれませんが、がんと診断された時から始められる治療です。がんによる痛みやつらさ、治療を通して出てくる身体的・精神的つらさを取り除くことが目的です。
緩和ケアには麻薬や痛み止めを使った治療、精神的なケア、リハビリ、食事のアドバイスなども含まれます。
直腸がん手術の種類
直腸がんの手術には次の4つの種類があります。
- 直腸局所切除術
- 前方切除術
- 直腸切除術
- 括約筋間直腸切除術
がんができた場所・進行度合い・範囲・患者さんの体の状態などを考慮して術式を決定します。今回紹介する手術以外にも、腹腔鏡下手術やロボット手術などの手術方法があります。
腹腔鏡下手術やロボット手術は手術可能な施設や医師が限られるため、希望される方は主治医に相談してみましょう。
直腸局所切除術
早期のがんで、がんとその周囲を切除する目的で行われます。がんの範囲が小さく、それほど進行していない場合に適応されるでしょう。
直腸局所切除術では人工肛門を造設することはほとんどありません。
前方切除術
開腹してがんがある部分の直腸を切り取り、縫い合わせる手術方法です。自律神経はできるだけ温存しますが、がんが神経にまで浸潤していたり神経を一部損傷したりした場合は、排尿機能や性機能が低下することもあります。不安がある場合は、事前に医師に相談しましょう。
直腸切断術
がんが肛門にまで広がっている場合や重度の排便障害が残る可能性がある場合は、直腸と肛門を一緒に取り除きます。これらの場合、永久的な人工肛門を造設することになります。
人工肛門には神経が通っていないため、触っても痛みはありません。食事や服装の制限もほとんどなく、管理に慣れればこれまでと同じような生活を送ることが可能です。
括約筋間直腸切除術(ISR)
括約筋間直腸切除術は、肛門に近い直腸がんでも肛門を取り除かずにがんを切除する手術方法です。人工肛門になることを避けられるメリットはありますが、再発率の増加や排便障害がおこる可能性があります。
排便回数や便失禁の増加など、排便の様子が変わる可能性があることを知っておきましょう。
直腸がん手術の入院期間についてよくある質問
ここまで直腸がんの治療方法・手術の種類・一般的な入院期間などを紹介しました。ここでは「直腸がん手術の入院期間」についてよくある質問に、MedicalDOC監修医がお答えします。
術後に注意するべきことを教えてください。
中路 幸之助(医師)
- 腹痛
- 発熱
- 排尿時の違和感
- 吐き気や嘔吐
- 排便障害
腸管をつなぎ合わせた部分から内容物が漏れたり、腸管同士が癒着することで炎症が起き、腹痛や発熱が引き起こされる場合があります。また、手術の際に自律神経を損傷すると排尿障害や性機能障害が起こることもあるため、気になる症状があれば医師に相談が必要です。また、肛門を温存した手術の場合は排便障害にも注意が必要です。排便回数の増加は高頻度でみられ、一度排便があると続けて便意がくる場合や、毎食後に排便があるようになった事例などがあります。便意を我慢できず便失禁が起こることもあるので注意しましょう。
仕事復帰できるまでどのくらいかかりますか?
中路 幸之助(医師)
手術の種類や人工肛門の有無によって仕事復帰までの時間は異なりますが、人工肛門を造設しない手術の場合、多くの人は1ヶ月強で仕事に復帰できるでしょう。術後1年では80%程度の人が仕事に復帰し、これまでと同じような日常生活を送ることが可能です。一方で、人工肛門を造設した場合や術後に合併症を併発した場合は、仕事復帰までの期間が延びる傾向があります。復帰後も排便障害がある場合は、トイレの近くの席で仕事をするなど、周囲の理解と配慮が必要です。スムーズに仕事復帰できるよう、術後に必要な配慮があれば事前に職場に相談しておきましょう。
直腸がん手術にかかる費用はどれくらいですか?
中路 幸之助(医師)
直腸がん手術にかかる費用は、おおよそ1,000,000円(税込)を目安としましょう。高額療養費制度を使えば、窓口で支払う金額は自己負担限度額までに抑えることが可能です。自己負担限度額は年齢や所得区分に応じて異なるので確認しておきましょう。
編集部まとめ
今回は直腸がんの治療や手術と術後の入院期間について解説しました。直腸がんは日本人に多く見られるがんの一つですが、便通の異常や痛みがほとんどないため見逃されることが多いがんです。
早期発見のためにも、定期的に検診を受け、便通の変化や血便を見逃さないように気を付け、変化があれば早めに医療機関を受診しましょう。
直腸がんと関連する病気
「直腸がん」に関連する病気は2個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
直腸に近い組織でがんが見つかったり、乳がんのような転移性の高いがんが見つかったりした場合は、直腸に転移するリスクが高くなります。また、子宮内膜症の一部では直腸に発症してがん化したという報告も見られるため、関連する病気として注意しておきましょう。
直腸がんと関連する症状
「直腸がん」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 便通の異常
- 便に血が混じる
- 腹部の不快感
- 食欲低下
- 原因不明の体重減少
- 強い疲労感
最も多いのが便通の異常です。がんが大きくなることで便の通り道が細くなり、便秘や下痢を引き起こします。さらに腸管が狭くなると腹痛や腹部の張りが現れ、腸閉塞などの深刻な症状を引き起こします。また、便の通り道にがんができると便が通過する度に擦れて出血し、血便を起こすケースも多いです。便通の異常は普段の生活の中でも起こりやすい症状であり、見逃されやすいため注意しておきましょう。大腸がんの罹患率は40代から急激に増加するため、1年に1度は検診を受け、気になる症状があれば検査を行うことが大切です。