「腎臓がんの治療法」はご存知ですか?費用や副作用も解説!【医師監修】
腎臓がんは、腎臓にある腎細胞が悪性化し腫瘍を形成することで発症するがんです。特徴的な初期症状がないため、他臓器・骨・リンパ節への転移をしてから気が付くことも少なくありません。
初期に気が付いたパターンのほとんどは、他疾患の検診や精密検査のついでに偶然発見されたものです。つまり初期で発見することは非常に難しいがんといえます。
しかし腎臓がんは転移した部分が少なければ、切除することで改善が見込めるでしょう。また薬物療法や放射線治療も有用とされており、治療法は多岐にわたります。
では腎臓がんでは一体どのような治療法が用いられているのでしょうか。本記事では腎臓がんの治療・外科的手術・薬物療法について解説します。
監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
目次 -INDEX-
腎臓がんとは
腎臓がんとは、腎細胞が悪性化し増殖することで腫瘍が形成された状態です。腎臓がんは2つに分類され、腎細胞が悪性化して形成された腫瘍を腎臓がんまたは腎細胞がん・腎盂細胞が悪性化して形成された腫瘍を腎盂がんと呼びます。
腎臓がんと腎盂がんは治療法が異なります。本記事では腎臓がんについて解説しましょう。
腎臓がんのステージング
腎臓がんは4つのステージに分類されます。主に腫瘍の大きさや転移の有無、腫瘍がどの臓器まで及んでいるのかによってステージが決まります。
- I期 腎細胞がんの直径4cm以下または7cm以下で腎臓内におさまっている。なおかつ別の臓器やリンパ節への転移がない。
- II期 腎細胞がんの直径7〜10cm以下または10cm以上だが腎臓内におさまっている。なおかつ別の臓器やリンパ節への転移がない。
- III期 別の臓器やリンパ節への転移がある及びない場合に腫瘍は以下の状態である。腎静脈やその周辺区域または腎盂腎杯に及んでいる・腎周囲及び腎盂周辺の脂肪組織へ広がっているが、ゲロタ筋膜を超えていない・下大静脈内に及んでいる。または大動脈へ及んでいる。
- IV期 腎細胞がんが別の臓器へ転移している・腎細胞がんが転移している場合及びしていない場合でも、腫瘍がゲロタ筋膜を超えて広がっている。
治療の目的 根本治療か緩和か
がんと診断されたら患者さん・家族・専門の医師で、今後のがん治療の方針を固めていきます。治療方針は大きく根本的治療・緩和ケアに分類され、本人の希望・年齢・性別・持病・生活習慣など全てを考慮したうえで治療方針を決めます。
根本的治療とはがん治療(手術・薬物療法・放射線治療)・支持療法(がん治療による副作用・治療により私生活に影響が及んだ場合の私生活面へのケア等)・緩和ケアなど、がん治療に必要となる全ての治療を含めた治療方針です。
一方緩和ケアはがんによる痛みや櫛苦しみを緩和することを目的とし、がん治療(手術・薬物療法・放射線治療)を行いません。
腎臓がんの外科的治療(手術)
外科的処置とは手術によって、臓器の悪い部分及び腫瘍を切除する処置です。腫瘍のできた場所や大きさによって、開胸手術・開腹手術または腹腔鏡手術など手術の方法もさまざまな選択肢があります。
一般的にがんの手術では、腫瘍ができた部分および臓器を腫瘍より大きく切除します。なぜかというと悪性化した細胞は周囲の正常な細胞・血液・リンパ管を通して、ほかの臓器やリンパ節へ転移している可能性もあるからです。
大きめに切除することで、腫瘍周囲へ広がった可能性がある悪性化した細胞を取り除くことができます。では腎臓がんの場合は、どのような外科的処置が行われるのか解説しましょう。
外科的治療の種類
腎臓がんの外科的治療は以下の2種類です。
- 腎部分切除術
- 腎摘除術
腎部分切除術は主に4cm以下の小さな腫瘍に用いられる腎臓を腫瘍および腫瘍周辺のみ切除する方法です。腎臓を一部分だけ取り除くことにより、腎機能の低下を防ぎ合併症のリスクを減らせるメリットがあります。
ただし腫瘍ができた部位によっては、腫瘍が4cm以下でも選択できません。一方腎摘除術は腫瘍がある腎臓を、腎臓ごと全て切除する方法です。
腎部分切除術では改善が見込めない場合に用いられます。また転移の仕方によっては腎臓だけでなく、転移のある臓器および腎臓周辺の臓器も同時に切除することもあります。
外科的治療にかかる費用
日本泌尿器科学会が定める腎悪性腫瘍手術の点数は約10万点です。1点=10円計算となり手術費用は約100万円かかり健康保険適用で負担割合1〜3割となり約10万円〜約30万円となります。これに加えて入院基本料・食事代・差額ベッド代・薬剤費・診察費などがかかります。
また健康保険適用分の費用に関しては高額療養費制度の対象となるため、前述の費用よりも自己負担額が少なくなる可能性があるでしょう。
術後のアプローチ
術後当日はベッドの上で安静に過ごし、医師や看護師の診察で経過が良ければ翌日から離床します。術後は血栓・肺塞栓症などの合併症を起こしやすいため、早めに離床し歩く練習をしなければなりません。前述した離床・歩く練習を離床リハビリテーションと呼び、退院日まで続けます。
退院後は経過観察・定期検診が行われ、術後3年目までは3ヶ月〜半年、それ以降は半年〜1年の頻度で少なくとも5年間、医師の指示通り通院する必要があります。なぜかというと、がんの転移・再発は5年以内に起こることが多いからです。
腎臓がんの薬物療法
がん治療における薬物療法は、腫瘍を手術で取り除けなかった場合に用いられる治療です。また手術と併用して薬物療法が選択される場合もあります。
薬物療法で使用される薬はがんを攻撃する働きを持ち、入院または通院治療のいずれかを本人の希望や医師の判断で決められます。
では腎臓がん治療に使用される薬物療法について解説しましょう。
薬物療法の種類
腎臓がんで用いられる薬物療法は分子標的薬です。
がん細胞が増えるのに必要なシグナルや、がん細胞が栄養をもらうための血管を作るシグナル伝達を阻害することによって癌細胞の増殖を抑えるお薬です。
これらのシグナルは正常細胞にも存在しているために、副作用が生じることもあります。
薬物療法にかかる費用
薬物療法にかかる費用は診察費・薬代の他、入院した場合に入院基本料・食事代・差額ベッド代などがかかります。健康保険適用分は1~3割負担となり高額療養費の対象になりますが、健康保険対象外の費用は全額実費です。
また薬物療法で使用される薬はそれぞれ単価が異なるため、使用する薬によって金額が変動します。
術後のアプローチ
薬物療法で使用される薬には副作用があるため、入院および通院治療中に異常が起きた場合は専門の医師へ早めに相談してください。
副作用は軽度なものから今後の生活に支障を与えるものがあるため、体調の変化には十分に気を付けましょう。また以下の副作用があった場合は注意が必要です。
- 皮膚に湿疹・炎症がある
- 手足のしびれや痛みがある
- 血圧が上がる
- 咳や呼吸困難が起こる
この中でも咳や呼吸困難の症状が出てきた場合は、即座に医療機関へ受診し専門の医師へ診てもらう必要があります。
一方皮膚の異常や血圧の変化があった場合は、自宅で記録をして専門の医師へ相談することが大切です。
腎臓がんのそのほかの治療方法
腎臓がんには外科的処置・薬物療法以外にも4つの治療法があります。
- 凍結療法
- 免疫療法
- 放射線療法
- 監視療法
上記の治療は外科的処置・薬物療法が難しい場合や、外科的処置・薬物療法と併用して用いられることがあります。では4つの治療法について解説します。
凍結療法
悪性化した腫瘍が小さい場合や、患者さんが高齢の場合・持病などにより手術が難しい場合に用いられます。
悪性化した腫瘍へ直接針を刺し、アルゴンガスで凍らせる方法です。腫瘍は凍結させられることで、細胞が壊死して死滅します。
免疫療法
身体の中の免疫を利用して、悪性化し増殖した細胞を排除します。通常、手術で腎細胞がんを切除できない場合に用いられる治療です。
身体の中からウイルスや病原菌を排除する役割を持つ、白血球中にあるT細胞を薬物により活性化させることでがん細胞を排除します。
そのほかにサイトカインと呼ばれる組み替えタンパクを投与することで、T細胞の働きを活性化させる治療法もあります。通常はほかの免疫治療と併用される治療です。
放射線療法
放射線療法とは腫瘍に対し放射線を照射し、がん細胞を死滅させる治療法です。通常手術や薬物療法と併用される治療法で、単独で行われることは少ないです。
がんの進行を抑える目的や、がんによる痛みの緩和を目的として使用されます。
監視療法
腫瘍が小さく転移がない場合や、手術・薬物療法・放射線治療を行うのが難しい患者さんに対し用いられます。
手術・放射線治療・薬物療法等の治療を行わず、定期的に経過観察をする方法です。
腎臓がん治療についてよくある質問
ここまで腎臓がんの外科的治療・薬物療法などを紹介しました。ここでは「腎臓がんの治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
治療の選択が腎臓がんのステージタイプによってどのように変わりますか?
- I期 腎部分切除術・腎摘除術
- II期 腎摘除術
- III期 腎摘除術及びリンパ節郭清・静脈内腫瘍塞栓摘除
- IV期 腎摘除術・転移巣切除 薬物療法 放射線治療
全ステージにおいての標準治療は手術ですが、ステージによって摘出する部分が変わります。ただし腫瘍が小さい場合は、手術をせずに凍結療法が行われることも多いです。また転移が見られる場合には、薬物療法や放射腺治療が用いられることもあります。
腎臓がん治療の副作用は?
村上 知彦(医師)
腎臓がんの治療では、薬物療法の際に副作用が現れることがあります。例えば手足の痺れ・手足の腫れ・皮膚の炎症・吐き気・発熱・食欲不振・悪心・頭痛・脱毛・白血球の減少など、多岐にわたります。副作用は処方された薬によって異なるため、投薬の前に専門の医師へ相談すると良いでしょう。
腎臓がんが骨に転移していた場合の治療はどのようなものがありますか?
村上 知彦(医師)
腎臓がんが骨に転移していた場合、一般的に外科的処置・薬物療法・放射線治療が用いられます。骨転移は命に関わることはないため、骨が脆くなるのを防ぐ・痛みを和らげる治療法が選択されるでしょう。
編集部まとめ
本記事では腎臓がんの治療方法について解説しました。腎臓がんは早期発見が難しいですが、有用とされている治療法は多岐にわたります。具体的な治療法がわかったことで、理解が深まった方も多いのではないでしょうか。
腎臓がんは進行してから見つかることが多いがんですが、適切な治療を受けることで改善が見込めます。
腎臓がんが見つかった場合は、本記事で解説した治療方法を検討してみてはいかがでしょうか。
また腎臓がんに限らず、病気の治療は早期発見・早期治療が鉄則です。定期的な検診やセルフチェックを怠らず、健康な毎日が送れるようにしましょう。
腎臓がんに関連する病気
「腎臓がん」と関連している、似ている病気は2個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 腎嚢胞
- 腎血管筋脂肪腫
腎嚢胞は老化により腎臓内に水が溜まった状態で、血管筋脂肪腫は血管と脂肪からできた良性の腫瘍です。いずれの場合も腎臓がんと似たような形状であるため、CT検査や超音波検査をしないと見分けが困難といわれています。
腎臓がんに関連する症状
「腎臓がん」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
腎臓がんは初期段階では自覚症状がほとんどありません。そのため進行してから上記のような症状が現れることがあり、転移をしている可能性も考えられます。上記のような症状がでてきたら早めに泌尿器科へ受診しましょう。