「直腸がんを疑う初期症状」はご存知ですか?進行した場合の症状も解説!
直腸がんは大腸の一部である直腸に発生するがんのことです。いわゆる大腸がんの一種であり、自覚症状が出にくい疾患でもあります。
早期発見・早期治療を行うためには、初期症状を見きわめることが重要です。直腸がんの症状を知っておけば違和感に素早く気付けるでしょう。
この記事では直腸がんの初期症状・治療方法・予防方法を中心に解説します。その他の大腸がんとの違いも紹介しているので、参考にしてみてください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
直腸がんの初期症状
そもそも直腸はS状結腸に続く消化管で、肛門に近い場所に位置します。長さは約20cmで、胃・小腸・直腸で消化・吸収された排泄物を一時的に溜め、適当な時に肛門から排泄する役割を担う器官です。直腸がんはこの直腸にでき、腸に発症するがんのうち約60%もの割合を占めています。
直腸には消化吸収の働きがないため自覚症状がほとんどなく、多くの患者さんに見過ごされてしまっています。その中で注意しておきたい初期症状は肛門出血です。
がんの表面は粘膜がもろく出血しやすいのが特徴です。排便した際に鮮血ではない血液が滴下する、あるいは拭ったトイレットペーパーに付着しているものの痛みがない場合は直腸がんの可能性があります。
出血があるのに痛みがないからといってすべてが直腸がんに結びつくわけではありませんが、出血が度々みられるなら早めに受診するのがよいでしょう。
直腸がんが進行した場合の症状
早期では自覚症状が少ない直腸がんですが、進行するにつれてその他の症状もみられるようになってきます。代表的な3つの症状を解説しましょう。
これらの症状がみられると非常に進行している恐れもあるため、ご自分ならびにご家族にこのような症状がみられていないか確認してみてください。
血便
初期段階での肛門出血は頻度・血の量ともに少ないものの、出血量が増えてくると血便を起こすケースが増えていきます。直腸に到達した便は固形のため、血液と便が混ざらず便の表面に血液が付着しているのが特徴です。
直腸がんの初発症状として患者さんの80%以上が訴えるほど、肛門出血・血便は重要な症状です。見逃して発見を遅らせないためにも、肛門出血が続く方は便の状態もよくチェックするようにしましょう。
貧血症状
直腸がんが進行すると肛門出血・血便などで慢性的な出血が起こり、鉄分不足が原因になることから鉄欠乏性貧血の症状がみられます。主に頭痛・耳鳴り・めまいの症状が引き起こされます。また、放置しているうちに視力低下・さじ状爪も発現するでしょう。
患者さんの中でも特に高齢者の方は、鉄欠乏性貧血をきっかけに直腸がんが発見されるケースが多いです。貧血にはさまざまな病気が隠れている恐れがあるため、ただの貧血と安易に考えるべきではありません。
便が出にくい
直腸にできたがんが大きくなってくると、直腸が狭くなり便が出にくくなっていきます。力まないと便が出なかったり、便が細くなったりするでしょう。
反対に下痢が生じる場合もあり、便秘・下痢が交互に続くケースもみられます。またがんから出血した血液が直腸の粘膜を刺激することで、裏急後重(りきゅうこうじゅう)と呼ばれる便意があるのに便が出ない症状が起こります。
便が出にくいために腸内のガスががんより上の方に溜まり、腹が張って苦しくなる方も多いです。排便時以外でも肛門あたりに不快感・圧迫感を覚え、痛みを感じることも増えてきます。
直腸がんの治療方法
直腸がんは、自覚症状が表れた時にはすでに非常に進行している可能性が高いです。そのため、なるべく早く治療を始めることが大切です。
治癒を目指すために有効な3つの治療方法を紹介します。
化学療法
直腸指診及び大腸内視鏡検査を含む診断で直腸がんであることが明らかになったら、治療方針が検討されます。可能であれば手術でがんを切除しますが、手術が難しい場合に行われるのが化学療法です。
いわゆる抗がん剤治療のことで、細胞障害性抗がん薬・免疫チェックポイント阻害薬などを単独または併用し、点滴もしくは内服で行います。薬の組み合わせは複数あり、どの薬を使用するかはがん・臓器の状態、治療方針によって患者さんと担当医で話し合って決定されるものです。
進行がんの場合は、再発を防ぐ目的で術後に補助化学療法を用いたり、生存期間を延長するために化学療法を取り入れたりするケースもあります。
放射線療法
放射線療法は通院しながら治療を受けるのが原則で、約5週間かけて放射線の照射を行います。まだがんがそれほど大きくない場合は効果的にがんを縮小でき、肛門温存もできる確率が上がるでしょう。
なお、手術前に化学療法・放射線療法を併用する治療法を「術前化学放射線療法(CRT)」と呼びます。日本ではまだ症例の少ない治療法ですが、術後の再発率を大きく下げるという研究結果が出ているため、今後日本でも広まっていく可能性があります。
手術
手術はがんの状態によって内視鏡治療か外科治療かが選択されます。早期がんであり、がんがリンパ節に転移している可能性が極めて低く、大きさ・部位が技術的に切除できると判断される場合には内視鏡手術となります。内視鏡を使い大腸の内側からがんを切除するため、開腹手術と比べて体に負担が少なく安全に行える治療方法です。
一方、外科手術は内視鏡治療が難しい場合に適用されます。以前はがんを完全に治すことを目指し、直腸と肛門を一緒に切除し永久人工肛門(ストーマ)を作る方法が多く用いられてきました。
しかし近年では切除手術の技術が確立されて肛門温存が可能になり、がんとその周辺のみ切除する局所切除が一般的になってきています。直腸がんの術後5年生存率は全体のおよそ55%です。
早期発見することでさらに生存率は高くなります。定期検診を受けて早期発見に努めましょう。
直腸がんの予防方法
直腸がんの予防として特に注意するべきなのは食生活です。なぜなら直腸がんの主な環境要因が食事にあるからです。日本人の食生活が欧米化し動物性脂肪を多く摂るようになってから、日本人の直腸がんは増加傾向にあります。そのため、肉食を好んでいる方はまず食事を見直し、食物繊維・野菜・果物を多く摂るよう心がけてみましょう。
また、牛乳・カルシウムは発がんリスクを低下させる効果があることが明らかになっています。ぜひ毎日の食事で積極的に取り入れてください。
食事以外の面では運動が効果的です。運動の大腸発がん抑制効果を調べた観察研究によると、リスクを約40%低減させるという結果が出ています。体脂肪量が増えると発がんリスクも増加する傾向が強いため、定期的に運動をするのがおすすめです。
一方、多量の飲酒・喫煙は直腸がんのリスクを大いに高めます。その他の疾患を予防するためにも控える方がよいでしょう。
直腸がん以外の大腸がんの種類
「大腸がん」とは大腸を形成する結腸・直腸に発生するがんの総称です。直腸がん以外に5つのがんが大腸がんに含まれます。
それぞれどのような特徴を持つがんなのか、詳しく解説していきます。
上行結腸がん
盲腸から続き、右側腹部を上行する上行結腸にできるがんが上行結腸がんです。上行結腸を通る便はまだ液状で、出血しても排便までに時間がかかります。また、腸の内径が太いために便通異常が起こりにくいことから、大腸がんの中でも右側腹部にできるがんは特に自覚症状が表れにくいといえます。
慢性的な出血による貧血・腹部のしこり・全身倦怠感などの症状が発現してから、診断されることが多いのが特徴です。
横行結腸がん
上行結腸から左側へ渡る横行結腸にできるがんを横行結腸がんと呼びます。横行結腸でも便は固まりきっていない状態であり、進行しても症状が出にくく発見が遅れてしまいやすいです。
主に貧血・腹部のしこりといった症状がみられます。
下行結腸がん
横行結腸から続き、左側腹部を下降する下行結腸にできるがんが下行結腸がんです。上行結腸と比べて腸の内径が細いため、がんによってさらに狭くなると便が通過しにくくなり便通異常を起こしやすいです。
便秘・下痢が起こることから、時おり腹痛の症状がみられることもあるでしょう。血便によって発覚するケースが多いです。
S状結腸がん
結腸の末端部部分に位置し、下行結腸と直腸を結ぶS状にカーブした結腸にできるがんをS状結腸がんといいます。
下行結腸およびS状結腸では便が固まってくるため、がんが進行し腸管が完全に詰まってしまうと腸閉塞を起こしてしまいます。腸閉塞によってガスも出づらくなり、腹痛・嘔吐・腹部膨満感などの症状となって現れることもあるでしょう。
肛門がん
臀部の出口にある肛門(肛門管)に発生するがんが肛門がんです。大腸がんの中でも極めてまれな疾患ですが、個人差が著しい器官であることから多様な腫瘍が発生します。
主な症状は排便時の違和感・肛門の膨張です。痛み・血便が生じることもありますが、無症状の患者さんも見受けられます。注意したいのは、痔核(いぼ痔)と勘違いして放置してしまうことです。
早期診断が難しくすでに進行した状態で発見されるため、予後が不良となりやすい傾向にあります。痔核を繰り返している方は特に見落とさないようにしましょう。
直腸がんの初期症状についてよくある質問
ここまで直腸がんを見分ける症状についてご紹介しました。ここでは「直腸がんの初期症状」に関するよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
直腸がんはどうやってわかりますか?
中路 幸之助(医師)
排便した際に、トイレットペーパーに血が付着していたり便に血が混ざっていたりすることが判断の1つになります。しかし先述したとおり、直腸は消化吸収の働きがないため自覚症状は分かりにくく、排便による出血は痔と勘違いする場合があります。排便時の出血の有無は見過ごされる可能性が多いため、出血や血便がないかなどご自身で確認することが大切です。
直腸がんの検査はどのようなものがありますか?
中路 幸之助(医師)
直腸がん検査の多くは触診を行います。直腸がんの多くは肛門から指を入れて届く範囲で判別でき、しこりや異常の有無を確認します。また触診で判別しにくい場合は画像検査を行い、直腸がんの位置や肛門からの距離を判断するのです。
編集部まとめ
この記事では直腸がんの初期症状から治療方法・予防方法について解説しました。
直腸がんは自覚症状が出にくい疾患です。痛みがないと状態はひどくないと考え、初期症状を見逃がしてしまう方が多くいます。
しかし、治癒を目指すためには早期発見・早期治療が欠かせません。症状・治療に苦しむのを避けるためにも、日頃から自分の体調をよくチェックするのはよいことです。
毎日の食生活・ライフスタイルに気を配りながら定期検診も怠らないことで、直腸がんのリスクから身を守っていきましょう。
直腸がんと関連する病気
「直腸がん」と関連する病気は4個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など、詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
直腸がんは大腸がんの1つのため、大腸に関わる病気と関連しています。また初期段階では軽い肛門出血がある程度で痛みが生じにくいことから、痔核と間違われやすいという問題があります。しかし自己判断で放置すると、気がついた時には直腸がんが非常に進行している状態になりかねません。違和感を覚えたら医療機関を受診してください。
直腸がんと関連する症状
「直腸がん」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
肛門出血・血便は直腸がんの主な症状です。初期段階からみられる症状であり、これらの症状が続く場合は直腸がんを疑いましょう。さらに便通異常も増えてきますが、痛みが出るのは進行してからです。他の病気が隠れている可能性もあるため、気になる症状があれば早めに医師に相談しましょう。