「抗がん剤の副作用」となる症状・出にくい人の特徴はご存知ですか?医師が解説!
抗がん剤の副作用とは?Medical DOC監修医が抗がん剤の副作用・出にくい人の特徴・軽くする方法などを解説します。
監修医師:
横田 小百合(医師)
都内の大学病院・がんセンターにてがん治療と緩和ケア診療に従事。現在はがん専門病院にて緩和ケア診療を行っている。
保有資格:医師、がん治療認定医、総合内科専門医、日本緩和医療学会認定医
目次 -INDEX-
「抗がん剤」とは?
抗がん剤は、がん細胞の増殖・進行を防いで死滅に導くための薬剤です。抗がん剤を使用した治療は化学療法とも呼ばれ、外科手術・放射線治療と並ぶがんの主な治療法のひとつです。また、がん治療はこれらの治療を組み合わせることが多いです。
抗がん剤のみで完治を目指す場合もありますが、手術前に病巣を小さくする目的で抗がん剤を使用したり、術後の転移・再発を防ぐ目的で抗がん剤を使用したりするなど、補助的な役割で用いられることも多くあります。
抗がん剤を投与すると副作用が現れる原因
抗がん剤を使用すると、さまざまな副作用を伴います。中には生命に関わるほど危険な副作用が現れることもあります。抗がん剤にはがん細胞の分裂・増殖を直接阻害するという強力な働きがありますが、体内の正常な細胞にも作用してダメージを与えてしまうことでこのような副作用が発生します。
がん細胞は分裂・増殖が盛んであることが特徴ですが、抗がん剤はそのような細胞を破壊するべく作用します。そのため、毛髪、口腔粘膜、消化管粘膜、骨髄などの分裂・増殖が盛んな正常細胞が特にダメージを受けてしまいます。
抗がん剤の副作用の多くは苦痛を伴う症状であり、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。副作用のせいで抗がん剤による治療を中止・終了せざるをえなくなる場合もあります。
抗がん剤の副作用となる症状
吐き気・嘔吐
吐き気・嘔吐は非常に多くの方に現れる副作用です。抗がん剤が消化管粘膜や脳の嘔吐中枢を刺激することによって吐き気・嘔吐の症状が引き起こされると考えられています。
また、吐き気には種類があります。1つ目は、抗がん薬投与後1〜2時間という短時間で始まり、24時間以内におさまる急性嘔吐です。2つ目は、投与後24時間以上経過してから始まり、数日〜1週間ほど続く遅発性嘔吐です。3つ目は、過去の抗がん剤治療で吐いた記憶から、いざ抗がん剤を投与するとなった時に投与前から抗がん剤に対する不安・嫌な気持ちによって吐いてしまう予期性嘔吐です。
抗がん剤による吐き気・嘔吐には制吐薬(吐き気止め)が有効です。吐き気・嘔吐が現れないように、抗がん剤投与前に予防的に制吐薬を投与することも可能です。また、胃粘膜を守る目的で胃粘膜保護薬、嘔吐に対する過剰な不安を和らげる目的で抗不安薬を使用することもあります。
脱毛
脱毛は抗がん剤が毛根の毛母細胞を攻撃してしまうことで起こります。毛髪だけでなく、眉毛、まつ毛、鼻毛、ひげ、わき毛、陰毛など全身の毛が抜けます。多くの場合、抗がん剤投与を開始して2〜3週間後に始まります。そして、抗がん剤終了後3~6ヶ月経ったら再び生え始めます。
抗がん剤による脱毛の症状を改善する方法はありません。あらかじめ髪を短くカットする、ウィッグや帽子を用意しておくといった準備をおすすめします。また、頭皮や皮膚のかゆみ・炎症が現れた場合は、がん治療の主治医に相談するか、皮膚科を受診してください。
口内炎
抗がん剤による口腔粘膜への刺激と、免疫力低下による細菌感染により、口内炎が発生しやすくなります。口内炎の主な症状は口の中の炎症、潰瘍、ただれ、痛み、出血、乾燥です。抗がん剤による口内炎だと重症化することもあり、飲食することも苦痛を伴い、日常生活に大きな影響をきたします。多くの場合は抗がん薬投与開始後2〜10日で症状が現れ、自然に軽快しますが、治るまでに1か月近くかかることもあります。
口内炎の治療には、抗炎症作用や粘膜保護作用を持つうがい薬や軟膏を使用します。また、漢方薬が用いられることもあります。強い痛みには鎮痛薬や局所麻酔薬も有効です。
また、普段からのうがい・歯みがきをして口腔内を清潔に保つことは口内炎の予防・軽減効果が期待できます。抗がん剤による口内炎が現れた場合、がん治療の主治医に相談するのが一番です。口腔ケアが難しい場合は歯科や口腔外科を受診してください。
しびれ
抗がん剤は、しびれなどの末梢神経障害を引き起こすことも多いです。化学療法によって起きる末梢神経障害は、一度現れると軽快するまで数か月〜1年以上と長い時間を要することが多いです。手足のしびれの他、痛み、皮膚の感覚がおかしい、洋服のボタンがかけにくい、水が冷たく感じる、物を持ちにくい、つまずきやすい、歩行困難などの症状がでます。抗がん剤投与開始後2〜3週間ほどで症状が現れることが多いです。抗がん剤によるしびれの予防・治療法は確立していませんが、痛みを伴う場合は鎮痛薬が有効です。また、患部のマッサージや入浴など血行を良くする習慣や運動はしびれの軽減効果が期待できます。
骨髄抑制
骨髄抑制とは、骨髄の機能が低下して血球成分の生産能力が下がることです。抗がん剤の代表的な副作用です。自覚症状がない場合もありますが、命に関わることもあるので注意が必要です。
骨髄抑制は、抗がん剤が骨髄細胞にも作用することで起こります。血液中の白血球・赤血球・血小板が著しく減少することで、さまざまな症状を引き起こします。白血球が減少すると、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなります。血小板が減少すると、皮下出血・鼻血・歯茎からの出血などが起こります。脳出血や消化管出血などの重篤な出血リスクも高まります。赤血球が減少すると、貧血が起こります。抗がん剤治療中にめまい・ふらつきなどの症状が現れたら、貧血の疑いがあります。
多くの場合は抗がん剤投与開始後1〜2週間頃に骨髄抑制が現れます。症状を軽減するために、白血球減少を防ぐ顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、鉄剤などの薬剤を使用することがあります。感染症を発症してしまった場合は抗菌薬を使用します。
抗がん剤の副作用が出にくい人の特徴
抗がん剤の副作用について詳しく解説しましたが、副作用の出現頻度・程度・時期には大きな個人差があります。そこは体質・基礎疾患の有無・薬剤への感受性など、多岐にわたる要素が複雑に絡み合っているため、抗がん剤投与前に自分はどのくらい副作用が現れるのか正確に把握することはできません。
ここでは、抗がん剤の副作用が出にくい人の特徴について一つご紹介します。
肝機能や腎機能が正常
薬の代謝・排泄は、肝臓や腎臓が深く関与しています。抗がん剤は正常細胞にも影響をきたす強い薬だと前述しましたが、肝臓や腎臓へのダメージも大きく、副作用として肝機能障害や腎機能障害を引き起こすことが多くあります。
そのため、肝臓や腎臓に元々障害がある方は抗がん剤投与によりそれが悪化してしまう可能性があります。もともと肝臓・腎臓が正常な方は余力があるため肝機能障害や腎機能障害が軽度で済む可能性があるとも考えられます。治療中は定期的に血液検査を行い副作用が出現していないか確認することになります。市販のサプリで肝機能や腎機能が悪くなることもあるので、サプリの使用も主治医に相談しましょう。
抗がん剤の副作用を予防する方法
さまざまな研究がなされていますが、抗がん剤の副作用を確実に予防・軽減する方法というのはまだわかっていません。そんな中でできることをご紹介します。
感染予防
抗がん剤治療中は免疫力が低下して感染症にかかりやすい状態なので、できる範囲で感染を予防することが大切です。入院中であればクリーンルーム(無菌室)で過ごすといった対策が取られることもあります。本人及び周囲の方々は、手洗いうがい、手指消毒、マスクなどの感染対策を欠かさないようにしましょう。
自分に合った薬を使用する
抗がん剤は種類が豊富で、違うメカニズムで似たような効果が得られる薬があることもあります。また、副作用の出やすさや効果も人それぞれです。自分が現在使っている抗がん剤の副作用が強い場合は、薬の内容や組み合わせを変更することがあります。薬の変更には専門的な知識が必要ですので、症状に困っている場合は早めに主治医に報告しましょう。
「抗がん剤の副作用」についてよくある質問
ここまで抗がん剤の副作用を紹介しました。ここでは「抗がん剤の副作用」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
抗がん剤の副作用は投与から何日目がピークでしょうか?
横田 小百合 医師
抗がん剤の副作用のピークは、投与された抗がん剤の種類によって異なります。一般的には、投与後すぐに起こる急性の副作用と、時間が経過してから起こる遅発性の副作用があります。急性の副作用は投与後数時間から1日以内に強く現れることが多く、遅発性の副作用は数日から数週間後を目安に現れてきます。患者さんの体調や、抗がん剤の組み合わせによっても変わります。主治医へ自分に発症する可能性がある副作用とそのタイミングについて尋ねていただくと良いでしょう。
抗がん剤の副作用はいつからいつまで続きますか?
横田 小百合 医師
抗がん剤の副作用の継続期間は、使用される薬剤や治療のスケジュール、副作用の種類によって異なります。例えば脱毛であれば、抗がん剤を投与してからおよそ2~3週間後に髪の毛が抜け始めます。そして、抗がん剤を終了してから約3〜6か月後から髪の毛がまた生え始めると言われています。しびれなどは抗がん剤をやめた後も、半年から年単位で持続します。
抗がん剤の副作用がないと、病気に効果がないということでしょうか?
横田 小百合 医師
副作用の有無と抗がん剤の効果があるかどうかは別問題です。効果があっても副作用が起こらずに済む方もいれば、効果がないにも関わらず副作用が強く出てしまうケースもしばしばあります。薬の量を減らすなどして効果と副作用のバランスを取りながら続けていくこともできます。
編集部まとめ
抗がん剤治療は多かれ少なかれ副作用が必ず現れます。しかし、抗がん剤治療はがんを治すための非常に重要な治療であり、副作用についての十分な知識と理解は治療を受ける上でとても大切です。副作用がつらい時は無理せずに医師や周囲に相談し、解決策を一緒に考えましょう。
「抗がん剤の副作用」と関連する病気
「抗がん剤の副作用」と関連する病気は9個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
抗がん剤治療中に現れる上記の疾患は、抗がん剤の副作用である可能性があります。
もしも上記の疾患の受診先とがん治療の病院が違う場合は、必ず抗がん剤治療中であることを医師に伝えてください。
「抗がん剤の副作用」と関連する症状
「抗がん剤の副作用」と関連している、似ている症状は14個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
抗がん剤治療中に起こる上記のような症状は、抗がん剤の副作用である可能性があります。症状が強い場合は、早めに主治医に報告し、治療計画を相談しましょう。