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「多発性骨髄腫の症状」はご存知ですか?検査法・治療法も解説!【医師監修】

 公開日:2024/01/13
「多発性骨髄腫の症状」はご存知ですか?検査法・治療法も解説!【医師監修】

多発性骨髄腫についてご存知でしょうか?

多発性骨髄腫は血液のがんであり、原因が明らかではない病気です。また再発も多いとされているため、予防も難しいとされています。

しかし、治療薬・治療法が開発されたことにより多発性骨髄腫の症状を抑えることが可能となりました。

今回は多発性骨髄腫の症状・検査方法・治療法について解説します。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

多発性骨髄腫とは?

多発性骨髄腫は、血液細胞の中の形質細胞ががん化して起こる血液のがんです。血液には赤血球・白血球・血小板などの血液細胞が存在しています。
形質細胞は、白血球の一種であるBリンパ球(白血球の一部を占める免疫細胞)から分化した細胞です。病原菌やウイルスが体内に侵入したときに体を守るための抗体(免疫グロブリン)を作る役割を果たしています。形質細胞が正常に働いているときは異なる抗体を作って体を守っています。
しかし、がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)が異常な抗体(Mタンパク)を作って増殖することで体にさまざまな症状が起こるのです。病気の原因は、まだ明らかになっていないため予防が困難とされています。治療しても再発することが多く完治は難しい病気です。
しかし新薬・治療法が開発され、症状のない状態で生活を送ることが可能になってきました。

多発性骨髄腫の症状

多発性骨髄腫を発症すると、現れる症状は4つあります。

  • 骨病変
  • 腎臓の機能低下
  • 貧血
  • 感染症への罹患

これらについて詳しく解説していきます。またこれらの他に現れる症状も合わせて解説します。

骨病変

骨髄腫細胞が骨を破壊する作用を活性化させ、骨を形成する細胞の働きを抑制することで起きる症状です。多発性骨髄腫にはよく見られる症状で、骨が脆くなり骨折しやすくなります。
脊髄が圧迫される「圧迫骨折」や、少しの力で簡単に骨折する「病的骨折」が起こることもよく知られています。骨の痛みが日常生活に影響を及ぼすことが少なくありません。重い物を持つことは避け、転倒などに注意しましょう。
また骨が破壊されると骨のカルシウムが血液中に放出され、高カルシウム血症が起こります。症状は脱水・倦怠感・食欲低下・意識障害などが挙げられます。

腎臓の機能低下

腎臓の機能が低下する原因として主に考えられるのは、次の2点が挙げられます。

  • 高カルシウム血症により腎臓にカルシウムが蓄積すること
  • 骨髄腫細胞が大量に作るMタンパクが腎臓の糸球体(血液の老廃物をろ過する)や尿細管(原尿中の必要な水分やミネラルなどを吸収して不要なものを排出する)を詰まらせ溜まること

腎機能障害は多発性骨髄腫の診断基準および治療対象となっています。腎機能低下の症状には、尿の量が増える・食欲不振・疲労感などがあります。
腎機能障害の症状が進むと血液透析が必要になる可能性があるため、早期に発見し治療を始めることが重要です。

貧血

骨髄腫細胞が増えると正常な血液細胞(赤血球・白血球・血小板)の生成が妨げられ、腎機能の低下によりエリスロポエチン(赤血球を作るホルモン)の分泌が減少し、結果として貧血を引き起こします。
めまい・立ちくらみ・倦怠感などの症状が現れます。

感染症への罹患

正常な血液細胞の生成が阻害され、白血球が減少すると免疫力が低下し病原体に感染リスクが高まります。白血球は病原体やウイルスから体を守る役割があるためです。

その他

Mタンパクが増加すると血液がドロドロになって血流が悪くなり、めまい・頭痛・視覚障害などを引き起こします。これは過粘稠症候群と呼ばれる状態です。
またMタンパクから作られたアミロイドという物質が心臓や腎臓などの臓器に蓄積して障害を引き起こすアミロイドーシス・骨髄腫細胞が骨髄外で腫瘍を作る(形質細胞腫)などの合併症が起こることがあります。

多発性骨髄腫の検査方法

多発性骨髄腫の検査方法について解説します。また骨髄腫だけでなく、腎機能障害などの合併症の状態についても調べることが重要です。

尿検査

尿内のMタンパクの有無を調べ、Mタンパクが検出された場合はその種類を検査します。Mタンパクが増殖すると、ベンスジョーンズタンパクが尿から検出されることが多いため、多発性骨髄腫の診断には重要な検査です。
24時間分の尿を集める全尿検査も行います。健康診断時の尿検査で尿タンパクの異常が発見されることにより、病気が判明することもあります。

血液検査

血液検査にて異常な抗体であるMタンパクの有無を調べます。赤血球・ヘモグロビン・白血球・血小板の数値を調べることで、造血機能の低下や多発性骨髄腫の進行度合いなどを把握することが可能です。
また、クレアチニンの数値をもとに腎機能の状態を評価することも可能です。

骨髄検査

尿検査・血液検査の検査結果で、多発性骨髄腫が疑われたら行う検査です。腰骨に針を刺し骨髄液を採取して、骨髄腫細胞の量・骨髄の造血機能を顕微鏡で調べます。

X線・CT・MRIなどによる画像診断検査

骨病変・腫瘍について調べられるのが画像診断です。

  • X線:全身の骨の状態の調査
  • CT・MRI:X線では分からない骨病変や骨髄以外の腫瘍の調査

X線は骨髄腫の骨浸潤などを調べるため行われる検査です。CT・MRIはX線では把握できない病巣の広がり・腫瘍の広がりを検査するために行います。また治療効果の判定で使用することもあるでしょう。

多発性骨髄腫の治療方法

Mタンパクが検出されても、明らかな症状がない方もいらっしゃいます。治療を早く始めても予後に変化はないので、症状がなければ治療はせず経過観察に留めることが一般的です。
骨病変・高カルシウム血症・腎臓の機能低下・貧血などの症状がひとつでもあれば、症候性骨髄腫と診断され治療が必要な状態とされます。ここでは主な治療方法を解説します。

薬物療法

多発性骨髄腫は、以前「治療は難しい」と考えられていました。しかし新しい薬が開発され治療方法が多くなりました。完治は難しくても、無症状の期間を長く保てることが期待されます。
投与する薬物の種類は、後にご説明する幹細胞移植を実施するかどうかによって異なります。異なる効果がある薬を複数組み合わせて投与することが多いです。

  • 幹細胞移植を行う方の治療法:複数の薬を組み合わせた薬物療法を集中的に繰り返し骨髄腫細胞をできる限り減少させます。VRD療法・CyBorD療法という薬の組み合わせを選ぶことが多いです。その後大量薬物療法で骨髄腫細胞をほぼ消滅させてから幹細胞を移植します。
  • 幹細胞移植を行わない方の治療法:プロテアソーム阻害剤・免疫調節薬・抗体薬・ステロイドなどを3~4種類組み合わせて投与します。効果がなければ違う薬剤を組み合わせて寛解を目指します。高齢者・臓器に問題がある方は、副作用に注意しながら薬の量を調整することも重要です。

自家末梢血幹細胞移植療法

自家末梢血幹細胞移植療法とは、強力な化学療法で骨髄腫細胞を大幅に減少させた後に、患者さん本人の造血幹細胞を移植する治療法です。骨髄の中で血液は作られていますが、骨髄内でどの血液細胞になるのか決まっていない未熟な細胞が「造血幹細胞」です。
造血幹細胞には赤血球・白血球・血小板の全ての血液細胞を作る性質と、細胞分裂を繰り返して同じ細胞を増やす性質があります。造血幹細胞を前もって採取・保存しておくことで、大量の抗がん剤で一気に骨髄腫細胞を減らせるのです。
拒否反応のリスクを減らすために、患者さん本人の幹細胞を移植することが多いです。この治療法は、多発性骨髄腫や白血病などの血液のがんを完治するために行われますが、誰でも受けられるわけではありません。強力な抗がん剤の副作用に耐えられる人という条件があります。

  • 65歳以下であること
  • 内臓状態に問題がないこと
  • 患者さんが希望していること

治療の流れとしては、以下の通りです。

  • 薬物療法で骨髄腫細胞をできるだけ減らす
  • 白血球を増やす薬を投与する
  • 血液から造血幹細胞を採取して、凍結保存する
  • 大量薬物療法で骨髄腫細胞を減少させる
  • 保存しておいた造血幹細胞を移植して、血液を作る機能を回復する

この造血幹細胞移植療法は治療効果が高く、薬物療法だけを行うより再発までの時間を延ばすとされます。条件に適合する患者さんに推奨される治療法です。

放射線治療

骨病変の痛みの緩和などの目的で、放射線治療が行われます。多発性骨髄腫に対して放射線治療は効果が高く、圧迫骨折による痛みを和らげられます。
また骨の孤立性形質細胞腫の治療にも、放射線治療を用いますがほとんどの方が改善可能です。

骨髄腫の好発年齢と死亡率

多発性骨髄腫の好発年齢は60歳以上の方によく見られる病気です。稀に30〜40代の若い方に見られることもあります。多発性骨髄腫に罹患して死亡する確率も他のがんに比べて低く、5年生存率は約42%になっています。

多発性骨髄腫についてよくある質問

ここまで多発性骨髄腫の症状や治療法についてご紹介しました。ここでは「多発性骨髄腫」についてよくある質問にMedical DOC監修医がお答えします。

多発性骨髄腫の診断は何科を受診すればよいですか?

甲斐沼孟医師甲斐沼 孟(医師)

多発性骨髄腫は血液内科で診断します。ただ症状は骨折・貧血・腎不全など多岐にわたるので、最初から血液内科を受診する方は少ないかもしれません。整形外科や内科で検査をして病名が判明することもあります。毎年健康診断を受ける方は、血液検査で血液の異常が発見されることもあるでしょう。

多発性骨髄腫は完治しますか?

甲斐沼孟医師甲斐沼 孟(医師)

残念ながら多発性骨髄腫は完治が難しい病気です。化学治療や幹細胞移植で骨髄腫細胞が減少しても、再発することが多いです。定期検査は必ず受診して、再発の治療再開時期については担当医と相談してください。完治はできなくても、可能な限り症状を抑えて、通常の日常生活を続けられるようにすることが治療の目標となります。

編集部まとめ

多発性骨髄腫について解説しました。

多発性骨髄腫は血液のがんで、免疫細胞から生じた形質細胞ががん化してMタンパクを作り増殖することで起こります。

高齢者に多い病気で、60代から発病する方が多いです。

多発性骨髄腫の主な症状は、骨病変・高カルシウム血症・腎臓の機能低下・貧血です。
その他に免疫力が低下することで感染症にかかりやすくなったり、過粘稠症候群やアミロイドーシスが起こることもあるのです。

検査方法は尿検査や血液検査でMタンパクの量や種類を調べます。

骨髄に骨髄腫細胞が増殖していないか調べる骨髄検査と、全身の骨の状態を調べる画像診断を行い診断を確定します。

多発性骨髄腫の標準治療は薬物療法と自家末梢血幹細胞移植療法です。

近年では多発性骨髄腫の新薬が続々と登場して、以前に比べて生存期間が格段に伸びました。これからも新たな薬や治療法の登場が期待されます。

「多発性骨髄腫」と関連する病気

「多発性骨髄腫」と関連する病気は2個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

腎臓系

  • 腎障害

血液系

多発性骨髄腫は健康診断で尿検査や血液検査をした際に、タンパクの値が高く異常が見つかることがあります。貧血や骨の痛み・だるさ・むくみなど気になる症状がありましたら、検査を受けることをおすすめします。

「多発性骨髄腫」と関連する症状

「多発性骨髄腫」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

多発性骨髄腫は自覚症状がないうちに気付くのは難しいと思います。60代以上の方で、これらの症状がある方はお早めに医師にご相談ください。

この記事の監修医師

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