「悪性リンパ腫の原因」はご存知ですか?症状や治療法も解説!【医師監修】
悪性リンパ腫は白血球の中のリンパ球ががん化して発症する病気です。悪性リンパ腫が発症する原因は明確にはわかっていません。
しかし、一部の悪性リンパ腫の発症リスクを高める原因についてはいくつかわかってきました。
一部の悪性リンパ腫は、特定のウイルスや細菌に感染することで発症リスクが高まることが明らかになってきました。また、遺伝子に異常が起こることで発症リスクが高まる悪性リンパ腫もあります。
発症リスクを高める原因を知ることで、これらに由来する悪性リンパ腫の発症リスクを下げることにつながるでしょう。
今回は悪性リンパ腫の原因・症状・治療方法について解説します。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
悪性リンパ腫とは?
悪性リンパ腫とは、血液細胞のリンパ球ががん化して発症する病気です。
血液中には様々な血液成分が含まれています。酸素を運ぶ赤血球・止血作用を持つ血小板・免疫を司る白血球などです。このうち、リンパ球は白血球の一種類に分類されます。
血液細胞を作り出すのは骨髄の中にある造血幹細胞です。造血幹細胞は骨髄系幹細胞とリンパ系幹細胞に分かれます。
2つの幹細胞のうち、リンパ球を作り出すのはリンパ系幹細胞です。リンパ系幹細胞から分化して作り出されたリンパ球は、その細胞の性質の違いによって、B細胞・T細胞・NK細胞の3種類に分けられます。
悪性リンパ腫の種類も細胞の性質の違いによって、大きく3種類に分けられます。
- B細胞リンパ腫
- T/NK細胞リンパ腫
- ホジキンリンパ腫
悪性リンパ腫の種類は、細かく分けると50種類以上と非常に多いため、「ホジキンリンパ腫」「非ホジキンリンパ腫」の2種類に分けられるのが一般的です。
日本人にみられる悪性リンパ腫の多くが非ホジキンリンパ腫で、全体の90%以上を占めています。「ホジキン細胞」や「リード・シュテルンベルグ細胞」といった大型の細胞が特徴的なホジキンリンパ腫は、悪性リンパ腫全体の5%程度で、日本人にはあまり多くみられません。
悪性リンパ腫を発症する原因は、はっきりとわかっていません。しかし、一部の悪性リンパ腫はウイルスや細菌感染・遺伝子の異常が原因とされています。
悪性リンパ腫の代表的な症状として、首・脇の下・足の付け根などに現れる、無痛性のしこりがあります。痛みがないしこりが現れ、徐々に大きくなっていくことが特徴です。時間が経ってもしこりがなくなることはありません。
悪性リンパ腫の治療は細胞の種類と病期(ステージ)によって変わります。治療を行う上で、悪性リンパ腫の種類と病期の進行具合を正確に判断することが非常に重要です。
悪性リンパ腫の種類の判断には生検検査が必須です。また、病期の判断にはPET-CTを用いた「Lugano分類」にて判定されます。
悪性リンパ腫の原因
悪性リンパ腫を発症する原因については、まだはっきりとはわかっていません。
しかし、一部の悪性リンパ腫はウイルスや細菌の感染・遺伝子の異常によって発症することがわかってきました。ここでは判明している悪性リンパ腫の発症原因について説明します。
ウイルス・細菌感染による炎症
一部の悪性リンパ腫の発症原因として、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)などのウイルスや、ピロリ菌などの細菌の感染が挙げられます。
HTLV-1は、「成人T細胞白血病リンパ腫」という悪性リンパ腫の原因となるウイルスです。リンパ球の一つであるT細胞にHTLV-1が感染してがん化することで、ATL細胞というがん細胞になり、増殖することで発症します。HTLV-1の主な感染経路は、赤ちゃんのときに母親の母乳から感染する「母子感染」とされています。
悪性リンパ腫の原因とされる代表的な細菌が「ヘリコバクター・ピロリ菌」です。ヘリコバクター・ピロリ菌の影響で発症するとされる悪性リンパ腫には、「胃MALTリンパ腫」があります。
体内に侵襲したヘリコバクター・ピロリ菌が住み着くのは胃です。胃の粘膜に住み着いたヘリコバクター・ピロリ菌は、様々な酵素を分泌して胃の粘膜を傷つけ、炎症を引き起こします。
この炎症の影響によって発症するのが胃MALTリンパ腫です。胃に限局した早期の胃MALTリンパ腫では、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌が治療の中心となります。
このように、一部の悪性リンパ腫の発症には、ウイルスや細菌の感染が関係しています。これらのウイルスや細菌の感染により、必ずしも悪性リンパ腫を発症するわけではありませんが、発症リスクは高まるといえるでしょう。
定期的な経過観察や除菌治療を受けるなどして、悪性リンパ腫の発症リスクを減らすように心がけましょう。
遺伝子の異常
リンパ系幹細胞からリンパ球へと分化する過程において、何らかの原因で遺伝子が傷つき、異常が起こることで悪性リンパ腫が発症する可能性があるとされています。遺伝子の異常が起こる原因は様々です。
- 加齢
- 化学物質
- 活性酸素
- 放射線
悪性リンパ腫の発症ピークが70歳代ということからもわかる通り、加齢は遺伝子の異常を引き起こす大きな要因となります。このほか、化学物質の暴露・活性酸素の増加・放射線なども遺伝子異常を引き起こす要因です。
悪性リンパ腫の症状
悪性リンパ腫の代表的な症状は「無痛性のリンパ節の腫大」です。このほか、悪性リンパ腫は発症した部位や進行具合によって様々な症状が現れます。以下で悪性リンパ腫の症状について説明します。
リンパ節の腫大
悪性リンパ腫の代表的な症状はリンパ節の腫大です。
首・脇の下・足の付け根といった箇所に、しこりのようなものが確認できます。これらの箇所はリンパ節が体表に近いため、リンパ節腫大の影響が現れやすい箇所です。
悪性リンパ腫に伴うリンパ節腫大の大きな特徴の一つが、「痛みがない」ことです。ゴムのような硬さのしこりが触れますが、押しても痛みなどは感じません。
もう一つの特徴が、「時間が経ってもしこりは消失しない」ということです。風邪や炎症などの影響によるリンパ節の腫れは、時間と共に腫れが引いていきます。
しかし、悪性リンパ腫に伴うリンパ節の腫れは時間と共に徐々に大きくなり、自然に消失することはありません。首・脇の下・足の付け根などにしこりができ、いつまでも残っているという場合には悪性リンパ腫の疑いがあるので、一度検査をしてみたほうが良いでしょう。
神経症状
悪性リンパ腫は様々な部位に発生するため、発生部位により症状が異なります。脳や脊髄といった中枢神経系に発症した場合には、それに伴う神経症状が現れます。
- 精神症状
- 頭痛
- 痙攣発作
- 悪心
- 吐き気
- 目の症状
- 言語障害
- 感覚障害
- 運動障害
悪性リンパ腫が中枢神経のどの部位に発症したかによって症状は変わりますが、多くみられるのが精神症状です。
ぼーっとすることが増えたり、ときには性格が急変することもあります。悪性リンパ腫の影響で脳圧が高まることで、頭痛や吐き気などの症状が現れる場合もあるでしょう。
目の症状としては、片目だけにかすみ目や飛蚊症が現れます。また、中枢神経系を原発とする悪性リンパ腫には眼球内リンパ腫を合併する場合もあり、この影響で目の症状が現れる場合もあるでしょう。
悪性リンパ腫が発生した脳の部位によっては、言葉が出てこなくなったりうまく話せなくなったりする言語障害が現れます。そのほか、手足の痺れのような感覚障害・足や手が思うように動かないといった運動障害などが現れる場合もあるでしょう。
脳や脊髄は体中のあらゆる神経を司っているため、これらの部位に悪性リンパ腫が発生して起こる神経症状は多岐にわたります。これらの神経症状が見られた場合には、脳神経外科や脳神経内科などに相談し、脳のMRI検査や血液検査などで調べてもらうと良いでしょう。
悪性リンパ腫の主な種類
悪性リンパ腫は細胞の性質の違いによって50種類以上に分類されます。
非常に多くの種類が存在する悪性リンパ腫ですが、その中でも発症割合が多い悪性リンパ腫の種類は「B細胞リンパ腫」です。悪性リンパ腫全体の80%以上がB細胞リンパ腫であるとされています。
ここでは、悪性リンパ腫の大きな一分類である「ホジキンリンパ腫」と、B細胞リンパ腫の主な種類について説明します。
ホジキンリンパ腫
ホジキンリンパ腫は欧米において全悪性リンパ腫の約30%を占める悪性リンパ腫ですが、日本では5%程度と発症頻度は多くありません。
ホジキンリンパ腫は、「古典ホジキンリンパ腫」と「結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫」の2種類に分けられます。このうち、発症するホジキンリンパ腫の大部分を占めるのは古典的ホジキンリンパ腫です。
悪性リンパ腫の治療において、生検検査で細胞の種類を特定する必要があります。ホジキンリンパ腫では「ホジキン細胞」や「リード・シュテルンベルグ細胞」といった大型の細胞がみられる点が特徴です。
ホジキンリンパ腫の主な症状は痛みのないしこりの出現です。また、発熱・体重減少・盗汗(大量の寝汗)といった全身症状がみられます。これらの症状は「B症状」と呼ばれます。
MALTリンパ腫
MALTリンパ腫は、胃に発生する胃MALTリンパ腫が多くみられます。
粘膜や腺細胞に発生するのが特徴で、胃MALTリンパ腫と胃以外のMALTリンパ腫に分けられます。MALTリンパ腫はB細胞リンパ腫に分類され、低悪性度リンパ腫です。
濾胞性リンパ腫
濾胞性リンパ腫は全悪性リンパ腫の20%程度を占める代表的な悪性リンパ腫です。
B細胞リンパ腫に分類されます。濾胞性リンパ腫は病期の進行が年単位で進む低悪性度リンパ腫ですが、中には月から週単位で病期が進行する高悪性度リンパ腫に変化する場合もあるので注意が必要です。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
非常に多くの種類が存在する悪性リンパ腫ですが、中でも特に発症割合が多い悪性リンパ腫が「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」です。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫だけで、悪性リンパ腫全体の30〜40%を占めるとされています。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は病気の進行が早い中悪性度リンパ腫です。
病期が月から週単位で進むため、素早い治療が必要で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された方の全員が化学療法の対象となります。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫においても、無痛性のしこりやB症状といった全身症状がみられます。
悪性リンパ腫の治療
悪性リンパ腫の中心的な治療方法は放射線療法と抗がん剤を使用した化学療法です。
これら2つの治療方法での完治が望めない場合には、造血幹細胞移植を行う場合もあります。ここでは悪性リンパ腫の治療方法について説明します。
放射線治療
放射線治療はリニアックという大型の放射線照射装置を使用して、高エネルギーの放射線を悪性リンパ腫の病巣に照射して治療する方法です。
主に「悪性度にかかわらず病巣が限局している場合」「症状の進行が緩やかな低悪性度の悪性リンパ腫」などの治療を目的に使用されます。悪性リンパ腫が1〜2箇所に限局している場合には、悪性度の高い・低いにかかわらず放射線療法が選択される場合があるでしょう。また、症状の進行が緩やかな低悪性度の悪性リンパ腫の場合も放射線療法が選択されます。
病巣が限局していて広がりがみられない場合、放射線療法だけで治癒が見込める場合があるでしょう。全身に広がりが見られる場合では、化学療法と放射線療法を併用して使用します。
放射線療法は基本的に通院しながら治療を受けられることがメリットです。副作用として皮膚や粘膜のただれ・食欲不振・吐き気などがみられます。
化学療法
悪性リンパ腫治療の中心となるのが、抗がん剤を使用した化学療法です。
基本的には複数の抗がん剤を併用して治療します。悪性リンパ腫の代表的な化学療法が3つの抗がん剤を併用する「CHOP療法」です。
CHOP療法ではシクロフォスファミド・ドキソルビシン・ビンクリスチンという3つの抗がん剤に、副腎皮質ホルモンのプレドニゾロンを組み合わせて使用します。CHOP療法に使用される抗がん剤に、リツキシマブという抗がん剤を組み合わせて治療する「R-CHOP療法」は、非ホジキンリンパ腫の代表的な化学療法です。
また、ホジキンリンパ腫では、ドキソルビシン・ブレオマイシン・ビンブラスチン・ダカルバジンの4つの抗がん剤を使用した「ABVD療法」が代表的な化学療法です。抗がん剤を用いた化学療法は通院にて治療できます。
しかし、副作用として白血球減少による免疫力の低下などがあるため、場合によっては入院して治療することもあるでしょう。
造血幹細胞移植
放射線療法や化学療法では治癒が見込めない場合や、悪性リンパ腫が再発した場合に造血幹細胞移植が選択されることがあります。造血幹細胞移植の方法には、患者さん自身の造血幹細胞を使用する「自家移植」と、ドナーから提供された造血幹細胞を使用する「同種移植」の2種類があります。
悪性リンパ腫における造血幹細胞移植では、「自家移植」が一般的です。
最初に患者さん自身の骨髄液を採取して保存しておき、大量化学療法にて患者さんの体内の腫瘍および免疫細胞を大幅に減少させてから、保存しておいた造血幹細胞を点滴にて移植します。移植した造血幹細胞が患者さんの体内の骨髄にたどり着き増殖することで、正常な白血球が増え始めます。
造血幹細胞移植の副作用として、移植前に行う処置にて免疫力が大幅に下がることが挙げられるでしょう。これにより感染症にかかるリスクが高くなり、ときには重篤な症状を引き起こす場合もあるため注意が必要です。
「悪性リンパ腫」についてよくある質問
ここまで悪性リンパ腫の原因や種類などを紹介しました。ここでは「悪性リンパ腫の原因」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
悪性リンパ腫で受診するべき診療科は何科ですか?
甲斐沼 孟(医師)
悪性リンパ腫の検査や診断は主に「血液内科」で行います。治療においても血液内科が中心となり、悪性リンパ腫の発生部位や転移場所に応じて各科と連携して治療に当たります。
悪性リンパ腫の検査方法について教えてください。
甲斐沼 孟(医師)
悪性リンパ腫の診断において重要な検査が「生検検査」です。しこりの原因であるリンパ節から細胞を採取し、顕微鏡にて観察して細胞の種類を判断します。悪性リンパ腫の治療において腫瘍細胞の特定は非常に重要です。このほか、悪性リンパ腫の全身への広がりを見るのにCT検査などの画像検査が行われます。また、悪性リンパ腫の病期診断を行う上でPET-CT検査は欠かせません。
編集部まとめ
悪性リンパ腫の発生原因は明らかになっていません。しかし、一部の悪性リンパ腫の発生には、ウイルスや細菌の感染・遺伝子の異常などが発症リスクを高める原因であることがわかってきました。
悪性リンパ腫は細胞の性質の違いによって50種類以上に細かく分類わけされていますが、主な症状としてリンパ節の腫れがみられます。
悪性リンパ腫におけるリンパ節の腫れに伴うしこりは、痛みがなく、徐々に大きくなっていく点が特徴です。このほか、発熱・体重減少・盗汗(大量の寝汗)といったB症状と呼ばれる全身症状がみられます。病期が進行し腫瘍が全身に広がると、様々な全身症状が現れるでしょう。
しこりなどの初期症状は痛みがないため見過ごしがちですが、悪性リンパ腫は早期に発見し適切な治療を行えば完治が目指せます。首・脇の下・足の付け根にしこりを発見したら、早めに医療機関を受診しましょう。
「悪性リンパ腫」と関連する病気
「悪性リンパ腫」と関連する病気は16個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
悪性リンパ腫は全身の様々な箇所に発症するため、現れる症状も多種多様です。他の病気と同じような症状が現れる場合もあるため注意しましょう。体調に異変を感じたら、早めに医療機関を受診して検査を受けてください。
「悪性リンパ腫」と関連する症状
「悪性リンパ腫」と関連している、似ている症状は19個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
悪性リンパ腫の特徴的な症状が「リンパ節の腫れ」です。そのほか、発熱や喉の違和感のような風邪に似た症状が現れることもあります。なかなか治らない症状がある場合には、決して自己判断せずに医療機関を受診しましょう。