「定位放射線治療」で治せる病気はご存知ですか?費用についても医師が解説!


監修医師:
木村 香菜(医師)
目次 -INDEX-
「定位放射線治療」とは?
定位放射線治療(SRT:Stereotactic Radiotherapy)は、病変に対して直線加速器を用い、多方向から小さな照射野に対して放射線を照射する治療法のことです。 通常の放射線治療と比べ、より小さな照射野に、集中的に高い線量を当てることが可能となります。同時に、周囲の正常臓器への影響を低減できるというメリットもあります。 1回での照射を定位手術的照射(Stereotactic Radiosurgery:SRS)、体幹部の腫瘍などに対して、分割して放射線を当てる治療を定位放射線治療(Stereotacic Radiotherapy:SRT)といいます。ただし、一般的にはこれら2つをまとめて定位放射線治療と呼んでいます。それぞれ、頭や体幹を固定具でしっかりと動かないようにして、さまざまな方向から放射線を当てます。 今回の記事では、定位放射線治療とはどのようなものか、適応となる疾患や治療の流れについて解説します。定位放射線治療の費用
定位放射線治療は、原則保険適用となります。以下では、保険適用の場合の費用と、自費診療の場合の費用のおおよその価格を説明します。保険適用の場合
定位放射線治療が保険適用となる場合には、3割負担の方で約19万円、1割負担の方では約6万円が相場と考えられます。費用に関しては、高額療養費制度の対象となる場合もあります。自費診療の場合
定位放射線治療が自費診療となる場合は、それぞれの医療機関が設定した金額となります。通常は、高額となる場合が多いでしょう。サイバーナイフによる三叉神経痛に対する照射は2025年現在自由診療となり、20~60万円ほどの診療費で施行されているだろうという報告もあります定位放射線治療で治せる病気
定位放射線治療の適用となっている病気には、以下のようなものがあります。頭頸部の腫瘍
頭頸部に発生する悪性腫瘍の一部は、手術が難しい位置にある場合があります。定位放射線治療は正常組織に近い腫瘍でも精密に治療できます。耳鼻咽喉科、頭頸部外科、放射線治療科が担当する場合が多いです。腫瘍が比較的限局している再発例や手術困難例、臓器温存を優先したいケースなどが適応となります。脳動静脈奇形
動静脈奇形に対しての放射線治療の目的は、異常な血管の塊であるナイダスの増殖を抑えることで、頭痛などの症状を和らげることです。脳動静脈奇形の治療の基本は手術ですが、患者さんの年齢や病変の体積、部位などを考慮し、放射線治療が選択されることがあります。 脳神経内科や放射線科が担当します。薬物療法で疼痛管理が困難な三叉神経痛
三叉神経痛は、顔の片側に激しい痛みをきたす疾患です。三叉神経痛の原因にはさまざまなものがあります。三叉神経への血管圧迫、髄膜腫などの腫瘍による神経の圧迫や刺激、三叉神経の損傷、多発性硬化症などがあります。しかし、原因が不明な事例もあります。 定位手術的照射(SRS)は、血管圧迫による特発性三叉神経痛に対して適応となります。ガンマナイフやサイバーナイフでのSRSが行われています。 脳神経外科、ペインクリニック、放射線治療科が治療を担当します。原発性及び転移性の肺がん、肝がん
初期の肺がんや肝がんは手術以外の選択肢が少ないですが、SBRTで根治を狙えるケースがあります。 呼吸器外科、消化器内科、肝臓内科、放射線治療科が担当します。 3cm前後の限局した腫瘍、手術困難例などが適応となります。転移病巣のない限局性の前立腺癌又は膵癌
前立腺がんではSBRTが標準治療として広がりつつあり、短期間で治療が完結します。 膵がんでも外科手術が難しい場合に定位照射が利用されます。脊髄動静脈奇形
脊髄の動静脈奇形(AVM)は手術が非常に難しく、定位放射線治療が有効な場合があります。定位放射線治療を行う目的
定位放射線治療の目的には、以下のようなものがあります。がんの局所制御の向上
定位放射線治療では、5〜10の多方向から3次元的に、放射線を小さな照射領域に照射します。つまり、腫瘍の局所を集中的に狙い、がんの局所制御を目指すという目標があります。がんのまわりの臓器の有害事象の低減
定位放射線治療では、ターゲットとする病変に対して、通常の放射線治療よりも精密に照射できます。そのため、病変周囲にある正常な臓器への有害事象を減らすことが可能と考えられます。例えば、食道・腸管・脳などの臓器を守りながら治療できます。神経痛を和らげる
三叉神経痛のような薬剤抵抗性の神経痛に対し、神経の一部にピンポイントで照射することで痛みが軽減します。手術による合併症を避ける
高齢者や心肺機能が低下している患者では、手術のリスクが高まります。定位放射線治療は身体的負担が軽く、外科手術の代替となることがあります。入院期間を短くする
多くの治療は外来で完結し、入院の必要がありません。仕事や日常生活への影響を最小限にできます。定位放射線治療の流れ
定位放射線治療は、精度の高さが求められるため、一般的な放射線治療よりも準備工程が多く、治療計画も綿密に行われます。診察・検査
まずは放射線治療専門医による診察が行われます。症状・既往歴・これまでの治療内容などを確認し、定位照射が適応となるかを総合的に判断します。 その後、CTやMRIによる精密画像検査を行い、腫瘍の位置・形・大きさを詳細に把握します。脳や脊椎の病変の場合は、MRIが特に重要です。 治療時の誤差を最小限にするため、患者さんの体が動かないように固定具(頭部固定マスク・ボディフレームなど)を作成します。固定具は患者さんごとにカスタムで、数分〜10分程度で作製できます。これにより、毎回の治療位置を正確に再現できるようになります治療計画
固定具を装着した状態で撮影したCT画像を基に、放射線治療専門医・医学物理士・放射線技師がチームとなり、治療計画(プランニング)を作成します。 腫瘍の輪郭(GTV)や治療すべき範囲(PTV)を医師が丁寧に描写します。 どの方向から、どれだけの線量を、何回に分けて照射するかを、専用コンピュータで最適化します。 定位放射線治療では1mm以下の精度が求められるため、周囲の重要臓器(脳幹・脊髄・食道・腸管など)への線量を極力抑えつつ、腫瘍には十分な線量が届くよう綿密な計算を行います。また、医学物理士が線量計算の妥当性をチェックし、機器の安全性確認(QA)を行ったうえで照射が実施されます。治療
治療当日は、診察室ではなく照射室で行われます。固定具を装着し、治療台に仰向けになっていただきます。 照射前に位置照合(IGRT:画像誘導放射線治療)を行い、CTやX線で腫瘍の位置が治療計画どおりであることを確認します。数ミリ単位でずれている場合は台を微調整し、腫瘍に照射が正確に当たるよう調整します。 照射中は痛みや熱さは感じず、機械音だけが聞こえる程度です。 治療時間は1回あたり20〜60分で、病変の種類や大きさによって回数は1〜5回程度が一般的です。 多くの患者さんが外来で治療を受け、その日のうちに帰宅できます。治療後
照射が終了すると、そのまま歩いて帰宅できます。入院が必要になることはほとんどありません。 副作用としては、軽度の倦怠感、吐き気、照射部位の皮膚の赤みなどが見られることがありますが、多くは数日〜1週間で自然に軽快します。体幹部では一時的に咳・胃部不快感が出ることもあります。 治療効果の確認のため、治療後3ヶ月〜半年ごとにCTやMRIで経過観察を行います。腫瘍はすぐに縮小するとは限らず、数ヶ月かけてゆっくり小さくなるケースも多いため、継続したフォローが重要です。「定位放射線治療」についてよくある質問
ここまで定位放射線治療を紹介しました。ここでは「定位放射線治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
定位放射線治療とIMRTの違いについて教えてください。
木村 香菜(医師)
定位放射線治療とIMRTの主な違いは、治療の回数と線量集中度です。 定位放射線治療は、比較的小さな病変に数回の照射で高線量を集中させ、手術の代替にもなる治療法です。一方、IMRTは、腫瘍の形に合わせて放射線の強度を細かく変調させ、多方向から照射することで、正常組織への影響を抑えつつ、より広い範囲の腫瘍に適応できます。つまり、定位放射線治療は、「小さな病変に大線量を短時間で照射する」、対してIMRTは「複雑な病変の形に合わせ、オーダーメイド照射を時間をかけて行う」というような違いがあると考えて良いでしょう。
定位放射線治療は複数回行うのでしょうか?
木村 香菜(医師)
疾患により異なります。脳腫瘍では1〜3回、肺・肝臓・脊椎では3〜5回などです。体への負担を考慮して、分割回数を決定します。
まとめ
定位放射線治療は、手術が難しい腫瘍や初期のがん、神経痛などに対して、非常に高い効果が期待できる治療法です。身体への負担が少なく、外来で短期間に治療が完結することから、多様な患者さんに活用されています。疑問がある場合は、放射線治療科や脳神経外科へ早めに相談しましょう。
「定位放射線治療」と関連する病気
「定位放射線治療」と関連する病気は11個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経内科系
- 脳動静脈奇形
- 三叉神経痛
- 頭頸部腫瘍
呼吸器内科系
消化器内科系
- 肝臓がん
- 膵臓がん
腎臓内科
- 腎がん
泌尿器科
整形外科系
- 転移性脊椎腫瘍
- 脊髄動静脈奇形
「定位放射線治療」と関連する症状
「定位放射線治療」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
参考文献
- 体幹部定位放射線治療ガイドライン.The Journal of JASTRO.2006;18(1):1-17.
- M001-3 直線加速器による放射線治療(一連につき) | 今日の臨床サポート→点数63,000点
- M001-2 ガンマナイフによる定位放射線治療 | 今日の臨床サポート→点数50,000点
- 放射線科の診療報酬改定 2024-日本放射線科専門医会・医会→Japan Radiology Assessment 2024〜放射線治療編〜 p16,17,18
- 放射線治療のQ&A | 新潟県立中央病院
- 三叉神経痛に対するサイバーナイフを用いた定位放射線治療.日本ペインクリニック学会誌.2019;26(4):279-287.
- 定位放射線治療-日本ガンマナイフ学会
- 三叉神経痛治療におけるサイバーナイフの適正使用指針
- 放射線治療計画ガイドライン2020年版
- 放射線治療の種類と方法-がん情報サービス




