「線香やお香の煙が原因で肺がん」を発症することはある?医師が徹底解説!

線香やお香の煙が原因で肺がんを発症することはある?メディカルドック監修医が線香やお香の煙が原因で発症することがある病気や疾患・肺がんの初期症状・原因・なりやすい人の特徴などを解説します。

監修医師:
羽田 裕司(医師)
名古屋市立大学医学部卒業。聖隷三方原病院呼吸器センター外科医長、名古屋市立大学呼吸器外科講師などを歴任し、2019年より現職。肺がんを始めとした呼吸器疾患に対する外科治療だけでなく、肺がんの術前術後の抗がん剤治療など全身化学療法も行う。医学博士。外科学会指導医/専門医、呼吸器外科学会専門医、呼吸器内視鏡学会指導医/専門医、呼吸器学会専門医。
目次 -INDEX-
「肺がん」とは?
肺がんとは、肺の細胞が異常に増殖して悪性腫瘍を形成したものです。主に、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けられており、非小細胞肺がんのなかでも特に腺がんというタイプが最多となっています。
肺がんは日本人の男性における部位別がん死亡数では2023年のデータでは1位となっています。女性においても、大腸に続き2位と報告されています。
肺がんは50歳以上でその発生率が急速に高まることが知られています。そして、日本人が生涯のうちに肺がんになる割合として、男性で7.4%、女性で3.1%とされています。また、肺がんのリスクとしては喫煙のほかに慢性閉塞性肺疾患やアスベストなどの職業的な曝露、さらには大気汚染なども知られています。
線香やお香の煙が原因で肺がんを発症することはある?
線香を焚くことと肺がんとの関連性は不明で、疫学的な証拠は限られています。
一方、お香を焚くと大量の粒子状物質(PM)、エアロゾル、二酸化炭素、二酸化硫黄、ホルムアルデヒド、ベンゼン、多環芳香族炭化水素(PAH)、その他の揮発性有機化合物が発生する場合があります。これらの多くは、肺がんに関連する発がん性物質である、または疑いがあることが知られています。
例えば、中国では日常的に線香を焚く習慣がある家庭が多いとされています。このような環境で、喫煙者の場合には高濃度の線香への曝露によって肺がんリスクが高まる可能性があるという結果が得られた研究もあります。
ただし、一般的な家庭で、ときどき線香またはお香を焚く程度であれば、肺がんの発症リスクを高めることにはつながらないと考えられます。換気を十分に行い、禁煙することが肺がん予防のためには大切だといえるでしょう。
線香やお香の煙が原因で発症することがある病気・疾患
日常生活において、線香を焚くことがとてもポピュラーな地域が世界的にみられます。例えば、中国やアラブ首長国連邦などといった国では、宗教的な儀式などの関係で、線香やお香を焚く機会が多いようです。
線香やお香は、不完全燃焼し煙を長時間排出するため、場合によっては有害な成分が人体に吸入される可能性があります。そうした成分によって、受動喫煙と同様、あるいはそれ以上に有害になってしまうケースもあると考えられています。ただし、どれくらいの頻度、回数、濃度で線香やお香を焚くのかなどについては、まだ研究段階といえます。
ここでは、線香やお香の煙が発症する可能性を高める可能性がある病気について紹介します。
気管支炎・喘息
アジアの学童を対象にした研究では、家庭内でお香を焚くことが、気管支炎や細気管支炎のリスク増加と関連していたとも報告されています。
煙の中に含まれる一酸化窒素や二酸化窒素が、空気の通り道である気道に進行し、こうした呼吸器疾患を引き起こす可能性が考えられています。
また、線香やお香の煙への曝露と喘息症状の増悪との関連を指摘する報告もあります。特に、小児やアレルギー体質の方では、気道の過敏性が高まりやすい傾向があるため注意が必要です。
一方、線香やお香の煙への曝露と、肺炎や慢性閉塞性肺疾患との関連はないという報告もあります。現時点では、煙の濃度やさらされる期間、頻度などにばらつきがあるので、一貫した知見は得られていないのが実情です。
なお、急性気管支炎の多くは、かぜ症候群に伴う上気道の炎症が気管からさらに奥の気管支に波及したものです。咳や痰、発熱、食欲不振、全身倦怠感などといった症状が現れます。このような症状が現れた場合は、呼吸器内科を受診しましょう。
心血管系疾患
線香の煙が心血管系疾患に影響を与える可能性があることが、数多くの研究で示唆されています。例えば、線香を焚く回数が多くなればなるほど、動脈硬化の程度も高まるというデータもあります。アジアの中高年の方で、20年以上毎日家庭で線香を焚いていた場合、心血管系の疾患による死亡リスクが高まったとも判明しています。なお、心血管疾患の例としては、例えば心筋梗塞などがあります。
認知機能の低下
最近、線香を焚くことと神経心理学的な問題との間には関連性があるのではと示唆する研究もみられます。例えば、アジアで、脳卒中や認知症のない高齢者の方を対象とした研究があります。この研究では、線香を使用した方は使用していない方と比較し、認知機能の低下がみられると明らかになっていました。
肺がんの原因
ここでは、肺がんの原因と考えられている要因について解説します。
喫煙
喫煙は、肺がんの大きなリスク因子となります。非喫煙者と比較し、喫煙者が肺がんを患うリスクは男性4.4倍、女性2.8倍といわれています。また、喫煙開始年齢が若ければ若いほど肺がんのリスクは高まります。一方で、喫煙者が禁煙すると肺がんのリスクは低下し、禁煙が早ければ早いほどその効果は大きいです。
喫煙は、本人だけでなく、周囲の方も受動喫煙の曝露を受けることで肺がんリスクを高めます。受動喫煙者は、そうでない方と比較し肺がんリスクが1.3倍に高まります。
慢性閉塞性肺疾患
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、慢性気管支炎や肺気腫といった病気の総称です。タバコの煙などの有害物質を長期間吸入することで、肺に生じた炎症性疾患です。
症状としては、咳や痰、動いた際の呼吸困難感などがあります。
COPDは肺がんのリスクを高めるのではないかと考えられています。
COPDの主な原因も、喫煙です。禁煙が治療の基本となります。タバコを現在吸っていたり、以前に吸っていたりして、慢性的な咳や痰などの症状がある場合、呼吸器内科で診察を受けるようにしましょう。
職業的曝露
アスベストやラドン、ヒ素、クロロメチルエーテル、クロム酸、ニッケルなどに職業的に曝露されていた場合、肺がんのリスクが高まると報告されています。
また、特に粒径が2.5ミクロン以下の微小浮遊粒子による大気汚染も肺がんリスクを高める可能性があります。
アスベストを吸い込んでいた可能性があり、呼吸困難や咳、胸痛などの症状がみられる場合には、お近くの労災病院などの専門医療機関への相談をおすすめします。
肺がんの初期症状
肺がんは、進行するまでに症状が現れないことも多いですが、なかには以下のような症状が現れる方もいます。
咳や痰
肺がんの症状として、最も多くみられるのが咳と痰です。風邪を引いているわけでもないのに、2週間以上続く咳や痰がある、あるいは血痰が出る場合は、呼吸器内科や内科を受診しましょう。
発熱
気管支に肺がんが発生し、空気の通り道を塞ぐことによって閉塞性肺炎という病気になることがあります。すると、肺炎となり、咳や痰、高熱が出ることもあります。
発熱が5日以上続く場合には、放置せず医療機関を受診しましょう。
胸痛
肺がんによって胸に水がたまったとき、あるいは肺がんが肋骨や神経にも及んだときに、胸痛が現れることがあります。がん以外の肺の病気(肺炎など)や、食道、心臓の病気などでもみられる症状です。こちらも放置せず、医療機関を受診しましょう。内科あるいは呼吸器内科、消化器内科、循環器内科が適切と考えられます。
肺がんになりやすい人の特徴
肺がんになりやすい人には、以下のような特徴があると考えられます。
タバコを吸っている
喫煙は肺がんのリスクを高めます。今タバコを吸っている方は、なるべく早めに禁煙するようにしましょう。現在吸っていない方は、喫煙を開始しないようにしましょう。
禁煙が自分自身の意思だけでは難しい場合、禁煙外来などで専門医に相談することも有効です。
アスベストなどに曝露する仕事をしていた
以前は、ビルなどの建築工事で、保温断熱目的でアスベストを吹き付ける作業が行われていました。また、保温材や断熱材として使用されていましたが、現在では、製造ならびに使用は禁止されています。アスベストに曝露するような仕事をしていた場合には、アスベスト肺や肺がん、悪性中皮腫などが発生するリスクが高まります。もしご不安な場合には、お近くの労災病院などの専門医療機関に相談するようにしましょう。
肺結核の既往がある
肺結核は、結核菌という細菌が原因となる病気です。呼吸器内科で治療が行われます。
肺結核と診断されてから、診断後2年以内に肺がんにかかるリスクが約5.0倍に増加するという報告もあります。さらに、その後も約1.5倍から3.3倍、肺がんになるリスクが高まったままになるとも報告されています。
もし肺結核と診断された場合は、長期間にわたる投薬治療、定期的な診察が必要となるケースが多いと考えられます。きちんと医療機関でのケアを受けることで、肺結核の状態はもちろん、ほかの病気についても早期発見することが可能となるでしょう。
「線香の煙と肺がん」についてよくある質問
ここまで線香の煙と肺がんについて紹介しました。ここでは「線香の煙と肺がん」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
線香の煙は発がん性物質なのでしょうか?
羽田 裕司 医師
今回の記事では、線香やお香がもたらす健康リスクについて解説しました。線香やお香の煙は、仏壇に供えたり、香りを楽しんだりする目的で使用することも多いでしょう。
しかし、換気の悪い場所で長時間吸い続けると、肺、あるいは心臓や脳などへの悪影響を及ぼす可能性があります。特に、呼吸器系の疾患がもともとある方や、喫煙者などでは注意が必要といえるでしょう。
肺がんは、早期の段階では症状が出にくいことも多い疾患です。定期的な健康診断を受け、異常が指摘されたり気になる症状があったりする場合には早めに医療機関を受診するようにしましょう。
編集部まとめ
今回の記事では、肺がんに伴う咳の特徴について解説しました。咳は肺がん以外の呼吸器や循環器の病気に伴っても現れ、何らかの病気のサインとなっていることもあります。2週間以上経っても治らない咳がある場合には、医療機関を受診するようにしてください。
「肺がん」と関連する病気
「肺がん」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
肺がんと関連する病気には、これらのようなものがあります。咳や痰などの症状が続く場合には、医療機関を受診しましょう。
「肺がん」と関連する症状
「肺がん」と関連している、似ている症状は10個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 咳
- 血が混じる咳
- 胸、背中、肩の痛み
- 突然起こる息切れ
- 声枯れまたは喘鳴
- 飲み込みにくくなる、または飲み込むときに痛みがある
- ばち状指(指先が丸く平たく変形すること)
- 原因不明の体重減少
- 疲労感や脱力感
- 食欲不振
肺がんと関連する症状には、上記のようなものがあります。呼吸器の症状以外にも、体の他に症状が現れることがあります。気になる症状がある場合には、医療機関を受診しましょう。



