「腹膜癌の症状」はご存知ですか?治療法・検査法についても解説!【医師監修】
腹膜癌は、臓器ではなく臓器を覆っている「腹膜」という組織から発生するがんです。
腹膜のがんと聞くと、胃・大腸・女性器など臓器のがんに比べて、どのような症状が出るのか想像しにくいという方もいるのではないでしょうか。
この記事では、腹膜癌の症状について詳しく解説するほか、治療・検査方法についても紹介します。
記事の後半では、腹膜癌と混同されることもある「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」との違いについても触れますので、そちらもぜひ参考になさってください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
腹膜癌とは?
腹膜とは臓器全体を覆っている組織で、この腹膜と臓器のあいだにある空間を腹腔といいます。
日本国内で罹患者の多いがんといえば大腸・胃・肺などいずれも臓器のがんですが、腹膜癌は、腹膜が発生源と考えられる罹患者数の少ないがんです。
この腹膜癌の多くは卵巣がんと同じ「漿液性(しょうえきせい)腺がん」というタイプに分類されます。
そのため、腹膜癌は病気の進行度・性質・治療への反応が卵巣がんに似ているとされるがんです。腹膜癌が進行すると女性器・リンパ節・大網(胃腸を覆っている脂肪組織)などに転移する可能性があります。
腹膜癌の症状とは?
臓器のがんでは、がんが発生した臓器の痛み・出血といった症状が特徴的です。では、腹膜がんになった場合にはどのような症状が現れるのでしょうか?
初期は無症状
腹膜癌になったばかりの頃は、特に自覚症状がないという患者さんがほとんどです。
腹腔内の病気は、炎症が起きた場合を除いて症状が出にくいとされています。そのため、症状が現れて医療機関を受診したときには既に腹膜癌が進行しているというケースが多いでしょう。
発熱
がんは発生した部位に炎症を引き起こすことがあり、体内で炎症が起きているため発熱がみられることがあります。
既にがんが原因と分かっている場合の治療法は、解熱剤などの対症療法が中心です。一方、長く続く原因不明の熱をきっかけにがんがみつかるケースもあります。
腹痛
腹膜癌による腹痛には、腹水貯留・腹膜炎という2つの原因があります。
腹膜などに異常が起こると異常な量の腹水が腹腔内に溜まりますが、このとき内臓が腹水に圧迫されることが腹水による痛みの理由です。また、腹膜にがんを原因とする炎症が起こることを「がん性腹膜炎」といいます。この状態に陥ると、持続的で強い痛みを感じるでしょう。
嘔吐
腹膜癌による腹水貯留が進むと、胃が圧迫されて吐き気を感じたり嘔吐したりといった消化器の不調を感じる患者さんが多いです。また、緊急を要するケースとしては腸閉塞を原因とする嘔吐があります。
腹膜癌の患者さんは、がん性腹膜炎によって腸の運動が低下することで「麻痺性腸閉塞」になったり、腹膜癌が大腸に転移することで腸管が狭窄し「機械的腸閉塞(機械的イレウス)」になったりする可能性があります。腸閉塞の場合は、便秘・お腹の張りを伴う激しい嘔吐がみられるでしょう。
体重減少
腹膜癌になると、腹水による腹部膨満感・胃の圧迫により食欲が低下しがちです。また腹膜癌に限らず、がん細胞は身体に必要な栄養を奪ってしまうため体重減少がみられるとされています。
ただし、腹水貯留がある患者さんは腹水の増加により急激に体重が増える場合もあります。定期的に体重測定を行い、栄養状態の悪化による体重減少と併せて、腹水貯留による体重増加にも注意しましょう。
腹膜癌の治療
腹水などの治りにくい症状もみられる腹膜癌ですが、治療方法にはどのようなものがあるのでしょうか。
治療には、症状の緩和・病気の治癒という2つの目的があるので、それぞれの治療法をどのような目的で行うのかも確認していきましょう。
穿刺
ここまでの解説で、腹膜癌の症状である「腹水貯留」が体調にさまざまな影響を及ぼすとご理解いただけたでしょうか。
腹水による症状を緩和するためには、塩分制限・利尿剤の服用など自宅でもできる対策があります。また、こうした対策では腹水の改善がみられない場合は、腹部に穿刺して腹水を抜く治療も効果的です。
以前は腹水に対する穿刺といえば、単に貯留した腹水を体外に出すという方法でした。しかし、腹水には水分・がん細胞のほかに身体に必要な栄養分・免疫グロブリンなども含まれています。そこで、近年注目されているのが腹水濾過濃縮再静注法(CART)という治療法です。CARTでは、腹水に対して下記のような工程で濾過・濃縮を行います。
- 腹部に穿刺し身体から腹水を抜く
- 濾過器によりがん細胞など不要なものを取り除く
- 濃縮器で水分を取り除いて必要な物質を濃縮する
- 濃縮された必要な物質を静脈に注射して戻す
CARTの過程でがん細胞が濾過されるため腹水内のがん細胞は減少しますが、この治療法はがん細胞の減少・治癒でなく腹水による症状を和らげることが主な目的です。
腫瘍減量術
腫瘍減量術は、外科的手術により腹腔内にあるがん・がん細胞が着生していると考えられるリンパ節・臓器を可能な限り切除する治療法です。
腫瘍減量術は適切な病変・時期に行えば効果の高い治療と考えられていますが、手術には時間を要し、身体への影響も大きい治療です。また、あくまでも目的は「可能な限りがんを切除する」ことであり、手術のあとには抗がん剤治療・再手術を繰り返す必要があるでしょう。
腹膜癌の進行度により、最初に手術を行う場合や、抗がん剤治療により手術可能な状態までがんを減少させながら手術のタイミングを計る場合があります。
抗がん剤治療
抗がん剤治療は、がん細胞に対して攻撃性のある薬剤を投与する治療法です。
抗がん剤治療の目的はがんを死滅させることで、化学療法が治療の中心になる場合と、手術の前後に補助療法として行う場合があります。抗がん剤は正常細胞も攻撃してしまうため強い副作用が現れやすい治療法ですが、血液に乗って全身にまんべんなく届くため未着性のがん細胞・広範囲のがんへの効果が期待できます。
腹膜癌の検査方法
腹膜癌は、消化器のがんのように消化管内視鏡で確認できず、健診も確立されていません。もし腹膜癌が疑われる場合には、どのような検査を行うのでしょうか。
血液検査
血液検査の中には、がんの存在を確認するための「腫瘍マーカー」という項目があります。腹膜癌のスクリーニングに使用されるのは、この中のCA125という項目です。CA125は卵巣がん・女性器の良性疾患・腹膜炎などで高値を示す項目です。
腹腔鏡検査
腹膜癌では、診断・腫瘍摘出のため腹腔内の観察が必要です。しかし、開腹による観察は患者さんの身体への影響が大きいため、観察のみが目的の場合は腹腔鏡を使用します。腹腔鏡検査では、腹部に数カ所の穴をあけて内視鏡を挿入し、腹腔内の腫瘍の有無などを目視します。
経皮的検査
経皮的検査とは、穿刺して体液を採取し、その性状・内容を調べる検査です。腹膜癌になると、腹膜だけでなく腹腔内にがん細胞がみられるため、腹水を採取してがん細胞の有無・細胞型を確認します。検査の結果、漿液性腺がんが確認された場合は腹膜癌が強く疑われます。
腹膜播種とはどのような状態か?
腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは、臓器にできたがんが進行することで腹腔内に腫瘍細胞が散らばり、腹膜に着生した状態のことです。
がんのタイプ(細胞型)は腹膜癌と異なる場合もありますが、腹膜播種・腹膜癌ともに「腹膜にがんができている状態」という点では同じです。腹膜が機能低下を起こし腹水が貯留するという症状や、治療において腫瘍減量術が効果的と考えられる点・化学療法が推奨される点など共通点が多いといえます。
腹膜癌についてよくある質問
ここまで腹膜癌の症状・治療法などを紹介しました。ここでは「腹膜癌」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
腹膜癌の末期の症状について教えてください。
中路 幸之助(医師)
腹膜癌が進行すると、腹水が大量に溜まることで消化器・横隔膜が圧迫されます。そのため、腹痛・吐き気などの消化器症状のほか、息苦しさを感じる患者さんが多いです。また、がん性腹膜炎による腹痛・発熱を繰り返す場合もあります。加えて、腹膜癌が臓器に転移した場合は各臓器のがんに特有の症状が現れるでしょう。
どのようなメカニズムで腹水が溜まりますか?
中路 幸之助(医師)
健康な方でも腹腔内には50ml程度の腹水があります。この腹水を生産・吸収して、腹水を適量に保っているのが腹膜です。しかし、腹膜癌などの病気により腹膜が機能低下をきたすと、生産と吸収のバランスが取れずに腹水が腹腔内に溜まります。
編集部まとめ
腹膜癌は、初期症状がほとんどなく症例自体も少ないため、早期の発見が難しいとされるがんの1つです。
そのため進行した状態で発見されることが多いですが、手術・抗がん剤治療のほか、腹水による不快な症状を緩和する「腹水濾過濃縮再静注法」など複数の治療方法があります。
気になる症状を感じたら、まずは医療機関を受診してみましょう。原因を知ることが早期治療への第一歩となります。
腹膜癌と関連する病気
「腹膜癌」と関連する病気は3つあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- がん性腹膜炎
- 難治性腹水
- 腹膜播種
腹膜にがんが発生すると、がん性腹膜炎を合併することがあります。また、腹膜癌により腹膜の機能が低下することで腹水の貯留を繰り返す場合が多いでしょう。腹膜播種は腹膜癌とは異なる病気ですが、治療法・症状などに共通点があります。
腹膜癌と関連する症状
「腹膜癌」と関連する症状は3つあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 発熱
- 腹部膨満感
- 体重減少
がんになると、感冒症状がないのに熱が下がらない場合があります。また、腹膜癌が進行し腹水が溜まることでお腹が張り、消化器が腹水に圧迫されることで食欲低下・消化機能の低下が起こり体重が減少する場合もあるでしょう。