「胆管がんのステージ別・生存率」はご存知ですか?末期症状も解説!【医師監修】
脂肪分の消化を助ける消化酵素の胆汁が流れる管を胆管といいます。この胆管内壁に何らかの原因によってがんが発生することがあります。それが胆管がんです。
胆管がんは年間の発症件数があまり多くない稀ながんです。しかし、発症数に比べて生存率があまり高くない難治性のがんでもあります。
胆管がんは発生部位により進行度やステージの定義に違いがあるのが特徴です。
今回は胆管がんの生存率・ステージの定義・胆管がんを発症するリスク因子などについて解説します。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
胆管がんとは?
胆管がんとは胆道の一区分である胆管に発生するがんのことです。胆道とは胆汁が流れる道の総称です。胆道は肝臓内の左右の肝内胆管から始まり、一本の肝外胆管となって十二指腸乳頭部へと繋がります。
肝外胆管の途中には、胆汁を一時的に貯蔵して胆汁を濃縮する役割を担う胆嚢があります。このように、肝臓で作られた胆汁が十二指腸まで流れる道が胆道であり、その一区分が胆管です。胆管がんは肝内胆管および肝外胆管に発生するがんの総称です。胆管のどこにがんが発生するかにより、さらに細かく名称が分かれます。
肝内胆管に発生するがんは「肝内胆管がん」または「胆管細胞がん」と呼ばれます。なぜ胆管細胞がんという呼び名があるのかというと、肝細胞由来の肝臓がんと区別するためです。肝内胆管がんは肝臓内で発生するため、肝臓原発がんに分類されます。しかし、肝臓に発生する原発がんのほとんどが肝細胞がんであるため、これらと区別するために胆管細胞がんと呼ばれるのです。
肝細胞がんと胆管細胞がんは同じく肝臓内に発生しますが、細胞が異なるため性質に違いがあります。これらがん細胞の見極めは、その後の治療方針に大きく影響するため非常に重要です。胆管細胞がんは肝臓原発がんに分類されてはいるものの、他の胆管がんと共通した性質を持つため、検査や治療法などは胆管がんと共通するものがあります。
肝外胆管に発生するがんは「肝門部領域胆管がん」と「遠位胆管がん」の2つに分類されます。胆管がんと胆嚢がんを合わせた胆道がんは、年間2万人程度が診断される稀な種類のがんです。中でも胆管がんは男性に多くみられる傾向があります。なお、胆嚢がんは女性に多くみられる傾向があるがんです。胆管がんでは主な症状として黄疸が見られます。
また、胆道は肝臓に接しているため、肝臓へ浸潤しやすいがんであるという特徴があります。発症件数が少なく難治性に位置するがんであるため、素早い診断と治療が必要です。
胆管がんの生存率
胆管がんは稀ながんである上に、難治性のがんであるとされています。胆道に隣接する臓器には肝臓・膵臓があり、これらの臓器に発生するがんの生存率は低い傾向にあります。生存率が低い順から並べると、膵臓がん・胆道がん・肝臓がんの順です。胆管がんを含む胆道がんは、治療が困難だとされる膵臓がんに次いで生存率が低いことがわかります。ここでは胆管がんに関する2つの生存率について説明します。
臨床進行度別生存率
臨床進行度別生存率とは、がんの進行度別の生存率を表したもので、5年相対生存率がよく用いられます。5年相対生存率とは、何らかのがんであると診断された場合に、治療によってどれくらいの命が救えるのかを表した指標です。臨床進行度別生存率はがんの広がりによって「限局」・「領域浸潤」・「遠隔転移」の3群で表されることがあります。
限局とは「がんが原発臓器に限局しているもの」を指します。つまり他臓器への浸潤や転移がないがんのことです。領域浸潤とはがんの進行度における「所属リンパ節転移」と「隣接臓器浸潤」を合わせたものです。所属リンパ節転移とは、「所属リンパ節への転移は伴うが、隣接組織・臓器への浸潤がないもの」を指します。
隣接臓器浸潤は、「隣接組織・臓器に直接浸潤しているが遠隔転移はないもの」です。領域浸潤は、所属リンパ節転移および隣接臓器浸潤の定義に当てはまる病態のがんを指します。遠隔転移は、「遠隔臓器・遠隔リンパ節に転移・浸潤があるもの」です。胆管がんにおける上記3群の臨床進行度生存率は以下のとおりです。
- ・限局:61%
- ・領域浸潤:28.5%
- ・遠隔転移:2.9%
早い段階で治療を始めるほど生存率が高いことがわかります。胆管がんを疑う症状が現れたら早めに医療機関を受診しましょう。
サバイバー生存率
サバイバー生存率とは、がんと診断されてから一定期間経過して生存している方(サバイバー)の、その後の生存率を表したものです。例えばがんと診断された方が1年後に生存していた場合、その方は1年サバイバーとなります。この1年サバイバーの方の5年生存率が1年サバイバー生存率で、それぞれの年数で算出されます。
つまり、1年サバイバー生存率は、診断から1年後に生存している方に限り算出した5年生存率です。胆管がんにおけるそれぞれのサバイバー生存率は以下のとおりです。
【男性】
- ・1年サバイバー:42.8%
- ・2年サバイバー:61.0%
- ・3年サバイバー:71.6%
- ・4年サバイバー:80.0%
- ・5年サバイバー:85.9%
【女性】
- ・1年サバイバー:41.6%
- ・2年サバイバー:61.3%
- ・3年サバイバー:75.1%
- ・4年サバイバー:84.5%
- ・5年サバイバー:87.6%
5年生存率は低い傾向にある胆管がんですが、上記の結果から診断後の年数が経過するほど生存率が高くなることがわかります。これは、胆管がんは治療から年数が経ってからの晩年再発が少ない可能性を示しています。
胆管がんのステージ
がんの進行度を表すステージ(病期)分類というものがあります。ステージは0〜4で表記されるのが一般的です。ステージ0の胆管がんは上皮内がんです。つまり、胆管の表面(上皮)に留まるがんのことをいいます。ステージ0の胆管がんは早期がんです。
胆管がんには肝内胆管がんと肝外胆管がんがあり、ステージ1以降のステージ分けの定義が異なります。今回は肝内胆管がんと2種類の肝外胆管がん(肝門部領域胆管がん・遠位胆管がん)それぞれのステージ分類について説明します。
ステージ1
胆管がんのステージ1の分類には次のようなものがあります。
- ・肝内胆管がん(1):がんの数は1個で大きさが2cm以下であり、血管や主要胆管に及んでいないもの
- ・肝門部領域胆管がん(1):がんが胆管の中だけに留まっているもの
- ・遠位胆管がん(1A):がんが胆管の中に留まっているもの
- ・遠位胆管がん(1B):胆管壁を超えるが周囲臓器に浸潤がないもの
胆管がんのステージ1は、がんが胆管内に留まっているものがほとんどです。遠位胆管がんの1B期においては、胆管壁を超えても周りの臓器に浸潤していなければステージ1に分類されます。胆管がんは難治性がんですが、ステージ0および1における術後の5年生存率は高い傾向にあるのが特徴です。
肝内胆管がんで80~100%・肝門部領域胆管がんで86%・遠位胆管がんで60~100%とされています。
ステージ2
肝内胆管がんは次の2つに当てはまり転移はないものがステージ2に分類されます。
- ・がんの数が1個
- ・大きさが2cm以下
- ・血管や主要胆管にがんが及んでいない
3つのうち2つを満たし、リンパ節や他臓器への転移のない肝内胆管がんはステージ2に分類されます。肝門部領域胆管がんのステージ2の分類は以下のとおりです。【肝門部領域胆管がん(2)】:がんが胆管壁を超えて周囲の脂肪組織へ及んでいる、もしくは隣り合う肝実質へ浸潤している。次に遠位胆管がんのステージ2分類です。遠位胆管がんではステージ2Aと2Bの2つの分類があります。
- ・遠位胆管がん(2A):胆のう・肝臓・膵臓・十二指腸など他の臓器への浸潤がある、または門脈本幹・上腸間膜動脈・下大静脈などの血管に浸潤がある
- ・遠位胆管がん(2B):がんが浸潤している範囲は2Aと同様であり、リンパ節転移はあるが遠隔転移はない
胆管がんのステージ2では、がんが胆管壁を超える病態がほとんどです。そのため、ステージ2から術後の5年生存率も下がる傾向にあります。
ステージ3
肝内胆管がんのステージ3は以下の項目のうち1つのみに当てはまり、遠隔転移のないものが分類されます。
- ・がんの数が1つ
- ・がんの大きさが2cm以下
- ・血管や主要胆管にがんが及んでいない
肝門部領域胆管がんのステージ3は3Aと3Bに分けられます。それぞれのステージの病態は以下のとおりです。
- ・肝門部領域胆管がん(3A):がんがある胆管のそばの門脈や肝動脈に浸潤がある
- ・肝門部領域胆管がん(3B):がんが浸潤している領域は3Aと同様であり遠隔転移はないが、領域リンパ節への転移がある
遠位胆管がんの場合では領域リンパ節への転移がみられてもステージは3Bでしたが、肝門部領域胆管がんでは領域リンパ節への転移がみられる場合、ステージ3になります。遠位胆管がんのステージ3の分類は以下のとおりです。
【遠位胆管がん(3)】:領域リンパ節への転移の有無にかかわらず、総肝動脈・腹腔動脈・上腸間膜動脈などの腹部動脈に浸潤があり、遠隔転移はないもの。胆管がんのステージ3では、がんが周囲の血管へ浸潤しているものが多く、領域リンパ節への転移も見られるようになります。しかし、遠隔転移はありません。
ステージ4
胆管がんのステージ4は、どの種類においても遠隔転移を伴う場合がほとんどです。肝内胆管がんのステージ4の分類は4Aと4Bの2種類があります。【肝内胆管がん(4A)】:がんの数が2個以上あり大きさが2cmを超え、主要胆管や血管への浸潤が見られるが転移はないもの。
上記以外に、がんが1つ・大きさが2cm以下・血管や胆管への浸潤なしの3項目のうち1つが当てはまり、なおかつリンパ節転移がある場合もステージ4Aとなります。
【肝内胆管がん(4B)】:がんの数が2つ以上・大きさが2cm以上・血管や主要胆管への浸潤があり、リンパ節転移や遠隔転移があるもの。肝門部領域胆管がんのステージ4の分類も4Aと4Bの2棲類があります。肝門部領域胆管がんのステージ4Aは、ステージ3Aよりもさらに門脈や総肝動脈への浸潤が広範囲に進んだ状態で、遠隔転移はないものになります。
ステージ4Aは領域リンパ節への転移の有無は関係ありません。肝門部領域胆管がんのステージ4Bは、がんの浸潤や領域リンパ節への転移の有無に関係なく、遠隔転移がある状態です。これは遠位胆管がんのステージ4も同様です。以上が胆管がんのそれぞれのステージの病態と分類です。
胆管がんのリスク因子
胆管がんの発症原因は不明な場合が多いのですが、発症に関係するリスク因子がいくつかあることが分かってきました。胆管がんのリスク因子として、胆管の異常や疾患・化学物質・寄生虫などが知られています。ここでは胆管がんのリスク因子について説明します。
膵・胆管合流異常
膵・胆管合流異常とは、膵液が流れる主膵管と胆汁が流れる胆管が正しい位置よりも手前で合流してしまう先天異常のことです。正常であれば主膵管と胆管は十二指腸の壁のところで合流します。それぞれの管を流れる膵液と胆汁は、十二指腸乳頭括約筋(オディ筋)の作用により逆流して混入しないよう防がれています。
膵・胆管合流異常の場合には主膵管と胆管が正しい位置よりも手前で合流しているため、十二指腸乳頭括約筋の作用が働かず、膵液と胆汁の混入が起こってしまうのです。2つの消化液が混入した状態で胆管や膵管に逆流し、これらの管を傷つけてしまうため、炎症や感染を引き起こすだけでなく胆管がんの発症原因にもなるのです。
膵・胆管合流異常の形態には「胆管拡張型」と「胆管非拡張型」があり、胆管拡張型では胆管がんが高い確率で発症することが知られています。胆管非拡張型では胆嚢がんの発症リスクが高いです。これらの発症を防ぐために予防的手術を行うケースがあります。
原発性硬化性胆管炎
原発性硬化性胆管炎(PSC)は、胆管の壁に発生した炎症の影響で壁が線維化して硬くなり、胆管内壁が狭くなる病気です。原因については分かっていません。原発性硬化性胆管炎は疫学的に胆管がんの発生に関与するとされており、進行がんが多く予後が悪い場合が多いことからハイリスク因子とされています。なお、肝硬変の発症にも関係します。ただし、原発性硬化性胆管炎は胆管がんよりも発症が稀な疾患です。
肝内結石
肝内結石は肝内胆管に発生する結石のことで、肝内胆管がんの発生に関係します。肝内結石に合併して発見された胆管がんの90%以上でがんが結石の位置に存在していたことから、結石の刺激による胆管の慢性的な炎症と障害が発がんの原因と考えられています。肝内結石にはいくつか種類がありますが、結石の種類によるがんの発生頻度には大きな差がないため、どのような種類の結石であっても注意が必要です。
化学物質
特定の化学物質と胆管がんの発症には関係があるとされています。大阪の印刷事業所において化学薬品が原因とされる従業員および元従業員の胆管がんの発生が問題となりました。16人が胆管がんを発症し、うち7人の方が平成24年時点で亡くなっています。
このとき胆管がんの発症原因として疑われたのが、洗浄剤として多量に使用されていた1,2-ジクロロプロパンです。1,2-ジクロロプロパンから発生する発がん性候補物質が、肝臓から胆汁内に排出されることで胆管がんの発症につながる可能性があるとされています。
肝吸虫の感染
肝吸虫という肝臓に寄生する吸虫の影響により胆管がんを発症する場合があります。肝吸虫の幼虫は淡水魚や淡水エビに寄生しています。代表的なヒトへの肝吸虫の感染原因は加熱調理不足の淡水魚や淡水エビの摂取です。ヒトの体内に入り込んだ肝吸虫の幼虫は20日ほどで成虫となり胆管内に寄生します。胆管内に寄生した肝吸虫の影響により胆管周囲に慢性炎症が発生し、胆管がんの発症が誘発されると考えられているのです。
肝吸虫の成虫の寿命は10〜20年と非常に長く、1日に7,000個もの卵を生みます。これら卵や成虫の影響で胆管閉塞を起こしたり慢性的な胆管炎を発症したりするのです。肝吸虫は胆管がんの原因になるだけでなく、治療せず放置することで寄生虫性肝硬変の原因にもなります。
胆管がんの末期症状
胆管がんの代表的な症状は黄疸です。胆管がんでは胆管内ががんにより狭くなるため、胆汁がうまく流れず肝臓内に溜まってしまいます。胆汁内には赤血球の老廃物であるビリルビンという黄色の色素も含まれています。胆汁が流れなくなることでビリルビンが血液中に流れ込み、血中のビリルビンが増えることで白目や皮膚が黄色くなる黄疸(閉塞性黄疸)が現れるのです。このほか、尿が茶色くなるビリルビン尿・便が白っぽくなる白色便などの症状が現れます。このように、胆管の閉塞に伴う症状が胆管がんの特徴ではありますが、特徴的な末期症状というのはありません。他のがん種同様に、がんが進行するにつれて、発熱・食欲不振・体重減少・疼痛・全身倦怠感などの諸症状が現れます。このほか、がんが転移した部位に伴う症状が見られるようになります。
編集部まとめ
胆管がんは発症件数があまり多くない稀ながんです。胆管がんは主に3種類に分けられ、どの種類も難治性のがんです。
胆管がんの代表的な症状として黄疸が挙げられます。これは目の白目部分や皮膚が黄色くなるという症状です。胆管がんの発症初期には痛みなどの自覚症状がないため、黄疸が現れて初めて異常に気づく場合が多いでしょう。
胆管がんは早期に発見・治療するほど予後が良くなるので、胆管がんを疑う症状を発見したらすぐに医療機関を受診してください。
胆管がんの多くは発症原因が不明ですが、胆管がんの発症確率を高めるリスク因子があることがわかってきました。これらのリスク因子を持っている方は、医療機関にて定期的な検査を受けるようにしましょう。
「胆管がんの原因」と関連する病気
「胆管がんの症状」と関連する病気は10個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
胆管がんに特徴的な症状として黄疸がありますが、肝臓や膵臓の疾患においても見られる症状です。胆管が隣接する肝臓や膵臓の疾患には胆管がんと似た症状が多く見られるため、詳しい検査による判別が必要です。
「胆管がんの原因」と関連する症状
「胆管がんの症状」と関連している、似ている症状は11個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
胆管がんの症状として胆汁の鬱滞による黄疸などの症状があります。症状が進むにつれてみぞおちなどのお腹の痛みや発熱などが現れるので、これらの症状を自覚したらすぐに医療機関を受診しましょう。